AIへの相談が、1回の質問で終わらない場面もよくあります。最初に目的を伝え、途中で予算や条件を足し、最後に「どれがいいですか」とだけ聞く流れも、よくあります。
2026年7月にarXivで公開された論文「The Prompt Is Not the Query」(仮訳:プロンプトは検索クエリではない)は、その会話の中で、依頼の中身がどこに書かれているかを数えました。英語の実際の会話8,133件が対象です。
合同会社謙虚は、3つのドメインを並行して運用し、何を変えると数字が動くかを測り続けています。AIでの見え方を「1つの質問文」で確かめる方法が何を見落とすのか、その前提を原文で確かめるために、この論文を読みました。
結論:3行で言うと
- 利用者の最後の発言には、その会話で使われた言葉の約3分の1(中央値35.6%と36.4%)しか入っていませんでした。ただし、長さを揃えて比べると、これはほぼ「最後の発言が短いから」で説明できました
- 予算・場所・用途などの依頼の手がかりが、最後の発言にはなく、それ以前の発言にだけ書かれている会話が、商用データで50.3%、公開データで44.8%ありました。同時に、最後の発言で初めて新しい手がかりが加わる会話も、17.9%と19.3%ありました
- 論文は、前の発言がAIの回答をどれだけ変えるかは、測定の対象外です。測ったのは、依頼の中身が会話のどこに散らばっているかまでです
回答への影響は、同じ著者の別の論文が実験しています(この論文自身は、その実験に触れていません)。
解説は最後の質問だけで答えさせるとAIの回答は44.7%で実質的に変わるにまとめました。この記事は、その手前にある「依頼の中身の分布」の論文です。
この論文の基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 題名(原題) | The Prompt Is Not the Query: How Request State Evolves Across Multi-Turn AI Conversations |
| 著者 | ベンジャミン・タネンバウム(Benjamin Tannenbaum、1人)。表紙の所属は、イスラエル・テルアビブの企業です |
| 公開日 | 2026年7月24日(arXiv初版) |
| arXiv番号 | 2607.22392(分類は情報検索) |
| 掲載・採択状況 | arXivのプレプリント。arXivの掲載情報にコメント欄も雑誌掲載の記載もなく、査読の有無は確認できませんでした |
| 種類 | 実際の会話記録を数えた観察研究。回答の実験は範囲の外です |
| データ・コード | 本文は「公開コードがある」と述べますが、公開先のURLの記載は見当たりませんでした。会話の原文は非公開です |
| 利益相反の記載 | 本文に記載なし |
論文はこちらで読めます。arXiv(2607.22392)、DOI(10.48550/arXiv.2607.22392)。
この論文が答えた問い
会話の最後に利用者が打ち込んだ1回の発言には、その会話で伝えられた依頼の中身が、どれだけ入っているのか。
キーワード検索では、入力した文字列が、そのまま検索の単位でした。AI検索の評価でも、質問文の一覧を1つずつ流し直して、回答を比べる方法がよく使われます。
論文は、会話では、この前提が崩れると指摘します。予算は2回目の発言で伝え、断った候補は3回目で伝え、最後は「どっちがいい?」
だけ、ということが起こるからです。
論文の冒頭の表1には、説明用に作った例があります。旅行用の軽いノートパソコンを探し、予算とOSの条件を足し、勧められた1機種を断ってから「どっちがいい?」
と聞く流れです(データからの引用ではなく、作例だと注記されています)。
「依頼状態」という言葉
論文は、利用者の頭の中にある「本当の意図」を推し量ることを避けています。代わりに、会話に条件づけられた依頼状態という、記録から読み取れるものだけの概念を定義します。
意味は、「最後の発言を読み解くために必要な、明示された依頼の内容と、前の発言への依存」です。目的、条件、候補、訂正、評価の基準、根拠の要求などが含まれます。
発言のたびに、この状態に何かが足されます。足すときは、差分だけを書けば成立します。
どうやって調べたのか
対象は、利用者の発言だけです。AIの返答の文章は、すべての集計から外しています。
| データ | 件数 | 内容 |
|---|---|---|
| 商用データ(発見用) | 302件 | 同意のもとで集めた非公開の研究用記録のうち、英語で2回以上やり取りした会話 |
| 商用データ(再現用) | 368件 | 発見用と重ならない別の記録。結果が再現するかを確かめる役 |
| 商用データ(合算) | 670件 | 主な分析の対象。発見用と再現用で、手がかりの割合は近く、語の割合は再現用でやや高い |
| PRISM(公開データ) | 7,463件、1,389人 | 世界各地の参加者が複数のAIと話した公開の会話集。英語で2回以上、個人情報の印がない会話に絞っています |
PRISMの7,463件は、価値観に沿って話す条件が2,308件、意見の割れる話題で話す条件が2,279件、条件なしが2,876件です。どの会話も、実験の手順で複数回の発言をした記録です。
商用データがどのサービスから来たのかは、本文で「研究用の記録」という説明にとどまります。記録の選び方は「研究上の関連性」で、無作為抽出とは別物です。
測った4つのこと
- 最後の発言に含まれる語の割合。会話全体で利用者が使った内容語(助詞などを除いた語)の種類のうち、何割が最後の発言に入っているかです
- 依頼の手がかりの位置。9種類の手がかりが、最後の発言と、それ以前の発言のどちらに現れるかを数えます
- 1回の発言で足りるか。どれか1回の発言に、語の過半数や、手がかりの全部が入っているかを調べます
- 会話が進むにつれた変化。発言の回数ごとに、積み上がり方を追います
9種類の手がかりは、価格・予算、場所・近さ、利用者像・用途、属性の条件、時期、代替案、訂正・方向転換、比較・評価、説明・根拠の要求です。英語の特定の語句(「予算」「近く」「必須」「週末」に当たる語など)が出たかを、規則で拾います。
この規則は、別の先行研究のものを調整せずにそのまま使っています。1つの発言が複数の種類にまたがることもあります。
語の割合は、発言の長さに左右されます。そこで論文は、最後の発言と同じ語数を、会話全体の語から無作為に取り出したと仮定して、期待される割合を計算し、実際の値と比べました。
結果
最後の発言には、会話全体の約3分の1の語しか入っていない
| 指標 | 商用(670件) | PRISM(7,463件) |
|---|---|---|
| 最後の発言が含む語の割合(中央値) | 35.6%(33.3〜38.9) | 36.4%(35.7〜37.5) |
| その割合が半分以下の会話 | 68.4%(64.7〜71.8) | 74.3%(73.1〜75.5) |
| 手がかりが、履歴にだけある会話 | 50.3%(46.5〜54.1) | 44.8%(43.5〜46.2) |
| 最後の発言で、手がかりが初めて加わる会話 | 17.9%(15.2〜21.0) | 19.3%(18.4〜20.3) |
| 上の2つが同時に起きる会話 | 8.7%(6.8〜11.0) | 7.6%(7.0〜8.2) |
| 最後の発言が、手がかりの全部を再現する会話(手がかりのある会話のみ) | 26.1%(22.3〜30.3)、456件中 | 26.2%(24.9〜27.5)、4,534件中 |
| 前の発言への依存を示す目印がある会話 | 46.3%(42.5〜50.1) | 33.7%(32.5〜34.9) |
括弧内は95%信頼区間です。論文は、商用とPRISMの割合を合算せず、別々に報告しています。
「前の発言への依存を示す目印」とは、最後の発言が省略した形で始まる、続きや比較や訂正を示す言い回しがある、前に出た厳密な条件を繰り返していない、のいずれかです。短いだけの発言は、目印の対象外です。
語の割合が低いのは、ほとんど「短いから」
最後の発言の語の割合が低いことを、論文は、発言の短さの結果と位置づけています。
長さを揃えた計算では、期待される割合の中央値は、商用で34.4%、PRISMで35.6%でした。実際の値との差の中央値は、どちらも0.4ポイントです。
最後の発言が、この期待値以上だった会話は、商用で75.8%、PRISMで81.6%でした。論文は、最後の発言が特別に多くの語を落としているわけではなく、会話全体に比べて短いだけだと述べています。
そのため、この数字は「語が失われた」ではなく、「その発言の中に書かれている情報の量」の指標として読むよう、論文は注意しています。
手がかりは、履歴に残り、最後にも加わる
- 手がかりが履歴にだけある会話は、商用で50.3%、PRISMで44.8%です
- 手がかりのある会話のうち、最後の発言が全部を再現するのは、26.1%と26.2%です。残りの会話(約4分の3、100から26.1と26.2を引いた概算)では、最後の発言だけでは手がかりの一部が欠けます
- 最後の発言で新しい手がかりが加わる会話も、17.9%と19.3%あります。論文は、最後の発言を「要約」とも「単なる参照」とも呼べず、状態の更新の1つだと述べています
どの1回の発言にも、全部は入っていない
会話のどの発言も、語の過半数を含んでいない会話が、商用で30.1%(26.8〜33.7)、PRISMで48.7%(47.2〜50.2)ありました。
手がかりのある会話に絞ると、どの1回の発言にも手がかりの全部が入っていない会話は、商用で32.2%、PRISMで24.9%です。論文は、「いちばん情報の多い質問文」だけを流し直す方法でも、依頼の明示された一部が抜けると述べています。
会話が長いほど、最後の発言は情報を持たなくなる
| 利用者の発言回数 | 最後の発言の語の割合(商用) | 同(PRISM) | 履歴にだけある手がかり(商用) | 同(PRISM) |
|---|---|---|---|---|
| 2回 | 54.5% | 55.6% | 36.5% | 26.3% |
| 5回以上 | 18.2% | 17.6% | 72.2% | 71.0% |
同じ会話を追い続けた分析(利用者が5回以上発言した商用187件とPRISM1,283件)でも、傾向は同じでした。
- 会話全体の語のうち、何割が出そろったか(中央値)は、商用で24.5%(1回目)から42.9%、57.1%、73.7%、86.8%(5回目)へ増えました。PRISMは18.2%から37.8%、57.1%、75.7%、100.0%です
- 手がかりの全部が出そろった会話の割合は、1回目から5回目の間に、商用で15.7%から71.1%、PRISMで12.2%から83.5%へ増えました
- 発言のたびに、新しい手がかりが加わる割合は、商用で19.4%、PRISMで21.2%です。新しい手がかりが加わった会話のうち、最初に加わるのが2回目の発言だったのは57.5%と58.7%でした。3回目までの累積は、77.1%と85.1%です
- 複数回の別々の発言で新しい手がかりが加わる会話は、商用で11.0%、PRISMで7.1%でした
会話の長さは、論文が割り当てたものではなく、観察された結果です。そのため、この傾向は「長い会話は別の種類の会話かもしれない」可能性を含んだ記述だと、論文は述べています。
発見用と再現用、条件ごとの違い
手がかりが履歴にだけある割合は、発見用で52.0%、再現用で48.9%でした。差は-3.1ポイントで、信頼区間は-10.6〜4.5と、0をまたぎます。
語の割合は、再現用の方がやや高く(中央値で33.3%と37.3%)、「半分以下」の割合は73.8%から63.9%へ下がっています。論文は、この差が手がかりの結果を覆すものではないと述べています。
PRISMの条件別でも、履歴にだけある手がかりは42.9%から49.0%、最後の発言が全部を再現する割合は23.7%から27.8%でした。論文は、どの条件でも、最後の発言だけで足りるとは言えないとしています。
本人ごとに1会話だけに絞る、短い発言を除くなどの8通りの確かめでも、履歴にだけある手がかりは43.5〜50.5%の範囲に収まりました。
論文自身が書いている限界
- 手がかりは、意図そのものとは別物です。規則が拾うのは明示された語句で、誤って拾う場合と、取りこぼす場合があります。否定や範囲の解釈には、不完全な面があります
- 最後の発言にない手がかりには、有効なものと撤回済みのものが混ざります。有効なままのことも、後で撤回されたことも、無関係なこともあり、記録だけでは区別できません
- 語の割合は、長さの影響を受けます。長さを揃えた計算が、観察値にほぼ一致したことを、論文自身が認めています
- 会話の長さは、観察された結果です。長い会話は、課題の複雑さや利用者の行動が違う可能性があります。PRISMは、手順上、必ず複数回の発言があるため、自然な続き方は推定できません
- 代表性に限りがあります。商用記録は研究上の関連性で選ばれ、PRISMは募集と手順のある調査です。商用では個人の識別子がなく、同じ人の会話をまとめて扱えませんでした
- AIの発言の影響は、切り分け不能です。後の発言が、AIの答えに促されて書かれた可能性があり、最初から言い忘れていたのか、答えを見て気づいたのかは、記録だけでは分かりません
- 回答への効果は、測定の外にあります。質問を流し直した実験は行われず、履歴を外した回答の変化は、結果に含まれていません
原文を読んで気づいた点
- 日本語での検証は、論文の範囲の外です。PRISMは英語の会話に絞られ、商用データも英語の会話です。手がかりを拾う規則も英語の語句なので、日本語にそのまま当てはめた数字は、この論文からは導けないのが実情です
- AI検索のサービスそのものは、調べていない論文です。要旨と結論はAI検索の計測への示唆を述べていますが、数えたのは、人とAIの会話の記録です。検索を起動したか、どの出典を引いたかは、集計に含まれません
- 人手による確認は、本文に見当たりませんでした。手がかりの判定は、すべて規則による自動のものです。規則の正確さを人が確かめた結果は、この論文の中にありません
- 査読は確認できませんでした。著者1人のプレプリントで、arXivの掲載情報に学会・雑誌の記載は見当たりませんでした。数値は、原文が報告したものとして扱っています
- 商用データの出どころは不明です。どのサービスの会話かの記載は、見つけられませんでした。著者の所属先は企業で、同じ著者の別の論文(arXiv:2609.22655)では、AI検索での見え方を測り改善するソフトウェアを開発する会社の創業者だと明記されています
- 公開コードの場所は、確認できませんでした。本文は公開コードに触れるものの、URLの記載を見つけられませんでした。追試のための入口を、私は見つけられませんでした
この論文から、言えること・言えないこと
| 言えること(論文が示した範囲) | 言えないこと |
|---|---|
| 英語の会話の約半数(50.3%と44.8%)で、依頼の手がかりの一部が、最後の発言になく履歴にだけ現れる | 履歴を外すと、AIの回答が変わる、またはどれだけ変わる |
| 最後の発言は、要約でも単なる参照でもなく、新しい手がかりを加えることもある(17.9%と19.3%) | 日本語の会話でも、同じ割合になる |
| 語の割合の低さは、主に発言の短さで説明できる | 最後の発言が、重要な語を選んで捨てている |
| 会話が長いほど、手がかりは履歴に積み上がる傾向がある | 会話を長くすれば、利用者が満足する |
| 質問文の一覧を流し直す方法では、会話の依頼の一部を測れない場合がある | 実際のAI検索で、どのくらい見え方が変わる |
中小企業の視点で、どう受け取るか
ここからは、論文の主張とは別の、私の読み取りです。論文が検証していない当てはめを含みます。
- 見え方の確認は、1問で終えず、条件を足した流れでも試す。たとえば「地域を足す」「予算を足す」「1つ候補を断る」という3回の流れを用意し、自社が出るかを確かめます。論文が示したのは、利用者の会話にこうした流れが多いことまでです
- ページに、条件別の情報を書いておく。利用者が途中で足すのは、予算、地域、用途、時期など、論文の9種類に近いものと考えられます。料金の目安や対応地域が1ページに書かれていれば、どの条件が足されても、答える材料になる可能性があります
- 確認の記録に、会話の流れも残す。どの順番で、何を足して試したかを書いておくと、後から数字を比べられます。論文も、履歴の渡し方は実験条件の一部として記録すべきだと述べています
- 自社のお客様の会話で、数えてみる。問い合わせのやり取りを何件か読み、最初の連絡になかった条件が、後からいくつ足されたかを数えると、日本語の実態に近い目安が得られます。これは論文の方法ではなく、私の提案です
よくある質問
「会話に条件づけられた依頼状態」は、検索の意図とどう違いますか
検索の意図は、利用者がやりたいことをまとめた1つの札のように使われます。依頼状態は、利用者が書いた発言の中で、目的・条件・候補・訂正などが明示されている部分の累積です。
論文は、頭の中の本当の目的は、記録だけでは分からないという立場で、この言葉を使っています。
「最後の発言に履歴にだけある手がかりが50.3%」という結果は、AIの回答が変わることを示していますか
答えは「いいえ」です。論文は質問を流し直す実験の手前で止まり、履歴がAIの回答に与える因果の効果は、推定の対象外としています。
回答の変化を測った実験は、同じ著者の別の論文にあります。そちらも英語の会話で、条件が限られているため、解説記事で条件を確かめてください。
最後の発言に含まれる語が35.6%という数字は、AIが文脈を落としているという意味ですか
答えは「いいえ」です。
長さを揃えた計算で、期待値は34.4%でした。論文は、この数字を「その発言に書かれている情報の量」の指標と位置づけ、意味の抜け落ちとは別の話として扱います。
まとめ:今日できる1つのこと
自社が出てほしい質問を1つ選び、条件を足す形で3回に分けて、同じAIサービスに順に聞いてみてください。
1回目の質問だけで確かめた結果と、3回目の結果で、自社の出方が変わるかを表に記録します。違いが出れば、「1つの質問文」の確認だけでは見えなかった部分です。
この論文は、LLMO論文の一覧の一本です。ほかの論文の解説も、順次公開しています。
この記事に書いたことを、そのまま御社のページに
生成AIに引用されるページを、お話しいただくだけでお作りします。お時間をいただくのは初回15分のヒアリングだけです。まず1ページ、無料でお作りします。
OKが出るまで、何度でも直します。事実が違う、言い回しが硬い、この話は入れないでほしい。どれも遠慮なくおっしゃってください。何度お直ししても、追加の料金はいただきません。
これまでに127社にご利用いただきました。毎月ご依頼いただいている方の6割以上が、月10ページを選ばれています。料金はページに掲載しています。
ページを増やしても問い合わせが来ないなら、原因はページの外にあります。その場合は、下の入口からご相談ください。
自社のマーケティング課題を根本から解決しませんか?
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