不動産、自動車販売、保険のように、買い手が「会社」ではなく「担当者という人」を選ぶ分野があります。生成AIにそうした相談をしたとき、AIは担当者の名前まで挙げるのでしょうか。
2026年7月に公開された論文「Who Gets Named: Citation Type Predicts Individual Naming by Grounded Language Models, and a Roster Instrument Captures 0.5% of It」は、この問いを2,400回のAI回答で調べました。
この記事は、その論文を原文から読み、要点を整理します。AIが個人名を挙げる割合、挙げやすい条件、そのときAIが引用していたサイトの種類、そして「名簿で数える測り方」の落とし穴が分かります。
数値は、論文の表と本文から拾いました。
合同会社謙虚は、3つのドメインを並行して運用し、何を変えると数字が動くかを測り続けています。この論文は、数字をどう測れば間違えるかを具体的に示しているので、測り方の勉強として読む価値があります。
結論:3行で言うと
- AIは、買い手向けの質問の25.8%の回答で個人名を挙げました。ただし、分野で大きく違い、不動産は35.4%、自動車販売は32.9%、保険は9.1%でした
- 個人名が挙がった回答は、個人が運営するサイトと、分野別の比較・紹介サイトを、引用の中で少し多く含んでいました(差は2.6ポイントと4.3ポイント)。企業のサイトの割合は、ほぼ同じでした
- 人の名簿をAIの回答と突き合わせる測り方は、名前の形をした言及27,293件のうち128件(0.47%)しか拾えませんでした。名簿での測定は、AIの実際の動きのごく一部を見ているだけです
なお、これはプレプリントの1回の実験で、対象はヨーロッパの4市場です。日本の状況に、そのまま当てはまるとは示されていません。
この論文の基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 原題 | Who Gets Named: Citation Type Predicts Individual Naming by Grounded Language Models, and a Roster Instrument Captures 0.5% of It |
| 著者 | 1人(AI可視性の測定サービスを売る企業に所属) |
| 公開日 | 2026年7月26日に投稿、8月1日に改訂版(v2)。データの収集は2026年7月24日 |
| arXiv番号 | 2607.23893(分野はcs.IR、情報検索) |
| 掲載・採択状況 | arXivのプレプリントです。コメント欄は「28ページ、図5点」とデータの公開先だけで、学会や雑誌への採択の記載は、私が確認した範囲ではありません |
| 種類 | 実験による測定の研究。AIのAPIを2,400回呼び出して分析しています |
| データ・コードの公開先 | 集計済みの回答データ、分類表、検出プログラムのソースを、Zenodoに公開(CC BY 4.0)。回答の全文と名簿は、個人情報を含むため非公開です |
論文はarXiv(2607.23893)で読めます。公開されたデータはZenodo(DOI 10.5281/zenodo.21612690)にあります。
この論文が答えた問い
買い手が人を選ぶ分野で、検索機能付きのAIは個人名を挙げるのか。挙げるとしたら、何がそれを左右するのか。
これまでのAI可視性の研究は、「会社名が挙がるか」を測るものが中心でした。この論文は一段下がって、「担当者個人の名前が挙がるか」を測っています。
論文は、3つの問いを立てています。1つ目は、個人名が挙がる割合と、それを動かす要因(分野、市場、モデル、質問の言語)です。
2つ目は、回答が引用したサイトの構成と、個人名が挙がることに関係があるかです。3つ目は、複数のAIが同じ人を挙げるかです。
どうやって調べたのか
論文は、検索機能(ウェブ検索による根拠づけ)をつけた状態のAIに、買い手が打ちそうな質問を何度も聞きました。用語を言い換えると、「根拠づけ付きのAI」は、回答を作るときにウェブを検索して、引用元を付けるAIです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 質問 | 120種類。「〇〇市で一番良い不動産の担当者は誰ですか」「〇〇市の自動車販売店を勧めてください」の型です。うち英語が大半で、現地語の質問も含みます |
| 分野 | 不動産の担当者、自動車販売店の営業担当、保険ブローカーの3つ |
| 市場 | ポーランド、アイルランド、オランダ、バルト諸国(リトアニアとエストニア)の4つ |
| AI | GPT-5.6 Sol、Gemini 3.6 Flash、Perplexity Sonar Pro、Grok 4.5 の4つ(APIで呼び出し) |
| 回数 | 120質問 × 4モデル × 5回 = 2,400回答。2026年7月24日の約2時間で収集 |
| 主な指標 | 回答が個人の専門職の名前を挙げたか。名簿を使わず、文章の規則で判定 |
個人名の判定は、名簿に頼らず、回答文から「人名らしい語」を拾う規則で行いました。同名の米国の都市(オハイオ州のダブリンなど)の事業者は、除外しています。
この判定の精度は、論文によると96.9%(160件の検出のうち155件が正しい)でした。一方、見逃しも多く、名簿にある名前の拾えた割合は61.7%です。
そのため、論文は個人名が挙がる割合をすべて「下限」だと述べています。
同じ質問への回答は似通うため、2,400件を別々のデータとは数えられません。論文はこれを補正し、実質のサンプル数を407件と見積もっています。
信頼区間やp値は、この補正をかけた値です。
結果
個人名は、回答の25.8%で挙がった
2,400回答のうち619回答(25.79%)で、AIは個人の専門職の名前を挙げました。
| 切り口 | 区分 | 個人名が挙がった割合 |
|---|---|---|
| 分野 | 不動産 | 35.4% |
| 分野 | 自動車販売店 | 32.9% |
| 分野 | 保険 | 9.1% |
| 市場 | バルト諸国 | 32.3% |
| 市場 | ポーランド | 31.3% |
| 市場 | アイルランド | 22.9% |
| 市場 | オランダ | 13.8% |
| AIモデル | Grok 4.5 | 38.0% |
| AIモデル | Perplexity Sonar Pro | 34.0% |
| AIモデル | GPT-5.6 Sol | 21.8% |
| AIモデル | Gemini 3.6 Flash | 9.3% |
この表から読み取れることを、箇条書きにします。
- 分野の影響が最も大きく、保険は不動産に比べて、個人名が挙がるオッズ(起こりやすさの比)が約12分の1でした。混合効果モデルの値は0.08です。不動産と自動車販売店の差は、この実験では見分けられていません
- モデルの差も大きく、同じ質問でも、Grok 4.5 は Gemini 3.6 Flash の約4倍の割合で個人名を挙げました。使うAIによって、個人名が出るかどうかは大きく変わります
- 市場の差は小さく、論文が統計的に言えたのは「オランダが最も低い」ことだけです。ほかの3市場の差は、この実験では見分けられていません
- 保険は、バルト諸国(1.5%)とオランダ(2.0%)でほぼ挙がらず、ポーランド(24.5%)とアイルランド(11.4%)では挙がっています
質問の言語:英語の質問のほうが、個人名が挙がりやすい傾向
英語の質問と、その完全な翻訳である現地語の質問を比べられる9組がありました。同じ都市、同じ分野、同じ質問文で、言語だけが違います。
- 個人名が挙がった割合は、英語が36.7%(180回答中66)、現地語が15.6%(180回答中28)でした
- オッズ比は3.14です。3つの組すべてで、英語のほうが高くなりました
- ただし、回答のばらつきを補正すると、p値は0.074でした。論文は「向きははっきりしているが、9組という設計では確定できない」と述べています
- 全プロンプトを都市ごとに比べた表では、ワルシャワ(ポーランド)で逆向きでした(英語29.0%、ポーランド語36.7%)。この比較は、翻訳が対応しない質問も含みます。論文は「現地語で聞くと個人名が減る」という一般則では説明できないと書いています
引用の「数」は関係なく、「種類」に違いがあった
個人名が挙がった回答と、挙がらなかった回答で、引用の数は似ていました。個人名が挙がった回答の平均は7.90件、挙がらなかった回答は8.81件です。
違いが出たのは、引用したサイトの種類です。論文は、引用先のサイトを20種類に分類しました。
そして、個人名が挙がった回答と比較群(論文の表記は「firm-only」)で、引用の構成比を比べました。比較群の定義は、本文でははっきり書かれていませんでした。
個人名が挙がらなかった回答のことだと読めます。
| 引用先の種類 | 個人名が挙がった回答の割合 | 比較群の割合 | 差(ポイント、95%信頼区間) |
|---|---|---|---|
| 個人が運営するサイト | 3.52% | 0.94% | +2.58(+1.41〜+3.91) |
| 分野別の比較・紹介サイト | 11.02% | 6.75% | +4.27(+1.73〜+6.91) |
| 交流サイト(SNS) | – | – | -2.19(-3.50〜-0.85) |
| 企業のサイト | 44.05% | 45.46% | -1.41(-5.45〜+2.62) |
- 個人が運営するサイトと、分野別の比較・紹介サイトは、個人名が挙がった回答で多くなりました。SNSは少なくなりました
- 企業のサイトは、差の区間が0をまたぎ、違いは確認できませんでした
- 論文は、このデータの最初の分析で「雇い主のサイトに名前が載っていると個人名が挙がる」という見立てを出したと述べています。その差は、引用先の分類の不具合による見かけだったとして、今回の版では「支持されない」と報告しています
- 差は小さく(2.6ポイント)、論文自身が、複数の市場でもっと多くのデータを集めて再確認することが必要だと述べています
名簿で測ると、現実とずれた
論文は、仕事用SNSの公開検索から作った939人の名簿を使い、「AIの回答に名簿の人が出るか」でも測りました。これが、題名の「0.5%」です。
| 測り方 | ポーランドの結果 | 全体の結果 |
|---|---|---|
| 名簿なしの判定(回答文から拾う) | 600回答中31.3%で個人名が挙がった | 25.8%の回答で挙がった |
| 名簿との突き合わせ | 600回答中0件(0.0%) | 名前の形の言及27,293件のうち128件(0.47%)が一致。939人のうち、実際に挙がったのは26人 |
名簿で測ると、「ポーランドではAIが実在の個人をまったく挙げない」という結果になります。しかし実際には、AIはポーランドの回答の約3割で個人名を挙げていました。
名簿の255人が、AIが挙げた人と1度も重ならなかっただけです。
論文は、名簿方式の数字を「AIの動き」ではなく「名簿とAIの出力の重なり」を示す数字だと位置づけています。市場の順位も、名簿方式と名簿なしの方式で入れ替わりました。
また、個人名の形をした検出の13.3%は、人名の形をした会社名(創業者の名前を冠したものなど)でした。アイルランドに限ると47.8%です。
「人を挙げた」のか「会社を挙げた」のかは、出力された文字列だけでは決まらない場合があります。
さらに、ワルシャワの自動車販売店を聞いたのに、米国インディアナ州のワルシャワの販売店が引用された例もありました。米国の事業者を引用した回答は、全体の7.6%(182回答)です。
論文自身が書いている限界
論文は、限界の節で9点を挙げています。主なものは次のとおりです。
- 検出の見逃し:個人名の判定は、精度を優先して見逃しが多い設計です。そのため、すべての割合は下限です。見逃しの多さは市場で違い、市場の順位を圧縮するとも述べています
- 人名型の会社名と、同名の米国の都市:人名の形をした会社名と、米国の同名都市の事業者は、規則と目視で除外しています。除外の誤りは、結果に影響します
- 引用がない回答:2,400回答のうち177件(7.38%)は引用がなく、うち137件は1つのモデルでした。これを除いて再計算しても、結論の向きは変わりませんでした
- 1回、1日の測定:2026年7月24日の約2時間だけの測定です。時間がたったときに結果が保たれるかは、示していません
- 翻訳の対応:質問が完全に翻訳の対応になっているのは9組だけです。言語の比較は、その9組だけが推測の根拠です
- 名簿は便宜的な標本:名簿は仕事用SNSの検索で出た人の集まりで、市場全体の代表ではありません
- モデル間の一致は結論なし:複数のAIが同じ人を挙げるかは、データが少なく(31組)、論文自身が「結論を持たない」と書いています
- 属性の差は見られない:性別などの差を調べるには、挙がった人が26人と少なすぎます。結果がないことを「差がない」と読まないよう、論文は注意しています
原文を読んで気づいた点
ここからは、論文が書いていないことで、私が原文を読んで気づいた点です。
- 日本語での検証はありません。市場はヨーロッパの4つで、言語は英語、ポーランド語、オランダ語、リトアニア語、エストニア語です。日本の不動産や保険に当てはまるかは、示されていません
- 査読を経たものか、確認できません。arXivのプレプリントで、コメント欄に採択の記載はありません。論文は、倫理委員会の審査も受けていないと書いています(人を対象にした実験ではないため、不要という立場です)
- 著者に商業的な利害があります。著者は、AIでの見え方の測定を売る企業に所属しています。論文自身が、そのことを明記したうえで、自社に有利な結果(雇い主のサイトが効くという説)を取り下げたと述べています。これは、結果の信頼性を上げる材料ですが、それでも1人の著者による自社データの分析です
- 実験の環境と、実際のAIサービスは違います。調べたのはAPI経由の呼び出しです。ふだん人が使う画面のAIとは、検索の設定や回答の作り方が異なる可能性があります。しかも、モデルによって個人名の出方が4倍違うので、1つの画面の結果を一般化できません
- 判定は自動の規則です。個人名の判定は規則で自動化され、精度は2回の独立した点検で確かめられています。引用先の分類は、AIの助けを借りて行われたと論文が書いています
- 「個人が運営するサイト」は、名前が挙がった本人のサイトとは限りません。要旨は「その人自身のサイト」と書いていますが、論文の分類は引用先のドメインごとで、挙がった本人との照合はしていません。分類の基準は、1人でサービスを提供していると確認できたサイトです。名簿で確認できた26人について、本人の雇い主のサイトが引用された割合は、975件中34件(3.49%)でした
- 因果関係ではありません。「個人が運営するサイトが引用される回答は個人名が挙がりやすい」という関連です。サイトを作ると名前が挙がる、という実験ではありません
この論文から、言えること・言えないこと
| 言えること(論文の範囲) | 言えないこと |
|---|---|
| この実験の条件では、買い手向けの質問の約4分の1の回答で、AIが個人名を挙げた(下限の値) | 日本でも同じ割合で個人名が挙がること |
| 個人名の出方は、分野(保険は低い)とモデル(約4倍の差)で大きく変わる | 特定のAIサービスの画面で、自社の担当者が挙がること |
| 個人名が挙がった回答は、個人が運営するサイトと分野別の比較・紹介サイトを、少し多く引用していた | 個人のサイトを作れば、名前が挙がるようになること |
| 企業のサイトの引用割合は、個人名が挙がった回答と挙がらなかった回答で、確認できる差がなかった | 企業のサイトが無意味であること |
| 名簿との突き合わせは、AIの実際の動きのごく一部しか拾えない | 名簿を使った測定がすべて役に立たないこと |
中小企業の視点で、どう受け取るか
ここからは論文の主張とは別の、私の読み取りです。
1. 「担当者」が選ばれる商売は、会社名だけを見ていると見落とす
不動産、保険、自動車販売のように人が選ばれる仕事では、AIが会社名ではなく個人名を答える場面があり得ます。自社の分野がそうなら、会社の名前だけでなく、担当者の名前でもAIに聞いてみる価値があります。
2. 担当者個人のページを、仮説として試す価値がある
個人が運営するサイトの引用が少し多かったという結果は、担当者本人の紹介ページを整える根拠の1つにはなります。ただし、差は2.6ポイントで、関連であって因果ではありません。
まず1人分を作り、変化を測るという進め方が現実的です。
3. 自社の見え方は、名簿ではなく、実際の回答で測る
この論文の最大の教訓は、名簿方式の数字は「見えていない」と「測れていない」を取り違えやすい、という点です。AIに複数の言い回しで質問し、日を変えて何度か聞き、回答の文面を自分の目で確認するほうが確実です。
4. 回答に出た名前の「同名・別地域」にも注意する
地名や社名が同じ別の事業者が混ざる例が、論文でも出ています。自社の名前でAIに聞いたとき、別の地域の同名の会社が出ていないかも確認してください。
よくある質問
「Who Gets Named」の論文は、AIに担当者の名前を載せる方法を示しているのですか
示していません。論文が測ったのは、AIが個人名を挙げる割合と、それに関係する条件です。
名前が挙がるようになる手法の効果は、検証されていません。
名簿方式で個人のAI可視性を測るのは、間違いなのですか
この実験では、名簿方式は名前の形の言及の0.47%しか拾えず、ポーランドでは実際の約3割をゼロと報告しました。論文は、名簿方式の数字を「名簿との重なり」として読むべきだと述べています。
測定の道具の性質を知ったうえで使う、ということです。
個人名が挙がる割合は、AIによってそんなに違うのですか
この実験では違いました。Grok 4.5 が38.0%、Gemini 3.6 Flash が9.3%です。
ただし、API経由の1日分の測定で、各サービスの画面での動きとは限りません。自社の分野では、実際に使われるAIで確認するのが確実です。
まとめ:今日できる1つのこと
自社の担当者の肩書きと地域を入れた質問を3通り作り、2つ以上のAIサービスに聞いてみてください。回答に、会社名と個人名のどちらが出たか、どのサイトが引用されたかを、表に記録します。
1回の結果より、日を変えて積み重ねた記録のほうが、次の判断の材料になります。
この論文は、LLMO論文の一覧の一本です。ほかの論文の解説も、順次公開しています。
この記事に書いたことを、そのまま御社のページに
生成AIに引用されるページを、お話しいただくだけでお作りします。お時間をいただくのは初回15分のヒアリングだけです。まず1ページ、無料でお作りします。
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