「新宿で安いホテル」と「新宿で地元の雰囲気が楽しめるホテル」。同じ街の宿を探していても、この2つの聞き方をGoogleのAI(Gemini)に投げると、AIが根拠として挙げるWebページの顔ぶれが変わる。そう報告した論文が、2026年3月にarXivへ公開されました。題名は「The End of Rented Discovery」(借りものの集客の終わり)です。
この記事は、その論文を原文から読み、何を測り、何が分かり、どこまでが言えるのかを整理します。とくに日本語と英語の結果の違いを、丁寧に扱います。私が確認した範囲では、日本語での検証を含む研究は多くありません。一方で、この研究は1つのAIサービス、1つの都市、1つの業種、1時点(2026年3月)のデータです。ホテルの結果をほかの業種の中小企業に当てはめてよいかも、あわせて考えます。
合同会社謙虚は、3つのドメインを並行して運用し、何を変えると数字が動くかを測り続けています。この論文を読むのは、「AIの引用元は質問の種類と言語で変わり得る」という主張の、証拠の範囲を自分たちで確かめておくためです。
結論:3行で言うと
- ホテルの質問の言い方で、AIが引用するサイトの種類が変わりました。予約を前提にした質問では予約サイト以外の引用が30.8%、体験を語る質問では55.9%です。差は25.1パーセントポイントでした
- 日本語では、この差がさらに大きく出ました。体験を語る質問で、予約サイト以外の引用は日本語62.1%、英語50.0%です。予約を前提にした質問では日本語30.0%、英語31.8%で、ほぼ同じでした
- データは1つのAIサービス(Gemini 2.5 Flash)、1つの都市(東京)、1つの業種(ホテル)、2026年3月の1か月分です。原因と結果の検証は今後の課題です。ほかの業種への広がりは、論文が示していない範囲です
この論文の基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 原題 | The End of Rented Discovery: How AI Search Redistributes Power Between Hotels and Intermediaries |
| 著者 | Peiying Zhu、Sidi Chang(2人。所属はBlossom AI社、米国サンフランシスコ) |
| 公開日 | 2026年3月20日(初版)。確認した版は3月30日のv2 |
| arXiv番号 | 2603.20062(分野はcs.IR、情報検索) |
| 掲載・採択状況 | arXivのコメント欄に、Hospitality Finance & Economics Conference(HFE 2026、東京)採択との記載があります。13ページ、表10個 |
| 種類 | データを集めて分析した実証研究。ホテル経営の戦略を論じる論文で、AI検索の調べ方を道具に使っています |
| データ・コード | 公開先の記載は、私が読んだ範囲では見つかりませんでした。付録に設定、質問例、分類表が載っています |
論文はこちらで読めます。arXiv(2603.20062)、arXiv発行のDOI。著者の所属は企業です。資金源や利害関係の記載は、私が読んだ範囲で見つかりませんでした。この記事では、企業所属の著者による、学会採択つきの研究として扱います。
この論文が答えた問い
旅行者がAI検索にホテルを尋ねたとき、AIはどんなサイトを根拠に挙げるのか。質問の言い方と言語で、予約サイトへの偏りは変わるのか。
ホテルは長く、OTAに集客を頼ってきました。OTAは「Online Travel Agency」の略で、ブッキングドットコム、エクスペディア、日本ならじゃらん、楽天トラベル、一休のような、宿泊の比較と予約ができるサイトです。予約が入るたびに、ホテルは手数料を払います。論文は業界資料を引いて、手数料は宿泊代金の15〜25%が一般的だと述べています。
AI検索は、リンクを並べる代わりに、答えをまとめて根拠のサイトを挙げます。その根拠にホテル自身のサイトなどが入れば、OTAが入り口を握る構図が変わるかもしれない。これが論文の見立てで、題名の「借りものの集客」は、OTA頼みの構図を指しています。
どうやって調べたのか
| 項目 | 設定 |
|---|---|
| 使ったAI | Gemini 2.5 Flash。Google検索を根拠にする機能を有効にして、API経由で実行 |
| 実行時期 | 2026年3月。各質問1回(20質問だけ5回ずつ再実行) |
| 質問 | 156件。英語と日本語が78件ずつ(私の計算)。東京23区のうち9区と東京全体 |
| 質問の作り方 | 予算、評価・品質、行きやすさ、出張向けの4種類の必要を、「取引型」と「体験型」の2通りで作ったペア |
| 集めたデータ | AIが根拠に挙げたWebページ(引用)1,357件。1質問あたり平均8.7件 |
| 分類 | 各引用のドメインを、OTAか非OTAかに分け、非OTAは9種類に細分 |
「取引型」は、予約を前提にした聞き方です(例:新宿で安いホテル)。「体験型」は、同じ必要を体験で言い換えた聞き方です(例:新宿で地元の雰囲気が楽しめるコスパの良いホテル)。ペアにしたのは、変わるのは聞き方だけで、話題、地域、言語は揃えるためです。日本語の質問は、自然な言い回しで作られています。
論文が東京を選んだ理由は、英語のWebと日本語のWebがほぼ別々の世界で、主なOTAも違う(英語圏はブッキングドットコムなど、日本語圏はじゃらんなど)ことです。2024年の訪日客が3,690万人という市場の大きさも、理由に挙げています。「パーセントポイント」は、割合どうしの差です。50%から60%への変化は、10ポイントの上昇です。
結果
質問の言い方で、引用元が変わった
全体の引用1,357件のうち、OTAは55.3%(751件)でした。非OTAの割合は、取引型で30.8%(607件中187件)、体験型で55.9%(750件中419件)です。差は25.1ポイントで、非OTAが引用されるオッズ(起こりやすさの比)は、体験型が取引型の2.84倍(95%信頼区間2.27〜3.56)でした。質問ごとに1票として数え直しても、取引型27.1%、体験型55.1%です。4種類の必要ごとの結果は、次の表です(論文の表1)。
| 必要の種類 | 取引型の非OTA | 体験型の非OTA | 差(ポイント) |
|---|---|---|---|
| 予算 | 15.5% | 42.5% | 27.0 |
| 評価・品質 | 22.1% | 46.7% | 24.6 |
| 出張向け | 40.1% | 68.5% | 28.4 |
| 行きやすさ | 40.1% | 59.2% | 19.0 |
4種類のどれでも、体験型のほうが非OTAの割合は高くなりました。予算の質問で取引型の非OTAが最も低い(15.5%)のは、価格の比較が得意なOTAが有利な領域だからだと、論文は解釈しています。
日本語と英語の違い
言語と質問の型を組み合わせた結果が、論文の表2です。
| 区分 | OTA | 非OTA | 引用の数 |
|---|---|---|---|
| 英語・取引型 | 68.2% | 31.8% | 274 |
| 英語・体験型 | 50.0% | 50.0% | 386 |
| 日本語・取引型 | 70.0% | 30.0% | 333 |
| 日本語・体験型 | 37.9% | 62.1% | 364 |
- 取引型では、日本語と英語がほぼ同じです。非OTAは英語31.8%、日本語30.0%で、差は1.8ポイントでした
- 体験型で、日本語のほうが非OTAが多くなりました。英語50.0%、日本語62.1%で、差は12.1ポイントです
- 取引型から体験型への動きは、英語が18.2ポイント、日本語が32.1ポイントです。日本語の動きは約1.8倍でした(32.1÷18.2の概算)。言語と型の組み合わせ効果は統計的に有意でした(オッズ比1.77、95%信頼区間1.12〜2.80、p=0.015)
引用されたページのうち日本語ドメインの割合は、日本語の質問で68.4%、英語の質問で6.4%でした。AIは、質問の言語ごとに別々のWebを読みに行っています。論文は、日本語のWebにはOTAの代わりに引用される種類のサイトが多様にあることを、差の理由の候補に挙げています。
非OTAの中身も違いました(論文の表3。非OTAの引用に占める割合。主な種類を抜粋)。
| 非OTAの種類 | 英語 | 日本語 |
|---|---|---|
| 旅行ブログ | 22.9% | 1.2% |
| 編集・キュレーション系サイト | 22.5% | 12.3% |
| ホテル自身のサイト | 19.3% | 23.6% |
| 旅行会社のサイト | 0.0% | 12.9% |
| コワーキング・仕事場 | 2.5% | 8.3% |
英語は旅行ブログと編集系サイトが中心で、日本語はホテル自身のサイトが最大です。論文は、優劣ではなく構造の違いだと書いています。
ホテル自身のサイトの引用
- 引用全体に占める割合は、英語8.2%、日本語11.0%です。この差は、引用を1件ずつ数える検定では有意になりません(p=0.090)
- 質問ごとに数える分析では、日本語のほうが、ホテル自身のサイトを1件でも引用する確率が高くなりました(オッズ比2.27、95%信頼区間1.08〜4.75、p=0.030)
- 言語の中で取引型と体験型を比べた差は、有意になりません(日本語9.3%と12.6%、p=0.16)
論文は、ホテル自身のサイトの引用は、質問の型よりWebの構造に左右されるように見える、とまとめています。ただし、言語の差は検定の方法で結論が揺れます。強い結論には向かない結果です。
引用されたホテルと、されなかったホテル(予備的な調査)
論文は、ホテル自身のサイトが引用された7軒と、引用されなかった7軒のサイトを、FAQ、エリア案内、ブログ、アクセス情報、独自の内容の5項目で採点しました(各0〜3点、合計15点)。引用された7軒の平均は8.6点、引用されなかった7軒は3.4点です(p=0.003)。6点以上の6軒はすべて引用されました。6点未満で引用されたのは1軒(5点)だけです。論文の本文は「6点未満は引用されなかった」と書いていますが、表5では1軒が例外になっています。
独立系のKadoya Hotelは、33問のFAQと13か所の観光案内で13点を取りました。一方、Booking.comの評価が9.6の別のホテルは、各項目が浅く5点で、AIはその名前を挙げても、情報はOTAや編集系サイトから取っていました。論文は、この調査を予備的なものと位置づけています。
論文自身が書いている限界
- 1つのサービス、1つの時点。Gemini 2.5 Flashを2026年3月に実行しただけです。ChatGPT(Bingを使う)やPerplexityは、検索の仕組みが違うため、結果が異なる可能性があります
- 相関であって、因果ではありません。内容が豊かなサイトほど引用されるという関係は見えても、因果の向きは未確認です。有名なブランドが別の理由で引用を集めている可能性を、論文は認めています。サイトを書き換えて測る実験は、今後の課題です
- 1つの市場。東京には国内OTAや日本語の編集系サイトが密にあります。ほかの都市は、非OTAの供給が薄いかもしれません。カプセルホテルなど東京特有の宿泊形態が、体験型の効果を大きく見せた可能性も、論文は述べています
- 質問の枠組み。体験型の質問は取引型より長く、語彙も豊かです。長さを揃えた分析と、追加の20質問でも非OTAは54.0%と高いままでした。ただし、追加の質問は小さく(引用137件)、最初の設計に入っていませんでした
- 標本の大きさと再現性。同じ質問を再実行すると引用が一部変わります(級内相関0.656)。体験型で非OTAが多い傾向は、5回とも出ました。再実行したのは20質問だけです。156質問は16種類の型に地区名を入れ替えて作られ、引用は完全に独立とは言えません
- 発見であって、予約ではありません。測ったのは、AIが挙げた根拠のサイトだけです。宿泊客がどこで予約したかは、測っていません
原文を読んで気づいた点
- 日本語と英語の違いは、分類の仕方に左右され得ます。論文は、旅行会社のサイト(例:skyticket.jp、travel.co.jp)を非OTAに入れています。日本語の非OTAの引用326件のうち12.9%(約42件)が、この種類です(表3からの私の概算)。この約42件をOTA側に数え直すと、日本語の非OTAの割合は全体で46.8%から約40.7%に下がり、英語の42.4%との差がほぼ消えます。区分ごとの再計算は、原文の数字からはできません。分類は、ドメイン名の一致による機械的なものです
- 統計の読み方に、条件がつきます。質問ごとの分析(付録の表9)では、交互作用の信頼区間が、引用ごとの分析(1.12〜2.80)より狭く(1.40〜2.24)出ています。論文は「結果が変わらない」証拠として使っています。表9の注記には尺度パラメータ0.262(やや過小分散)とあり、これが区間を狭めている可能性がありますが、論文はこの点を論じていません。なお、論文自身が、引用単位の結果はやや楽観的になり得ると注意しています
- 日本語の質問は、英語の質問と対にして作られたものです。日本の利用者が実際に使う質問の分布とは、異なる可能性があります。体験型の日本語は、「〜で〜が楽しめる」「仕事スペースがあり静かな」と、条件を重ねた長めの形でした
- 実サービスとの差があります。使ったのは開発者向けのAPIで、温度1.0の初期設定でした。アプリ上で利用者が見る回答が同じ引用になる保証は、論文にありません
- ホテルサイトの内容の採点(14軒)は、誰がどう採点し、複数人で確認したかが書かれていません。比べる7軒の選び方の基準も、本文に見つかりませんでした
- ホテルサイトの採点と引用の関係に、本文と表の食い違いがあります。本文は「6点未満は引用されなかった」と書きますが、表5では5点のホテルが1軒引用されています。論文の検定の値は、この例外を含む表と一致します。
- 査読の状況。学会(HFE 2026)採択との記載はありますが、審査の厳しさや、採択後に内容が変わったかは、私には確認できていません
- 宿泊施設の3層(国際チェーン、国内チェーン、独立系)の分類方法は書かれていますが、層ごとの結果表は本文にありません。独立系への期待は、Kadoya Hotelなどの事例比較が根拠です
この論文から、言えること・言えないこと
| 言えること(論文のデータで確認された) | 言えないこと(論文では確認されていない) |
|---|---|
| 東京のホテルの質問で、Geminiの引用元は質問の型で変わった(非OTAは取引型30.8%、体験型55.9%) | ChatGPTやPerplexityなど、ほかのAI検索でも同じになること |
| 体験型の質問で、非OTAの割合は日本語62.1%、英語50.0%だった | 日本語のほうが常にホテル自身のサイトが引用されやすいこと(引用ごとの検定では有意でない) |
| 取引型の質問では、日本語と英語の非OTAの割合はほぼ同じだった(30.0%と31.8%) | 言語の差が、Webの構造の違いだけで生じていること(論文が挙げる有力な説明にとどまる) |
| サイトの内容が深いホテルほど、ホテル自身のサイトが引用されていた(14軒の予備調査) | 内容を厚くすれば引用されること(因果は未検証) |
| OTAは全体で55.3%を占め、なお最大の引用元だった | OTAの役割が薄れること、予約の流れが移ること |
| 結果は、ホテル1業種、東京1都市のもの | 飲食、小売、士業、製造など、ほかの業種へそのまま当てはまること |
中小企業の視点で、どう受け取るか
ここからは論文の主張とは別の、私の読み取りです。ホテルの結果をそのまま自社に当てはめないことを前提に書きます。
1. 自社の業界に、OTAに当たる存在があるかを先に確かめる
この研究は、宿泊業に「比較と予約を握る仲介サイト」というはっきりした相手がいたから成り立っています。仲介サイトが引用の中心にある業界なら、同じ見方で測れる可能性があります。仲介サイトが薄い業界では、同じ枠組みで測れるかどうかから確認が要ります。
2. 質問の型ごとに、自社の情報がどこにあるかを見る
お客様の質問には、料金や条件を比べたい型と、体験や雰囲気を知りたい型があります。後者に答える自社ページ(近隣の案内、よくある質問、利用の流れ)を持つ、という発想は、ホテル以外でも試す価値があります。これは論文が示した効果ではなく、観察から私が引き出した仮説です。
3. 日本語の結果を「追い風」とまでは読まない
日本語で非OTAが多く引用されたことは、日本語のWebの多様さと整合します。しかし、分類の仕方で差が縮む可能性があり、ホテル自身のサイトの差は検定の方法で揺れます。「日本語では、体験型の質問で比較サイト以外も引用される傾向が、この調査で観察された」という範囲が、正確な受け取り方です。
4. 内容の深さは、質問への答えの厚みで点検する
14軒の予備調査では、FAQや観光案内の有無より、それぞれの深さが分かれ目に見えました。因果は未検証なので、そうすれば引用されるとは言えません。それでも、自社サイトの各ページが、お客様が実際に尋ねる質問に最後まで答えているかを点検する材料にはなります。
よくある質問
OTAに頼らず、自社サイトだけで集客できるという話ですか
論文は、そう述べていません。OTAは引用全体の55.3%を占める最大の引用元で、論文自身が、OTAがなくなる動きは差し迫っていないと書いています。動く余地があるのは体験型の質問です。測ったのは根拠のサイトで、予約が成立した場所ではありません。
飲食店や士業などにも当てはまりますか
この論文からは分かりません。対象はホテルだけで、東京の9区と全体に限られます。別の業種は、仲介サイトの有無など条件がさらに違います。同じ枠組みで測った研究が出るまでは、仮説として扱うのが安全です。
Google以外のAIでも同じですか
確認されていません。使ったのはGeminiとGoogle検索の組み合わせだけです。論文も、ChatGPTやPerplexityは検索の仕組みが違うため、結果が異なる可能性があると書いています。
まとめ:今日できる1つのこと
自社の業種で、お客様が尋ねそうな質問を、比較したい型と体験を知りたい型で1つずつ書き出してください。その2つをAI検索に入れて、引用されたサイトの種類(比較サイト、編集記事、ブログ、自社サイト)を数えます。論文の枠組みを、自社の業種で小さく試すことになります。得られるのは、この論文の結果とは別の、自社の観察です。
この論文は、LLMO論文の一覧の一本です。ほかの論文の解説も、順次公開しています。
この記事に書いたことを、そのまま御社のページに
生成AIに引用されるページを、お話しいただくだけでお作りします。お時間をいただくのは初回15分のヒアリングだけです。まず1ページ、無料でお作りします。
OKが出るまで、何度でも直します。事実が違う、言い回しが硬い、この話は入れないでほしい。どれも遠慮なくおっしゃってください。何度お直ししても、追加の料金はいただきません。
これまでに127社にご利用いただきました。毎月ご依頼いただいている方の6割以上が、月10ページを選ばれています。料金はページに掲載しています。
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