AIが検索結果をまとめて答える「生成検索」が広がると、中小企業のサイトへの流入はどうなるのか。この問いを、法律の側から論じた論文があります。
北京大学の法学者が書いた「Great Disappearance Acts — Generative Search and Shadow Banning」(直訳すると「大いなる消失の芸当:生成検索とシャドーバン」)です。
この記事は、その論文を原文から読み、何を主張しているのか、何を測っていないのかを整理します。先にお伝えすると、この論文は法学の論考で、流入の減り方を自分で測った実験や調査はありません。
論文に出てくる減少率は、すべて他の調査からの引用です。題名にある「シャドーバン」という強い言葉が、何を指しているのかも確かめます。
合同会社謙虚は、3つのドメインを並行して運用し、何を変えると数字が動くかを測り続けています。生成検索が中小のサイトの流入に与える影響を、お客様に説明するときに、何が言えて何が言えないのかを確かめるために、この論文を読みました。
結論:3行で言うと
- 論文は、生成検索がサイトを経由せずに答えを返すため、流入と広告・購読の収入が減り、独立した制作者や中小企業の存続が脅かされると主張しています。ただし、その規模は自分では測っていません
- 題名の「シャドーバン」は、主にSNSが著作権侵害の疑いのある投稿を、削除せずに見えにくくする運用を指します。生成検索による流入の減少は、少なくとも見かけの上では「意図しない」ものだと、論文自身が区別しています
- 大手の出版社は生成検索の事業者と利用料の契約を結べますが、中小企業は交渉力を持たないことが多く、市場の集中が進む、と論文は述べています。対策として、政府による規制と、アルゴリズムの透明性を求めています
この論文の基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 題名(原題) | Great Disappearance Acts — Generative Search and Shadow Banning |
| 著者 | Danny Friedmann(1人。北京大学 国際法学院) |
| 掲載 | German Law Journal 26巻7号、1211〜1234頁(紙の号は2025年10月、オンライン公開は2026年4月24日。特集号「Comparative AI Law: Regulating the Future」)。2025年5月30日受付、2025年7月10日受理と記載。発行はケンブリッジ大学出版局 |
| arXiv番号 | arXiv:2606.11216。2026年5月3日に登録(分野はcs.CY、コンピュータと社会) |
| 種類 | 法学の論考(判例・法令・規制の分析と、規範的な提言)。実験・実測はなし |
| 実験データ・コード | なし(論考のため) |
| 利益相反・資金 | 利益相反はなし、特定の資金提供の記載もなし、と原文に記載 |
論文はこちらで読めます。arXiv(2606.11216)、掲載誌の版(DOI)。
arXivへの登録は2026年5月ですが、中身は法学の学術誌にすでに掲載された論文です。arXivのプレプリント(査読前の原稿)とは位置づけが違います。
査読の手続きの詳細は、原文には書かれていません。
この論文が答えた問い
生成検索とシャドーバンという2つの見えにくい仕組みは、ウェブで発信する人の流入と見え方をどう損なうのか。そして、法律はそれにどう対応できるのか。
論文は、ウェブサイトやSNSを、誰でも発信して生計を立てられる「現代の公共の広場」と位置づけます。中小企業のサイト、市民の記者、ブログ、SNSの投稿がそこに含まれます。
論文によれば、この広場の「命綱」である流入が、2つの見えにくい方法で、元の発信者から引きはがされています。
論文は冒頭で、2つを次のように分けています。生成検索は、少なくとも見かけの上では意図せずに流入をそらす。
シャドーバンは、意図的に見え方を下げる。この区別は、記事の後半でも大事になります。
どうやって調べたのか
この論文は、法律の文献、裁判の判決、係争中の訴訟、各国の規制を読み、議論を組み立てる論考です。データを集めて分析する種類の研究とは異なります。
材料は次のとおりです。
| 材料 | 中身 | 論文での使い方 |
|---|---|---|
| 米国の判例 | 言い換えの著作権(1985年の最高裁判決)、要約記事(1977年の控訴裁判決)、「速報ニュースの横取り」(1918年の最高裁判決)、書籍の抜粋表示(2015年のGoogle Booksの判決) | 生成検索の回答が、著作権侵害や不正競争に当たりうるかを類推する |
| 係争中の訴訟 | 米国の大手経済メディア企業が、2024年10月にPerplexityを訴えた裁判 | 生成検索に対する法的な請求の例として検討する |
| 中国の規制 | インターネット情報サービスのアルゴリズム推薦管理規定(2022年3月施行) | シャドーバンに透明性と異議申し立てを求められるかを検討する |
| EUの規制 | AI法(2024年8月1日発効) | 自動の著作権照合を「高リスク」と扱うべきかを検討する |
| 他の調査・報道の数字 | 流入の減少率、検索の市場シェア、動画サイトの著作権申し立て件数など | 主張の背景として、脚注で引用する |
生成検索は、論文では「検索拡張生成(RAG)」の応用として説明されます。質問に近い文書を探して取り出し、その内容をもとにAIが答えを書く仕組みです。
論文は、この仕組みを図書館にたとえます。はじめは本の場所を教えるだけだった受付の司書が、やがて入口で内容を要約して答えるようになると、棚まで行く人が減り、最後には図書館に入らなくなる。
生成検索は、これと同じことをサイトに対して起こしている、という説明です。
結果
論考なので、ここでの「結果」は、論文が示した主張と論点の整理です。
主張1:生成検索は、流入と収入を減らす
論文は、生成検索が利用者に「リンクを飛ばさせる」ため、サイトへの訪問が大きく減ると述べています。訪問がなければ、広告、購読、寄付といった収入も立たなくなります。
論文は、生成検索が頼っているのはサイトの中身なのに、そのサイトへの流入を減らしているという矛盾を、「養ってくれる手を噛むな」ということわざで表しています。
その根拠として脚注で引かれている数字は、次のとおりです。いずれも論文が他から引いた二次的な数字で、論文自身が測った値とは別物です。
| 論文が引いた数字 | 元の出どころ(論文の脚注による) |
|---|---|
| 主要なテック系メディアのGoogle経由の流入が、2024年以降で58%減。10媒体で30〜90%減 | ウェブマーケティング会社のブログ記事(2026年2月) |
| 自然検索の流入が18%から30%超減ると推計 | イタリアのコンサルティング会社の記事(2025年8月) |
| 世界全体のクリック率が、1年で15%下がったと推計 | 米国の報道評論誌の分析記事(2025年7月) |
| 1日で自然検索の流入の90%を失ったという訴え | Googleの検索ヘルプフォーラムへの投稿(2024年3月のコアアップデート後) |
| 10年にわたり、利用者の90%超がGoogle検索を使っていた | 検索業界の専門メディア(2025年1月、シェアが2015年以来初めて90%を下回ったという記事) |
| 米国の上位170サイトからの参照流入の63.41%が、Google.comから始まっていた | 民間の調査会社による2024年の調査 |
表から読み取れることを整理します。
- 減少率は、出典によって15%から90%まで大きく開いています。測った対象(ニュース、テック系メディア、1つのサイト)も、測り方もばらばらです
- 4行目の「90%」は、Googleの検索順位の仕組みが更新された後の、1人の利用者の訴えです。生成検索の影響を測った数字として読める根拠は、原文にはありません
- 論文は、これらの数字の中から生成検索の影響だけを切り分ける検討はしていません
生成検索の広がりについても、論文は時系列を示しています。Googleは2023年5月10日に試験版を公開し、2024年5月に米国で「AIによる概要」を始め、その3か月後に日本を含む6か国へ、2024年10月28日に100か国以上へ広げました。
主張2:サイト側の技術的な手段には、限界がある
論文は、サイトの持ち主が取れる技術的な手段を並べています。利用規約での禁止、robots.txt(検索ロボットへの指示ファイル)、アクセス回数の制限、特定の接続元の遮断、人間かどうかの確認、頻繁に変わる表示、透かしなどです。
ただし論文は、限界も同時に書いています。サイトの持ち主の多くは、検索に載り続けたいので、遮断をためらいます。
検索のクローラーごと遮断すれば見つかりにくくなり、流入と広告収入が大きく減るからです。論文は、学習用のクローラーを止めることと検索に載ることは分けて考えるべきだとし、生成検索から外れる簡単な手段を規制で用意するよう提言しています。
また、生成検索の仕組みがrobots.txtの指示を無視することもある、と論文は指摘しています。利用規約についても、ロボットは文章の意味を理解できず、守るかどうかは作り手次第だとしています。
主張3:法的な請求の道は3つ、加えて法の外の規範として剽窃
いずれも米国法の議論です。日本の法律にそのまま当てはまるものではありません。
| 論点 | 論文の主張 |
|---|---|
| 著作権侵害 | 言い換えても、作品の核心を取れば侵害になりうる。書籍の抜粋表示は本の代わりにならないとしてフェアユース(米国著作権法107条)と判断されたが、生成検索の回答はサイトの文章と同じように読めるため、フェアユースに当たらない可能性がある |
| 剽窃と「半剽窃」(法的な請求ではなく、法の外の規範) | 出典を示さない回答は剽窃に当たる。論文は、剽窃は不法行為でも犯罪でもないとし、評判や規範の面から働くものとして扱う。出典を示しても、回答のどの部分の根拠かが分かりにくい状態を、著者は「半剽窃」と名づけている |
| 不正競争 | 取材への投資をただ乗りから守った1918年の判決を手がかりに、生成検索の剽窃・半剽窃は、欺く表示に当たりうると論じる |
| 不当利得・過失 | 約90%のシェアを持つ検索事業者は、流入の大幅な減少を予見できたはずで、影響をサイト側に知らせなかった点を問える、という議論が成り立ちうる |
どれも「成り立ちうる」「論じることができる」という書き方で、裁判所が認めた結論とは区別して読む必要があります。論文の中心にある訴訟も、論文は係争中の事例として扱っています。
主張4:利用料の契約は、中小企業に届かない
論文は、生成検索の事業者が出版社と利用料の契約を結び始めていることを紹介します。そのうえで、大手の出版社は規模を生かして有利な条件を引き出せるが、サイトを運営する中小企業は、交渉力も体制も持たないことが多いと指摘します。
その結果、収入と力が大手に集まり、中小の制作者はさらに周縁に追いやられる。論文は、公平な機会を確保するために、規制による介入が必要になるかもしれない、と述べています。
もう1つの解決策として、別の研究者が提案した「エージェントAI」の案も紹介されています。検索側のAIが、サイト側のAIに情報の対価を払う仕組みです。
ただし論文自身、これらの解決策は「まだ未発達」だとまとめています。
主張5:「シャドーバン」は、主にSNSと著作権の話
論文の後半は、シャドーバンを扱います。論文の定義では、SNSの投稿の見え方を、アルゴリズムによって意図的に下げる運用です。
論文が詳しく扱うのは、著作権侵害の疑いがある投稿を削除せず、検索や表示の順位を下げて、事実上見つからないようにする場面です。
著作権の例外に当たり、実は合法な投稿まで巻き込まれる、というのが論文の問題意識です。
論文は、Googleが著作権侵害を指摘されたサイトの順位を下げてきたことも、シャドーバンに近い意図的な可視性の低下として挙げています。これも著作権侵害への対応の話で、中小企業のサイト一般を対象にした議論とは別のものです。
論文が引いた数字では、YouTubeの著作権の自動照合は、2022年上半期に7億5,790万件の申し立て・削除要請を出し、そのうち異議が出たのは0.5%、3,690,786件でした(YouTubeの透明性レポートからの引用)。論文は、異議の出し方を知らない、時間がない、訴えられるのが怖いといった理由で声を上げなかった人もいるとみて、誤判定は実際にはもっと多いだろう、と推測しています。
論文はあわせて、プラットフォーム上の投稿については、シャドーバンは利用者に見分けにくく、疑っても証明できないと訴えています。
投稿の閲覧が減る理由は、表示順位の仕組みに関わるものを含めて多くありうるからです。生成検索の影響もシャドーバンの決まりも、不透明なままだという主張です。
中国の規定とEUのAI法については、どちらも部分的な解決にはなるが、公平さ、透明性、救済の仕組みを確保するには足りない、と評価しています。利用料の契約とエージェントAIも、解決策の候補ではあるものの、まだ未発達だとしています。
論文自身が書いている限界
この論文には、限界をまとめた独立の節がなく、著者は本文の中で次のような留保を置いています。
- 生成検索が流入をそらすのは、「少なくとも見かけの上では」意図しないものだとしています
- 商標が関わる投稿は、この論文の範囲外だとしています
原文を読んで気づいた点
- 実測がありません。流入の減少は論文の前提で、その規模は他の調査の引用です。引用元には、民間企業のブログや、フォーラムへの1件の投稿も含まれます
- 日本語・日本での検証はありません。扱っている法律は米国・中国・EUのもので、日本の著作権法での扱いは対象外です。日本が登場するのは、「AIによる概要」の提供国の1つとしてだけです
- 「半剽窃」は、著者が名づけた概念です。ある生成検索のサービスについて「リンクを押してほしくないのは明らかに見える」と書いている箇所も、画面の作りからの著者の推論で、クリック率などは測っていません
- 掲載の記載に食い違いがあります。原文の表記は26巻(2025年)ですが、arXivの掲載情報は27巻と記載しています。また、受理日は2025年7月なのに、2026年2月の資料が引用されています。受理後に手が加えられた可能性があります
- 数字の丸めがあります。7億5,790万件の0.5%は約379万件(概算:7億5,790万×0.005)で、論文が示す3,690,786件は約0.49%に当たります。論文の「0.5%」は丸めた値と読めます
この論文から、言えること・言えないこと
| 言えること(論文が主張・整理している) | 言えないこと(論文では確かめていない) |
|---|---|
| 生成検索は、サイトを経由せずに答えを返す仕組みで、流入を減らす方向に働く、という法学者の主張がある | 中小企業のサイトの流入が、何%減るか |
| 利用料の契約では、大手の出版社が有利で、中小企業は交渉力を持ちにくい | 生成検索の事業者が、中小のサイトを意図的に隠していること |
| 検索のクローラーごと遮断すると見つかりにくくなり、遮断しても無視されることがある。論文は、学習用の遮断と検索への掲載を分け、外れる手段を規制で用意するよう提言している | 遮断すれば流入が戻ること |
| SNSの著作権の運用では、削除せずに見えにくくする処理がありうると論じている | 日本語の検索や、日本の法律のもとで同じことが起きるか |
| 米国では、生成検索をめぐる著作権の訴訟が起きている | その訴訟で、生成検索が違法と判断されたこと |
題名の「シャドーバン」だけを見ると、「AI検索が中小のサイトを狙って隠している」と読みたくなります。しかし論文は、そうした事実を示していません。
論文の中でシャドーバンと呼ばれているのは、主にSNSの著作権の運用です。生成検索との共通点として論文が挙げているのは、どちらも不透明で、流入を減らすという点です。
中小企業の視点で、どう受け取るか
ここからは論文の主張とは別の、私の読み取りです。
- 流入が減ることを前提に、測り方を先に決める。論文は減少の規模を測っていないので、自社への影響は自社の数字で見ることになります。検索での表示回数とクリック数を分けて記録しておけば、「表示されているのに押されない」変化に気づけます
- 遮断は、慎重に判断する。論文は、検索のクローラーごと遮断すれば見つかりにくくなり、しかも無視されることがあると書いています。そのうえで、学習用の遮断と検索への掲載を分けるべきだと提言しています。流入の減少が心配だからといって、すぐに遮断する根拠にはなりにくいと考えます。合同会社謙虚は、自社のサイトでもAIのクローラーを制限していません
- 「引用されたうえで、訪問する理由が残るか」を見る。論文の図書館のたとえでいえば、入口の要約で済む内容ほど、棚まで来てもらいにくくなります。自社でしか書けない事例の条件や、判断の手順のように、要約だけでは足りない中身を持っているかが分かれ目になる、というのが私の見立てです。これは論文が検証したことではありません
- お客様への説明では、言葉を選ぶ。「AI検索が中小企業を締め出している」という言い方は、この論文の主張を越えます。論文から言えるのは、仕組みの上で流入が減る方向に働き、中小企業は大手ほど交渉力を持たない、というところまでです
AI検索での見え方を、引用・回答への反映・クリックといった段階に分けて測る考え方は、GEO研究のサーベイ論文の解説で整理しています。
よくある質問
論文の言う「シャドーバン」は、AI検索が中小企業のサイトを意図的に隠しているという意味ですか
その意味で使われているわけではありません。論文がシャドーバンと呼ぶのは、主にSNSが著作権侵害の疑いのある投稿を、削除せずに見えにくくする運用です。
生成検索による流入の減少については、論文は「少なくとも見かけの上では意図しない」ものとして区別しています。
生成検索による中小サイトの流入の減少は、この論文でどのくらいと測られていますか
この論文は測っていません。本文に出てくる15%、18〜30%超、58%、90%といった数字は、どれも他の記事や調査からの引用で、対象も測り方もばらばらです。
自社への影響は、自社の検索の表示回数とクリック数で確かめるのが確実です。
robots.txtで生成検索を遮断すれば、中小企業のサイトの流入は戻りますか
論文はその効果を測っていません。論文は、検索のクローラーごと遮断すると見つかりにくくなること、生成検索の仕組みがrobots.txtの指示を無視することもあることを指摘しています。
そのうえで、学習用の遮断と検索への掲載を分け、生成検索から外れる簡単な手段を規制で用意するよう提言しています。
まとめ:今日できる1つのこと
自社サイトの検索の数字を開き、主要なページの表示回数とクリック数を、前年の同じ月と並べて記録してください。表示回数が保たれているのにクリック数だけが減っていれば、答えが検索画面の中で完結している可能性を考える材料になります。
1つの論文の引用数字より、自社の記録のほうが、次の判断の土台になります。
この論文は、LLMO論文の一覧の一本です。ほかの論文の解説も、順次公開しています。
この記事に書いたことを、そのまま御社のページに
生成AIに引用されるページを、お話しいただくだけでお作りします。お時間をいただくのは初回15分のヒアリングだけです。まず1ページ、無料でお作りします。
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ページを増やしても問い合わせが来ないなら、原因はページの外にあります。その場合は、下の入口からご相談ください。
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