検索窓に病気や薬のことを入れると、リンクの一覧より上に、AIがまとめた答えが表示されるようになりました。その答えは、どこの国の、どんな組織のページを拠り所にしているのか。
GoogleとBaiduのAI要約を、12か国・4言語の健康の質問で並べて調べた論文が、2026年9月にarXivで公開されました。
米国のダートマス大学の研究者2人による「Who Anchors AI Overviews in Health?」です。
集めた結果は1,920件、引用は1万1,944件です。4言語には日本語が含まれ、日本から同じ質問を英語と日本語で出した比較もあります。
この記事では原文を方法の節まで読み、数字と条件をそのまま拾いました。
合同会社謙虚は、3つのドメインを並行して運用し、何を変えると数字が動くかを測り続けています。この論文を読むのは、同じ質問でも「どの国から」「どの言語で」聞くかによって、AIが選ぶ出典の国籍が変わるのかを、検索サービス2つで比べた実測だからです。
この記事で扱うのはAI要約の出典の選ばれ方で、病気や治療の判断材料には向きません。体のことで迷うときは、医療機関に相談してください。
結論:3行で言うと
- Googleでは引用の1位が同じ親会社の動画共有サービスで、Baiduでも自社の百科事典などが上位10に入りました。Googleの1位は、米国の大手医療機関や公的機関、世界保健機関より多く引用されていました
- 英語で聞いた場合、自国のドメインから引用された割合は、オーストラリア48.2%から、ナイジェリア0.2%まで開きました。日本から英語で聞いた場合は16.6%でした
- 同じ国で質問を英語から現地の言語に変えると、自国のドメインの割合は約3.5〜13.5倍になりました。日本は16.6%から57.5%へ、約3.5倍です
2026年5月に、検索結果を取得する外部のサービスを通して集めた一時点の記録で、査読前のプレプリントです。引用の出どころをドメイン名で数えた研究で、国や検索サービスの優劣は判定の対象外です。
この論文の基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 題名(原題) | Who Anchors AI Overviews in Health? Baidu, Google, and the Geography of Authority |
| 著者 | Mingyue Zha、Ho-Chun Herbert Chang(2人とも、ダートマス大学の計量社会科学プログラム) |
| 公開日 | 2026年9月6日(確認した版はv1) |
| arXiv番号 | 2609.06798(分類は情報検索、副分類にコンピュータと社会) |
| 掲載・採択 | arXivのコメント欄に記載はなく、学会や論文誌の採択は書かれていません。査読前のプレプリントとして扱います |
| 種類 | 実サービスの出力を集めて数える監査(観察研究)。本文14ページ |
| 実験データとコード | 質問の記録、引用の抽出結果、自動判定の出力は「論文の出版時に、未定の保存先で公開する」と記載。確認した時点では未公開です。コードの記載はありません |
論文はこちらで読めます。arXiv(2609.06798)。
この論文が答えた問い
同じ健康の質問に対して、GoogleとBaiduのAI要約はどこの国の、どんな出典を拠り所にするのか。それは質問した国と言語で、どう変わるのか。
論文は、問いを検索サービス、国、言語の3つに分けています。
背景として論文が挙げるのは、AI要約の位置です。AI要約は1つにまとめた答えを、すべての検索結果より上に出すため、目に入る出典の幅が狭くなります。
また、Baiduの生成型の検索をGoogleと同じ質問で比べた研究はまだない、と論文は述べています。
AIが健康の質問で引用するページを調べた研究は、ほかにも解説しています。出典の組織の種類を7言語で数えた研究はメンタルヘルスの引用を監査した論文の解説、引用されたページの著者名や監修の表示を調べた研究は健康の質問で引用されたページの権威の手がかりを調べた論文の解説で扱いました。
今回は、質問を出す国を変えたときに、出典の国籍がどう動くかが焦点です。
どうやって調べたのか
対象と規模
| 項目 | 設定 |
|---|---|
| 検索サービス | GoogleのAI要約(AI Overviews)と、BaiduのAI要約。検索結果を取得する外部のサービス経由で集め、Googleは国の設定を変えて各国からの検索を再現 |
| 国(12か国) | オーストラリア、カナダ、中国、インド、日本、マレーシア、ナイジェリア、ノルウェー、シンガポール、韓国、英国、米国 |
| 言語(4言語) | 英語、中国語、韓国語、日本語 |
| 国と言語の組み合わせ | 中国以外の11か国はGoogleに英語で質問。そのうち日本、マレーシア、シンガポール、韓国の4か国は、現地の主な言語でも質問。中国はBaiduに中国語だけで質問 |
| 質問 | 12の健康の話題ごとに、2026年5月のGoogleトレンドで検索の多かった質問を10個ずつ選び、計120問 |
| 翻訳 | 中国語・韓国語・日本語の質問は、AI(Claude Sonnet 5)で訳し、母語話者が確認 |
| 結果と引用 | 1,920件(120問×英語の11か国+120問×英語以外の5か国)。引用は計1万1,944件 |
| 期間 | 2026年5月。同じ質問を国ごとに複数回出し、結果はほぼ同じだったと記載(回数の記載はありません) |
12の話題は、議論の分かれ方や、法律による扱いの違いで、4つの区分に分けられています。
| 区分 | 話題 | 選んだ理由(原文の要約) |
|---|---|---|
| よくある病気 | 高血圧、がん、糖尿病 | 患者が多く、確立した診療の指針がある |
| 議論や偏見がある病気 | うつ病、コロナ後遺症、ハンタウイルス感染症 | 原因に議論があるか、偏見と結びつきやすい |
| 法律で扱いが変わる話題 | 人工妊娠中絶、性別適合のための医療、HIV | 法的な位置づけや診療の指針が国で違う |
| 中国の伝統医学 | 生薬(ハーブ)療法、鍼(はり)、カッピング(吸い玉) | 中国と欧米で認められ方が違う |
「自国の出典」を決めた基準
引用の出どころは、ページの中身ではなく、ドメイン名で判定しています。各国の国別ドメインにあれば、その国の出典(論文の言葉では「現地化された出典」)と数えました。
日本なら「.jp」、韓国なら「.kr」といった具合です。
米国は国別ドメインを使わないため、「.gov」「.edu」のドメインか、米国の主な保健・医療機関4つ(クリーブランド・クリニック、ジョンズ・ホプキンス、メイヨー・クリニック、米国疾病予防管理センター)を米国の出典としました。世界保健機関、汎米保健機構、国連児童基金などは「国際機関の出典」として別に数えています。
国と話題の影響は、英語の質問だけで回帰分析(複数の要因が結果をどれだけ動かすかを推定する手法)にかけ、米国とがんを基準にした差として推定しています。
さらに、米国のGoogleと中国のBaiduの回答を、公開されているAIモデル(Llama-3.1-70B)に5項目で採点させています。
伝統医学への好意と懐疑、受診の勧め、救急の勧め、安全上の注意です。人による確認は、項目ごとに20件でした。
結果
引用の上位は、検索サービスと同じ企業グループに寄っていた
米国のGoogleで最も多く引用されたドメインは、Googleと同じ親会社が運営する動画共有サービスでした。メイヨー・クリニック、米国疾病予防管理センター、世界保健機関より上です。
ほかの多くの国でも、このサービスが引用の1位でした。
Baiduで最も多かったのは、Baiduとは独立した中国の医療情報サイトで、次がBaiduの百科事典サービスでした。上位10には、Baiduが運営する投稿の場や健康情報サービスも入っていました。
論文は、どちらも自分の企業グループの場へ利用者を案内する「垂直統合」の傾向があり、普通の検索結果よりAI要約で強く見える、と述べています。
Googleで引用された動画のチャンネルも、論文の表1で数えられています。国をまたいだ英語の質問で上位だったのは、マス・ジェネラル・ブリガム(53回)、テンプル大学の医療機関(48回)、カリフォルニア大学デービス校の医療機関(37回)、トロントの大学病院ネットワーク(34回)、クリーブランド・クリニック(32回)でした。
その下には、医師個人のチャンネルや、医療を専門としない一般向けの解説アニメ(20回)も入っています。
- 米国で最も引用された医療機関のドメインだったメイヨー・クリニックは、チャンネルの上位10に入っていません
- 論文は、動画の出典の権威は、医療の観点の審査より、動画サービス側の並べ方で決まっている可能性がある、と述べています
英語で聞くと、自国の出典の割合は国で大きく違った
英語の質問で、引用のうち自国のドメインにあった割合です(論文の図2aと本文)。
| 国 | 自国の出典の割合(英語の質問) |
|---|---|
| オーストラリア | 48.2% |
| 英国 | 41.3% |
| 米国 | 33.7% |
| カナダ | 27.7% |
| シンガポール | 11.5% |
| ノルウェー | 8.5% |
| インド | 2.3% |
| ナイジェリア | 0.2% |
シンガポール、ノルウェー、インド、ナイジェリアでは、米国や国際機関の出典が自国の出典より多く引用されました。論文は、自国に保健当局がある国でも、小さな市場では、AI要約は米国や国際的な医療機関を優先することが多い、と解釈しています。
回帰分析でも、米国を基準にオーストラリアと英国は有意にプラス、日本、シンガポール、ノルウェー、マレーシア、韓国、インド、ナイジェリアは有意にマイナスで、ナイジェリアとインドの差が最も大きくなりました。決定係数(国と話題で説明できた割合)は0.492です。
話題別では、がんと比べて、HIV、コロナ後遺症、糖尿病、うつ病、高血圧、ハンタウイルス感染症で、自国や米国・国際機関の出典が有意に多くなりました。議論の分かれる話題は逆の向きでしたが、統計的に意味のある差が出たのはカッピングだけです。
日本語で聞くと、.jpの出典は約3.5倍になった
国を固定し、質問の言語だけを英語から現地の言語に変えた比較です(図2bと本文)。倍率は論文の表記で、差のポイントは私の概算(現地の言語の値から英語の値を引いたもの)です。
| 国 | 英語で質問 | 現地の言語で質問 | 倍率(論文) | 差(概算) |
|---|---|---|---|---|
| 日本 | 16.6% | 57.5% | 約3.5倍 | +40.9ポイント |
| シンガポール | 11.5% | 40.2% | 約3.5倍 | +28.7ポイント |
| マレーシア | 4.6% | 42.1% | 約9倍 | +37.5ポイント |
| 韓国 | 2.7% | 36.4% | 約13.5倍 | +33.7ポイント |
- 日本は、英語でも4か国の中で最も自国の出典が多く、日本語にするとさらに増えて、4か国の中で最も高い57.5%になりました。日本語の質問では、引用の半分余りが「.jp」のドメインだったことになります
- 論文は、質問の言語が自国の出典が引用されるかの大きな決め手で、英語で調べる人は国内からでも自国の医療情報に触れにくくなる、と述べています
伝統医学では、GoogleとBaiduの出し方が分かれた
- GoogleのAI要約が表示された割合は、よくある病気で約90%、中国の伝統医学で約42%と、話題が繊細になるほど下がりました(本文に書かれた概数)
- Baiduは、よくある病気ではGoogleと同じくらい高く、法律で扱いが変わる話題で最も低くなり、伝統医学ではGoogleを上回りました
- 1件あたりの引用数は、4区分すべてでGoogleがBaiduより多くなりました。Baiduの伝統医学の回答は、平均で約1件でした
- AIによる採点では、Baiduは伝統医学にGoogleより好意的で、同時に安全上の注意もGoogleよりはっきり書いていました
論文はこの結果から、健康の話題での「慎重さ」は、語調、安全上の注意、引用の量と質、答えを出すかどうかの組み合わせだと述べています。
論文自身が書いている限界
- 変化の速い2つのシステムの一時点の記録で、モデルや検索の仕組みが更新されれば結果も変わり得ます。論文は、今後の監査の出発点として位置づけています
- 引用の分析は主にドメイン単位で、引用された個々のページの質、正確さ、権威までは捉えられていません。医学的な正確さや害の評価は今後の課題としています
- 考察の本文で、自国の出典が少ない理由として、論文は「自国の信頼できるサイトが少ない、または見つかりにくい」「小さな市場や議論の分かれる話題では、AIが国際的な出典を優先する」の2つを挙げ、どちらなのかは見分けられないと書いています
原文を読んで気づいた点
- 日本語での検証は含まれています。日本の設定でGoogleに120問を英語と日本語で出した比較です。ただし日本語の結果は自国の出典の割合だけで、回答の中身の採点は米国のGoogleと中国のBaiduだけが対象です
- 「自国の出典」の物差しは、国によって違います。日本は「.jp」かどうかで判定されるため、「.com」など国別でないドメインにある日本の医療情報は、自国の出典に数えられていません。米国は「.gov」「.edu」と4つの医療機関で判定しています。国どうしの数字を比べるときは、この違いを含めて読む必要があります
- マレーシアとシンガポールの「現地の言語」は、原文に明記がありません。英語以外の言語は中国語・韓国語・日本語の3つとされているので、2か国は中国語で質問したと読めます。マレーシアの公用語はマレー語なので、「公用語で聞いた」と言い換えるのは正確ではない可能性があります
- 原文の中に、細かな食い違いがあります。表1の題は「上位10」ですが11行あります。考察の「8か国すべてに英語で質問」は、方法の節の11か国と合いません(8は図2aの国数)。回帰分析の割合の定義も、図3aは「自国の出典」、図3bと方法の節は「自国または米国・国際機関の出典」と、書き方が揃っていません
- GoogleとBaiduの比較には、国と言語の違いも重なっています。Baiduは中国から中国語、採点で比べたGoogleは米国から英語です。違いの原因をサービスだけに帰すのは難しいと私は読みました
- 回答の採点はAIによる自動判定です。人との一致度は補足資料にあるとされていますが、私が読んだarXivのPDFには補足資料が含まれていませんでした
- 実際の利用者の画面とは条件が違います。検索は外部の取得サービスの国の設定で再現したもので、ログインや端末の違いは反映されていません
この論文から、言えること・言えないこと
| 言えること | 言えないこと |
|---|---|
| 2026年5月の120問では、GoogleとBaiduのAI要約はどちらも、自分の企業グループのサービスを多く引用した | 検索サービスが意図して自社のサービスを優遇している、ということ |
| 英語で聞くと、自国のドメインから引用される割合は国で大きく違った | その差が、自国のサイトの少なさによるのか、AIの選び方によるのか |
| 日本から日本語で聞くと、「.jp」の出典は英語の約3.5倍(57.5%)になった | 「.jp」以外の日本のサイトを含めた、日本の出典の本当の割合 |
| 伝統医学では、GoogleはAI要約を出しにくく、Baiduは出すが引用が少なかった | どちらの回答が医学的に正確か、どちらのサービスが優れているか |
| 健康の話題の「慎重さ」は、答えるかどうか、注意書き、引用数など複数の面に分かれて現れた | 日本語の回答で、注意書きや受診の勧めがどう書かれているか |
中小企業の視点で、どう受け取るか
ここからは論文の主張とは別の、私の読み取りです。
1. 日本語で書くことは、日本のお客様の質問に対する出典の席に近づく条件の1つと読めます。日本から日本語で聞いた質問では、引用の半分余りが「.jp」でした。
日本のお客様が日本語でAIに尋ねる場面なら、日本語のページが候補に入りやすいと読めます。ただし、日本語で書けば引用される、という保証を示した研究ではありません。
2. 医療の分野は、公的機関と大きな医療機関の存在感が強い分野です。引用の上位は、公的機関、大学の医療機関、検索サービスと同じグループのサービスでした。
健康にかかわる中小企業は、自社の専門の範囲で、出どころの確かな事実を丁寧に書くのが現実的だと私は考えています。
3. 動画の出典には、チャンネル単位の別の土俵があります。Googleの健康の回答では、動画共有サービスの中で、病院や大学のチャンネルが多く引用されていました。
ただし、チャンネルが選ばれる条件までは、論文は調べていません。
4. 英語のページは、英語圏の大きなサイトと同じ土俵に立ちます。同じ国からでも、英語で聞くと自国のドメインの割合が下がりました。
訪日客向けなどに英語のページを用意する場合、比べられる相手は英語圏の大きなサイトになりやすいと私は読みました。
よくある質問
GoogleとBaiduのAI要約を比べたこの論文で、日本語の質問の結果はどうでしたか
日本の設定でGoogleに質問した場合、自国のドメイン(.jp)からの引用は、英語で16.6%、日本語で57.5%でした。
論文の表記で約3.5倍です。日本語の比較は120問で、判定は「.jp」かどうかのドメイン名だけで行われています。
日本語の回答の内容の採点はありません。
GoogleのAI要約が健康の質問で動画共有サービスを多く引用したのは、自社の優遇ですか
論文は「垂直統合」の傾向と呼び、同じ親会社のサービスへ利用者を案内する形になっていると述べています。ただし、検索サービスの意図までは確かめていません。
健康の質問でAI要約の出典を監査したこの論文と、メンタルヘルスの引用の監査は、何が違いますか
メンタルヘルスの監査は、3つのAIに米国から7言語で質問し、出典を組織の種類で分けました。今回は、GoogleとBaiduで質問を出す国を12か国に変え、出典が自国のものかを数えています。
どちらも、日本語の質問では国内のドメインへの案内が多くなりました。
まとめ:今日できる1つのこと
お客様がAIに聞きそうな質問を1つ選び、Googleで日本語と英語の両方で検索してみてください。AI要約が出たら、出典のドメインを書き出し、「.jp」の数と、公的機関・大学・企業の内訳を数えます。
出典の席がどんな組織で埋まっているかが分かると、日本語のページで何を書くかの手がかりになります。結果は日によって変わるので、日付と一緒に記録しておくと比べやすくなります。
この論文は、LLMO論文の一覧の一本です。ほかの論文の解説も、順次公開しています。
この記事に書いたことを、そのまま御社のページに
生成AIに引用されるページを、お話しいただくだけでお作りします。お時間をいただくのは初回15分のヒアリングだけです。まず1ページ、無料でお作りします。
OKが出るまで、何度でも直します。事実が違う、言い回しが硬い、この話は入れないでほしい。どれも遠慮なくおっしゃってください。何度お直ししても、追加の料金はいただきません。
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