ホームページ制作を納品したお客様から、半年後に「写真を撮り直したいのだけど、どこか知りませんか」と聞かれたことはないでしょうか。
聞かれてから慌てて知り合いを紹介し、仕事はよその会社へ流れていく。こうした取りこぼしは、小さな会社ほど日常的に起きています。
クロスセルとは、お客様が買った商品やサービスに関連する別の商品を案内し、合わせて買ってもらう販売の考え方です。新しいお客様を探すより声をかけやすく、うまく回れば売上も信頼も積み上がります。
一方で、ジャーナル・オブ・マーケティングに2012年に載った研究では、クロスセルで追加購入したお客様の10〜35%がかえって赤字になっていたことが分かっています。
勧め方より先に、誰に何を勧めるかを決めておかないと、売上が増えたのに利益が減るという逆転が起こります。
この記事では、クロスセルの意味とアップセルとの違いを確認したあと、勧める商品の選び方、勧めないほうがよい相手の見分け方、案内するタイミングと場所を、中小企業のホームページとメールに引き寄せて整理しました。読み終えたときに、自社のサービスページか購入後のメールのどちらかで、直す場所が1つ決まっている状態を目指します。
クロスセルとは何か
言葉の意味
クロスセルは、ある商品を買う人、または買った人に、その商品と一緒に使うと役に立つ別の商品を提案することを指します。ハンバーガー店で「ご一緒に飲み物はいかがですか」と声をかけるのが典型的な例です。
スマートフォンを買った人に保護フィルムを勧めるのも、住宅の外壁塗装を請け負った会社が雨どいの点検を提案するのも、同じ種類の提案にあたります。
英語の「クロス」は交差するという意味で、商品の列を横に渡って別の列の商品を勧めるイメージから来ています。似た言葉に「関連販売」「合わせ買い」「ついで買い」がありますが、指している中身はほぼ同じです。
売り手の側から見れば客単価を上げる手法で、お客様の側から見れば、あとで困る前に必要なものがそろう手助けになります。
中小企業では画面とメールの中で起きる
大きな会社のクロスセルというと、営業担当者が商談の場で提案する姿を思い浮かべるかもしれません。ところが従業員が数人から数十人の会社では、営業に割ける時間が限られています。
実際には、サービスページの下に置いた関連サービスの欄や、申し込み完了後に表示されるサンクスページ、納品後に送るお礼のメールが、提案の大半を担っています。
つまり中小企業にとってのクロスセルは、話し方の技術より、サイトとメールのどこに何を置くかという設計の問題に近いものです。
人が口で勧めれば相手の表情を見て引くこともできますが、画面の上ではそれができません。だからこそ、勧める相手と商品を先に絞っておく作業に意味が出てきます。
アップセルとの違い
クロスセルと並べて語られるのがアップセルです。どちらも1回の取引あたりの売上を上げる手法ですが、勧めるものが違います。
アップセルは同じ商品の上位版や容量の大きいものを勧め、クロスセルは別の関連商品を勧めます。ハンバーガー店でいえば、ポテトをMサイズからLサイズに変えるのがアップセル、飲み物を追加するのがクロスセルです。
もう1つ、ダウンセルという言葉もあります。予算の都合で迷っているお客様に一段下のプランを示し、取引そのものを逃さないようにする提案です。
3つはお客様の状況で使い分ける道具で、どれか1つに決める必要はありません。上位プランの見せ方や提案の順番については、アップセルの手順を解説した記事で詳しく扱いました。
| 手法 | 勧めるもの | 向いているお客様の状況 | 中小企業での例 |
|---|---|---|---|
| クロスセル | 関連する別の商品やサービス | 本体を買ったあとに周辺の困りごとが出てくる | ホームページ制作のあとに写真撮影を案内する |
| アップセル | 同じ商品の上位版、量や期間を増やしたもの | 目的に対していまの選択が小さい | 月1回更新の保守を週1回更新に変える |
| ダウンセル | 一段下の小さなプラン | 予算や不安で決めきれない | 制作一式の前に診断だけを受けてもらう |
| クロスセルとアップセルの併用 | 上位版と関連商品の組み合わせ | 長く付き合う前提で目的が広い | 上位の保守契約に撮影を年1回含める |
中小企業がどちらから手をつけるかでいえば、既存の商品をプランに分けるだけで始められるアップセルのほうが準備は軽く済みます。クロスセルは勧める商品を用意する必要がある分、準備に時間がかかりますが、そのぶん競合と差がつきやすい領域です。
中小企業がクロスセルに目を向ける理由
新しいお客様を探すより声が届きやすい
一度買ってくれたお客様は、すでにあなたの会社の名前を知り、仕事の進め方や品質を体験しています。広告を見て初めて訪れる人と比べると、最初の信頼を築く手間がかかりません。
新規のお客様を1人増やすために、検索広告を出し、サイトを整え、問い合わせを受けて何度も説明する。その手間の大半を、既存のお客様への案内では飛ばせます。
既存のお客様を大切にする考え方そのものは、顧客維持の仕組みを解説した記事で詳しく触れています。クロスセルは、その関係の上に「次に役立つもの」を1つ置く作業だと考えると分かりやすくなります。
購入の時点で連絡先が手元にある
もう1つの理由は、連絡の手段がすでにあることです。申し込みフォームや請求書のやり取りを通じて、メールアドレスや電話番号は手元にそろっています。
新しい見込み客に届けるには広告費がかかりますが、既存のお客様へのお知らせは、メールを1通書く手間だけで済みます。ただし、広告や宣伝を目的としたメールを送るには、法律で定められた同意が必要になります。
この点はあとの節で扱います。
| 比べる点 | 新しいお客様に売る場合 | 既存のお客様に関連商品を案内する場合 |
|---|---|---|
| 相手が会社を知っているか | 知らない。名前を覚えてもらうところから始まる | 知っている。前回の仕事の印象が残っている |
| 連絡の手段 | 広告や検索で見つけてもらう必要がある | メールアドレスや電話番号が手元にある |
| 説明にかかる手間 | 会社の実績から順に説明する | 前回との違いと関係だけを説明すればよい |
| 断られたときの損 | 広告費と時間がそのまま残る | 案内の手間だけ。ただし繰り返すと関係が傷む |
| 次にすること | 集客の入口を整える | 誰に何を勧めるかを先に決める |
クロスセルで利益が減る相手がいる
研究が示した数字
クロスセルは多く買ってもらうほど得になる、と考えるのが普通です。ところがこの前提に疑問を投げたのが、米国の研究者デニッシュ・シャーとクマールらの研究でした。
米国マーケティング協会の学術誌であるジャーナル・オブ・マーケティングに2012年に掲載された論文で、5社の顧客データを分析しており、論文の要旨によると結果は次のとおりです。
「5社の顧客データベースを分析した結果、クロスセルで追加購入した顧客のうち10〜35%が赤字であり、その顧客層が各社の顧客由来の損失全体のうち39〜88%を占めていた」
追加で買ってくれたお客様の一部が、会社にとっては損を生む存在になっていたということです。しかもその損は、追加購入が増えるほど大きくなっていました。
同じ著者はハーバード・ビジネス・レビューにも寄稿しており、その紹介文には「追加購入する顧客の相当数が赤字で、彼らが多く買うほど会社の損は増える」とあります。
赤字になりやすいお客様の特徴
論文は、赤字になりやすいお客様に共通する行動として、使う金額が小さいこと、返品や取り消しが多いこと、問い合わせやサポートの依頼が極端に多いこと、値引きのときにしか買わないことを挙げています。
こうした傾向を持つお客様に関連商品を勧めると、売上は少し増えても、対応の手間と返品の処理がそれを上回ってしまいます。追加の売上が大きいお客様ほど得をしている、とは限らないのが、この研究の示したところです。
中小企業に置き換えると、見積もりのたびに値引きを求め、納品後も細かな修正依頼が続くお客様に、さらに別のサービスを勧めている状態がこれにあたります。担当者は忙しくなり、帳簿上の売上は伸びても、手元に残る利益は減ります。
| お客様の傾向 | いま起きていること | 次にすること |
|---|---|---|
| 使う金額が小さく、追加の依頼も小口 | 案内のたびに見積もりと説明の手間が発生する | 個別の案内をやめ、ページで見られる形にとどめる |
| 返品や取り消しが多い | 追加で売った分だけ処理の手間が増える | 関連商品の案内対象から外す |
| 問い合わせや修正依頼が極端に多い | サポートの時間が売上を上回っている | まず本体の使い方の案内を整え、追加提案は後回しにする |
| 値引きのときにしか買わない | 割引で売るほど利益が薄くなる | 割引を前面に出した案内を送らない |
| 本体を使いこなし、紹介もしてくれる | 関係が安定し、追加の提案を喜ばれやすい | このお客様から先にクロスセルを始める |
上位のお客様から始める
イタリアの経済学者パレートの名前をとった「パレートの法則」は、売上の8割を上位2割のお客様が生むという経験則として知られています。厳密な比率は業種で違いますが、少数のお客様に利益が偏るという傾向は、自社の売上台帳を上から並べてみると、上位の数社で売上の半分を超えている会社は珍しくありません。
クロスセルは、全員に同じ案内を送るところから始めないほうが安全です。本体の商品を使いこなしていて、支払いが安定し、紹介もしてくれているお客様を5社でも10社でも書き出し、その人たちに向けて最初の案内を作ります。
お客様の分け方の手順は、顧客セグメントの記事でまとめています。
勧める商品は本体を買った後の困りごとから選ぶ
困りごとは時間の順に出てくる
関連商品を選ぶとき、自社が売りたいものから考えると、お客様にとっては唐突な提案になります。順番を逆にして、本体を買ったお客様が1週間後、1か月後、半年後に何で困るかを書き出すところから始めます。
ホームページを作ったお客様であれば、公開直後は「問い合わせが来たかどうかをどう確かめるか」で困り、3か月後には「写真が古くなった」「更新が止まった」で困ります。
この時間の順に並んだ困りごとの一つひとつが、クロスセルの候補になります。困りごとから出発した提案は、お客様から見ると「ちょうど困っていたところだった」という案内になり、押し売りの印象が薄れます。
補うもの、使い切るもの、付け足すもの
関連商品は大きく3種類に分かれます。本体の働きを補うもの、使えば減っていくもの、本体に機能を付け足すものです。
最初の商品を気に入ってくれたお客様ほど、その商品を補うものにも関心を持ちやすくなります。自社の商品を3種類に当てはめると、手元にない種類が見えてきます。
| 本体の商品 | 次に起きる困りごと | 案内する関連商品 | 種類 |
|---|---|---|---|
| ホームページ制作 | 公開後に写真や文章が古くなる | 写真撮影、文章の更新代行 | 補うもの |
| 業務用の清掃 | 定期的に汚れが戻る | 定期清掃の契約、専用の洗剤 | 使い切るもの |
| 会計ソフトの導入支援 | 決算期に操作が分からなくなる | 決算前の操作研修 | 付け足すもの |
| 住宅の外壁塗装 | 数年後に雨どいやベランダが傷む | 雨どい点検、防水工事 | 補うもの |
| 研修の実施 | 受講後に現場で続かない | 3か月後の振り返り面談 | 付け足すもの |
自社にない商品をどう扱うか
困りごとを書き出していくと、自社では提供していないものが出てきます。そのときは、信頼できる取引先を紹介する形でもお客様の役には立ちます。
ただし紹介先を増やしすぎると、何の会社なのかが外から分かりにくくなります。紹介するのは、自社が実際に一緒に仕事をして品質を確かめた相手に限り、1つの困りごとにつき1社までにとどめておくと、専門の軸がぼやけません。
紹介料の有無は、お客様に伝えておくほうが後々の信頼につながります。「紹介料は受け取っていません」「紹介料を受け取っています」のどちらであっても、書いてあれば、お客様は安心して判断できます。
候補は1つか2つに絞る
選択肢が多いと決められない
困りごとを書き出すと、勧めたい商品が10個以上並ぶこともあります。けれども、一度に全部を案内するのは逆効果です。
コロンビア大学のアイエンガーとスタンフォード大学のレッパーが2000年に発表した実験では、スーパーの試食台に24種類のジャムを並べた日は、立ち寄った人の3%しか買わなかったのに対し、6種類に絞った日は30%が買いました。
立ち寄った人の割合は24種類のほうが多く、約60%対約40%でした。心理学の専門誌に載ったこの実験によると、並べる数を4分の1にしたら買う人の割合が10倍になったことになります。
目は引くのに、決められない。サービスページの下に関連サービスを8つも並べていると、同じことが起きます。
本体ごとに、勧める商品は1つ、多くても2つに絞ります。
取り扱いを広げると専門がぼやける
もう1つの理由は、会社の見え方です。何でも勧める会社は、何が本業なのか分かりにくくなります。
取り扱いを広げるほど、初めてサイトを訪れた人は「結局この会社に何を頼めばよいのか」で迷い、問い合わせまで進みません。関連商品は、本業を買ったお客様の困りごとを片づけるためのものに限ると、専門性はむしろ強く見えます。
| いまの状態 | 起きていること | 次にすること |
|---|---|---|
| 関連サービスの欄に5つ以上並んでいる | どれも押されず、ページが長くなっている | 本体ごとに1つか2つに絞る |
| 全ページで同じ関連サービスを出している | ページの内容と案内が合っていない | ページごとに次の困りごとを1つ選ぶ |
| 本業と関係の薄い商品も並べている | 何の会社か分かりにくい | 本業の困りごとを片づける商品だけ残す |
| 紹介先が困りごとごとに複数ある | お客様が選べず、結局問い合わせが来ない | 1つの困りごとに1社までにする |
案内するタイミング
同じ商品でも、いつ案内するかで受け取られ方が変わります。検討中のお客様に関連商品を並べると、見積もりが大きく見えて決めにくくなります。
一方、本体を決めた直後や、使い始めて困りごとが出てきた頃の案内は、役に立つ情報として読まれます。
検討中
検討中の段階では、関連商品を勧めるより「あとから追加できる」と書いておく程度にとどめます。最初に全部を並べると、合計の負担が大きく見え、本体の申し込みまで遠のきます。
申し込んだ直後
申し込みを終えた直後は、お客様の気持ちが前向きで、次に何が起きるかに関心が向いています。サンクスページで今後の流れを示し、その流れの中に「公開後に写真を撮り直したくなったら」といった形で関連商品を1つ添えます。
サンクスページに書く中身は、サンクスページの作り方の記事で詳しく扱っています。
使い始めて困りごとが出る頃
最も反応がよいのは、お客様が実際に困り始める頃です。ホームページであれば公開から1〜3か月後、清掃であれば汚れが戻り始める時期にあたります。
前の節で書き出した困りごとの時期に合わせて、メールや電話で様子を尋ね、その流れで案内します。
更新や見直しの前
保守契約や年間契約の更新前も、関連商品を案内しやすい時期です。1年間の振り返りを送り、「来年はここを強化すると効果が出やすい」という提案として添えると、売り込みの印象が薄れます。
| 時期 | お客様の状態 | 案内の仕方 |
|---|---|---|
| 検討中 | 合計の負担に敏感で、決めきれていない | 「あとから追加できます」と書くだけにする |
| 申し込んだ直後 | 前向きで、次の流れに関心がある | 今後の流れの中に関連商品を1つ添える |
| 使い始めて1〜3か月 | 困りごとが実際に出始める | 様子を尋ね、困りごとに合う商品を案内する |
| 更新や見直しの前 | 1年を振り返り、次の計画を考えている | 振り返りと一緒に次の一手として示す |
| 断られた直後 | いまは必要ないと判断している | 次の案内まで間を空け、同じ提案を繰り返さない |
押し売りにならないクロスセルの5つの手順
ここまでの内容を、実際に進める順番に並べ直します。図の流れのうち、金色の枠で囲んだ3番目の「勧めない相手を外す」が、他の解説記事ではあまり語られない部分です。
商品を決めたあとに、勧めない相手を外す。この1手が利益を守ります。
手順1 買った後の困りごとを書き出す
主力の商品を1つ選び、それを買ったお客様が1週間後、1か月後、半年後に何で困るかを紙に書き出します。過去の問い合わせメールや電話のメモを読み返すと、同じ質問が何度も来ている時期が見つかります。
そこが困りごとの山です。たとえばホームページ制作の会社なら、公開から2週間前後に「問い合わせフォームからの通知が届かない」、2か月前後に「スタッフ紹介の写真を差し替えたい」という相談が集中している、といった形で見えてきます。
時期と相談の中身を2列の表にするだけで、案内の予定表の下書きになります。社内で1人で考えるより、お客様と直接話している担当者に聞くほうが、実態に近い一覧になります。
手順2 勧める商品を1つか2つに絞る
書き出した困りごとのうち、自社で片づけられて、しかも本業と関係が深いものを1つか2つ選びます。候補が多くて迷ったときは、過去に「それもやってもらえませんか」と実際に頼まれた回数が多いものを優先します。
過去1年の問い合わせを数え、3回以上頼まれたものがあれば、それが最初の候補です。お客様の側から頼まれたことのある商品は、案内しても唐突に感じられません。
手順3 勧めない相手を外す
ここが見落とされやすい手順です。前の節で見たとおり、返品や取り消しが多い、値引きのときにしか買わない、問い合わせが極端に多いといった傾向を持つお客様は、追加で買ってもらうほど損が増えるおそれがあります。
案内を送るリストから、こうしたお客様を外しておきます。外したお客様には、本体の使い方の案内を先に整えるほうが、双方にとって得になります。
勧める相手を減らすことは、売上を諦めることとは違います。手間の少ないお客様に時間を回し直す判断です。
手順4 困りごとが出る時期に案内する
手順1で見つけた困りごとの時期に合わせて、案内を送ります。申し込み直後はサンクスページと確認メールで今後の流れを示し、困りごとが出る頃に様子を尋ねるメールを送ります。
案内の文面には、困りごとと関連商品の関係を1文で書きます。たとえば「公開から2か月が過ぎ、写真を入れ替えたいというご相談が増える時期です」という書き出しにすると、お客様は自分の状況と照らし合わせて読めます。
手順5 利益で振り返る
3か月ほど回したら、関連商品の売上だけでなく、その対応にかかった時間も並べて振り返ります。売上が増えても、修正対応や問い合わせの時間がそれ以上に増えていれば、案内する相手か商品を見直します。
売上の数字だけで判断すると、研究が示した「買うほど損が増える」状態を見逃します。
自社サイトで関連商品を案内する場所
中小企業のクロスセルは、ホームページとメールの中で起きます。案内を置ける場所は限られており、それぞれに向いている伝え方があります。
サービスページの下
サービスページの最後に「このサービスと一緒に頼まれることが多いもの」という欄を置きます。並べるのは1つか2つです。
単に名前を並べるより、「公開後に写真を撮り直したい方へ」のように、どんな困りごとの人向けかを一言添えると押されやすくなります。
サンクスページ
申し込みや問い合わせが完了したあとに表示されるページです。お礼の一文だけで終わっている会社が目立ちますが、次に何が起きるかを示し、その流れの中で関連商品を1つ案内できます。
ここで勧めるのは、本体と同時に頼むと手間が省けるものに限ります。ホームページ制作なら、撮影を制作と同じ日程で済ませれば、打ち合わせが1回減り、公開までの期間も短くなります。
お客様にとっての得を1文で書き添えると、案内が親切な情報として読まれます。
購入後や納品後のメール
最も効くのが、困りごとが出る時期に送るメールです。「その後いかがですか」という様子伺いを主にして、困りごとがあった場合の選択肢として関連商品を示します。
開封される件名の考え方は、メルマガの開封率を扱った記事が参考になります。
導入事例のページ
本体と関連商品を組み合わせて依頼したお客様の事例を載せると、読んだ人が「自分の場合もこれが要るかもしれない」と気づくきっかけになります。
事例を載せるときは、組み合わせた理由をお客様の言葉で書きます。掲載の許可は必ず取ってください。
| 案内する場所 | 読む人の状態 | 置く内容 |
|---|---|---|
| サービスページの下 | 本体を検討している | 一緒に頼まれることが多いものを1つか2つ、困りごとの一言つきで |
| サンクスページ | 申し込みを終えて前向き | 今後の流れと、同時に頼むと手間が省けるもの1つ |
| 購入後や納品後のメール | 使い始めて困りごとが出てくる | 様子伺いを主に、困ったときの選択肢として関連商品を示す |
| 導入事例のページ | 自分と似た会社の例を探している | 組み合わせて依頼した理由をお客様の言葉で |
| よくある質問 | 細かな疑問を確かめている | 「あとから追加できますか」という質問と答え |
売り込みと関係づくりの配分
毎回売り込むと読まれなくなる
クロスセルの案内を始めると、連絡のたびに何かを勧めたくなります。けれども、届くメールがいつも売り込みだと、お客様は件名を見ただけで開かなくなります。
役に立つ情報や季節のあいさつを主にして、その合間に案内を挟むくらいの配分が、長く読まれ続けるこつです。
目安として、4通送るうち案内を含むのは1通程度にとどめると、売り込みの印象を持たれにくくなります。役に立つ情報とは、本体の使い方のこつ、よくある失敗、法律や制度の変更のお知らせなどです。
お客様が本体をうまく使えるようになるほど、関連商品を案内したときの反応もよくなります。
| 連絡の種類 | 目的 | 送る頻度の目安 |
|---|---|---|
| 使い方のこつ | 本体を使いこなしてもらう | 納品後の数か月は月1回 |
| よくある失敗の紹介 | 困りごとを先回りして防ぐ | 2〜3か月に1回 |
| 制度や仕組みの変更のお知らせ | お客様の手間を減らす | 変更があったとき |
| 関連商品の案内 | 困りごとを片づける選択肢を示す | 4通に1通まで |
| 季節のあいさつ | 関係を保つ | 年に2回程度 |
広告メールには同意が要る
既存のお客様であっても、広告や宣伝を目的としたメールを送るには、特定電子メール法に基づいて、あらかじめ受け取ることへの同意を得ておく必要があります。
取引の中で連絡先を知った相手については例外の扱いもありますが、判断に迷う場合は、申し込みフォームにお知らせの受け取りを選ぶ欄を設けておくのが安全です。
送るメールには、送信者の名前と、受け取りを止める方法の表示も必要になります。制度の詳細は、総務省と消費者庁が公表している特定電子メールの送信等に関するガイドラインで確認できます。
押し付けにならないための線
セットでしか買えない形は避ける
クロスセルと似て非なるものに、抱き合わせ販売があります。公正取引委員会の告示「不公正な取引方法」の一般指定第10項は、抱き合わせ販売等を次のように定めています。
「相手方に対し、不当に、商品又は役務の供給に併せて他の商品又は役務を自己又は自己の指定する事業者から購入させ、その他自己又は自己の指定する事業者と取引するように強制すること」
違法かどうかは、市場での力の強さなどを含めて個別に判断されるため、小さな会社のセット商品がすぐに問題になるわけではありません。
ただ、お客様から見て「これを買わないと本体を売ってもらえない」と感じる形は、法律の問題以前に信頼を損ないます。関連商品は、いつでも外せる選択肢として示してください。
断りやすくしておく
案内の最後に「今回は必要ない場合は、このメールへの返信は要りません」と一文添えておくと、お客様は気軽に読み流せます。断りにくい案内は、次の案内を開いてもらえなくなる原因になります。
一度断られた商品を、状況が変わらないうちに繰り返し案内するのも避けます。
| 案内の形 | お客様の受け取り方 | 直し方 |
|---|---|---|
| 本体と関連商品をセットでしか申し込めない | 選ばされていると感じる | 本体だけの申し込みも選べるようにする |
| 関連商品に最初からチェックが入っている | 気づかずに申し込んだと後で不満になる | チェックを外した状態で表示する |
| 断ったあとも同じ案内が続く | 話を聞いてもらえていないと感じる | 断られた商品は次の見直し時期まで案内しない |
| 案内の理由が書かれていない | 売りたいだけに見える | 困りごととの関係を1文で書く |
業種別に見るクロスセルの形
クロスセルの形は業種で変わります。自社に近い行を探し、困りごとと関連商品の組み合わせを参考にしてください。
| 業種 | 本体を買ったお客様の次の困りごと | 案内しやすい関連商品 | 案内する場所 |
|---|---|---|---|
| ホームページ制作 | 更新が止まる、写真が古くなる | 更新代行、写真撮影 | 納品後1〜3か月のメール |
| 税理士・社労士事務所 | 決算や法改正のたびに手続きが増える | 給与計算、補助金の申請支援 | 決算前の面談、事務所だより |
| リフォーム会社 | 工事箇所の周りが古く見えてくる | 隣接箇所の点検、定期メンテナンス | 工事完了時の説明、1年点検 |
| 研修会社 | 研修後に現場で続かない | 振り返り面談、管理職向け研修 | 研修終了時のアンケート後 |
| 店舗型のサービス業 | 自宅での手入れが分からない | 自宅用の道具、次回の予約 | 会計時、来店後のお礼メール |
取引先が会社の場合
会社を相手にする仕事では、本体を決めた担当者と、関連商品を決める担当者が違うことがあります。ホームページの担当は広報で、写真撮影の予算は営業部が持っている、という具合です。
案内するときは「どなたにご相談すればよいでしょうか」と決める人を確かめ、その人向けに理由を書き直します。広報の担当者には「採用ページの写真が古いと応募が減る」、営業部には「提案資料にも同じ写真を使える」というように、同じ関連商品でも相手ごとに効き目の説明を変えます。
社内で回覧しやすいように、案内を1枚の資料にまとめておくと話が進みやすくなります。
個人のお客様が中心の場合
個人のお客様は、その場で決めることが多い反面、あとから「要らなかった」と感じると口コミに響きます。会計の場面で勧めるなら、1つだけ、実物を見せながら短く伝えます。
家に帰ってから困りごとが出るものは、お礼のメールや次回予約の案内の中で改めて示すほうが喜ばれます。美容室であれば、施術から2週間ほどで「家で同じ形に整えられない」という悩みが出やすくなります。
その頃に整え方のこつを送り、合う道具を1つだけ添える。この順番なら、道具の案内は悩みへの答えとして受け取られます。
クロスセルの効果を測る
見る数字
効果を測るときは、関連商品の売上だけを見ないようにします。何人に案内して、何人が買い、その後の対応にどれだけ時間がかかったかを並べて見ます。
最初の3か月は、案内した人数が10人程度でも構いません。少ない人数で手触りを確かめてから広げるほうが、外れたときの損が小さく済みます。
LTV(顧客生涯価値)の考え方で、1人のお客様との取引全体が増えたかどうかを確かめるのが目的です。LTVの基本は用語解説の記事で扱っています。
| 見る数字 | 分かること | 悪いときに次にすること |
|---|---|---|
| 案内を見た人のうち申し込んだ割合 | 商品と困りごとの組み合わせが合っているか | 困りごとの書き方か、商品そのものを見直す |
| 関連商品を買った人の返品や取り消しの割合 | 無理に勧めていないか | 案内の相手を絞り直す |
| 関連商品の対応にかかった時間 | 売上に見合う手間か | 手間のかかる相手を案内対象から外す |
| お客様1人あたりの年間の取引額 | 関係全体が太くなったか | 案内の時期を困りごとの山に合わせる |
| 案内メールの配信停止の数 | 売り込みが多すぎないか | 案内の頻度を下げ、役立つ情報を増やす |
赤字の相手を早めに見分ける
先ほどの研究では、赤字になるお客様を見分けるために、過去の行動から傾向をつかむ2段階の枠組みが提案されています。中小企業が同じ分析をする必要はありませんが、考え方は取り入れられます。
年に1回、取引のあるお客様を「売上」「対応にかかった時間」「返品や値引きの回数」の3列で並べ、手間ばかりかかっているお客様に印をつけておきます。
この印のついたお客様には、関連商品の案内を送らないようにするだけで、赤字を生む追加取引の多くを入口で止められます。研究で損失の39〜88%がこの層に集中していたことを考えると、案内の前に1列の印をつける手間は小さなものです。
よくある質問
Q. クロスセルとアップセルはどちらを先にやるべきですか
A. 既存の商品をプランに分けるだけで始められるアップセルのほうが準備は軽く済みます。クロスセルは勧める商品を用意する必要があるため、アップセルでサンクスページや購入後のメールの流れを作ってから加えると、同じ場所をそのまま使えます。
Q. 関連商品を持っていない小さな会社でもできますか
A. できます。自社で品質を確かめた取引先を、困りごと1つにつき1社だけ紹介する形でも、お客様の役に立ちます。
紹介料の有無は、お客様に伝えておきます。
Q. 全員に同じ案内メールを送ってもよいですか
A. 最初は避けたほうが安全です。本体を使いこなしていて支払いも安定しているお客様から始め、返品や値引きの依頼が多いお客様は案内の対象から外します。
追加で買うほど損が増える相手がいることが、研究でも示されています。
Q. 勧める商品はいくつまで並べてよいですか
A. 本体1つにつき1つ、多くても2つです。選択肢が多いと、目は引いても決められなくなることが、ジャムの試食実験で確かめられています。
Q. セット割引を付けたほうが売れますか
A. 割引は申し込みのきっかけになりますが、値引きのときにしか買わないお客様を集める面もあります。割引を前面に出すより、困りごととの関係を書くほうが、長く付き合えるお客様に届きます。
本体だけでも申し込める形は必ず残してください。
まとめ
クロスセルは、お客様が買った商品に関連する別の商品を案内する考え方です。中小企業では、その多くがサービスページ、サンクスページ、購入後のメールの中で起きます。
勧める商品は、本体を買ったお客様が次に困ることから選び、1つか2つに絞ります。
そして、クロスセルで追加購入したお客様の10〜35%が赤字だったという研究が示すとおり、誰にでも勧めればよいわけではありません。
返品や値引き、問い合わせが極端に多いお客様を案内の対象から外し、本体を使いこなしているお客様から始めます。売上と対応の手間を並べて振り返れば、関連商品は会社の利益と信頼の両方を積み上げる柱になります。
今日できるクロスセルの点検
最後に、自社のサイトとメールで今日確かめられる項目を表にまとめました。当てはまる行が見つかったら、その行の「次にすること」を1つだけ実行してください。
| 点検する場所 | 当てはまる状態 | 次にすること |
|---|---|---|
| サービスページの下 | 関連サービスの欄がない、または5つ以上並んでいる | 次の困りごとに合うものを1つだけ置く |
| サンクスページ | お礼の一文だけで終わっている | 今後の流れと、同時に頼むと手間が省けるもの1つを足す |
| 納品後のメール | 納品の連絡のあと、何も送っていない | 1〜3か月後に様子伺いのメールを1通予定に入れる |
| 顧客の一覧 | 全員に同じ案内を送っている | 返品や値引きの依頼が多いお客様に印をつけて外す |
| 申し込みフォーム | 関連商品に最初からチェックが入っている | チェックを外した状態に直す |
| 申し込みフォーム | お知らせの受け取りを選ぶ欄がない | 受け取りを選べる欄を1つ加える |
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