AI検索は、回答にどんなサイトを引用しているのでしょうか。2025年7月に公開された論文「News Source Citing Patterns in AI Search Systems」は、その中の「ニュース源」に絞って、実際の利用者の質問から調べた研究です。
この記事は、論文を原文から読み、分かったことと、まだ分からないことを整理します。引用の9%がニュース源だったこと、引用が少数の媒体に集まっていたこと、政治的な傾きの測り方(論文の定義のとおりに書きます)が分かります。
数値は、論文の本文と表から拾いました。
合同会社謙虚は、3つのドメインを並行して運用し、何を変えると数字が動くかを測り続けています。この論文は、AIが「どの種類の情報源」を引用しているかを、2.4万件超の実際の会話で測っており、自社の見え方を考える前提を知るために読む価値があります。
結論:3行で言うと
- 36万6,087件の引用のうち、ニュース源は9.0%(3万2,865件)でした。残りの91%は、この論文の分析対象ではありません
- ニュース引用は少数の媒体に集まっていました。OpenAI系のモデルでは、上位20の媒体で、ニュース引用の67.3%を占めています
- 引用されたニュース源の傾きや質は、利用者がどちらの回答を選ぶかとは、統計的に有意な関連が見られませんでした(1,534組の比較)
この論文の基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 原題 | News Source Citing Patterns in AI Search Systems |
| 著者 | Kai-Cheng Yang(1人。米国の大学所属) |
| 公開日 | 2025年7月7日(版1) |
| arXiv番号 | 2507.05301(分野はcs.IR、情報検索) |
| 掲載状況 | arXivのプレプリント。arXivのコメント欄は「15 pages, 7 figures」の記載だけです。学会・雑誌の掲載情報は載っていません。論文の書式は米国の人工知能学会(AAAI)の様式で、著作権表示もありますが、採択されたかどうかは確認できませんでした |
| 種類 | 観察研究(既存の公開データを分析。新しい実験はしていません) |
| データ・コード | データは「AI Search Arena」の公開データセット。分析コードはGitHubで公開されています |
論文はこちらで読めます。arXiv(2507.05301)、PDF、分析コード(GitHub)。
この論文が答えた問い
AI検索は、どのニュース源を引用しているのか。そして、その引用の仕方は、利用者の好みと関係があるのか。
論文は、AI検索が「情報の門番」の役割を担い始めていると考えています。従来の検索エンジンの調査では、ニュースの表示が少数の人気媒体に集中し、左寄りの媒体が多く表示される傾向が報告されていました。
AI検索でも同じことが起きているのかを、論文は2つの問いに分けています。
- 問い1:AI検索のサービスごとに、ニュースの引用に一定の傾向はあるか。あるなら、何と関連しているか
- 問い2:引用されたニュース源の特徴は、利用者がどちらの回答を好むかと関連しているか
論文は、これまでの調査が、研究者が作った模擬の質問を使っていた点、1〜数個のサービスしか調べていなかった点、利用者の好みのデータがなかった点を、不足として挙げています。
どうやって調べたのか
データは、AI検索のサービス2つの回答を並べて、利用者がよい方を選ぶ公開の評価の場「AI Search Arena」から取っています。期間は2025年3月から5月の7週間です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 会話数 | 2万4,069件。約半数は利用者が勝敗または引き分けを判定 |
| 回答数 | 6万5,768件(OpenAI系、Perplexity系、Google系の12モデル)。付録の合計には、検索を使わない1モデルの回答1,240件も入っていますが、論文はこのモデルを分析から除いています |
| 引用数 | 36万6,087件。ユニークなドメインは8万3,533 |
| ニュース源の判定 | 公開されているニュースドメインの一覧と照合。1,795ドメイン(2.1%)が該当し、引用の9.0%を占めた |
| 政治的傾き | 米国のSNS利用者のうち、有権者登録の記録と結びつけた150万人超の共有行動から作った指標。-1(主に民主党の登録者が共有)から+1(主に共和党の登録者が共有)まで。-0.33未満を「左寄り」、+0.33超を「右寄り」、その間を「中央」と分類 |
| ニュース源の質 | 複数の評価機関・研究者のリストを主成分分析で統合した0〜1の点数。0.5以上を「高品質」、未満を「低品質」と分類 |
| 集中度 | ジニ係数(0が完全に平等、1が完全に不平等) |
| 利用者の好み | ブラッドリー・テリーモデル(2つの回答の勝敗から、各特徴の効き方を推定する統計手法)。ニュースを引用した回答どうしの1,534組を使用 |
ここで大事なのは、「左寄り」の定義です。論文の「左寄り」は、そのドメインのリンクを共有していた層が、米国の民主党の登録者に偏っていた(点数が-0.33未満だった)という意味です。
論文は、この指標を既存の研究や評価機関の分類と照らし、高い一致を確認したと述べています。
政治的傾きの点数が付いたのは、1,646ドメイン(ニュースドメインの91.7%)で、ニュース引用の98.6%をカバーしています。質の点数が付いたのは1,283ドメイン(71.5%)で、ニュース引用の80.8%です。
回帰分析(ほかの要因を一定にして、各要因の効き方を調べる統計手法)には、英語の質問で、ニュース引用を1件以上含む回答の9,098件を使っています。
結果
ニュースの引用率と、媒体への集中
| 項目 | OpenAI系 | Google系 | Perplexity系 |
|---|---|---|---|
| 全引用に占めるニュースの割合 | 19.1% | 7.9% | 7.7% |
| ニュース引用の上位20媒体の合計割合 | 67.3% | 31.9% | 28.5% |
| ジニ係数 | 0.83 | 0.69 | 0.77 |
| 引用されたユニークなニュース源の数 | 707 | 881 | 1,430 |
読み取れることは、次のとおりです。
- OpenAI系のモデルは、ほかの2つより高い割合でニュースを引用していました
- OpenAI系では、ロイター(reuters.com)がニュース引用の22.8%、AP通信(apnews.com)が12.2%を占めています。論文の本文は「全引用に対する割合」と書いていますが、表の合計から、分母はニュース引用だと読めます
- 同じ提供元のモデルどうしは、引用するニュース源がよく似ていました(類似度0.82〜0.99)。提供元が違うと、類似度は0.11〜0.58に下がります
- Perplexity系は、上位20の合計割合ではGoogle系より低いのに、ジニ係数は高くなっています。論文は、1〜2回しか引用されない媒体が多いためと説明しています
政治的傾きと質
| 項目 | OpenAI系 | Google系 | Perplexity系 |
|---|---|---|---|
| 中央に分類されたニュース引用 | 85.2% | 72.8% | 75.2% |
| 右寄りに分類されたニュース引用 | 0.3% | 0.8% | 1.2% |
| 高品質に分類されたニュース引用 | 96.2% | 89.7% | 92.2% |
| 低品質に分類されたニュース引用 | 3.8% | 10.3% | 7.8% |
左寄りの割合は、OpenAI系が14.5%、Google系が26.3%、Perplexity系が23.6%です。
論文の本文は、中央をGoogle 75.2%・Perplexity 72.8%、高品質をGoogle 92.2%・Perplexity 89.7%と書いています。
しかし図3では、この2組の数字が入れ替わっています。図の各行の合計はほぼ100%になります。
回帰分析の向き(Googleのほうが低品質が有意に多い)とも合うため、この記事は図の割り当てを採りました。
論文が述べているのは、次の点です。
- 3つの提供元すべてで、左寄りが右寄りを大きく上回りました。論文は、これを「左寄りの偏り(liberal bias)」と呼んでいます
- 質の高い媒体が大半で、低品質の媒体はまれでした
- 上位20媒体の表(論文の表1)も、中央と左寄りが中心で、大半が高品質でした
ほかの要因を調整した結果
回帰分析では、基準値(ほかの変数をゼロにしたときの値)が、左寄り18.5%、右寄り2.5%、高品質69.9%、低品質5.7%でした。論文は、モデルによる違いは、この基準値に比べて小さいと述べています。
- Perplexity系と比べると、Google系は左寄りと低品質の引用が有意に多く、右寄りと高品質が少ない結果でした
- OpenAI系は、左寄りが少なく、高品質が多い結果でした
- 質問の話題は、左寄りと低品質の引用とは有意な関連が見られませんでした。「ニュースの更新」という話題も同じです
論文の著者は、政治に関する質問で、政治色の強い媒体が増えると予想していました。しかし結果は予想と違い、データ中の質問の多くは、AIや技術、スポーツや娯楽などの話題でした。
著者は、傾向は質問よりも、システム自体の性質に由来すると考えています。
利用者の好みとの関係
ニュースを引用した回答どうしの1,534組で、好みと関連したのは、回答の長さでした。ニュースの引用割合も、左寄り・右寄り・中央の割合も、高品質・低品質の割合も、係数は、すべて有意とは判定されませんでした。
論文は、この結果を、引用を足すと正しさや関連の有無にかかわらず信頼が上がるという、別の人を対象にした実験の結果と整合すると述べています。
論文自身が書いている限界
- 観察研究のため、引用の傾向が起きる原因の特定は、今後の課題です。AI検索は、言語モデルと検索の仕組みを組み合わせたもので、どの部分が効いているかは分解できていません
- 2025年3月から5月の一時点のデータです。サービスの更新で、傾向が変わる可能性があります
- 分析したのはニュース引用だけで、全体の9%です。残りの91%(たとえば、10%を占めるSNSへの引用)も調べる必要があると、論文は述べています
- 質問の種類、言語、文脈ごとの違いは、今後の課題とされています
原文を読んで気づいた点
以下は、私が原文を読んで気づいた点です。論文の主張とは別です。
- 原文に、日本語での検証の記載はありませんでした。回帰分析は、英語の質問だけを対象にしています。日本の報道機関のドメインが、OpenAI系に多い媒体の表に1つ出ていますが、日本語の分析はしていません
- 政治的傾きの指標は、米国が土台です。米国の有権者登録と結びつけたSNS利用者の共有行動から作られているため、米国の媒体を測る尺度です。日本の媒体への当てはめは、検証の対象外です
- 「偏り」の基準となる割合は、原文に見当たりませんでした。論文は、左寄りと右寄りの割合を比べて偏りと呼んでいますが、比較の元になる一覧に左寄りと右寄りの媒体が何件ずつあるかも、示されていません
- 評価はほぼ自動の分類です。ニュースか、左右か、質の高低かは、既存のリストとの照合で決まります。人手で確かめる作業は、論文の記述の範囲では見当たりませんでした。質の点数がない引用(ニュース引用の約19%)が、割合の分母に入っているかは、原文から確認できませんでした
- 調べた環境と実サービスの差も、意識する必要があります。モデル名には、プレビュー版や試験版を示す語を含むものがあります。質問は、評価の場に集まった利用者のもので、一般の利用者の代表とは言えません
- 査読の有無は確認できませんでした。前掲の「基本情報」のとおりです
この論文から、言えること・言えないこと
| 言えること(論文の範囲) | 言えないこと |
|---|---|
| 2025年3〜5月の比較評価の場で、引用の9%がニュース源だった | いまのAI検索でも同じ割合である |
| ニュース引用は、少数の媒体に集まっていた | 日本語の質問でも、同じ集中が起きる |
| 論文の定義(米国の共有行動に基づく指標)では、左寄りが右寄りより多く引用された | AIが政治的な意図を持って、媒体を選んでいる |
| 低品質に分類された媒体は、ニュース引用のうち3.8〜10.3%だった | 一般のサイトや企業のページも、同じ基準で選ばれる |
| ニュース源の傾きや質は、回答の勝敗と有意な関連がなかった | 引用元は、利用者の行動や信頼に影響しない |
中小企業の視点で、どう受け取るか
ここからは論文の主張とは別の、私の読み取りです。
- ニュース引用は、全体の9%です。多くの中小企業のサイトは、ニュース源とは別の種類に入ります。論文は残りの91%を分析していないため、自社のページがどう引用されるかは、この論文からは分かりません
- サービスごとに、引用先は違います。提供元が違うと、引用するニュース源の類似度は0.11〜0.58でした。自社の見え方を確かめるときは、1つのサービスだけで判断せず、複数で試すほうが安全です
- 「引用される」と「選ばれる」は、別の話です。この論文では、引用元の性質は回答の勝敗と関連していませんでした。引用の数や傾きを追うだけでなく、回答が読者に何を伝えるかにも、目を向けたいところです
- 日本語の市場への持ち込みは、慎重に考える必要があります。指標が米国の政治を前提にしており、日本語の検証もないためです。日本の数字は、自社で測るのが確実です
よくある質問
News Source Citing Patterns in AI Search Systems の「左寄り」は、何を基準にした分類ですか
米国のSNS利用者のうち、有権者登録と結びつけた150万人超が、どのニュースのリンクを共有したかで決めた指標です。点数が-0.33未満のドメインを、論文は「左寄り」と呼んでいます。
人が内容を読んで判断した結果ではなく、共有行動から計算した指標です。論文は、この指標が既存の分類と高い一致を示したと述べています。
AI検索のニュース引用が少数の媒体に集まるという結果は、中小企業のサイトが引用されにくいという意味ですか
その意味かどうかは、論文の範囲の外です。論文が調べたのはニュースの引用だけで、全体の9%です。
企業のサイトや専門情報サイトなど、残りの91%がどう引用されているかは、論文の分析の外にあります。
News Source Citing Patterns in AI Search Systems の結果は、日本語のAI検索にも当てはまりますか
この論文からは、判断できません。回帰分析は英語の質問だけで行われ、日本語を対象にした分析は、原文に見当たりませんでした。
日本のAI検索での傾向を知りたい場合は、自社で質問を決めて、引用元を記録して調べる方法があります。
まとめ:今日できる1つのこと
自社に関係する質問を3つ選び、複数のAI検索で、引用された上位のサイトの種類を記録してください。
ニュース、公的機関、比較サイト、SNS、企業のページなど、種類ごとに数えます。この論文のように、種類別の割合を数えてみると、自社が競っている場所がどこかが見えてきます。
この論文は、LLMO論文の一覧の一本です。ほかの論文の解説も、順次公開しています。
この記事に書いたことを、そのまま御社のページに
生成AIに引用されるページを、お話しいただくだけでお作りします。お時間をいただくのは初回15分のヒアリングだけです。まず1ページ、無料でお作りします。
OKが出るまで、何度でも直します。事実が違う、言い回しが硬い、この話は入れないでほしい。どれも遠慮なくおっしゃってください。何度お直ししても、追加の料金はいただきません。
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