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【LLMO論文解説】AIの引用はニュースのアクセスより少数の所有者に集中|77か国・7つのAIで測った研究(プレプリント)

2026 11/01
2026年11月1日
中野輝規
AIの引用はニュースのアクセスより少数の所有者に集中

AIの答えに引用されるニュース媒体は、実際にアクセスを集める媒体と同じでしょうか。2026年10月29日にarXivで公開された論文が、77か国のデータでこの問いを調べました。

この記事では、原文を通読して、何を測り、何が分かり、どこまで言えるのかを整理します。対象はニュース媒体で、本文・表・付録に日本の数値は見当たりません(図1の地図には日本が色付きで描かれ、国別の推定値は公開データに含まれると原文にあります)。

合同会社謙虚は、3つのドメインを並行して運用し、何を変えると数字が動くかを測り続けています。この論文を読む理由は、AIの引用の偏りを、国と複数のAIをまたいだ数字で確かめたいからです。

目次

結論:3行で言うと

  • SEOツール会社の記録にある5つのAIは、いずれも引用がアクセスより少数の媒体に集中していました。引用の集中度は、アクセスの集中度の、媒体単位で1.23〜2.08倍、所有者単位で1.11〜1.79倍です(国ごとの中央値)
  • 媒体を所有者ごとに束ねると、アクセスの集中度は中央値で1.30倍に上がります。媒体単位で測ると、集中が小さく見えます
  • 国家の管理下にあるメディアを引用しやすい傾向は、その国の言語で質問した場合に現れ、英語パネルでは現れませんでした。主にロシア語・中国語の質問に対する自国媒体への引用によるもので、国ごとの検定では有意ではありませんでした

ただし、これはニュース媒体の研究で、企業サイトは対象外です。日本の個別の数値は、本文と表のどちらにも見当たりません。

この論文の基本情報

項目 内容
題名(原題) Who Owns Digital News, and Who Gets Cited: Measuring Media Concentration Across 77 Countries and Seven AI Systems
著者 Peter Carragher、Kathleen M. Carley(2人。所属は米国のカーネギーメロン大学)
公開日 2026年10月29日(arXiv初版。2026年11月1日に確認した版は、この初版だけです)
arXiv番号 2610.40164(分野はcs.CY、コンピュータと社会)
掲載/採択状況 arXivのプレプリントです。コメント欄と掲載誌の欄は空でした。本文にはトラック名の記載があり、公開データの登録情報の著者欄は「査読のため匿名」です。査読に出された形跡はありますが、採択の記載は確認できませんでした
種類 大学の研究者による、データセットの構築と測定の研究。新しい手法の提案ではありません
データ・コード データはZenodoで公開されています(CC BY 4.0、確認できたファイルはCSV1点)。コードも公開すると書かれていますが、公開先は本文になく、Zenodoでは見つかりませんでした

論文はこちらで読めます。arXiv(2610.40164)、公開データ(Zenodo)。

AIの引用を調べる研究の全体像は、サーベイ論文の解説にまとめています。

この論文が答えた問い

各国のニュースのアクセスは、何人のオーナーに集中していて、AIの引用はその集中を強めているのか。

背景として、論文はまず、国同士を比べるデータがないと指摘します。各国の規制当局は、免許や発行部数や収益を、自国の定義で数えているからです。

論文によれば、これまで最大の国際比較は30か国でした。さらに、AIの回答が出版社へのクリックを減らすという別の研究を引き、読者の行き先が動く可能性を問題にしています。

どうやって調べたのか

項目 内容
所有者データ Wikipediaの放送会社のカテゴリから、各社が所有する媒体を取得し、Wikidataなどで公式サイトを特定。25,631のニュースサイト、211か国
アクセス 第三者のアクセス推計サービスの月間訪問数。ニュース以外(プラットフォーム、通販、配信)と集約サイトを除き、所有者の記録があるものが9,761サイト
対象国 所有者が5以上特定できた77か国。さらに条件の厳しい42か国版でも比べた
集中度の指標 最大オーナーのシェア、上位4オーナーの合計、HHI、ノーム指数(HHIをオーナー数の平方根で割った値)。共同所有は均等に割って計算
国家管理メディア 研究センターが手作業でまとめた一覧で298サイト(80か国)。1つのオーナーとして扱う
AIの引用(パネル) SEOツール会社の記録。ChatGPT、Copilot、Gemini、Google AI Overviews、Grok。4,584のニュースサイト、199か国。質問はGoogle検索の関連質問が元
AIの引用(アリーナ) 利用者がAI検索に実際に聞いた質問を集めた公開データ。Gemini、Perplexity、GPT 4.0(表3ではGPT-4oと表記)。質問の約40%が英語以外

HHIは、各オーナーのシェア(%)を2乗して足した値です。小さなオーナーが多数なら0に近づき、1つのオーナーが独占すると10,000になります。

10,000をHHIで割ると、同じ大きさのオーナーが何人いる市場に相当するかが分かります(論文は「実効オーナー数」と呼びます)。

国ごと、AIごとに、同じ媒体の集まりで「引用のHHI」と「アクセスのHHI」を比べ、国をまたいだ中央値を出します。引用のほうが大きければ、AIが引用を絞っている(論文の言葉で「増幅」)ことになります。

結果

国内の集中度の水準

  • 42か国版では、HHIの中央値が1,715(約5.8の実効オーナー)、最大オーナーのシェアが29%、上位4オーナーが72%でした
  • 77か国では、実効オーナー数の中央値が4.5、上位4オーナーが80%です。最も分散した国は10を超え、最も集中した国は3未満でした
  • 英国は215のオーナーが特定されましたが、最大の公共放送だけでラベル付きニュースアクセスの40%を占め、HHIは1,877です。トルコは26オーナーで、HHIは1,360でした
  • オーナーの76.9%は、媒体をちょうど1つ持つだけです。そうした単独オーナーを合わせても、ラベル付きニュースアクセスの27.5%です

主に2008〜2013年の新聞を測った先行研究の上位4社比率とは、順位の相関が+0.465(29か国)で、中程度の一致でした。

オンラインニュースだけの比較(20か国)は+0.125で、論文は結論できないと書いています。米国の地方紙の名簿とは、所有者が73.5%で一致し、アクセスで重みづけると91.9%です。

記者が報告する圧力との関係

各国の記者に質問票で尋ねる国際調査の「所有者からの圧力」の評価(1〜5、5が最強)と、集中度の順位の相関です(55か国)。

集中度の指標 所有者からの圧力 経営管理者からの圧力 組織としての影響
最大オーナーのシェア +0.359** +0.401** +0.403**
HHI +0.318* +0.365** +0.359**
上位4オーナーの合計 +0.164 +0.189 +0.193

星印(*と**)の説明は、論文の表に欠けています。本文の別の値(+0.359は p=0.007)から、*が p<0.05、**が p<0.01と読めます。

1人当たりGDPなどを加えて分析しても、HHIとの関係は残りました(p=0.029、54か国)。一方、所有者の情報を使わずに媒体単位で測った集中度は、圧力と関係しませんでした(相関係数+0.144、p=0.295)。

AIの引用は、アクセスより集中していたか

次の表は、「引用のHHI÷アクセスのHHI」の国ごとの中央値です。1より大きいほど、AIの引用が、アクセスより絞られています。

AI(データ) 媒体単位 引用が上回った国 所有者単位 引用が上回った国
Gemini(パネル) 2.08倍 76か国中65 1.79倍 53か国中47
Copilot(パネル) 1.60倍 76か国中59 1.33倍 54か国中42
Google AI Overviews(パネル) 1.57倍 76か国中60 1.34倍 54か国中39
ChatGPT(パネル) 1.35倍 76か国中61 1.33倍 54か国中41
Grok(パネル) 1.23倍 76か国中51 1.11倍 54か国中35
Perplexity(アリーナ) 1.76倍 31か国中23 1.19倍 31か国中20
Gemini(アリーナ) 1.70倍 17か国中13 1.28倍 16か国中12
GPT 4.0(アリーナ) 1.60倍 13か国中10 1.47倍 13か国中10
  • パネルの5つは、媒体単位がすべてp<0.01、所有者単位がすべてp<0.05でした(検定はウィルコクソンの符号順位検定。論文によれば、多重比較の補正をしても変わりません)
  • アリーナのデータは、対象の国が少なく、論文自身が検出力不足と書いています。アリーナのGeminiは、どちらの単位も検定で有意になっていません
  • 最もアクセスの多い媒体が最も引用される媒体でもあった国は、76か国中21か国です。媒体ごとの順位の相関は、AIとアクセスの間で中央値0.51、2つのAIの間で0.65でした
  • 所有者単位のAIの集中度は、オーナーの数を揃えても、所有の集中度と相関しました(+0.496)。アクセスの集中度も揃えると+0.35に下がります
  • 増幅の倍率は、所有が分散した国のほうが大きい傾向でした(相関係数-0.32)。絶対的な集中はオーナーが少ない国で高く、倍率は分散した国で高いのです

国家管理メディアは、優先して引用されたか

条件 結果
英語の質問パネル(5つのAI) 国家管理メディアの引用は、アクセス比の中央値で0.50〜0.99倍。95%区間はどのAIも1を含み、優先は見られなかった
母国語の質問(アリーナ、16か国、引用2,961件) 国家管理メディアはアクセス比の1.01倍。アクセス規模を揃えた民間メディアは0.61倍。比は1.65倍(95%区間1.46〜1.87)
同じ媒体への引用に占める割合 国家管理メディアは、母国語の質問で16.7%、英語の質問で6.0%(差は10.7ポイント)
国別 中国の国家管理メディアへの引用は、中国語の質問で英語の2.5倍。ロシアは5.3倍
国ごとの中央値(アリーナ、10か国) 2.71倍だが、区間は0.14〜9.87でp=0.492。有意ではない

AIがアクセスの流れを変えた場合の試算

論文は、米国の大手放送・報道グループ同士の合併を同じ指標で計算し、米国の集中度が+9.9%上がると試算します。

別の試算では、すべての自然検索がGoogle AI Overviewsを通ると仮定します。

アクセスが引用に比例して配り直されると、米国の集中度は+33.3%上がります(合併の効果の約3.4倍)。中央値の国では+26.3%でした。

これは仮定を置いた試算です。アクセスが引用に従うかどうかは、時間をまたぐデータが必要で、論文も「結論できない」と述べています。

論文自身が書いている限界

  • 所有者ラベルはWikipediaなどの記載に基づくので、編集者の関心が国や言語で偏り、買収が未記載のことがあります
  • ラベルの外部照合は、限界の節では米国のみと書かれています(付録には英国の名簿との照合もあります)。登記や規制当局の届出などの公的データで、検証を広げられると述べています
  • ラベルが付いたのはサイトの28.8%、アクセスの70.1%です。ラベルの付いた割合が低い国ほど、集中度が高く出る傾向があります(相関係数-0.347、77か国)
  • 指標はアクセスと引用の数で、編集への影響力や広告収入は測っていません
  • パネルの質問は非公開で、英語と米国に偏っています。アリーナで確認しても、どちらも一時点の記録です
  • AIは少数の出典しか引用しない仕組みなので、集中度が上がること自体は避けにくいと述べています。引用の順番も分析していません
  • 所有者単位のAI分析は、AIの引用があるニュースサイト4,584のうち、ラベルが付いた1,653だけが対象です。アリーナのデータでは、統計的な主張が守りにくいと述べています

原文を読んで気づいた点

  • 日本語での検証:図1の地図で、日本には色が付いています。順位つきの推定がある国に入っているように見えますが、日本の数値は本文にも表にも欠けています。母国語の質問の国別の表にも、日本語は載っていません(表にあるのは10か国のみ)
  • 英語への偏り:パネルでは、英語向けの媒体がサイトの26.8%なのに、引用の61.9%を占めます(アクセスは40.1%)
  • 自動の計算が中心:主な人手の確認は、ニュースの判定(200サイト)と所有者ラベル(321サイト)です(ほかに、名簿と食い違った所有者の目視確認もあります)。AIの回答が正確か、読者の行動が変わったかは測っていません
  • 国家管理メディアの「1.65倍」:国家管理メディアの引用は、アクセス比でほぼ1.01倍です。倍率を押し上げたのは、民間メディアが0.61倍に下がっていた側です。表の国別の引用数から、ロシアと中国が合わせて約58%を占めます(概算:(1,037+689)÷2,961)
  • 本文と表の食い違い:5つのAIの平均の増幅は、本文が「媒体+445、1.57倍、所有者+600、1.38倍」と書き、付録の表(70か国)は「媒体+537、1.68倍、所有者+713、1.38倍」です。国の数の違いが理由かもしれませんが、説明は原文にも欠けています。国家管理メディアの国別の表は10か国分ですが、本文は16か国と書いています。英語パネルの検定も、本文は「どのAIもp>0.05」と書く一方、表にはp=.008(公共放送)やp=.027(国家管理)のAIがあります(補正前の値と読めます)
  • 査読:プレプリントで、採択の記載は確認できませんでした

この論文から、言えること・言えないこと

言えること(論文の測定の範囲) 言えないこと
パネルの5つのAIの引用は、同じ媒体のアクセスより集中している 企業サイトの引用も同じように集中する
集中度は、媒体単位より所有者単位のほうが高い 日本での集中度や、日本語の質問での結果
引用の集中度は、AIによって大きく違う(1.23〜2.08倍) 1つのAIの結果が、他のAIにも当てはまる
母国語の質問では、アリーナ16か国の合計で、国家管理メディアが民間メディアより引用されやすかった(1.65倍。主にロシア・中国で、国ごとの検定では有意ではない) AIが国家管理メディアを好んで選ぶという因果
引用に従ってアクセスが動けば、集中度は上がり得る(試算) 実際にアクセスが引用に従って動いたこと

中小企業の視点で、どう受け取るか

ここからは論文の主張とは別の、私の読み取りです。論文が調べたのはニュース媒体で、企業サイトは対象外です。

  • アクセスの多さと、AIの引用は別に測る。最もアクセスの多い媒体が最も引用されるのは、76か国中21か国でした。自社の引用を、アクセスの順位から推測しないほうが安全です
  • 測るAIは、複数にする。引用の集中度は、Geminiの2.08倍からGrokの1.23倍まで開いていました。1つのAIの結果を、全体の姿として扱うのは危険です
  • 質問は、お客様の言語で測る。国家管理メディアの傾向は、母国語の質問でしか見えませんでした。この論文は日本語を調べていませんが、英語の測定結果を日本のお客様にそのまま当てはめない理由になります
  • 引用元を、運営元ごとに数える。この論文の「所有者ごとに束ねる」という見方を、手作業に落とせます。ただし、企業サイトでの効果は、この論文では確かめられていません

自社での測り方の手順は、GEO対策の効果測定の記事にまとめています。

よくある質問

ニュース媒体の所有者の集中度を測った論文(77か国・7つのAI)は、AI検索で引用される方法を示していますか

いいえ。論文は、AIの引用が集中している状況を測ったもので、引用を増やす方法の検証は対象外です。

AIの引用がアクセスより集中するという結果は、日本のニュース媒体にも当てはまりますか

日本の数値は論文に載っていないので、当てはめは控えてください。図1の地図では日本に色が付いていますが、本文と表に日本の結果はなく、日本語の質問も確認できませんでした。

AIが国家管理メディアを優先して引用するという結果は、どこまで信頼できますか

母国語の質問に限った、アリーナのデータでの結果です。国ごとの中央値(10か国)では有意でなく、ロシアと中国の引用数が大きく影響しています。

16か国の合計では1.65倍でした。論文自身も、AIの結果は仮説を生む段階だと書いています。

まとめ:今日できる1つのこと

自社の分野で、お客様がAIに聞きそうな質問を3つ作り、日本語で2つ以上のAIに聞いてください。引用元のドメインを表に書き出し、同じ運営元のものは1つに数え直します。

上位の運営元に偏っているかどうかが、次の一手を考える材料になります。

この論文は、LLMO論文の一覧の一本です。ほかの論文の解説も、順次公開しています。

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この記事を書いた人

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合同会社謙虚 代表社員。20代から、売る言葉だけを仕事にしてきました。電話営業で受話器を握っていた時代から、数千社のWEB集客に関わったいままで。詳しいプロフィールはこちら

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