店名の候補を紙に書き並べて、どれも決め手に欠けて、また白紙に戻る。
開業の準備をしている人にも、店名を変えたいと考えている人にも、この足踏みは起こります。
この記事は、これから店を開く人と、いまの店名を見直したい小さな店の店主に向けて書いています。
飲食店、美容室、整体院、雑貨店、工房のように、お客さんと顔を合わせる店を思い浮かべています。
店名の決め方を扱う記事を読むと、コンセプトを固める、覚えやすくする、商標を確かめる、という話が並んでいることが多いです。
どれも大切です。
ただ、この記事では、決める順番を少し変えます。
先に考えるのは、その名前を検索窓に打ち込んだとき、自分の店だけが出てくるかどうかです。
次に考えるのは、お客さんがその名前を口で友人に伝えたとき、相手が迷わず検索できるかどうかです。
看板に映える名前かどうかは、その後でかまいません。
お客さんが店を知る入口は、いまや看板より先に、画面の中の検索結果と、人から聞いた一言になっているからです。
店名は、看板に書く前に、検索窓と口の上で働き始めます。 この前提で候補を選ぶと、迷いが減ります。
読み終えたときに、手元の候補が2つか3つに絞れていて、次に調べる場所が決まっている。それがこの記事のゴールです。
Q&Aサイトで見かけた、店名が決まらない開業予定の相談
先日、Q&Aサイトでこのような切実な悩みを拝見しました。
美容室を開業する予定の方が、店名が決まらないと書き込んでいた質問です。
投稿されたのはずいぶん前ですが、悩みの形は今も変わっていません。
投稿者は、候補すら出てこない状態だった
質問の内容は、短く率直なものでした。
もうすぐ美容室を開業するのに、店名の候補すら挙がらない。
何を参考にして決めればよいのか、いい決め方を教えてほしい、という相談です。
候補が出ないという悩みは、実は珍しくありません。
店名は、決めたあとに看板、名刺、ホームページ、予約の画面へと広がっていくので、ひとつ決めるたびに責任が重くなるからです。
軽く考えられる人ほど早く決まり、真剣に考える人ほど手が止まります。
回答は、イメージ、辞書、他店のリサーチに分かれた
寄せられた回答は、大きく3つの方向に分かれていました。
ひとつ目は、どんな美容室にしたいかを先に決め、そのイメージから連想できる言葉を選ぶという助言です。
近所の美容室を見て、他の店が出していないイメージを選ぶとよい、という付け足しもありました。
ふたつ目は、辞書を引いて気に入った言葉を探す方法です。
使う言語を先に決めて、辞書の最初のページから順にめくり、語呂がよくて意味のある単語を探した、という体験談も添えられていました。
3つ目は、他の地域の美容院の名前を調べ、気に入ったものを参考にする方法です。
あわせて、店名の由来や意味はお客さんによく聞かれるので、自分で考えた名前のほうが話しやすい、という声もありました。
回答から抜けていたのは、検索窓と口伝えの視点だった
どの回答も、店のイメージと店主の思い入れを大切にした、まっとうな助言です。
ただ、質問に答えた人たちの視点は、ほとんどが店の内側に向いていました。
名前を検索窓に打つと何が出るのか。
お客さんが友人にその名前を口で伝えたら、正しい綴りで検索してもらえるのか。
この2点は、回答のどこにも出てきませんでした。
2010年ごろの投稿なので、当時の事情はあります。
今はほとんどの人が、店を知ったあと、まず画面で調べます。
だから、店名を考えるときの出発点も、変わってよいはずです。
回答の助言は捨てずに、検索窓の視点を足す
イメージから言葉を選ぶ、辞書で探す、他の地域の店を参考にする。
これらの助言は、候補を増やす段階では十分に役立ちます。
足りないのは、増えた候補を絞る段階の物差しです。
候補が10個あっても、検索窓に打てば、その日のうちに半分は落とせます。
落とした理由が目に見えると、残った候補を好みで選んでも後悔しにくくなります。
つまり、この記事は回答を否定するものではありません。
回答が出し切った候補を、検索と口頭で絞り込むための後半戦を書いています。
店名が決まらないのは、決める順番が合っていないから
店名が決まらない原因は、発想力の不足ではありません。
多くの場合、判断の基準が最初に置かれていないことが原因です。
基準がないまま候補を出すと、好みの言い合いになります。
好みは人によって違うので、家族に聞くほど決まらなくなります。
好みで選ぶと、決め手がなくなる
響きが好き、意味が気に入った、おしゃれに見える。
こうした理由は、どれも店主の気持ちとしては本物です。
けれど、お客さんがその名前でたどり着けるかどうかは、好みとは別の話です。
好みで選んだ候補を3つ並べても、優劣がつかないのは当然です。
比べるための物差しが、そこに無いからです。
店名には、3つの働きがある
特許庁は、商標について「もの言わぬセールスマン」と表現されることがあると説明しています。
商品やサービスの顔として、お客さんの前で働き続けるという意味です。
店名にもそのまま当てはまります。
小さな店の店名には、具体的に3つの働きがあります。
| 店名の働き | お客さんの動き | 名前に求められること |
|---|---|---|
| 見つけてもらう | 地図や検索で店を探す | 打ち込んだとき、自分の店だけが出てくる |
| 伝えてもらう | 友人に口で店を紹介する | 聞いた人が綴りを迷わない |
| 信用をためる | 通うたびに名前を覚える | 長く変えずに使い続けられる |
3つの働きは、どれも店の外で起きます。
店主が店の中でどれだけ名前に思いを込めても、働きの結果は、お客さんの画面と口の上で決まります。
小さな店は広告に使える手が限られているので、名前そのものが広告の役割を引き受ける場面が多くなります。
3つの働きのうち、いちばん先に試されるのは、見つけてもらう働きです。
名前が見つからなければ、あとの2つは始まりません。
3つの働きを、決める順番に置き換える
見つけてもらう働きは、検索で確かめられます。
伝えてもらう働きは、口に出して確かめられます。
信用をためる働きは、他人に先に取られていないか、制度の面から確かめられます。
つまり、好みで悩む前に、機械的に確かめられることが3つあるのです。
この3つを先に通した候補だけを、好みで選ぶ。
順番を入れ替えるだけで、迷う時間はぐっと短くなります。
看板を発注する前に、関門を通すと直しが利く
関門に落ちる候補は、決めた直後に見つかるほど、直す費用がかかりません。
看板、メニュー、名刺、予約の画面に名前が入ってしまってから気づくと、全部をやり直すことになります。
反対に、紙の上の段階なら、消しゴム1つで済みます。
開業の準備は、物件、内装、仕入れ、届け出と、やることが一気に押し寄せます。
その中で店名は後回しにされやすく、締め切りに追われて決めてしまう人もいます。
だからこそ、4つの関門を先に通しておくと、締め切り間際でも落ち着いて選べます。
店名を決める前に通す、4つの関門
ここまでの話を、候補を通す4つの関門にまとめます。
候補をひとつずつ、上から順に通してください。
落ちた候補は、そこで外します。
4つの関門は、検索、口頭、登録、掲示の順
検索の関門では、名前を打ち込んで、自分の店だけが出るかを見ます。
口頭の関門では、口で伝えて、相手が迷わず検索できるかを見ます。
登録の関門では、商標や商号の面で、他人とぶつからないかを調べます。
掲示の関門では、看板、地図、SNS、ホームページで同じ表記を揃えられるかを確かめます。
| 関門 | 確かめること | 道具 | 落ちる例 |
|---|---|---|---|
| 検索 | 打つと自分の店だけが出るか | 検索窓 | 同じ名前の店が上位に並ぶ |
| 口頭 | 口で伝えて綴りが迷われないか | 家族や友人 | ひらがなか漢字か聞き返される |
| 登録 | 他人の商標や商号とぶつからないか | 特許庁の検索 | 先に登録した人がいる |
| 掲示 | 看板と地図と画面で表記が揃うか | 各サービスの規則 | 地図の規則に合わず直される |
候補の用紙は、先に1枚だけ作っておく
関門に通す前に、A4の紙を1枚用意してください。
左の列に候補の名前を書き、右に向かって、検索、口頭、登録、掲示の4つの列を引きます。
各列に、通ったら丸、迷ったら三角、落ちたらバツを書き込むだけです。
候補を10個書いても、紙は1枚で足ります。
あとで見返したとき、なぜその名前を外したのかが残っているので、同じ候補を何度も検討し直さずに済みます。
家族や共同経営者と相談するときも、この紙を見せれば、好みの言い合いにならずに話が進みます。
店名を変えたい人も、同じ4つを通せばよい
すでに営業している店でも、手順は同じです。
いまの店名を、4つの関門に通してみてください。
どこで引っかかるかが分かれば、変えるべきか、そのまま使うかの判断が楽になります。
名前を変えると、お客さんの記憶と検索結果をやり直すことになるので、変える前に確かめる価値があります。
この点は、後ろの章で詳しく書きます。
次の章から、関門をひとつずつ見ていきます。
最初は、いちばん手軽で、いちばん結果が出やすい、検索の関門からです。
検索の関門は、打ち込んだ結果に自分の店だけが出るかを見る
最初の関門は、いちばん手軽です。
候補の名前を、そのまま検索窓に打ち込んでみます。
準備も道具も要らず、数分で結果が出ます。
検索結果の1ページ目に何が並ぶかを見る
名前だけを打ち込んだとき、1ページ目に並ぶものを順に眺めます。
同じ名前の店、似た名前の店、まったく別の業種の会社や施設、一般的な言葉の説明ページ。
こうしたものが並ぶ名前は、お客さんが調べても、自分の店にたどり着きにくい名前です。
店名を打ったのに、別の誰かのことが書かれた画面が出てくる。
この状態は、お客さんにとって小さな迷子です。
迷子になった人は、たいてい戻って別の店を選びます。
地名や業種をつけて打つと、実際の探され方に近づく
お客さんは、店名だけで探すとは限りません。
初めての店は、「地名と業種」で探すことのほうが多いはずです。
そこで、候補の名前に地名をつけて打ち、さらに業種をつけて打ってみてください。
打ち方を変えると、同じ名前の店が地域に潜んでいないか、見えやすくなります。
| 打ち方 | 例の形 | 見るところ |
|---|---|---|
| 店名だけ | 候補の名前 | 同名の店が上位にいないか |
| 店名と地名 | 候補の名前と市の名前 | 近くに同じ名前の店がないか |
| 店名と業種 | 候補の名前と美容室など | 同業で似た名前がないか |
| 地名と業種だけ | 市の名前と美容室など | 自分の店が出るなら、どの位置か |
最後の「地名と業種だけ」は、店名を決める前の下見になります。
上位に並ぶ店の名前の付け方を見ておくと、地域の中で似た名前を避けやすくなります。
一般的な言葉の店名は、検索で埋もれやすい
「ひまわり」「ことり」「えがお」のように、日常でよく使う言葉は、親しみやすい一方で、検索結果が混み合います。
植物や動物の説明、歌の題名、他の業種の店名が、同じ画面に並ぶからです。
こうした名前を選ぶ場合は、後ろに業種や固有の語を足して、名前の長さで区別をつける方法があります。
たとえば、一般的な言葉の後ろに、店主の名前や店のある町の名前を添える形です。
名前の一部が固有であれば、検索結果で自分の店が見つかりやすくなります。
自分の店だけが出る名前は、造語や固有の組み合わせに多い
反対に、検索窓に打っても他の何かが出てこない名前は、造語や、聞き慣れない組み合わせに多く見られます。
自分の店だけが出る状態は、お客さんが一回の検索でたどり着ける状態です。
ただし、造語は読み方が伝わりにくい弱点もあります。
次の章で見る口頭の関門と、ここで見る検索の関門は、引っ張り合う関係にあります。
どちらかだけを満点にしようとせず、両方で及第点を取る名前を探すのが、現実的です。
地図の検索では、近くにある同名の店が先に出る
スマートフォンの地図で店を探す人は、今いる場所の近くから結果を見ます。
そのため、遠くの有名な店よりも、近所の同じ名前の店のほうが、先に表示されます。
自分の店がある町の近くに、同じ名前や似た名前の店があると、お客さんが間違えて入る、予約を取り違える、といった行き違いが起きます。
候補の名前は、検索窓だけでなく、地図の画面でも打ち込んで確かめてください。
地図に出てきた周辺の店のうち、同じ業種で名前が近いものに、印をつけておきます。
その印の数が多い名前は、開業後も小さな行き違いが続きやすい名前です。
検索の下見は、候補が増えるたびに繰り返す
検索の関門は、一度通ったら終わりではありません。
候補を新しく思いついたら、そのたびに打ち込んで確かめます。
数分で済む作業なので、面倒がらずに続けてください。
確かめた日付をメモしておくと、後で見返したとき、いつの時点の結果か分かります。
検索結果は日々変わるので、決める直前にもう一度だけ打ち込んでおくと安心です。
口頭の関門は、口で伝えて相手が迷わず検索できるかを見る
2つ目の関門は、声に出して確かめる関門です。
小さな店の集客は、今も口コミに支えられています。
口コミは、耳から入った名前を、聞いた人が検索窓に打つことで完成します。
口コミは、耳から検索窓へ渡っていく
友人から「今度、あの店に行ってみて」と言われたとき、聞いた人はその場でメモを取るとは限りません。
帰りの電車で、記憶の中の音を頼りに、検索窓へ打ち込みます。
このとき、聞いた音から綴りが決まらない名前は、そこで道が途切れます。
どれだけ良い店でも、検索窓にたどり着けなければ、口コミは来店に変わりません。
同じ音でも、表記が揺れると検索がずれる
日本語の店名は、同じ音でも、ひらがな、カタカナ、漢字、ローマ字の4通りに書けます。
「さくら」は、桜とも、サクラとも、ローマ字の綴りとも書けます。
聞いた人は、どれで打てばよいのか分かりません。
検索エンジンはある程度ゆれを吸収してくれますが、完全ではありません。
地図の画面や予約の画面では、さらにゆれが響きます。
表記がひとつに決まりにくい名前ほど、口頭の関門で苦戦します。
聞き返される名前は、電話でも苦労する
電話で予約を受ける店では、口頭の関門がそのまま営業に響きます。
「店名をもう一度お願いします」と聞き返される名前は、お客さんにも店側にも、小さな負担を積み重ねます。
読みにくい漢字、長すぎるカタカナの並び、似た音が続く名前は、この負担が出やすいです。
| 名前のタイプ | 口で伝えやすさ | 検索での出やすさ | 注意すること |
|---|---|---|---|
| 短い日常語 | 伝えやすい | 他と混ざりやすい | 後ろに固有の語を足す |
| 店主の名前 | 伝えやすい | 同姓同名と混ざる | 読み方を一つに決める |
| 造語 | 読み方が揺れる | 自分の店だけが出る | 読みを必ず添える |
| 難しい漢字 | 伝わりにくい | 打ち込みにくい | ひらがなを併記する |
| 外国語の単語 | 発音が揺れる | 打ち間違いやすい | 綴りと読みを必ず確認する |
| 長い名前 | 覚えにくい | 途中で切れやすい | 略称を先に決めておく |
口頭の確かめ方は、家族に電話で伝える
確かめ方は簡単です。
家族か友人に電話をかけ、候補の名前を口で伝えます。
そのあと、聞いた相手に、検索窓に打ち込んでもらいます。
相手が何を打ったかを教えてもらうと、ゆれの出方が分かります。
3人に試して、3人とも同じ表記で打てた名前は、口頭の関門を通ったと考えてよいでしょう。
ひとりでも違う打ち方をした名前は、表記の案内を決めておく必要があります。
略称で呼ばれる名前も、先に決めておく
長い店名は、お客さんの口の中で、自然に短くなっていきます。
「ヘアサロン何々」が、いつのまにか「何々さん」と呼ばれる、といった変化です。
この短くなった呼び名が、検索窓に打たれる語になることもあります。
店側が先に、略称を決めて案内しておくと、お客さんの呼び名と検索の語が揃います。
案内の仕方は、ホームページの冒頭や、名刺の小さな一行で足ります。
口コミは、店が決めた呼び名に寄っていく性質があります。
声に出して気持ちよいかは、店主自身の関門でもある
もう一つ、見落とされやすい確認があります。
店主が毎日、電話口で、店名を何十回も口にするという点です。
言いにくい名前や、舌を噛みやすい名前は、店主の負担になります。
電話に出るたび、「ありがとうございます、何々です」と言い続けて、気持ちよく言える名前かどうかを、自分の口で確かめてください。
候補を10個から3つに絞る手順
関門の考え方が分かったところで、実際に候補を絞る手順を書きます。
用意するのは、前の章で作った紙1枚と、30分ほどの時間です。
まず、候補を10個、好みで出す
最初の段階では、好みで出してかまいません。
響きがよいもの、意味を込めたもの、店の雰囲気に合うもの。
質問のなかで寄せられていた、イメージから言葉を連想する方法や、辞書を引く方法が、ここで役立ちます。
出し切るまで、評価は後に回します。
次に、検索と口頭の2つで、半分以上を落とす
10個の候補を、検索の関門と口頭の関門に通します。
早い段階で落とすと、あとの手間が減ります。
検索で他の店と重なる名前、口で伝えると表記が揺れる名前は、ここで外します。
多くの場合、半分以上がここで落ちます。
残るのは、3つか4つです。
最後に、好みで1つを選ぶ前に、登録と掲示を通す
残った候補を、登録の関門と掲示の関門にも通します。
この2つは、次の章以降で詳しく書きます。
通った候補が2つか3つ残れば、そこからは好みで選んでかまいません。
物差しを通ったあとの好みは、後悔しにくい好みです。
| 段階 | 候補の数 | やること | 落とす基準 |
|---|---|---|---|
| 出す | 10個 | 好みで自由に書く | 落とさない |
| 検索と口頭 | 10個から4個前後 | 検索窓と電話で試す | 他の店と重なる、表記が揺れる |
| 登録と掲示 | 4個から2個前後 | 制度と各サービスの規則で調べる | 先に登録がある、規則に合わない |
| 選ぶ | 2個から1個 | 好みと家族の意見で決める | 迷ったら、より短いほう |
迷ったときは、短いほうを選ぶ
表の最後の行にある通り、最後に迷ったら、短いほうを選んでください。
短い名前は、口で言いやすく、聞き返されにくく、看板や名刺でも読みやすいからです。
画面の小さなスマートフォンでは、長い名前は途中で切れて表示されることもあります。
切れた名前は、お客さんに別の店と見間違えられる原因にもなります。
意味を込めたい気持ちが強いときは、名前を長くせず、由来を別の場所に書く手があります。
店の紹介ページの冒頭に、名前の由来を一行だけ置けば、お客さんに聞かれたときの答えにもなります。
登録の関門は、先に他人が権利を持っていないかを調べる
3つ目の関門は、制度の面から確かめる関門です。
検索や口頭の関門を通った名前でも、他人が先に権利を持っていれば、あとから困ることがあります。
この章では、特許庁が公表している商標制度の説明を中心に、小さな店が知っておくとよい範囲だけを書きます。
制度の細かな判断は、ケースごとに変わります。
最終的な判断は、特許庁の窓口や弁理士などの専門家に確かめてください。
商標は、店の名前を他の店と区別する目印
特許庁の説明では、商標とは「事業者が、自己(自社)の取り扱う商品・サービスを他人(他社)のものと区別するために使用するマーク(識別標識)」です。
商品やサービスに付けるマークと並んで、ネーミングも商標に含まれると書かれています。
店の名前は、まさにこのネーミングにあたります。
そして特許庁は、事業者が営業努力で積み重ねたお客さんの信用が、商標に「信頼がおける」「安心して買える」というイメージを付けていくと説明しています。
つまり、店名はお客さんの信用をためる器です。
その器を他人に取られると、積み重ねた信用ごと持っていかれる恐れがあります。
登録していなくても使えるが、先に登録した人がいると危うい
特許庁の概要ページには、次の趣旨の注意書きがあります。
商標登録を受けないまま使っていて、先に他社が同じような商標の登録を受けていれば、その他社の商標権の侵害にあたる可能性がある。
また、先に使っていたとしても、自社の商品やサービスを表すものとして広く知られているという事情がなければ、侵害にあたる可能性がある。
小さな店で、まだ広く知られていない段階だと、後から出てきた登録者のほうが強い立場になる場面があり得ます。
だからこそ、決める前に調べておく意味があります。
日本では、先に出願した人に登録が認められる
特許庁は、同一または類似の商標の出願があった場合、その商標を先に使用していたか否かにかかわらず、先に出願した者に登録を認める「先願主義」という考え方を採っていると説明しています。
決め手は出願した順で、使い始めた順は関係しません。
開業が決まった時点で、まだ使い始めていなくても、他人が先に出願している名前なら、あとから使うのは危ういということになります。
| 場面 | 特許庁の説明から読み取れること | 小さな店の受け止め方 |
|---|---|---|
| 登録せずに使う | 先に他人が登録していれば侵害の可能性がある | 使い始める前に調べておく |
| 先に使っていた | 広く知られていなければ、侵害の可能性がある | 使った実績だけに頼らない |
| 同じ名前の出願が重なる | 先に出願した人に登録が認められる | 気に入った名前は早めに動く |
| 登録された後 | 権利者は差し止めや損害賠償を求められる | 看板や書類を作る前に確かめる |
商標は、名前と商品やサービスの組み合わせで範囲が決まる
特許庁によると、商標権は、マークと、そのマークを使う商品やサービスの組合せで一つの権利になっています。
出願のときは、商品やサービスを指定して、さらに「区分」を書きます。
区分は、商品やサービスを一定の基準で分けたもので、第1類から第45類まであります。
ここで押さえておきたいのは、同じ名前でも、別の分野で使うなら登録できる場合がある、という点です。
ただし、特許庁は、区分は類似関係を定めたものではない、とも書いています。
類似かどうかは、別に定められた審査基準を見て判断されます。
特許庁の例では、「テルライト」というデジタルカメラの登録商標がある場合、「テレライト」というビデオカメラの商標は登録できないとされています。
1文字違いでも、似ていると判断される実例です。
調べるときは、特許情報プラットフォームを使う
商標の登録状況は、特許庁が運営する特許情報プラットフォーム、J-PlatPatで調べられます。
候補の名前を入力して、同じ名前や似た名前が登録されていないかを見ます。
見るときは、名前そのものだけでなく、自分の店の業種に近い商品やサービスで登録されたものがあるかに注目してください。
美容室なら美容に関わる分野、飲食店なら飲食物の提供に関わる分野が、まず見るところです。
結果の読み方に迷ったら、ここで自己判断を重ねず、窓口や専門家に聞くのが安全です。
登録できない名前の型を知っておく
店名を考えるとき、検索のしやすさを優先して、ごく一般的な言葉を選ぶ人がいます。
その選び方は、検索には強くても、登録の面では弱くなります。
特許庁が公表している、登録を受けられない商標の類型を見てみます。
地名と業種だけでできた名前は、独占しにくい
特許庁の説明には、役務の提供の場所を普通に表示するだけの商標は登録できない、という類型があります。
例として、指定役務が「飲食物の提供」のときに、「東京銀座」を出願しても登録できないと書かれています。
「銀座の飲食店」という意味にしかならないので、誰の店かを区別できないからです。
地名に業種を足しただけの店名も、同じ理屈で、独占するのが難しくなります。
ありふれた名字だけの名前も、登録は難しい
同じく特許庁の説明に、ありふれた氏や名称だけの商標は登録できない、という類型があります。
例として、「山田」「スズキ」「田中屋」「佐藤商店」が挙げられています。
名字に屋や商店をつけただけの名前も、ありふれた名称にあたります。
店主の名字を店名にする方法は多くの店が使いますが、独占の面では弱くなる点を知っておきましょう。
文字数が極端に少ない名前も、登録は難しい
もうひとつ、極めて簡単でありふれた標章も、登録できない類型に入っています。
特許庁が例に挙げているのは、仮名文字の1字、数字、ローマ字の1字または2字などです。
短い名前は口で伝えやすい長所がありますが、短すぎると、登録の面では不利になります。
| 登録を受けにくい型 | 特許庁が挙げる例 | 店名で気をつけること |
|---|---|---|
| 提供場所だけを示す | 飲食物の提供に「東京銀座」 | 地名と業種だけの名前は避ける |
| ありふれた氏や名称 | 山田、スズキ、田中屋、佐藤商店 | 名字だけの名前に一語足す |
| 簡単でありふれた標章 | 仮名1字、ローマ字の1字か2字 | 短すぎる名前は避ける |
| 商品やサービスの普通名称 | 一般的な呼び名そのもの | 業種名そのものを店名にしない |
登録できないことと、使えないことは別の話
ここは誤解しやすいので、はっきり分けて書きます。
登録を受けにくい名前でも、名前として使うこと自体が禁止されるわけではありません。
ただし、使えるのに独占はできない、という状態になります。
近所に同じ型の名前の店が現れても、止める手段が弱くなります。
その状態でよいかどうかを、候補ごとに考えておいてください。
会社の商号と個人の屋号は、別の確認先がある
商標と並んで、法人の場合は商号の確認も必要です。
個人事業の屋号は、確認の仕方がまた異なります。
会社の商号は、法務局の登記で同じ名前と所在地が止められる
法務省の案内によると、すでに登記されている会社と、商号と本店の所在場所がどちらも同じ内容の登記は、できません。
つまり、同じ場所で、同じ名前の会社は作れません。
一方で、旧来あった類似商号の規制は、会社法の施行で廃止されたと、法務省のQ&Aで説明されています。
所在地が違えば、似た名前でも登記はできます。
ただし、不正の目的で他の会社と誤認させる名称を使うことは、会社法第8条で禁止されています。
登記ができたかどうかと、商標の面で問題がないかどうかは、別々に確かめる必要があります。
商号の調べ方は、オンラインで済む
法務省は、オンライン登記情報検索サービスを使った商号調査の方法を案内しています。
商号と所在地で検索して、同じ組み合わせが無いかを確かめます。
法人で店を始める場合は、定款を作る前にこの調査を済ませておくと、やり直しを避けられます。
個人の屋号は、制度では止められないので、自分で探す
個人で店を始める場合の屋号は、会社の商号のような登記の関門で止まる仕組みが、あまり働きません。
制度が止めてくれない分、近くに同じ屋号の店がないかは、自分で探さなければなりません。
その意味で、検索の関門は、個人の店ほど重くなります。
| 確認先 | 向いている人 | 確かめられること |
|---|---|---|
| 検索窓と地図 | 全員 | お客さんから見て、紛らわしい店がないか |
| 特許情報プラットフォーム | 全員 | 他人の商標登録と、似た名前がないか |
| 法務省のオンライン登記情報検索 | 会社で開業する人 | 同じ商号と本店の組み合わせがないか |
| 窓口や弁理士 | 判断に迷った人 | 似ているかどうかの専門的な見立て |
検索で出る名前と、登録しやすい名前は引っ張り合う
ここまでの関門を並べると、気づくことがあります。
検索で目立つ名前と、登録しやすい名前は、方向が逆になりやすいのです。
地名と業種を並べた名前は、検索には強く登録には弱い
「何々市の美容室」のような名前は、お客さんが打つ言葉にそのまま近いので、検索で見つけてもらいやすいです。
一方で、前の章で見た通り、独占しにくい名前でもあります。
しかも、同じ型の店名が増えるほど、検索結果の中で区別がつかなくなります。
検索に強いからと選んだ名前が、のちに紛らわしさを生むことがあります。
固有の語に業種をそえる形が、現実的な落としどころ
落としどころとして多いのは、固有の語を店名の中心に置き、業種をそえる形です。
たとえば、独自の語と「美容室」を並べた名前です。
固有の語が検索結果での区別を生み、業種の語がお客さんの理解を助けます。
登録の面でも、中心が固有の語であれば、有利になりやすいです。
登録するかどうかは、店の将来の見通しで決める
商標の登録は、義務ではありません。
特許庁によると、商標権の存続期間は設定登録の日から10年で、更新を重ねて続けられます。
支店を出す予定がある、通信販売を考えている、店名を看板商品にしたい。
こうした見通しがあるなら、登録を検討する理由は強くなります。
一方で、一つの町で小さく長く続けたい店なら、調査だけして使い始める、という判断もあります。
どちらを選ぶかは、見通しと、専門家の意見を聞いたうえで決めてください。
掲示の関門は、看板と地図と画面で同じ表記を揃えられるかを見る
4つ目の関門は、名前を実際に掲げる場所で、表記を揃えられるかの確認です。
店名は、看板だけに載るわけではありません。
地図、予約の画面、SNS、ホームページ、名刺、領収書と、同じ名前が何か所にも載ります。
どこかで表記がずれると、お客さんは同じ店だと気づけなくなります。
地図に載せる名前には、Googleの規則がある
地図の検索結果で店を見つけてもらうには、Googleのビジネス プロフィールに店を登録する方法があります。
このときの名前の付け方に、Googleのヘルプページが規則を設けています。
ヘルプページには、使う名前は「店舗、ウェブサイト、ビジネスレターなどで一貫して使用し、顧客に認知されている、実際のビジネスの名称」とあります。
さらに、同じページに次の記述があります。
「ビジネス名に不要な情報を含めることはできません。含めると、ビジネス プロフィールが停止される場合があります。」
つまり、地図に載せる名前は、看板や書類で実際に使っている名前に合わせなければなりません。
地図の画面で、認められない足し方が例示されている
ヘルプページは、名前に追加できない情報の例も並べています。
マーケティングのキャッチコピー、営業時間、電話番号やウェブサイトのURL、サービスや商品の情報、所在地や出店先の補足などです。
同じ名称を2つの言語や文字で並べることも、実店舗の看板がそうなっていても認められない、と書かれています。
一方で、住所、営業時間、カテゴリといった情報は、名前とは別の欄に入れる決まりです。
つまり、業種や特徴は、名前そのものに入れず、別の欄で伝える作りになっています。
| 名前に足したいもの | 地図の規則での扱い | 置く場所の考え方 |
|---|---|---|
| キャッチコピー | 名前には含められない | ホームページの冒頭に置く |
| 営業時間 | 名前には含められない | 営業時間の欄に入れる |
| 電話番号やURL | 名前には含められない | 連絡先の欄に入れる |
| サービスや商品の説明 | 名前には含められない | カテゴリや説明の欄に入れる |
| 駅前などの所在地の補足 | 名前には含められない | 住所の欄に入れる |
| カタカナと英字の併記 | 認められない | どちらか一方に決める |
検索に強くしたくても、名前にキーワードを詰めるのは危うい
検索で見つけてもらうために、名前の後ろに業種や地名を足したくなる気持ちは自然です。
けれど、実際の看板にない言葉を足した名前は、規則に反すると判断される恐れがあります。
停止された場合、地図に店が出なくなる影響は小さくありません。
業種を伝えたいなら、名前の後ろに足す前に、カテゴリの欄を正しく選ぶ。
店の特徴は、説明の欄に書く。
役割を分けると、規則に沿いながら、検索で店の中身を伝えられます。
店名の一部に地名を入れるのは、規則の例にも出てくる
ヘルプページには、所在地の補足は認められない例として「神田駅前の」を付けたスポーツジムが挙がっています。
その一方で、可能な形の例には、名前の一部として「神田」を含んだジムの名前が載っています。
つまり、看板に実際に書いている正式な名前の一部としての地名は、問題になりにくいと読めます。
最終的な判断は、そのときのヘルプページの記述に従ってください。
看板、名刺、予約の画面は、同じ表記に揃える
地図だけでなく、あらゆる場所で表記を揃える意識が必要です。
ひらがなで始めたのに、領収書だけ漢字になっている。
看板には中点が入っているのに、ホームページには入っていない。
こうした小さなずれは、検索の結果を分散させ、お客さんの記憶をぼやけさせます。
| 掲げる場所 | 揃えること | 確かめる人 |
|---|---|---|
| 看板 | 文字の種類と並び | 店主 |
| 地図の登録 | 看板と同じ名前 | 店主 |
| ホームページ | 題名と冒頭の店名 | 制作した人 |
| 予約の画面 | 名前の表記 | 店主とスタッフ |
| SNSの名前 | 検索で出る呼び名 | 店主 |
| 名刺と領収書 | 印刷した表記 | 店主 |
ホームページのアドレスにも、店名の綴りを使えるか確かめる
ホームページを作る予定があるなら、アドレスに店名の綴りを使えるかも、この段階で調べておきます。
希望するアドレスが、すでに他の人に使われていることがあるからです。
店名とアドレスの綴りが揃っていると、口で伝えるときも、名刺に載せるときも、お客さんの迷いが減ります。
候補を絞る段階で、アドレスの空きを調べる作業を1回だけ入れておくと、決めたあとにやり直す事態を避けられます。
SNSの名前と、検索で出る呼び名を揃える
SNSでは、店名と同じ呼び名の名前を取れるかも確認します。
先に取られていると、少し変えた綴りを使うことになり、検索で別の店に見えてしまいます。
また、プロフィールの名前の欄には、店名だけを入れ、業種や特徴は自己紹介の欄に回すと、他の場所の表記と揃えやすくなります。
SNSのアイコンや投稿の画像に店名を載せるなら、看板と同じ文字の形で揃えると、お客さんの記憶に残りやすいです。
店の前で調べる人に、店名はどう届くのか
関門の確認が済んだら、名前が実際にどこで見られるかを考えます。
お客さんの多くは、スマートフォンで店を調べます。
個人のスマートフォン保有割合は78.9%
総務省の令和7年通信利用動向調査によると、個人のスマートフォンの保有割合は78.9%でした。
総務省が2026年5月29日に公表した資料にある数字です。
同じ調査で、世帯の保有割合は91.8%となり、引き続き9割を上回っています。
店の前でも、お客さんの約8割は、手の中の画面で店を調べられる状態にあります。
名前から来店までの道を、1枚の図で見る
お客さんが店名を知ってから入店するまでの流れを、次の図にまとめました。
図の通り、検索窓に名前を打ち込む場面と、口で伝わる場面は、どちらも画面の中の判断につながっています。
スマートフォンを持たない人には、看板と口伝えが働く
残りの人は、画面で調べることが少なく、看板と口伝えを頼りに店を知ります。
年齢層の高いお客さんが多い店では、この点を意識しておく必要があります。
このとき働くのは、看板に書いた名前の読みやすさと、近所の人が口にして伝える呼び名です。
店名は、画面向けと看板向けの両方で通じる作りが、いちばん広くお客さんに届きます。
検索結果の1ページ目に、自分のホームページがあるか
名前で検索した1ページ目に、自分の店のホームページが出るかどうかも、確認してください。
出ない場合は、ホームページの題名に、店名と業種と地域を入れてあるかを見直します。
題名にこれらが入っていると、検索したお客さんは、画面を見て何屋かをすぐに判断できます。
名前は店の側で決められますが、題名は、制作する人が書き換えられる部分です。
店名の見せ方にも、売れるサイトはみな謙虚が当てはまる
私たちは、「売れるサイトはみな謙虚」という考え方で、小さな店のホームページを見ています。
謙虚とは、お客さんが知りたいことを、飾らずに、先に、同じ場所で見せることです。
店名の見せ方にも、そのまま当てはまります。
名前の由来より、何屋かを先に見せる
店主にとって、店名には思いが詰まっています。
意味を込めた名前ほど、ホームページの冒頭で、由来を語りたくなります。
けれど、初めて画面を開いたお客さんが知りたいのは、まず、ここが何をする店か、どこにあるか、です。
由来は、その答えを見せたあとに、続きとして置くほうが、読まれます。
冒頭の1行に、店名と何屋かと場所を並べる
ホームページを開いた最初の画面に、店名、何屋か、どの町か、の3つを1行で置きます。
「何々 美容室 何々市」のような並びです。
これだけで、検索から来たお客さんの迷いは大きく減ります。
名前が造語で、何屋か分かりにくい場合ほど、この1行が効きます。
引き算で、名前の周りを整える
飾りの言葉を足さず、必要な情報だけを残す。
「売れるサイトはみな謙虚」は、足し算より引き算を大切にします。
店名の周りも同じです。
キャッチコピー、英語の飾り文字、ロゴの装飾を一度外して、名前と何屋かだけを残してみてください。
それで読めて、伝わる名前なら、飾りはあとから足しても遅くありません。
| ホームページの冒頭に置くもの | 理由 | 置く順番 |
|---|---|---|
| 店名 | 名前で調べた人が合っているか確かめる | 1番目 |
| 何屋か | 造語や固有の名前でも用件が分かる | 2番目 |
| 町の名前 | 同じ名前の別の店と区別する | 3番目 |
| 名前の由来 | 興味を持った人に続きを読んでもらう | 4番目以降 |
店名を変えたい店が、先にすること
ここからは、すでに営業していて、店名を変えたいと考えている店主に向けて書きます。
名前を変えるのは、思い切った決断です。
通ってくれているお客さんの記憶と、検索結果の積み重ねを、一度ほどくことになるからです。
変える前に、いまの名前が果たしている働きを棚卸しする
変えると決める前に、いまの名前が3つの働きをどこまで果たしているかを見ます。
見つけてもらう働きは、検索窓にいまの名前を打って確かめます。
伝えてもらう働きは、新しいお客さんに「どうやってこの店を知りましたか」と聞くとき、名前が正しく伝わっているかで分かります。
信用をためる働きは、地図の口コミの数や、常連さんの呼び方に表れます。
3つとも良好なら、名前に不満があっても、変える必要は薄いかもしれません。
変える理由が決まっているかを確かめる
店名を変えたい理由は、店ごとに違います。
業態が変わって、いまの名前では合わなくなった。
同じ名前の店が近くにでき、紛らわしくなった。
読み方が分かりにくく、いつも聞き返される。
理由がはっきりしていれば、新しい名前の条件も、そのまま決まります。
反対に、飽きたから、という理由だけなら、お客さんの目には変更の意味が伝わりません。
旧店名を併記して、検索の橋をかける
名前を変えた直後は、お客さんが旧い名前で検索することが続きます。
そのため、しばらくの間は、新しい名前の横に「旧何々」と書く期間を設けます。
看板、ホームページ、地図の説明、SNSのどこかに旧店名を残しておくと、旧い名前で検索した人も、新しい店にたどり着けます。
併記をやめる時期は、問い合わせの内容を見ながら決めると、無理がありません。
変更のお知らせは、理由を一言そえて出す
名前を変えたことは、店の中とSNSの両方で、お客さんにお知らせします。
お知らせには、変えた理由を一言そえてください。
業態が変わった、読みやすい名前にした、といった短い説明で十分です。
理由がないままお知らせだけが出ると、お客さんは店が変わったのか、別の店になったのかと戸惑います。
あわせて、場所と営業時間、メニューや料金体系が変わらないことも、一言で伝えておくと安心されます。
お知らせの文は、店頭の貼り紙、ホームページ、SNSの3か所で、同じ言葉に揃えてください。
変更の手順は、影響の大きい順に進める
名前を変えるときは、どの場所から手を付けるかで、混乱の大きさが変わります。
お客さんの目に触れる場所を、先に新しい名前へ揃えるのがよい進め方です。
| 順番 | 変える場所 | 確かめること |
|---|---|---|
| 1 | 地図の登録 | 実際の看板と同じ名前か |
| 2 | ホームページの題名と冒頭 | 旧店名の併記があるか |
| 3 | SNSの名前と案内 | お知らせの投稿を出したか |
| 4 | 予約の画面と案内メール | 旧店名のままになっていないか |
| 5 | 看板と名刺と領収書 | 印刷物の切り替え時期 |
| 6 | 公的な届け出と取引先 | 名前の変更に必要な手続きの確認 |
最後の公的な届け出は、法人か個人かで必要な手続きが違います。
窓口や専門家に確かめてから進めてください。
やりすぎて逆効果になる店名
ここまでの内容を実践すると、逆に頑張りすぎて、名前が不自然になることがあります。
よくある逆効果を、先に知っておきます。
検索に強くしようとして、名前が長くなりすぎる
地名、業種、特徴、サービス名を全部並べた店名は、検索には引っかかりそうに見えます。
けれど、長い名前は覚えられず、口で伝えにくくなり、画面でも途中で切れます。
地図の規則にも反するため、結果として、検索でも口コミでも弱くなります。
流行の言葉を使って、数年後に古く見える
はやりの言葉や言い回しを取り入れた名前は、始めた時点では新鮮でも、数年後には古く見えやすいです。
店名は、変えると手間がかかるので、長く使える言葉を選ぶのが無難です。
外国語の意味や発音を調べずに使う
外国語の単語を店名にする場合は、意味と発音を、必ず確かめてください。
日本語の感覚では響きがよくても、その言語では不快な意味を持つことがあります。
読みが分かれる単語は、口頭の関門でも苦戦します。
近所の人気店に寄せて、紛らわしくなる
評判のいい店に、名前を似せたくなることがあります。
似せると、お客さんが間違えて来てくれる場面もあるかもしれませんが、評判が悪い日は自分の店に飛び火します。
商標や不正競争の面でも、問題になり得るので、避けるのが賢明です。
| 逆効果になる型 | 起きること | 代わりにすること |
|---|---|---|
| 要素の詰め込み | 長くて覚えられない | 固有の語を中心に短くする |
| 流行の言葉 | 数年で古く見える | 長く使える言葉を選ぶ |
| 意味を調べない外国語 | 意図しない意味が伝わる | 意味と発音を確かめる |
| 他店に寄せる | 紛らわしく、争いの種になる | 近所の店とは音を離す |
よくある質問
Q1 店名に地名を入れたほうが、集客に有利ですか
地名は、検索で近くの人に見つけてもらう助けになります。
ただし、地名と業種だけの名前は、似た名前の店と区別がつかず、登録の面でも独占しにくくなります。
固有の語を中心に置き、地名は添える程度にするのが現実的です。
なお、地図に登録する名前の規則では、看板に実際に書いていない地名の補足は認められません。
Q2 ひらがな、カタカナ、漢字、ローマ字のどれで書けばよいですか
口で伝える場面を考えると、読みが一つに決まる書き方が有利です。
ひらがなやカタカナは、読みが迷われにくく、電話でも伝えやすいです。
漢字は、読み方が複数ある文字を避けると、迷いが減ります。
どの書き方でも、検索で打ち込みやすいかを、家族に試してもらって決めてください。
Q3 商標は、必ず登録しなければいけませんか
登録は義務ではありません。
特許庁の説明では、商標登録を受けないまま使うこと自体が禁じられているとは書かれていませんが、先に他社が登録していれば侵害にあたる可能性があるとされています。
登録するかどうかよりも、決める前に調べておくことが先です。
支店展開や通信販売を考えているなら、登録の検討を早めにしておくとよいでしょう。
Q4 店名を変えると、常連さんは離れますか
名前を変えたこと自体で、常連さんが離れるとは限りません。
離れやすいのは、変えたことが伝わらず、地図や検索で店が見つからなくなったときです。
旧店名を併記し、変更を店内とSNSでお知らせすれば、常連さんの不安は小さくできます。
Q5 複数の店を出す予定がある場合は、どう決めますか
複数の店で使うなら、地名を入れない名前のほうが、後から困りません。
1号店の町の名前を入れると、2号店を別の町に出したとき、名前が合わなくなるからです。
また、地図の規則では、同じ国内の店は同じ名称に統一するのが原則とされています。
最初から、店の名前と、場所を示す語を分けて考えておくと安心です。
まとめ
店名は、看板に書く前に、検索窓と口の上で働き始めます。
だから、好みで選ぶ前に、4つの関門を通すと、迷いが減ります。
検索の関門では、打ち込んで自分の店だけが出るかを見ます。
口頭の関門では、口で伝えて迷わず検索できるかを見ます。
登録の関門では、特許庁の商標と、会社なら法務局の商号を調べます。
掲示の関門では、看板、地図、SNS、ホームページで表記を揃えられるかを確かめます。
通った候補が2つか3つ残れば、あとは好みで選んでかまいません。
すでに営業している店は、名前を変える前に、3つの働きの棚卸しから始めてください。
変えると決めたら、旧店名を併記しながら、お客さんの目に触れる場所から順に切り替えます。
売れるサイトはみな謙虚です。店名も同じで、飾るより先に、何屋かを伝えます。
今日できる点検
次の表の上から順に、今日できるところまで進めてください。
| 点検すること | やること | 目安の時間 |
|---|---|---|
| 検索の確認 | 候補の名前を検索窓に打ち、1ページ目に何が並ぶか見る | 10分 |
| 地図の確認 | 候補の名前を地図で検索し、近くの同名店に印をつける | 10分 |
| 口頭の確認 | 家族に電話で名前を伝え、どう打ち込んだか教えてもらう | 15分 |
| 商標の確認 | 特許情報プラットフォームで、候補の名前と近い登録を探す | 20分 |
| 商号の確認 | 会社で開業するなら、オンライン登記情報検索で同じ商号を探す | 15分 |
| 表記の確認 | 看板、地図、ホームページで書き方を一つに決める | 10分 |
| 紙の用意 | 候補と4つの関門を一覧にしたA4の紙を作る | 15分 |
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