AIが回答に付ける「出典リンク」は、読者にとって「根拠がある」という目印になっています。しかし、リンク先が実在し、開けるページであっても、その出典が質問に合っているとは限りません。
この記事では、2026年5月にarXivへ公開されたプレプリント「Verified Misguidance: Measuring Structural Citation Failures in Search-Augmented LLMs」を、原文から読んで解説します。検索つきのAI10モデルが付けた引用76万件あまりを、「質問に合う出典か」「分野にふさわしい出典か」「回答は出典の内容どおりか」の3つの観点で採点した研究です。
合同会社謙虚は、3つのドメインを並行して運用し、何を変えると数字が動くかを測り続けています。この論文は、AIに引用される側が「どんな出典として扱われるのか」を考える材料になるため、読みました。
なお、この論文は査読を経ていない初版(v1)のプレプリントです。今後、内容が改訂される可能性があります。
結論:3行で言うと
- 評価できた引用76万1,495件のうち、30.6%は回答の内容が出典と合わず、27.1%は分野にふさわしくない種類の出典でした(論文の自動採点による値です)
- 出典に忠実なモデルは、ブログなどの出典を選びやすく、出典の種類を選ぶのが得意なモデルは、内容を出典と合わせるのが苦手でした。両方が良いモデルは10個の中にありませんでした
- 引用の質のばらつきの88〜96%は、モデルごとの差ではなく提供元ごとの差で説明できたと、論文は述べています。同じ提供元の中でモデルの大小を比べた差は、提供元の間の差より小さい結果でした
この論文の基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 原題 | Verified Misguidance: Measuring Structural Citation Failures in Search-Augmented LLMs |
| 著者 | Yongsik Seo、Wooseok Jeong、Eunyoung Kim、Hyeonseo Jang、Dongha Lee(5人) |
| 公開日・版 | 2026年5月27日。v1(初版)のみ |
| arXiv番号 | 2605.28565(分野はcs.DL、デジタルライブラリ) |
| 掲載・採択の状況 | 採択の記載なし。arXivのコメント欄には「Working Progress」(作業中の意)とあり、PDFの脚注は「Preprint.」だけです |
| 種類 | データセットの構築と、評価の枠組みの提案(実測の研究) |
| データ・コード | データセット「CiteTrace」と評価コードを公開(データ、コード)。公開されるのはURLとメタデータで、ページ本文は含まれません |
論文はこちらで読めます。arXiv(2605.28565)。
この論文が答えた問い
AIが引用した出典は実在し、内容も一見もっともらしいのに、利用者を誤った方向へ導くことがどれくらいあるのか。
これまでの評価は、1つの面だけを見ていました。「回答は出典に裏づけられているか」だけを見る研究、「出典の信頼度」だけを見る研究、「AIがどんな出典を選ぶか」だけを見る研究です。
論文は、出典が実在していても、質問の意図や分野に合っていなければ、利用者を誤らせると考えます。この状態をVerified Misguidance(確認できる出典による誤誘導、略してVM)と名づけました。
どうやって調べたのか
質問は、英語の専門家向け質問応答サイト28コミュニティから集めました。医療、法律、お金、プログラミングなど、専門知識が要り、事業者の利害も絡む分野が選ばれています。
各コミュニティから400問ずつを均等に抽出し、合計11,200問になりました。質問文には、サイトの投稿タイトルだけを使っています。
この質問を、検索機能つきの10モデルに投げました。5つの提供元の標準版と推論版が含まれ、同じ約15日間(2026年3月26日〜4月9日)に集めています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象モデル(10個) | GPT-5、GPT-5 mini、Claude Sonnet 4.6、Claude Haiku 4.5、Gemini 3.1 Pro、Gemini 3 Flash、Grok 4.1 Fast(推論あり・なし)、Sonar、Sonar Reasoning Pro |
| 質問と回答 | 11,200問 × 10モデル=112,000回答。引用の組は1,271,046件 |
| 出典ページの取得 | 引用された一意のURL 396,670件のうち231,105件(58.3%)を取得。引用の組の63.2%に当たります |
| 評価できた引用 | コード・表だけの引用、短すぎる抜き出し、採点者が評価不能とした引用を除いた761,495件 |
| 採点する人 | GPT-4o-miniが採点。人手との一致を、各観点200件・注釈者3人で確認 |
採点は、1つの引用ごとに3つの観点で行います。いずれも1〜5点で、2点以下を「失敗」と数えます。
| 観点 | 何を見るか | 失敗率の呼び名 |
|---|---|---|
| 意図と目的の一致(IPA) | 質問が求めるものと、出典の書かれた目的が合うか。例:事実を知りたい質問に、宣伝ページが出ていないか | AFR |
| 出典の適切さ(SS) | その分野で、その種類の出典を使ってよいか。例:医療の質問に個人ブログは不適 | SFR |
| 回答と出典の忠実さ(ASF) | 引用された文が、出典の内容と合っているか。5段階で、出典にない(捏造)、別の文脈の流用、反対の主張、言い過ぎ、完全に一致、に分けます | FFR |
出典の適切さは、10の分野と6つの出典の種類を掛け合わせた表で点数を決めます。この表は、専門家のパネル(分野ごとに10人)の評価をもとにしたものです。
たとえば、医療や法律の分野では、公的機関と研究論文だけが最高点で、ウィキやフォーラム、個人のブログは最低点の1点です。一方、プログラミングの分野では、開発者コミュニティのウィキやフォーラムが最高点になります。
結果
引用の約3割が、出典と合わないか、分野に不向きだった
| 観点 | 失敗率 | 補足 |
|---|---|---|
| 回答と出典の忠実さ(FFR) | 30.6% | 完全に支持61.2%、出典にない捏造24.5%、出典の別の文脈の流用6.1%、言い過ぎ7.1%、反対の主張1.1%。失敗に数えるのは捏造と流用の2段階 |
| 出典の適切さ(SFR) | 27.1% | 中間の3点が33.3%で最多。失敗の多くは「少しずれた種類」の出典 |
| 意図と目的の一致(AFR) | 5.1% | 出典の73.1%が「知らせる」目的のため、低く出やすい |
忠実さは、二極に分かれていました。出典の内容どおりか、出典にない内容かのどちらかが多く、中間の例は少なかったと論文は述べています。
出典の種類の内訳も偏っていました。ブログ・SNSが29.2%、企業のページが21.1%で、合わせて50.3%です。
公的機関(17.5%)と研究論文(8.8%)を合わせても26.3%でした。
忠実なモデルは出典の選び方が甘く、出典の選び方が良いモデルは内容が出典と合わない
| モデル | 回答と出典の失敗率(FFR) | 出典の失敗率(SFR) |
|---|---|---|
| Claude Haiku 4.5 | 12.3% | 30.1% |
| Claude Sonnet 4.6 | 13.1% | 31.7% |
| Sonar Reasoning Pro | 18.0% | 31.5% |
| Gemini 3 Flash | 30.0% | 33.5% |
| Gemini 3.1 Pro | 33.1% | 30.1% |
| Sonar | 34.1% | 30.0% |
| Grok 4.1 Fast(推論なし) | 40.5% | 24.8% |
| GPT-5 | 42.3% | 8.0% |
| Grok 4.1 Fast(推論あり) | 42.6% | 24.6% |
| GPT-5 mini | 44.9% | 14.3% |
表は、論文の付録の表から、忠実さの失敗率が低い順に並べました。
GPT-5は、引用の41.8%を公的機関のページに集めたため、出典の失敗率が8.0%と最も低く出ました。一方で、回答の42.3%は出典の内容と合っていませんでした。
Claudeの2モデルは、引用のうちブログが32〜35%、公的機関が約12%でした。回答は出典に忠実ですが、出典の失敗率は30%を超えています。
公的機関の引用割合と出典の失敗率の相関は、-0.95(スピアマンの順位相関、10モデル)でした。10個の平均の話であり、1つの引用の予測ではありません。
健康・お金・法律では、出典の失敗率がほぼ倍になる
出典の失敗率は、健康・お金・法律の分野(検索品質の指針で言うYMYL、誤りが生活に大きく響く分野)で38.3%、それ以外で21.1%でした。比にすると約1.8倍です。
同じ質問でも、結論が同じ回答の出典の質は違います。
ビタミンAの摂取量に関する質問では、全10モデルが同じ結論でしたが、Claudeは公的な健康機関のページを引用し(忠実さの失敗率0%)、Sonar系とGemini系のモデルは、販売目的のブログを引用しました(同80〜100%)。
提供元の差が大きく、モデルの大小や推論は決め手でなかった
- 提供元ごとの分散の説明率:意図の一致96.5%、出典の適切さ96.1%、忠実さ88.3%(残りがモデルごとの差)
- Claude SonnetとHaiku:忠実さの失敗率は0.76ポイント、出典の失敗率は1.58ポイントの差(Sonnetのほうが高い)
- GPT-5とGPT-5 mini:GPT-5のほうが、忠実さは2.56ポイント、出典の失敗率は6.27ポイント低い
- Gemini 3.1 ProとFlash:Proは出典の失敗率が3.39ポイント低く、忠実さの失敗率は3.10ポイント高い
- Sonar Reasoning ProとSonar:推論版は忠実さの失敗率が18.0%で、Sonarの34.1%より16.1ポイント低い。出典の差は1.5ポイント
- Grok 4.1 Fastの推論あり・なし:3観点とも差は約2ポイント以内
論文はここから、出典の選択は検索基盤の側で決まる部分が大きく、モデルを大きくしたり推論を加えたりしても、変わりにくいと読みます。推論の効果が出たSonar系の比較でも、改善したのは出典をどう使うかという忠実さの面だけでした(Grok系では差がありませんでした)。
回答単位で見ると、ほぼ全員がどこかで失敗した引用に出会う
1つの回答には複数の引用が付くため、回答単位で見ると失敗の割合は大きく上がります。1件でも3観点のどれかで失敗した引用を含む回答の割合は、最も低いClaude Haikuで71.3%、最も高いGrok 4.1 Fast(推論あり)で96.1%でした。
Claude Sonnetは、引用1件あたりの忠実さの失敗率が13.1%でも、1回答あたり平均12.7件の引用を付けるため、回答単位では62.9%になります。
引用の数が増えるほど、忠実さの失敗率は下がり(1〜5件の回答で33.7%、20件以上で28.2%)、出典の失敗率は上がります(22.4%から31.7%)。
3つの観点の失敗は、互いに独立して起きていました。3つすべてで失敗した引用は3,174件(0.42%)で、各失敗率を掛け合わせた期待値(約0.42%)とほぼ一致します。
忠実さだけの失敗は22.2%、出典だけは19.8%でした。
論文自身が書いている限界
- 質問は英語の質問応答サイトだけです。英語以外の言語や文化での傾向は確かめていないと述べ、優先度の高い今後の課題としています(日本語は対象に入っていません)
- 出典ページの取得に失敗した引用が36.8%ありました。ボット対策で遮断されやすいフォーラム(67.9%)と個人ブログ・SNS(55.0%)に偏るため、失敗率は実際より低く出る下限の値だと説明しています
- 採点は、1つのAI(GPT-4o-mini)だけに頼っています。採点者を替えると、絶対値が動く可能性があるため、モデル間・提供元間の相対差を主な主張としています
- 意図と目的の表、出典の適切さの表は、専門家が作った指標です。専門家によって、一部のセルの点数は変わりうると述べています
- 検索は実際のウェブに問い合わせるため、同じ質問でも時期により結果が変わります。約15日間に集めた一時点の記録で、順位は3か月以内に入れ替わりうると述べています
- どの段階(検索、生成、対話)が失敗を生むかは切り分けていません。商用の検索基盤が非公開のため、固定実験ができないとしています
原文を読んで気づいた点
- 日本語の検証はありません。質問は英語の投稿タイトルで、日本の事業者名や商品名を含む質問は入っていません
- 実験環境と実サービスの差があります。各社の画面のアプリではなく、API経由で検索機能を使っています。システムの指示文も、引用の形式を指定しない共通の1種類です
- 採点は自動採点が中心です。人手の確認は、各観点200件の抜き取りです。採点者のGPT-4o-miniと同じ系列のGPT-5を評価対象に含みますが、この偏りを調べた記載は見つけられませんでした
- 「失敗」は、出典の種類で決まります。医療の質問で個人ブログを引用すれば、内容が正しくても失敗に数えられます。出典の適切さは、情報の正しさそのものを測る指標ではありません
- 「出典を歪めた」の中身は、ほとんどが捏造です。忠実さの失敗30.6%のうち24.5%は「出典にその主張がない」、6.1%は「別の文脈の流用」です。要旨の「歪める」という表現より、出典にない内容が多い点に注意が要ります
- ページの内容は、取得した時点のものです。AIが引用した時点と同じ内容だったかは、論文では確かめられていません
- 提供元の差は、5提供元×2モデルの比較です。提供元の違いは、検索基盤の違いと、モデルの系列の違いが混ざっています。論文自身も、検索と生成の切り分けは未実施と述べています
- 表記が食い違う箇所があります。回答単位の最大値を、要旨は96%、冒頭と考察は90%としています。表の最大値は96.1%です
- 査読の記載はありません。arXivのプレプリント(v1)で、採択された学会や雑誌の記載は見つかりませんでした。arXivのコメント欄には「Working Progress」とあり、著者自身が作業中の版として出していると読めます
この論文から、言えること・言えないこと
| 言えること(論文の範囲で) | 言えないこと |
|---|---|
| 2026年3〜4月の英語の質問では、引用の約3割で回答が出典と合わず、約3割で分野に不向きな出典が使われた | 日本語の質問や、日本のサービスで同じ割合になる |
| 忠実さと出典の適切さは、10モデルの間で両立しなかった | 両立するモデルや設定が存在しない(今回の10モデルで見つからなかった、という範囲) |
| 提供元が同じモデルは、出典の傾向が近かった | 検索基盤が原因である(切り分けは未実施) |
| 健康・お金・法律で、個人ブログなどの出典の失敗率が上がった | 企業の公式ページが引用されやすくなる方法 |
| 回答に引用が付いていても、その出典が適切とは限らない | 各サービスが現在も同じ傾向である(順位は3か月以内に入れ替わりうる) |
中小企業の視点で、どう受け取るか
ここからは、論文の主張とは別の、私の読み取りです。
1. 「引用される」ことと「適切な出典として扱われる」ことは別の問題です。
論文は、引用される側の対策を調べていません。ただ、AIが出典の種類によって評価されている構図は確認できます。
2. 健康・お金・法律に近い事業では、出典として不利になりうる点を意識したいです。
この論文の採点では、これらの分野で、公的機関と研究論文以外の出典は評価が下がります。
自社の情報を、公的機関や研究の一次情報へ結びつけて示すことは、有効な手がかりになりえます。ただし、これは論文の検証した方法ではありません。
3. AIに引用された、という事実だけで安心しないほうがよいです。
引用されたページの主張が、本当にそのページに書かれているかを、定期的に確かめる価値があります。
自社のページが誤って引用されている例も、起きうると読み取れます。
4. 日本語での確認が先です。
この論文は英語で調べたものなので、日本語のAI検索で同じ傾向が出るかは、自社の質問で確かめるのが確実です。謙虚でも、3つのドメインで確かめています。
よくある質問
Verified Misguidance(確認できる出典による誤誘導)は、ハルシネーションと何が違いますか
ハルシネーションは、事実として誤った内容や、出典のない内容をAIが作ってしまう現象です。
Verified Misguidanceは、出典が実在して開けるのに、質問の意図や分野に合わない出典を選んだり、内容を出典と食い違えて書いたりする失敗を指します。論文は、これを3つの観点で測る枠組みを提案しました。
CiteTraceの評価結果は、そのまま現在のAI検索に当てはまりますか
当てはまるとは言えません。2026年3月26日〜4月9日に集めた、英語の質問での値です。
論文自身も、検索の仕組みは週単位で変わり、順位は3か月以内に入れ替わりうると述べています。傾向を知る材料として読むのが適切です。
Verified Misguidanceの論文は、企業が引用されるための対策を示していますか
示していません。論文はAIの引用の質を測る研究で、発信側の書き換えや施策の効果は検証していません。
論文は、IPAの表を使って自社ページの順位を上げる行為について、リスクは低いと述べています。この表は診断用の道具で、実際の検索システムが使う信号ではないという理由です。
まとめ:今日できる1つのこと
自社に関わる質問を1つ選び、AI検索に聞いて、引用されたページの文章が、本当にそのページに書かれているかを開いて確かめてみてください。
確かめた結果は、日付とあわせて記録しておくと、AIの出典の使い方が変わったときに比べられます。
この論文は、LLMO論文の一覧の一本です。ほかの論文の解説も、順次公開しています。
この記事に書いたことを、そのまま御社のページに
生成AIに引用されるページを、お話しいただくだけでお作りします。お時間をいただくのは初回15分のヒアリングだけです。まず1ページ、無料でお作りします。
OKが出るまで、何度でも直します。事実が違う、言い回しが硬い、この話は入れないでほしい。どれも遠慮なくおっしゃってください。何度お直ししても、追加の料金はいただきません。
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