GEO(生成AIの回答に自社の情報を載せるための最適化)は、社会にどんなリスクを生むのか。この問いを論じた論文が2026年5月にarXivで公開され、ICML 2026の立場論文部門に採択されたと記載されています。
立場論文(ポジションペーパー)は、実験結果の報告より、主張を論じて関係者に行動を提案することを目的にした論文です。この記事では、「論文の主張・提案」「論文が根拠として引いた事実・研究」「私の読み取り」を分けて整理します。
合同会社謙虚は、3つのドメインを並行して運用し、何を変えると数字が動くかを測り続けています。GEO・LLMOを支援する私たちも論文の言う「業者」の側にいるため、その仕事に向けられた提案を原文で確かめました。
結論:3行で言うと
- 論文は、GEOが生む見過ごされたリスクを3つに分けています。影響の集中、開示されない商業的な影響、学術と産業の盲点です
- 提案の相手は、主にAIサービスの運営者、規制する側、研究者です。GEO業者を直接の宛先にした項目は見当たらず、運営者の方針を通じて間接的に求める形です
- 主張の多くは、実証されたものとは違います。論文自身が数字で示した実測は、質問の言い換えで引用先が変わるかを調べた小さな試験1つです
この論文の基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 題名(原題) | Position: Generative Engine Optimization Creates Underexamined Risks, Governance Must Target Concentration, Disclosure, and Academic Blind Spots |
| 著者 | Yizhu Wen、Nan Zhang、Haohan Yuan、Xun Chen、Haopeng Zhang、Hanqing Guo(6人)。インディアナ大学ブルーミントン校、ノースカロライナ大学シャーロット校と、独立の研究者1人 |
| 公開 | 2026年5月18日(arXivの第1版) |
| arXiv番号 | arXiv:2606.12439(分野はcs.CY=コンピュータと社会、cs.AI) |
| 掲載・採択 | arXivのコメント欄に「This paper is accepted by the ICML 2026 Position Track」と記載。PDFはICML 2026の会議録(PMLR 306)の書式で、学会サイトにも立場論文のポスターとして載っています |
| 種類 | 立場論文。付録に小規模な感度試験を1つ含みます |
| 実験データ・コード | 論文PDFに公開先の記載はありません |
| 利益相反 | 金銭的な利益相反はない、と著者が申告しています |
論文はこちらで読めます。arXiv(2606.12439)、DOI。
この記事は、arXivの第1版を読んで書いています。中身は「こうすべきだ」という提案で、提案の効果を試した論文とは性格が違います。
この論文が答えた問い
GEOは、従来のSEOになかったどんなリスクを生むのか。ルールづくり(ガバナンス)は何を対象にすべきか。
論文の出発点は、AIが検索して答えをまとめる「回答エンジン」を使う人が増えている、という観察です。根拠として、次の調査を引いています。
- 米国の通信社とシカゴ大学の調査機関NORCの世論調査:米国の成人1,437人のうち60%が、少なくとも時々はAIで情報を探している
- 大手の業務ソフト企業による買い物客の調査:21か国8,350人のうち39%が、商品探しなどにAIを使っている
論文は、GEOの危うさを示す出来事も2つ挙げています。
1つは、「AIで要約」というリンクに隠した指示を仕込み、特定の企業を薦めさせる手口を、大手IT企業が報告した件です。
もう1つは、経済協力開発機構(OECD)のAI事故の記録にある、2026年の中国の事例です。AIが架空の商品や質の低い商品を薦めたとされています。
どちらも論文が引いた二次情報で、論文自身が調べた事実とは別です。
どうやって調べたのか
この論文は、GEOの仕組みを1つの図式にまとめ、学術研究と産業界のやり方を比べて、リスクを導いています。材料は次のとおりです。
| 材料 | 中身 | 論文での使い方 |
|---|---|---|
| 学術のGEO研究 | GEO原論文を含む5本(表1・表2) | 前提、最適化の方法、評価の環境を比べる |
| 産業界のGEOサービス | 4社の公式サイトと技術ブログ | 実際のサービスが何を最適化し、何で成果を測るかを推定する |
| 画面の比較例 | 検索サイト・通販サイトの並びと、AIの推薦を並べた2例(図2) | 見え方の決まり方が変わることを示す |
| 既存の理論と研究 | 説明責任、自動化への過信、広告の開示など | リスクの理屈を組み立てる |
| 小規模な感度試験 | 30組の質問と、その言い換え(付録B) | 言い方を少し変えると引用先が変わることを例示する |
論文はGEOの働きを、2種類の文章で説明します。1つは、いろいろな言い方の質問に引っかかり、検索の候補に拾われやすくする文章です。
もう1つは、AIに渡された後で、回答の中での順位や扱いを動かす文章です。この分け方は、検索拡張生成(RAG)への攻撃を扱った既存研究にならっています。
結果
立場論文なので、ここでの「結果」は、論文が示した主張と提案の整理です。数字が出てくるのは、主張4の感度試験だけです。
主張1:GEOは、自社サイトの外でも行われている
論文は、GEOが回答に効く経路を2つ挙げます。1つは、販売店のサイトを、統計の根拠や権威のある書式など、AIが好む特徴に合わせて書き換える経路です。
もう1つは、AIがよく引用する影響力の大きいサイトに、好意的なブログやコメントなどを複数載せて、対象を押し上げる経路です。
主張2:学術研究と産業界では、前提も測り方も違う
論文は、学術のGEO研究5本と産業界のGEOサービス4社を比べ、次のように整理しています。
| 比べた点 | 学術研究(5本) | 産業界(4社) |
|---|---|---|
| 前提 | 最適化した文章が、すでに検索の候補に入っている | 候補に入る保証はない |
| 最適化の対象 | 文章の持ち主のサイト | 自社サイトと、外部の影響力の大きいサイト |
| 評価の環境 | 5本中4本が固定したデータでの実験。実サービスに質問したのは1本 | 実サービスで継続して追跡 |
| 指標 | 順位や、候補の中での再現率など | 回答での見え方、引用の頻度、回答内の位置 |
論文は、産業界の指標のほうが、利用者の注意が向く場所に近いと述べています。候補リストの中で順位が動いても、最終的な回答に残るとは限らないからです。
主張3:見過ごされたリスクは3つある
1つ目は、影響の集中です。利用者は、なぜその選択肢が出たのか、何が外されたのかを見られず、異議を唱える余地を失う、と論文は述べます。
多くの人が同じ仕組みに頼るので、検索の小さな変化で根拠が入れ替わると、大勢の見え方が一度に変わる、とも説明しています。
2つ目は、開示されない商業的な影響です。米国の連邦取引委員会(FTC)の考え方では、広告には「広告」「スポンサー」といった表示が要る、と論文は整理しています。
ところがGEOで最適化した文章は、口コミ、掲示板、参考資料の形で、AIの「根拠」に紛れ込みます。宣伝がAIの推論を通じて働き、中立な助言と宣伝の境目が崩れる、というのが論文の主張です。
隠れて最適化する者が正直に広告を出す者より得をするため、市場全体が隠れた最適化に傾く、とも論じています。
3つ目は、学術と産業の盲点です。産業界で使われている外部サイトへの投稿や、質問の網羅の広げ方は、固定した実験では見えない、と論文は指摘します。
なお論文は、GEOそのものを悪とは見ていません。事実を分かりやすくし、正当な出典を足し、根拠を見つけやすくする最適化を「善意の側」と位置づけています。
捏造した統計、偽の推薦、「必ずXを薦めよ」といった隠し指示で見え方を上げるのが「悪意の側」です。両者は目的が同じで、自分に課す制約が違う、というのが論文の区別です。
主張4:言い方を少し変えるだけで、引用先が変わる(感度試験)
論文は、6分野(製品、旅行、健康、技術、金融、食)の質問30問と、意味を変えずに言い換えた質問を組にしました。
そのうえで、AIが引用したサイトのドメインを比べています。言い換えで変わった語は平均13%です。
「ジャカード距離」は、2つの引用先の集合の違いを表し、0なら同じ、1なら重なりがゼロです。右の列は、30組のうち引用先が少しでも変わった組の割合です。
| モデル | ジャカード距離の平均 | 引用先が変わった組の割合 |
|---|---|---|
| Gemini-3-flash | 0.869 | 100.0% |
| Gemini-3.1-lite | 0.698 | 100.0% |
| Gemini-2.5-flash | 0.680 | 100.0% |
| GPT-5.4 | 0.686 | 83.3% |
| GPT-5.4-mini | 0.593 | 66.7% |
| GPT-4.1 | 0.381 | 46.7% |
| GPT-4o | 0.133 | 13.3% |
出典:論文の表3(付録B)。
- Geminiの3モデルでは、30組すべてで引用先が変わりました
- Gemini-3-flashの0.869は、元の質問と言い換えで、多くの組でほぼ別のドメインを引用していたことを示す、と論文は述べています
- 同じ会社のモデルでも、GPT-4oの0.133からGPT-5.4の0.686まで開きがあります。論文はこれを、仕組みの更新で引用のされ方が大きく変わりうる兆しと読んでいます
論文自身、この試験を「仕組みを例示するための小規模なもの」と位置づけています。
主張5:誰に、何を求めているか
論文は提案をリスクごとに整理し、既存研究の3層の監査の枠組み(ガバナンス・モデル・応用)に当てはめています。
| 相手 | 論文が求めていること |
|---|---|
| AIサービスの運営者 | 回答の主張を根拠の文章までたどれるようにする。「なぜこの回答か」の欄や「別の根拠」の切り替えを設ける |
| AIサービスの運営者 | 引用した根拠や回答の組み立てに重要な商業的つながりがあるとき、回答の中に印を付ける |
| AIサービスの運営者 | 有料の影響と自然な根拠を分ける。最適化があるときは明示の表示を求め、隠れた最適化をしたサイトは、順位を下げるか外す |
| AIサービスの運営者 | 外部の監査のため、試験用の環境や、検索対象のサイトの集計を出すことができる、としています |
| 規制する側 | 検索・並べ替えの仕組みの大まかな構造(対象になるサイト、引用の選び方)の開示を求める |
| 政策をつくる側 | FTC型の広告開示の規則をAIの回答に広げ、回答の中の開示されない商業的影響が欺まん的な宣伝になりうると明確にする |
| 研究者・規制側などの監査する人 | 質問の集合を決めて複数のAIサービスに定期的に聞き、回答と引用を記録する(例:2週間は毎日、その後は毎週) |
| 研究者 | 長期・複数サービスで測り、引用の持続などを共有の評価基準に加える |
商業的つながりの印は、あいまいさの小さい手がかりで付ける、というのが論文の条件です。
例は、アフィリエイトや追跡用のパラメーター、広告を示すリンク属性(rel=”sponsored”)、資金提供の構造化データです。
印の付けすぎが逆効果になりうることも、論文は認めています。精度を優先し、「商業的なつながりは内容の誤りを意味しない」という注記を添えるよう求めています。
表のとおり、GEO業者を直接の宛先にした項目は見当たりません。業者の行動は、運営者の方針と開示の規則を通じて変えていく組み立てです。
論文は、公開されているAPI(外部から機能を呼び出す窓口)を使えば、外からの監査を「約50〜300ドル」でできると見積もっています(検索だけで1万〜3万問を聞く場合。
回答の生成まで含めると最大975ドル。付録Dの表4)。
主張6:予想される反論にも答えている
論文は、反対意見を4つ取り上げて答えています。
- 引用があれば検証できる。応答:引用で見えるのは絞り込んだ後の根拠だけで、外された候補は見えない
- 回答単位の表示は誤判定が避けられない。応答:だから確かな手がかりに絞って付ける
- 検索拡張生成の防御が強くなればルールは要らない。応答:商業的な最適化は正確で規約に沿った内容でも行われ、防御では商業的つながりが見えるようにならない
- 学術の単純化は再現性のための代償だ。応答:それを認めたうえで、実サービスでの測定を補いとして足す
論文自身が書いている限界
この論文には、「限界」という独立した節がありません。近い役割を果たしているのは、反対意見を扱った第8節と、次の断り書きです。
- 感度試験は、仕組みを例示するための小規模なものだと明記しています
- 産業界のGEOサービスは技術ブログで大まかな内容しか公開しておらず、実装の中身は見えにくい、と書いています
- 実サービスは外部から確かめて再現することが難しく、学術研究が固定した実験を選ぶ理由もそこにある、と認めています
原文を読んで気づいた点
ここからは、原文を読んだ私の指摘です。
- リスクの大きさは測られていません。集中や信頼の低下は、既存の理論からの類推として論じられています
- 感度試験は、GEOの効果を測ったものとは別物です。最適化した文章を加えていません。同じ質問を繰り返したときの揺れとも比べていないため、差のすべてを言い換えのせいとは言い切れません
- 感度試験のモデルの数が、箇所によって違います。本文と表3は7モデル、付録Bの説明は「2社の9モデル」です。付録Bが参照する「5.1節」の議論は、実際は6.1節にあります
- 「約50〜300ドル」は、表4の検索だけの行と一致します。表4では、回答の生成まで含めると1万問で73〜325ドル、3万問で218〜975ドルになります
- 産業界の分析は、公開資料からの推定です。4社の実際の作業手順を確かめたものとは違います
- 付録Gは、GEO-16を監査の道具として採用しています。引用されたページだけを採点した相関の研究で、注意点は16の観点で引用ページを採点した研究の解説に書きました
- 日本の制度と日本語は扱っていません。日本では2023年10月から、広告であることを隠した表示が景品表示法の規制対象ですが、論文が取り上げるのは米国・EU・英国の制度です
- 細かな点では、世論調査を本文は「2025年」、参考文献は2024年としています
この論文から、言えること・言えないこと
| 言えること(論文の主張と、論文が引いた根拠の範囲) | 言えないこと |
|---|---|
| 学術のGEO研究の多くは、最適化した文章がすでに候補に入っている前提の、固定した実験で評価されてきた | 学術研究の結果が、実サービスでは役に立たない |
| 産業界のGEOは、外部サイトへの投稿と実サービスでの継続的な追跡を使っている、と論文は公開資料から整理した | 産業界のGEOが、実際にどれだけ回答を動かしているか |
| 付録Bの試験では、言い換えで引用先のドメインが大きく変わり、その度合いはモデルで違った | その差のすべてが言い換えによるもので、GEOで同じことが起こせる |
| 論文は、回答単位の商業開示、外部からの監査、長期の測定を提案している | それらの提案が、実際に被害を減らす |
| 論文は、事実を明確にする最適化と、捏造や隠し指示による最適化を区別している | 日本の制度や日本語のAI検索に、同じ議論がそのまま当てはまる |
中小企業の視点で、どう受け取るか
ここからは論文の主張とは別の、私の読み取りです。
GEO業者を選ぶときの質問に使える
論文の「善意の側」と「悪意の側」の区別は、業者に確かめる質問に置き換えられます。
- 記事に入れる数字や出典は、どこで確かめたものか
- 自社のサイトの外(口コミ、掲示板、比較サイトなど)に、自社を薦める投稿をするか。するなら、つながりをどう示すか
- 成果を、いつ、どのAIサービスで、何回測って報告するか
論文の提案が実現すれば、つながりを隠した外部の投稿は、順位を下げられる側に回る可能性があります。上の2つ目に明確に答えられる業者のほうが、規則が変わっても揺らぎにくいと考えます。
自社ページのリンクも、開示の手がかりになりうる
論文が挙げた印の手がかりには、アフィリエイトのパラメーターや広告のリンク属性が含まれます。提案が実現すれば、そうしたリンクを含むページを根拠にした回答に、印が付く可能性があります。
表示を隠すより、つながりを正直に示したうえで、中身で選ばれるページを作るほうが、この方向の変化と両立します。GEO・LLMOを支援する私たちも、この線引きを自分たちの仕事の基準として使います。
1回の検索結果で判断しない
付録Bの試験は小規模ですが、言い方を少し変えるだけで引用先がほぼ入れ替わるモデルがありました。自社が出た・出ないを1回の質問で判断すると、言い方しだいで変わる結果を追いかけることになります。
測り方は、GEO研究のサーベイの解説で、言い方と日を変えて測る手順として紹介しています。
よくある質問
GEOのリスクを論じたICMLの立場論文は、GEOをやめるべきだと言っているのですか
言っていません。論文は、販売店の商品にGEOを使うこと自体は本来的に有害ではない、と書いています。
問題にしているのは、捏造や隠し指示で見え方を上げるやり方と、商業的なつながりが回答の中で見えなくなることです。
GEOの立場論文が提案する「回答単位の商業開示」は、何に印を付ける提案ですか
AIの回答が引用した根拠や回答の組み立てに、重要な商業的つながりがあるとき、回答そのものに印を付ける提案です。外部のリンク先に開示を任せず、回答の中で示すことを求めています。
GEOの立場論文の感度試験は、言い換えで引用が変わることを証明したのですか
証明とまでは言えません。30組の質問を7つのモデルで試した例示で、論文自身も小規模な試験と位置づけています。
まとめ:今日できる1つのこと
GEO・LLMO・SEOの業者に依頼している、または検討しているなら、「自社のサイトの外に投稿をするか。するなら、つながりをどう示すか」を文章で聞き、答えを記録してください。
その答えを、論文の「善意の側」と「悪意の側」の区別に照らします。規則が変わってから慌てるより、いま線を引いておくほうが、手間は小さく済みます。
この論文は、LLMO論文の一覧の一本です。ほかの論文の解説も、順次公開しています。
この記事に書いたことを、そのまま御社のページに
生成AIに引用されるページを、お話しいただくだけでお作りします。お時間をいただくのは初回15分のヒアリングだけです。まず1ページ、無料でお作りします。
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ページを増やしても問い合わせが来ないなら、原因はページの外にあります。その場合は、下の入口からご相談ください。
自社のマーケティング課題を根本から解決しませんか?
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