「導入事例を載せたほうがいいのは分かっている。でも、お客様にどう頼めばいいのか分からない」。
「数字を出したいけれど、どこまで書いていいのか不安」。
BtoB(企業向け)の商品やサービスを扱う中小企業の担当者から、こうした相談をよく受けます。
導入事例は、検討中の会社が「自分たちと似た会社は、どう使ってどうなったか」を知る手がかりです。
一方で、取材先との約束、数字の書き方、謝礼の扱い、担当者の写真や氏名など、気をつける点も少なくありません。
この記事では、導入事例を「頼む、許諾をもらう、聞く、書く、確認する、使い回す」の順に、そのまま実行できる形で整理します。
消費者庁、個人情報保護委員会、Google の公式資料は、2026年10月17日に開いて確かめました。
登場する会社名と数字の例は、説明のために作った架空のものです。
法律に関わる部分は一般的な整理であり、法的助言ではありません。
個別の判断に迷うときは、各機関の窓口や専門家に相談してください。
先に結論 事例づくりは6つの工程で進める
最初に、全体の流れを表にまとめます。
| 工程 | やること | 抜けると起きること |
|---|---|---|
| 1 取材先を選ぶ | 次に獲得したいお客様に近い会社を選ぶ | 読者の参考にならない事例になる |
| 2 依頼する | 目的、所要時間、掲載の流れ、断れる項目を伝える | 先方の社内で話が進まない |
| 3 許諾を残す | 項目ごとの可否をメールなどで記録する | 公開後に取り下げを求められる |
| 4 聞き取る | 課題、検討、導入、結果の順に質問する | 数字や経緯が曖昧なまま書くことになる |
| 5 書いて確認する | 数字の条件を添え、先方に原稿を確認してもらう | 誇張や事実誤認になる |
| 6 公開して使い回す | 許諾の範囲で営業資料やメールにも使う | 範囲外の利用でトラブルになる |
6つの工程のうち、特に手を抜けないのは2と3と5です。
ここが雑だと、公開した後に取り下げを求められたり、数字の根拠を説明できなくなったりします。
導入事例が問い合わせにつながる理由
検討中の読者は「自分の場合はどうか」を知りたい
BtoBの購買では、担当者が社内の承認を取る必要があります。
承認を取るとき、担当者は「本当にうちでも使えるのか」「導入の手間はどのくらいか」「上司にどう説明するか」に悩みます。
サービス紹介のページは「何ができるか」を伝えるのが得意です。
「自分と似た会社ではどうだったか」を伝えられるのは、導入事例です。
検討中の読者が事例で確かめたいことは、おおむね次の5つです。
| 読者の疑問 | 事例に書くこと |
|---|---|
| 自社と近い会社が使っているか | 業種、従業員規模、地域 |
| なぜこのサービスを選んだのか | 導入前の課題と、比べた方法 |
| 導入は大変か | 期間、社内の体制、手間 |
| 導入後に何が変わったか | 変わったことと、変わらなかったこと |
| つまずきはなかったか | 困った点と、乗り越え方 |
つまずいた点を書くと信頼されやすい
最後の「つまずいた点」は、書くのをためらう会社が多い項目です。
読者にとっては、良いことだけが並んだ事例のほうが、広告らしく見えます。
導入に3か月かかった、最初は現場に反発があった、といった事実は、同じ悩みを持つ読者の参考になります。
先方にも、率直に話してもらえるように最初に伝えておきます。
事例は商談を早く進める道具にもなる
事例は、集客のためだけに使うものではありません。
問い合わせを送る人は「この会社と同じ悩みです」と書き出せるため、最初の一通が書きやすくなります。
営業の側も「〇〇様の事例に近いケースですね」と話を始められます。
商談前に事例のURLを送っておけば、最初の説明の時間を短くできます。
取材先の選び方
一番の成果より「次に獲得したい相手に近い会社」を選ぶ
最初の1社は、成果が一番大きかった会社を選びたくなります。
おすすめは、次に獲得したいお客様に近い会社です。
業種や規模、課題が近いほど、読者は自分の場合に置き換えて読めます。
選ぶときの目安を表にまとめます。
| 観点 | 見るポイント |
|---|---|
| 似ている度合い | 狙いたい顧客と、業種、規模、地域、課題が近いか |
| 関係性 | 担当者と良好な関係があり、率直に話してもらえるか |
| 導入からの期間 | 結果を語れる程度に使っているか(目安は数か月以上) |
| 社内事情 | 対外発信に前向きか、広報の承認が必要か |
| 話の具体性 | 導入前後の変化を、具体的なエピソードで話せるか |
特別な条件で出た成果は避ける
数字が大きくても、特殊な条件で出た成果は注意が必要です。
自社が特別に手厚く支援した場合や、先方に専任者が何人もいた場合がその例です。
読者の参考になりにくいうえ、後で説明する「一般化」の問題も起きやすくなります。
最初から何社も頼まない
最初は1社だけ、取材から公開までを通して経験します。
許諾の取り方や原稿確認の流れは、1社やってみると、自社の型ができます。
2社目からは、その型を使って短い時間で進められます。
取材を依頼する
まず口頭で温度感を聞く
依頼は、日ごろやり取りしている担当者から始めるのが自然です。
営業やサポートの担当が、電話や打ち合わせの最後に「事例として紹介させていただく可能性はありますか」と軽く聞きます。
了承の見込みがあれば、正式な依頼文をメールで送ります。
いきなり書面を送ると、構えられてしまうことがあります。
依頼文に入れる項目
先方の担当者は、依頼を社内で相談します。
相談しやすいように、依頼文には次の項目を入れておきます。
| 項目 | 書く内容の例 |
|---|---|
| 目的 | 自社サイトの導入事例ページに載せたい。営業資料にも使いたい |
| 取材の方法 | オンラインで60分程度 |
| 掲載までの流れ | 原稿を先にお送りし、確認をいただいてから公開する |
| 載せる可能性のある項目 | 社名、ロゴ、写真、担当者名、数値。項目ごとに断れる |
| 掲載期間 | 期間と、取り下げを希望された場合の対応 |
| 謝礼 | 有無と内容 |
依頼文の例
次の文面は、説明のための架空の例です。
株式会社みなと精工 総務部 ○○様
いつもお世話になっております。株式会社サンプル商会の△△です。
このたび、弊社サイトで導入事例を紹介するページを作ることになり、御社のお話をお聞かせいただけないかと考えております。
取材はオンラインで60分程度です。
掲載前に原稿をお送りし、御社の確認をいただいてから公開します。
社名、ロゴ、お写真、お名前、数値は、項目ごとに掲載の可否をお選びいただけます。社名を伏せた形での掲載もできます。
公開後に取り下げをご希望の場合は、ご連絡ください。
匿名でもよいと最初に伝える
「匿名でも構いません」と最初に伝えておくと、承諾を得やすくなります。
社名を出せなくても、「従業員約50名の金属部品メーカー」のように属性が分かれば、事例としての価値は十分にあります。
先方が悩むのは、社名を出すかどうかが多いからです。
掲載の許諾を書面で残す
口頭の「いいですよ」だけで進めない
口頭の了承だけで進めると、担当者の異動や方針の変更があったときにトラブルになります。
メールで構いません。
項目ごとの可否を、記録に残します。
確認する項目
確認する項目を表にまとめます。
| 項目 | 確認する内容 |
|---|---|
| 社名 | 実名、業種と規模のみ(匿名)、イニシャルのどれか |
| ロゴ | 掲載の可否と、使ってよい画像データ |
| 写真 | 人物、社屋、作業風景の可否。写る人それぞれの同意 |
| 担当者名 | フルネーム、姓のみ、非掲載のどれか。部署や役職 |
| 数値 | 載せてよい数値と、その表現(実数、割合、非掲載) |
| 利用範囲 | 自社サイト、営業資料、メール、展示会、SNSなど |
| 期間 | 掲載期間と、見直しの時期 |
| 取り下げ | 求められた場合の対応と連絡先 |
| 謝礼 | 有無と内容 |
利用範囲は特に大事にする
「Webに載せるのはよいが、印刷物で配られるのは困る」という会社もあります。
後から営業資料にも使いたくなったとき、改めて聞かずに済むよう、最初に範囲を確認します。
SNSで紹介する予定があるなら、それも含めて確認します。
確認の流れ
許諾は、次の流れで取ると抜けが出にくくなります。
| 順番 | 時期 | やること |
|---|---|---|
| 1 | 取材前 | 依頼文と許諾項目の一覧を送り、掲載の希望を仮で聞く |
| 2 | 取材後 | 原稿を作り、自社の営業と担当者で事実関係を確認する |
| 3 | 原稿確認 | 原稿、写真、ロゴ、数値を先方に送り、修正を反映する |
| 4 | 最終承認 | 最終版について、項目ごとの可否をメールで返信してもらう |
| 5 | 公開 | 公開日とURLを先方に連絡する |
| 6 | 定期の見直し | 年に1回など、掲載内容が古くなっていないか確認する |
先方の社内確認の時間を見込む
先方の担当者が「広報や法務の確認が必要」と言うことはよくあります。
確認には、2〜3週間ほどかかる場合があります。
公開日は、その期間を見込んで決めます。
急かすと、断られる原因になります。
取り下げを求められたときの手順を決めておく
取り下げの連絡を受けたら、できるだけ早く対応します。
自社サイトの該当ページを下書きに戻す人と、営業資料から外す人を、あらかじめ決めておきます。
営業資料やメールにすでに使っていた場合は、使った先の一覧が必要になります。
どの資料にどの事例を使ったかを、記録しておくと慌てずに済みます。
断られたときの受け止め方
依頼を断られることは珍しくありません。
理由の多くは、社内の方針や担当者の忙しさです。
断られても、関係を悪くしないように丁寧にお礼を伝えます。
「社名を伏せた形なら」「数字は載せずに」と条件を変えれば、了承が得られることもあります。
それでも難しいときは、時期を改めて、半年後にもう一度声をかけます。
取材の質問リスト
質問は、時間の流れに沿って並べます。
「導入前の課題、検討、導入、結果、今後」の順にすると、話が自然につながり、そのまま記事の構成になります。
導入前の課題を聞く
最初は、事業の内容と担当の業務から入ります。
- 御社の事業内容と、ご担当の業務を教えてください
- 当時、どんなことに困っていましたか
- その課題で、具体的にどんな場面に支障が出ていましたか
- それまでは、どう対応していましたか
課題は、数字よりも場面で聞くと、読者が思い浮かべやすくなります。
検討の経緯を聞く
次に、なぜこのサービスを選んだのかを聞きます。
- 解決策を探し始めたきっかけは何でしたか
- ほかにどんな方法やサービスを比べましたか(名前は伏せて構いません)
- 決め手になったのは、どの点ですか
- 社内で導入を決めるとき、反対や心配の声はありましたか。どう説明しましたか
決め手は、読者が最も知りたい部分です。
導入の進め方を聞く
導入のしやすさは、検討中の読者が気にする点です。
- 導入には、どのくらいの期間がかかりましたか
- 社内の誰が、どのくらいの手間をかけましたか
- 導入時に困ったこと、想定外だったことはありますか
- 定着させるために工夫したことはありますか
結果を聞く
結果は、数字と数字以外の変化の両方を聞きます。
- 導入前と比べて、何が変わりましたか
- 数字で言えることはありますか。その数字は、いつ、どう測ったものですか
- 数字に表れない変化はありますか(社内の雰囲気、お客様の反応など)
- まだ解決していないことはありますか
数字は「いつ、何を、どう測ったか」まで必ず聞きます。
後で説明する数字の書き方では、ここが最も大事な情報になります。
今後とアドバイスを聞く
最後に、今後の使い方と、同じ悩みを持つ会社へのひと言を聞きます。
- 今後、どのように使っていきたいですか
- 同じような悩みを持つ会社に、ひと言アドバイスするとしたら何ですか
取材当日の進め方
60分の取材は、時間の配分を決めておくと、話が広がりすぎません。
| 時間 | 内容 |
|---|---|
| 最初の5分 | 目的、録音、掲載の流れ、断れる項目を改めて伝える |
| 次の10分 | 事業の内容と、導入前の課題 |
| 次の15分 | 検討の経緯と決め手 |
| 次の15分 | 導入の進め方と、つまずいた点 |
| 次の10分 | 結果と数字の測り方 |
| 最後の5分 | 今後の使い方と、アドバイス。原稿確認の日程の確認 |
聞き手は、先方の話を最後まで聞いてから次の質問に進みます。
沈黙が生まれても、すぐに次の質問をかぶせません。
先方が考えている間に、具体的なエピソードが出てくることがあります。
録音と文字起こしを残す
取材は、先方の了承を得て録音します。
文字起こしを残しておくと、原稿確認のときに「言った、言わない」の行き違いを防げます。
録音データの保管場所と期間は、取材の前に決めておきます。
質問リストは、取材の前日までに先方へ送ります。
事前に見てもらうと、先方が数字や資料を準備でき、当日の話が具体的になります。
記事の構成テンプレート
構成の全体像
次の構成は、そのまま使えます。
| 順番 | 見出し | 書く内容 |
|---|---|---|
| 0 | タイトル | 業種と規模が課題をどう改善したか(例:従業員50名の部品メーカーが受注処理の手作業を減らした事例) |
| 1 | 概要ボックス | 会社概要、課題、導入したもの、結果(許諾の範囲で) |
| 2 | 導入前の課題 | 困っていた場面を具体的に |
| 3 | 検討の経緯と決め手 | 比べた方法と、選んだ理由 |
| 4 | 導入の進め方 | 期間、体制、つまずいた点 |
| 5 | 導入後の変化 | 数字と、数字の条件(測定期間、対象範囲、比較の基準) |
| 6 | 今後と、同じ悩みを持つ方へ | 先方のひと言 |
| 7 | 掲載に関する注記 | 取材した時期、効果は条件で異なること |
| 8 | 関連ページ | 関連する事例、サービス紹介、お問い合わせ |
概要ボックスで先に答えを見せる
読者は、最初の数秒で自分に関係がある事例かを判断します。
冒頭に、会社概要、課題、導入したもの、結果を数行で置きます。
結果に数字を入れる場合は、条件も並べて書きます。
一問一答と読み物のどちらにするか
本文は、一問一答の形式でも、書き手がまとめる読み物の形式でも構いません。
一問一答は作りやすく、先方の言葉が伝わります。
読み物は、導入までの流れが伝わりやすい形式です。
どちらの形式でも、発言の引用は先方の言葉をなるべくそのまま使います。
こちらの言いたいことを、相手の言葉として書き足してはいけません。
見出しに入れる言葉
見出しは、読者が拾い読みしやすいよう、内容が分かる言葉にします。
「導入前の課題」「決め手になった点」のように、中身が想像できる見出しが読みやすくなります。
「成功の秘訣」のような大きな言葉は、内容が伝わりません。
数字を書くときの考え方 景品表示法との関係
事例ページに景品表示法が関わる場面
景品表示法は、商品やサービスの品質を実際より著しく優良に見せる表示を、優良誤認表示として禁止しています。
消費者庁の説明では、禁止の理由は「一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれ」があることです。
規制の文言は、一般消費者に向けた表示を前提にしています。
そのため、取引先の事業者だけを相手にした事例は、BtoBなら関係がないと考えたくなります。
消費者庁の「指針に関するQ&A」は、事業者が表示や景品の管理で講ずべき措置の指針を解説したものです。
そのなかに、部品を製造業者に供給する事業者の例が載っています。
その事業者が製造業者に向けて行う表示でも、一般消費者の目に触れて直接誤認を生じさせるおそれがあるときは、一般消費者向けの表示を行っているものとして扱われます。
自社サイトの事例ページは、誰でも見られます。
商材によっては、個人事業主や小さな店舗など、一般消費者に近い立場の読者もいます。
事例ページに景品表示法が及ぶかは、個別の事情で決まります。
関係がないと決めつけず、次に説明する考え方を、数字を書くときの基準に使うことをおすすめします。
不実証広告規制 数字は根拠を示せる状態にする
景品表示法には、不実証広告規制という仕組みがあります。
消費者庁長官は、優良誤認表示かどうかを判断する必要があるとき、期間を定めて、表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出を求めることができます。
資料を期間内に出せない場合や、資料が合理的な根拠と認められない場合は、措置命令との関係で不当表示とみなされます。
課徴金納付命令との関係では、不当表示と推定されます。
提出期限は、運用指針では、資料の提出を求めた日から原則15日後とされています。
つまり、事例に書いた数字は、後から根拠を求められても出せる状態にしておく必要があります。
合理的な根拠の2つの要件
運用指針が示す、合理的な根拠の要件は2つです。
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| 1 | 提出資料が、客観的に実証された内容のものであること |
| 2 | 表示された効果や性能と、資料で実証された内容が、適切に対応していること |
2つ目は、事例記事で特に問題になります。
ある1社の特定の業務で出た結果を、「どの会社でも同じ効果が出る」と読める書き方にすると、資料と表示が対応しなくなります。
体験談を根拠にするときの注意
運用指針は、消費者の体験談やモニターの意見を根拠にする場合、統計的に客観性が十分に確保されている必要があるとしています。
具体的には、無作為抽出法で相当数のサンプルを選び、作為が生じないように行うことが求められます。
導入事例は1社の体験談です。
それだけで、一般にこういう効果があると言う根拠にはなりません。
「個人の感想です」と書けば済むのか
消費者庁の「打消し表示に関する実態調査報告書」(2017年7月)には、体験談に「個人の感想です」と添えた広告についての意識調査が載っています。
調査に使われたのは、ダイエットサプリの広告をイメージした表示例です。
回答者1,000人のうち、90.3%が打消し表示を見落としていました。
体験談に気づいた443人のうち、53.0%が「体験談と同じような効果」が得られる人がいると答えています。
体験談と打消し表示の両方に気づいた74人でも、その割合は43.3%でした。
この調査は一般消費者向けの広告を対象にしたものですが、注記を付ければ何を書いてもよいわけではないことが分かります。
数字を書くときのチェックリスト
事例に数字を載せる前に、次の表で確認します。
| 確認すること | 具体的な例 |
|---|---|
| 誰が測ったか | 先方が測ったか、自社が測ったか。測り方を説明できるか |
| 測定期間 | 2026年4月から6月の3か月 |
| 対象範囲 | 受注処理のうち、メール受注分のみ |
| 比較の基準 | 導入前の同じ3か月 |
| 導入以外の要因 | 人員の増減や繁忙期の違いがないか、先方に確認したか |
| 書き方 | 「この会社のこの条件での結果」と読めるか。見出しで一般化していないか |
| 根拠資料 | 先方から受け取った数値のメールや集計表を保管したか |
| 掲載の承認 | 先方が数値の掲載を書面で承認したか |
書き方の例
次の例は、説明のための架空のものです。
| 書き方 | |
|---|---|
| 避けたい例 | 導入すれば、事務作業が半分になります |
| 望ましい例 | みなと精工様では、メールで受けた注文の入力作業について、導入前の2026年1月から3月と、導入後の4月から6月の月平均の作業時間を同社が集計したところ、約4割減ったとのことです。効果は業務内容や運用体制によって異なります |
条件は長くなっても、本文にはっきり書きます。
注記を小さな文字で隅に置かず、数字のすぐ近くに書いてください。
謝礼を渡すときのステマ規制
ステマ規制の概要
2023年(令和5年)10月1日から、広告であることが一般消費者に分からない表示は、景品表示法違反になっています。
いわゆるステルスマーケティング(ステマ)の規制です。
消費者庁の説明では、規制の対象は広告主である事業者です。
広告には、企業がインフルエンサーなど第三者に依頼や指示をして出させる表示も含まれます。
自社が取材して書く事例ページ
自社が取材して書き、自社のサイトに載せる事例ページは、自社の表示であることが通常は明らかです。
注意が必要なのは、次のような場面です。
| 場面 | 気をつけること |
|---|---|
| お客様に頼んで、お客様のブログやSNSで紹介してもらう | 事業者の依頼であることが、読者に分かるようにする |
| 第三者の発信に見える形で事例を載せる | 自社が作った表示だと分かる形にする |
| 寄せられた感想のうち、好意的なものだけを選んで並べる | 事業者の表示として、明瞭に示す |
事業者の表示にあたるかどうかの判断
消費者庁の「ステルスマーケティングに関するQ&A」では、事業者の表示にあたるかどうかを、表示内容の決定に事業者が関与しているかで判断するとしています。
関与しているかどうかは、明示的な依頼や指示だけで決まりません。
やり取りの内容、対価の内容、対価を渡す理由、過去の取引関係などを踏まえて判断されます。
同じQ&Aには、次のような例があります。
| 場面 | Q&Aの整理 |
|---|---|
| サービスを割引価格で提供し、口コミ投稿を促す。内容の指示はない | 通常は事業者の表示にあたらない |
| 口コミで「星5」を付けることを条件にする | 事業者の表示にあたる。明瞭にしなければ違反 |
| アンケートの回答から、無作為に選んで引用する | 事業者の表示にあたらない |
| 好意的な回答だけを選んで引用する | 事業者の表示にあたる。明瞭にしなければ違反 |
| 依頼したインフルエンサーの投稿を「お客様の声」として載せる | 適当ではない。依頼した投稿だと分かる形にする |
明瞭に示す書き方
事業者の表示だと明瞭に示す方法は、「広告」「宣伝」「プロモーション」「PR」の言葉だけに限られません。
Q&Aでは、「A社から商品の提供を受けて投稿している」のような文章で示す方法も、適切な対応とされています。
一方で、「私は〇〇社の社員です」と所属を書くだけでは、明瞭とは必ずしもいえないとされています。
謝礼を渡すときの実務
取材のお礼として、謝礼や割引を渡すこと自体を禁じる記述は、確認した範囲では見当たりませんでした。
大切なのは、謝礼によって内容がこちらの意向に沿ったものになっていないか、そして読者にそれを隠していないかです。
実務では、次のようにしておくと安心です。
- 謝礼の有無と内容を、許諾の書面に記録する
- 「良いことを言ってください」のように、発言の内容を条件にしない
- お客様のSNSやブログで紹介してもらうときは、自社の依頼であることを明記してもらう
- 自社サイトの事例ページでも、謝礼を渡している場合は、その旨を注記する
最終的な判断は、個別の事情によって行われます。
具体的な運用に迷うときは、消費者庁の公表資料の原文を確認するか、専門家に相談してください。
担当者の氏名と写真の扱い
氏名と顔写真は個人情報
個人情報保護委員会のQ&Aは、氏名だけでも、社会通念上、特定の個人を識別できるものとして個人情報にあたると考えられる、としています。
同じ名前の人がいる可能性があっても、この整理は変わりません。
ガイドライン(通則編)の事例には、本人の氏名と、本人が判別できる映像情報が挙がっています。
顔画像は、個人を識別する情報として、同ガイドラインの説明に例示されています。
担当者の氏名や顔写真を事例に載せるときは、個人情報を取り扱っていると考えます。
利用目的を示す
書面や入力画面で、本人から直接個人情報を受け取る場合は、利用目的を明示することが原則として必要です(個人情報保護法第21条第2項)。
取得の状況から利用目的が明らかな場合は、例外とされています。
事例への掲載は、受け取る側の事情であり、本人にとって当然とは限りません。
掲載の許諾書面に、利用目的を書いておくと安心です。
| 書いておくこと | 例 |
|---|---|
| 利用目的 | お名前とお写真は、弊社サイトの導入事例ページと営業資料に掲載するために使います |
| 掲載先 | 自社サイト、営業資料、メールなど |
| 掲載の期間 | 取り下げの連絡があるまで。年に1回見直す |
| 問い合わせ先 | 取り下げや修正の連絡先 |
実務上の配慮
法律で求められるかどうかとは別に、実務では次の配慮をしておくと、後のトラブルを減らせます。
- 会社としての許諾とは別に、名前が出る本人と写真に写る本人の了承も確かめる
- 写真に写り込んだ他の社員や、画面に映った顧客の情報、書類がないかを確かめる
- 担当者が退職したり異動したりしたとき、名前と写真をどうするかを決めておく
- 取材の録音と文字起こしの保管場所と期間を決めておく
「姓と役職のみ」「後ろ姿や手元の写真のみ」といった選択肢を用意しておくと、承諾を得やすくなります。
レビューの構造化データで星は出るのか
自社サイトに載せた自社への評価は対象外
「事例ページにレビューの構造化データを入れて、検索結果に星を出したい」という相談があります。
Googleのレビュースニペットの公式ドキュメントでは、地域の事業者や組織についてのレビューを、評価される側が管理しているページは、星の表示の対象にならないとされています。
例として、事業者Aについてのレビューを、事業者Aのサイトに置くケースが挙がっています。
構造化データに直接書く場合も、外部のレビュー表示ツールを埋め込む場合も同じです。
導入事例は、自社のサイトに載せる自社への評価です。
星の表示を目的に、レビューの構造化データを入れる必要はありません。
謝礼つきのレビューにも決まりがある
同じドキュメントには、偽のレビューと、報酬を明示しない誘因つきのレビューを、ページにも構造化データにも含めないという決まりがあります。
報酬の例として、金銭、割引、クーポン、無料の商品が挙がっています。
事例で謝礼を渡す場合は、構造化データを使う使わないにかかわらず、謝礼の事実を隠さない姿勢が必要です。
レビューの構造化データの扱いは、次の記事で詳しく整理しています。
【Google検索セントラル解説】クチコミ抜粋の構造化データ
力を入れるべきこと
事例ページで力を入れたいのは、読者にとっての分かりやすさです。
見出しが分かりやすいこと、ページのタイトルに業種と課題が入っていること、関連するページへリンクでつながっていることが、その中身です。
事例ページの置き場所と問い合わせ導線
一覧ページを作って個別の事例を並べる
事例は、一覧ページの下に個別のページを並べる形が分かりやすくなります。
例として、一覧を「/case/」、個別を「/case/minato-seiko/」のようなURLにします。
一覧では、業種、従業員規模、課題で絞り込めるようにします。
数件のうちは、タグの表示だけでも十分です。
入口を複数用意する
サービス紹介のページに、関連する事例へのリンクを置きます。
トップページと、全ページ共通のメニューにも「導入事例」の入口を置きます。
事例を読む人の多くは、サービス紹介を読んだ後に、自分の場合を確かめに来ます。
読み終えた人の次の一歩を用意する
事例を読み終えた人は、「うちの場合はどうか」を聞きたい状態です。
記事の末尾に、次のような導線を置きます。
| 導線 | 内容 |
|---|---|
| 相談の入口 | 「同じような課題をお持ちの方へ」の見出しと、相談の申し込みボタン |
| 事例経由の把握 | 問い合わせフォームに「導入事例を見て」の選択肢を用意する |
| 関連ページ | 関連する他の事例と、サービス紹介へのリンク |
問い合わせフォームには、氏名や連絡先の利用目的を、送信の前に分かる位置に書きます。
問い合わせフォームの項目の考え方は、次の記事にもまとめています。
営業資料やメールへの使い回し
使い道の例
1本の事例は、形を変えて何度も使えます。
ただし、使う範囲は、許諾の書面で認められた範囲に限ります。
| 使い道 | 作り方の例 |
|---|---|
| 営業資料 | 概要ボックスを1枚のスライドにまとめ、記事のURLを添える |
| 提案書 | 提案先と近い業種の事例を、参考事例として1ページ入れる |
| メール | 商談後のお礼に、近い事例のURLを添える |
| メールマガジン | 新しい事例の公開を案内する |
| 展示会、セミナー | 事例を紹介する配布物を作る(印刷物への利用の許諾を確認する) |
| 社内の研修 | 新しい営業担当が、顧客の課題を学ぶ教材にする |
数字の条件を省かない
スライド1枚にまとめると、「作業時間4割減」だけが大きく残りがちです。
測定期間と対象範囲を、数字とセットで載せるルールを決めておきます。
年に1回は見直す
時間がたつと、サービスの内容も先方の状況も変わります。
取材した時期を明記し、年に1回は先方に「この内容のまま掲載を続けてよいか」を確認します。
見直しの連絡は、関係を保つ機会にもなります。
売れるサイトはみな謙虚 事例は盛らずに読者の判断を助ける
「売れるサイトはみな謙虚」は、大きく見せる言葉を足すより、訪れた人が迷う要素を引いたほうが、次の一歩につながるという考え方です。
導入事例にも、そのまま当てはまります。
成果を大きく見せる言葉を足さない
成果を大きく見せる言葉を足すほど、読者は疑います。
測った期間と範囲を示した数字と、つまずいた点の記述のほうが、読者の判断を助けます。
載せない項目を先方と決める
許諾の段階で、載せない項目を先方と決めておくことも、引き算の一つです。
載せる項目が少なくても、課題と決め手が具体的なら、事例として十分に役立ちます。
よくある質問
Q1. 取材先が社名を出せないと言われたら、どうしますか
匿名でも事例にできます。
「従業員約50名の金属部品メーカー」のように、業種と規模が分かれば、読者は自分の場合に置き換えられます。
写真やロゴを使わずに、文章だけで構成する方法もあります。
Q2. 数字が出せない事例は、載せないほうがよいですか
数字がなくても、載せられます。
課題が何で、どう変わったかを、具体的な場面で書けば、読者の参考になります。
数字を無理に探すより、先方の言葉をそのまま使うほうが信頼されます。
Q3. 謝礼を渡すと、広告になってしまいますか
謝礼を渡すだけで、直ちに問題になるわけではありません。
自社が取材して書く事例ページは、自社の表示であることが読者に伝わります。
お客様のSNSなどで紹介してもらう場合や、発言の内容を条件にする場合は、事業者の表示として扱われうるため、依頼であることを明示してください。
Q4. 事例の公開後に、取引が終わった場合はどうしますか
取引の終了と、事例の掲載の可否は、別の話です。
許諾の書面に、取り下げの扱いを書いておき、それに従います。
迷うときは、先方の担当者に、掲載を続けてよいか確認します。
まとめ
導入事例は、次の順番で作ると、迷いにくくなります。
| 順番 | 要点 |
|---|---|
| 1 | 次に獲得したいお客様に近い会社を、取材先に選ぶ |
| 2 | 目的、流れ、断れる項目を伝えて依頼し、匿名でもよいと伝える |
| 3 | 社名、ロゴ、写真、担当者名、数値、利用範囲、期間、取り下げ、謝礼を書面に残す |
| 4 | 課題、検討、導入、結果、今後の順に聞き、数字は測り方まで聞く |
| 5 | 数字は条件を近くに書き、根拠の資料を保管する |
| 6 | 担当者の氏名と写真は個人情報として、利用目的を示す |
| 7 | 年に1回、掲載内容を見直す |
まずは1社、関係の良いお客様に「匿名でも構いませんので、お話を聞かせていただけませんか」と声をかけるところから始めてください。
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