AIに選挙のことを尋ねる人が増えていると、論文は述べています。AIの回答は集めたWebページをもとに作られます。
そのページを書き換えると回答が動くのかが、この論文の問いです。
この記事では、2026年10月15日公開の「VoteGEO-Bench」を原文から読み、書き換えでAIの回答がどこまで動くかの測定結果と、発信者・読者・サービスの提供側が知っておきたいことを整理します。
合同会社謙虚は、3つのドメインを並行して運用し、何を変えると数字が動くかを測り続けています。回答がWeb上の書き換えでどこまで動くかを知るために、この論文を原文から読みました。
結論:3行で言うと
- 2024年の米大統領選と2026年の日本の衆議院選挙の過去データで、ページ1つを書き換えて回答の材料に差し替えたところ、狙う対象を指定した書き換えでは対象の出方が増えやすく、指定しない書き換えではほとんど増えませんでした
- 11通りの書き換えのうち上位だったのは、ページの整理と、他との違いを強調する論証です。根拠の追加や言い回しの変更は、それより小さい差でした
- 日本の4つの生成エンジンの引用のうち、候補者や政党が自分で出せる公式サイトなどが24.8〜44.3%、誰でも投稿できる場が最大22.2%を占めました
ただし、書き換えの実験は検索機能を切った実験室の中で行われ、実際のAI検索での効果は未検証です。日本の質問の言語は論文に記載がなく、選挙以外の発信への当てはめも、これからの課題です。
この論文の基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 原題 | VoteGEO-Bench: Measuring the Impact of Generative Engine Optimization on Electoral Visibility |
| 著者 | Shiqi Zhang、Xiaokui Xiao(2人。シンガポール国立大学) |
| 公開日 | 初版は2026年10月15日。2026年11月1日に確認できた版は、この初版だけでした |
| arXiv番号 | 2610.21330(分野は情報検索)。13ページ |
| 掲載・採択状況 | arXivのプレプリントです。コメント欄と学会名は空欄です。論文の書式は出版社の雛形のままで、学会名や番号が仮の表示です。査読の有無は確認できませんでした |
| 種類 | 過去のデータと言語モデルを使った実験(ベンチマークの提案)。大学の研究グループ |
| 実験データ・コード | 出典のラベルや政党名の辞書などを公開すると書かれていますが、公開先のURLは見つかりませんでした(2026年11月1日に確認) |
論文はこちらで読めます。arXiv(2610.21330)、PDF。
この論文が答えた問い
AIの回答に使われるWebページが書き換えられたとき、選挙に関する回答での政党や候補者の出方は、どこまで動くのか。
政治とAIの研究は、回答の偏りと、AIが作る文章の説得力を調べるものが中心でした。外部のWebページの内容が、回答の中身をどう動かすかは、あまり調べられていないと論文は述べています。
ページを書き換えて、AIの回答での見え方を変える試みは、GEO(生成AI向けの最適化)と呼ばれます。この論文は、その枠組みで選挙のリスクを測っています。
GEOの原論文はこちらの解説で扱いました。
どうやって調べたのか
著者は、質問、過去のWebページ、有権者の人物像(ペルソナ)を組み合わせた問題集「VoteGEO-Bench」を作りました。
| 項目 | 米国 | 日本 |
|---|---|---|
| 選挙 | 2024年の大統領選(二大政党) | 2026年の衆議院選挙の比例代表(11政党) |
| 質問 | 候補者の立場、比較、世論などの109問(全体で260問のうち) | 25問。12の政策課題に賛否2通りと、立場なしの1問。「どの政党に投票すべきか」と尋ねる形 |
| 質問の言語 | 英語の例文のみ(言語の明記はなし) | 論文に明記なし。例文は英語表記 |
| 期間 | 2024年7月23日〜11月5日の106日(書き換えの実験では、質問ごとに無作為の7日) | 2026年2月2日〜8日の7日間 |
| 回答の材料になるページ | Google検索の過去の結果(質問×日ごとに平均9.15ページ) | 4つの生成エンジンが引用したURL(質問×日×エンジンごとに平均63.1ページ) |
書き換えの実験で回答を作るエンジンは、gpt-4o-mini、gpt-5-mini、gemini-2.5-flashの3つです。
Web検索は切ってあり、材料のページは固定で、温度(出力のばらつきの設定)は0です。
- 書き換え:1つの質問の材料から、狙う政党が出てくるページを1つ選び、gpt-4o-miniが書き換えたものに差し替えます。ほかのページはそのままで、3回繰り返しています
- 11通りと4つの種類:構成の整理(ページの順序や見出しの整理、AI向けの整形)、根拠の追加(引用、統計、出典の明記)、文体の変更(言い回しの変更)、論証(他の選択肢との違いの強調と、反対意見への反論)です
- 狙う対象の指定:書き換えの指示に政党名を入れる場合と、入れない場合を比べています。日本では、比例代表の得票率で政党を上位4・中位4・下位3に分け、各階層から1党を無作為に選んでいます
- 3つの指標:言及率(回答に対象の政党が出た割合)、声の占有率(SOV。政党に結びつく語数のうち対象が占める割合)、勝率(対象の語数が最も多い回答の割合)です。好意的か否定的かは区別しません
- ぶれの確認:書き換えなしで2回作らせた差(プラセボ)を、ぶれの目安にしています。有意かどうかは、t検定(p<0.05)で判定しています
結果
1. 回答の材料には、候補者や政党が低コストで出せる場所(公式サイトや投稿の場)が多く含まれていた
| 出典の種類 | 日本の4つの生成エンジンの引用に占める割合 | 米国のGoogle検索の結果(参考) |
|---|---|---|
| 報道機関 | 46.4〜60.9% | 本文に数値の記載なし |
| 自前の公式サイトなど(候補者・政党) | 24.8〜44.3% | 5.1% |
| 誰でも投稿できる場(掲示板型など) | 最大22.2% | 4.5% |
| 政府機関など独立した機関 | 1.4〜3.0% | 39.3% |
日本は生成エンジンの引用、米国は検索結果と対象が違うため、論文も差の評価を記述にとどめています。日本の7日間で、割合はほとんど変わりませんでした。
- 全調査日に毎回出たURLの割合は、日本の12課題で2.7〜8.8%でした。社会保険8.8%、原子力発電8.7%、消費税7.8%が高めで、対中関係は4.1%、憲法改正は2.7%です
- サイト名(ドメイン)の単位では、重なりは14.1〜21.9%と大きくなりました。ページが入れ替わっても、同じ運営元が出続ける場合があります
論文は、安定した話題では書き換えが長く効く可能性があると述べています。測定はしておらず、論文の見立てです。
2. 狙う対象を指定しない書き換えでは、対象の出方はほとんど増えなかった
3つのエンジン、3つの指標、4つの種類の組み合わせ36通りで、書き換えの前後を比べています。
- 狙う対象を指定しない書き換え:有意な増加が1通り、有意な減少が4通りで、残りの31通りは有意な差なしでした
- 狙う対象を指定した書き換え:24通りで有意な増加でした。声の占有率では、12通りのうち10通りです
- 論文が挙げる理由は、選挙のページが複数の政党に触れることです。米国では、取得したページの92%が二大政党の両方に触れていました。日本で、指定なしのComparative Distinctionの失敗例を調べると、約4分の1は対立する政党を強め、25%は対象の名前を消していました
以降の実験は、すべて対象を指定した書き換えです。
3. 11通りのうち、整理と論証が上位だった
次の表は、狙う対象を指定した書き換えについて、言及率の変化を示したものです(3つのエンジンをまとめた値、単位はパーセントポイント)。
| 書き換えの種類 | 米国 | 日本・上位 | 日本・中位 | 日本・下位 |
|---|---|---|---|---|
| 書き換え前の言及率(%) | 85.86 | 72.41 | 72.43 | 28.55 |
| 論証 | +0.52 | +2.74 | +1.75 | +1.96 |
| 構成の整理 | +0.78 | +4.28 | +2.55 | +4.12 |
| 根拠の追加 | +0.36(有意でない) | +1.76 | +0.74(有意でない) | +1.03 |
| 文体の変更 | +0.08(有意でない) | +1.27 | -0.26(有意でない) | +0.21(有意でない) |
- 狙う対象を指定した書き換えで有意な増加が出たのは、3エンジン×3指標の9通りのうち、構成の整理が9通り、論証が7通り、根拠の追加が6通り、文体の変更が2通りでした
- 11通りを18の設定(2つの選挙、3つのエンジン、3つの指標)で順位づけすると、平均順位が良かったのは、ページの整理を行う「Content Improvement」(2.61位、上位3位以内が13回)と、他との違いを強調する「Comparative Distinction」(2.67位、14回)でした
- 3番目はAI向けに整形する「LLMs.txt」(3.33位)です。言い回しを変える種類は、7.50〜9.28位でした
- 割合が低い政党ほど、相対的な増加は目立ちました。構成の整理で、日本の上位と下位の言及率は+4.28と+4.12ポイントで、相対では5.9%と14.4%です。勝率は+1.48と+1.20ポイントで、10.8%と51.1%です(論文の計算)
- gpt-5-miniは増加が小さめでした。評価を求める質問への拒否が多いことと重なる、と論文は述べています
絶対値は小さいと論文自身が述べています。書き換えなしの2回の生成でも、勝率で-1.13と-0.87ポイントという有意なぶれが出た設定があります。
4. 人物像は書き換えの効果を一貫して変えなかったが、支持政党を明示すると基準が動いた
米国の15の人物像(人口属性9、支持政党3、アンケート由来3)を指示文に加えて、上位2つの書き換えを調べています。
| エンジン(声の占有率、%) | 人物像なし | 民主党支持を明示 | 無党派 | 共和党支持を明示 | 民主党支持と共和党支持の差 | 書き換え(Comparative Distinction)の増加(民主党支持の人物像) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| gpt-4o-mini | 56.5 | 61.1 | 56.8 | 49.5 | 11.6 | +2.20 |
| gpt-5-mini | 50.1 | 54.3 | 53.3 | 50.9 | 3.4 | +1.76 |
| gemini-2.5-flash | 56.0 | 57.8 | 56.9 | 54.8 | 3.0 | +2.16 |
米国の測定は民主党を対象にしています。共和党を対象にした場合も全体の傾向は同じだと、論文は実験手順の節で述べています(表は未掲載)。
- 基準の変化は、人口属性で-0.8〜+2.5ポイント、支持政党の明示で-7.0〜+4.6ポイントでした。民主党の声の占有率は、どのエンジンでも民主党支持>無党派>共和党支持の順に並びました
- Comparative Distinctionの書き換えは、gpt-4o-miniとgemini-2.5-flashで15の人物像すべてで有意な増加でした。gpt-5-miniでは、2つの書き換えと15の人物像の30通りのうち29通りで増加です
- 人物像による効果の差で名目上有意なのは90通り中7通りで、補正後に有意なものはなく、向きもエンジンごとにまちまちでした。論文は、人物像で効果が一貫して増減する傾向はないと結論づけています
- アンケートから作った人物像の基準は、対応する支持政党の人物像と、gpt-4o-miniで最大7.4ポイント、gpt-5-miniで2.5ポイント、gemini-2.5-flashで1.3ポイントの差でした。論文は、より詳しい人物像による基準の変化はエンジンで違う、とまとめています
論文は、明示した立場による基準の差が、ページ1つの書き換えの増加より大きくなりうると述べています。gpt-4o-miniでは11.6ポイントと2.20ポイントです。
論文自身が書いている限界
- オフラインの評価です。固定した過去のページで、Web検索を切っています。実際の検索や引用の選択への効果は未検証です。公開して試すと、削除後も保存データに残り有権者に届く恐れがあるため、行っていません
- 測っているのは出方だけです。好意的か否定的かは区別されず、事実の正しさや有権者への説得は評価の対象外です。書き換え後の事実の正しさや意味の保たれ方も、体系的な確認は未実施です。根拠の追加は元のページにない材料を足す場合があり、構成の整理と論証は事実や立場を保つよう指示しています。増加は「出方の変化」としてのみ解釈する、とあります
- 悪用の恐れがあります。方法と効果の比較は、政治的な露出を動かすために使われる恐れがあると、論文自身が書いています。操作への防御を考える材料にしてほしい、という位置づけです
原文を読んで気づいた点
- 日本語で検証された範囲は、はっきりしません。論文は日本の質問の言語を書いておらず、質問の例も英語です。元データの論文(2026年3月の作業論文)には「プロンプトはすべて日本語」とありますが、書き換えの指示や回答の生成が日本語で行われたかは、この論文に記載がありません。日本のページの言語も明記されていません
- 選挙以外の話題は、日本でも検証されていません。企業や商品、サービスに関する質問や、一般のWebページの書き換えは、対象外です。人物像の分析も、日本は性別だけでした
- エンジンと時期が、実サービスと違います。日本の引用の分析は、4つの生成エンジンの2026年2月2〜8日分です。書き換えの実験は3つのエンジンで検索を切って行いました。うち2つ(gpt-4o-mini・gpt-5-mini)は引用の分析と同名のモデルを検索なしで使い、利用できなくなったgrokの2つの代わりは、gemini-2.5-flashにそのページを読ませています。gpt-4o-miniは2024年7月公開のモデルで、現在のサービスの動きとは限りません
- 自動採点で、書き換えも1つのモデルです。出方は政党名の辞書との一致で自動計測し、書き換えはgpt-4o-miniだけが担当しました。出典のラベルもAIモデルが付け、迷う場合だけ人が確認しています
- 日本の実験は、25問と7日間です。同じ質問の日ごとの件数は独立していません。論文は付録で、米国と日本の検定を、質問ごとの誤差補正と多重比較の補正(BH法)をかけて再検定し、有意の数が減ったと書いています。指定ありの比較は24通りから18通り、指定なしは5通りから0通り、種類ごとの比較は31通りから22通りです。声の占有率の順序(構成の整理が論証と同等以上、その次に根拠、文体)は変わりませんでした
- 効果の大きさは、エンジンで大きく違います。付録の表で、日本・上位の言及率の増加は、Comparative Distinctionでgpt-4o-miniが+9.60、gpt-5-miniが+1.52、gemini-2.5-flashが+1.81でした。書き換え前の言及率は51.5%、65.7%、83.2%です。3つをまとめた値は、gpt-4o-miniに引っ張られている可能性があります(私の読み取り)
- 査読と公開物は未確認です。arXivのプレプリントで、査読の有無もデータの公開先も確認できませんでした
なお、GEOの研究の全体像はサーベイ論文の解説にまとめています。その解説に、この論文の紹介はありません(2026年11月1日に確認)。
この論文から、言えること・言えないこと
| 言えること(論文が測った範囲) | 言えないこと |
|---|---|
| 検索を切った固定ページの実験では、狙う対象を指定してページ1つを書き換えると、対象の出方が増える設定が多かった | 実際のAI検索で、書き換えた公開ページが引用され、回答が変わる |
| 狙う対象を指定しない書き換えでは、対象の出方はほとんど増えなかった | 書き換えれば、誰でも回答を思いどおりに動かせる |
| 整理と論証の書き換えは、根拠の追加や言い回しの変更より、増加が大きい傾向にあった | 日本語のページや選挙以外の話題でも同じ順位になる |
| 日本の4つの生成エンジンの引用には、自前の公式サイトや誰でも投稿できる場が一定の割合で含まれていた | その出典が、回答の内容や有権者の判断を変えた |
| 人物像の条件づけで、書き換えの効果が一貫して増減する傾向はなかった | 日本の有権者や、実際の利用者の入力でも同じ |
中小企業の視点で、どう受け取るか
ここからは論文の主張とは別の、私の読み取りです。論文は選挙だけを対象にしているため、一般の発信者に当てはまる範囲を、確度をつけて書きます。
- AIの回答に付く出典の種類を確かめます(確度:低)。日本の選挙の質問では、引用の中に、自前の公式サイトと誰でも投稿できる場が一定の割合で入っていました。自社や自社の分野の質問で同じ構成かは未検証ですが、出典が公式か、報道か、投稿かは、読み手にも発信者にも確かめられます
- 測るときは、ぶれを含めて見ます(確度:中)。書き換えなしでも、勝率で1ポイント前後のぶれが出た設定がありました。小さな変化は1回の確認では判断しにくいため、回数と日を分けて記録します
- 日本語は日本語で確かめます(確度:低)。この論文の日本の部分は選挙に限られ、言語も明記がありません。自社の質問を日本語で試した結果は、論文の数字とは別に記録します
よくある質問
VoteGEO-Benchの結果は、日本語の質問や日本のAI検索にも当てはまりますか
日本の選挙のデータは含まれますが、質問の言語は論文に明記されていません。
書き換えの実験は検索を切った実験室の中で、2026年2月の7日間のデータを使っており、実際の日本のAI検索への当てはめは、この論文からは分かりません。
VoteGEO-Benchでは、ページの書き換えが実際のAI検索の回答を動かすと示されましたか
示されていません。固定した過去のページを使い、Web検索を切った実験で、実際の検索や引用の選択への効果は未検証です。
VoteGEO-Benchの「狙う対象を指定した書き換え」とは何ですか
書き換えの指示に、増やしたい政党の名前を入れる方法です。指定しない場合は、増加がほとんど出ませんでした。
論文は、選挙のページが複数の政党に触れるため、狙いが定まらないことが一因だと説明しています。
まとめ:今日できる1つのこと
自社に関する質問を3つ選び、AIの回答に付く出典を、自前の公式サイト、報道、誰でも投稿できる場、公的機関に分けて数えてみてください。
日を分けて数回試し、記録の形をそろえておくと、あとで変化を比べられます。
この論文は、LLMO論文の一覧の一本です。ほかの論文の解説も、順次公開しています。
この記事に書いたことを、そのまま御社のページに
生成AIに引用されるページを、お話しいただくだけでお作りします。お時間をいただくのは初回15分のヒアリングだけです。まず1ページ、無料でお作りします。
OKが出るまで、何度でも直します。事実が違う、言い回しが硬い、この話は入れないでほしい。どれも遠慮なくおっしゃってください。何度お直ししても、追加の料金はいただきません。
これまでに127社にご利用いただきました。毎月ご依頼いただいている方の6割以上が、月10ページを選ばれています。料金はページに掲載しています。
ページを増やしても問い合わせが来ないなら、原因はページの外にあります。その場合は、下の入口からご相談ください。
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