土曜の夜は、どの部屋にも明かりがつく。
ところが日曜の夕方を過ぎると、館内は急に静かになり、平日は大浴場の湯だけが流れ続けます。
温泉旅館や日帰り温泉を営んでいる方なら、この景色に覚えがあると思います。
この記事は、温泉旅館や日帰り温泉施設を経営している方に向けて書いています。
温泉街の組合や観光協会で、地域の集客を考えている方にも使える話を後半に入れました。
ホテル全般の予約サイト頼みの話はホテルの集客について書いた記事に、旅程に組み込まれる観光施設の話は観光施設の集客について書いた記事にまとめています。
一棟貸しや小さな宿の話は民泊の集客について書いた記事をご覧ください。
この記事で扱うのは、温泉という設備を持つ施設にだけ起きる2つの悩みです。
1つは、泊まる人と日帰りで入りに来る人を、どう分けて迎えるかという悩みです。
もう1つは、泉質や効能をどこまで書いてよいのか分からず、ページが「名湯」「美肌の湯」という言葉だけで埋まってしまう悩みです。
あわせて、環境省と観光庁が公表している数字のうち、一次資料で確かめられたものだけを使って、いまの温泉の状況を整理します。
読み終えたときに、自分の施設のページで最初に直す場所が1つ決まっている。
そこをこの記事のゴールにしています。
Q&Aサイトで見かけた、小さな温泉旅館の娘さんの相談
先日、Q&Aサイトでこのような切実な悩みを拝見しました。
投稿されたのは2026年の1月で、家族で小さな温泉旅館を営んでいる方からの相談でした。
土曜と祝日の前の日しか、泊まる人がいない
投稿者は、母親が女将を務める旅館で一緒に働いている娘さんです。
家族と少ない従業員で回している宿で、大浴場のほかに貸切風呂や宴会場もあるそうです。
ただ、旅行会社との付き合いがほとんどなく、土曜や祝日の前の日を除くと、泊まる人はほぼいないと書いていました。
泊まる人がいない日に、女湯を貸切のように開けてしまう
困っているのは、宿泊の予約が1件もない日の女将のふるまいでした。
日帰りで入りに来た夫婦や恋人どうしが「いまから貸切風呂に入れますか」と尋ねると、女将は女性用の大浴場を2人で使ってはどうかと勧めてしまうそうです。
貸切風呂は事前の予約制で、湯をためるのに1時間ほどかかるため、その場では用意できないからです。
娘さんは、まず予約制であることを伝え、男女に分かれて大浴場に入ってもらう案内をしてほしいと考えていました。
女性用の浴場を男性が使っていると知ったら、女性のお客様は不安になる。
噂が広まれば宿の評判にかかわるし、あとから来た人と鉢合わせしたら取り返しがつかない、という心配でした。
回答に並んだのは、伝え方と心構えの話だった
寄せられた回答には、娘さんの心配はもっともだという声がありました。
母親が焦っているのは平日の稼働の低さが原因で、目の前のお客様を逃したくない気持ちから来ているのだろう、という見立ても添えられていました。
感情で反対するより、起こりうる危険を具体的に示して話し合うほうが伝わる、という助言です。
一方で、現役の温泉旅館の番頭だという方からは、娘さんに経営者としての素質がないという厳しい一言もありました。
どちらの回答も、宿の中の人間関係として相談を受け止めていました。
女将の判断の奥にある、温泉施設ならではの問題
この相談を宿の外から読むと、親子の言い争いの奥に、温泉施設の多くが抱えている問題が見えてきます。
泊まる人と日帰りで入りに来る人を、どの時間に、どの浴場で迎えるのか。
その線が宿の中で決まっておらず、外に向けたページにも書かれていないことです。
線が決まっていないから、泊まる人がいない日には、その場の判断で浴場の使い方が変わります。
ページに書かれていないから、日帰りの人は来てみるまで何に入れるのか分からず、受付で尋ねるしかありません。
女将の判断を責めても、次の空いた平日には同じことが起きます。
先に決めておくべきなのは、浴場ごと・時間ごとの使い方と、それを外に向けて書いたページです。
| 相談の中で起きていること | その奥にある問題 | 次に確かめること |
|---|---|---|
| 平日は泊まる人がほとんどいない | 平日に泊まる理由がページに書かれていない | 平日だけの過ごし方が1行でも載っているか |
| 日帰りの人が貸切風呂を当日に頼む | 貸切風呂が予約制だと事前に伝わっていない | 貸切風呂の予約方法と準備の時間がページにあるか |
| 女湯を貸切のように開けてしまう | 浴場ごとの使い方が宿の中で決まっていない | 浴場ごと・時間ごとの利用の決まりが紙に書かれているか |
| 家族の間で判断が割れる | 判断の基準が人の頭の中にしかない | 誰が受付に立っても同じ案内ができるか |
| 噂や口コミを心配している | 女性客が安心して選べる材料が載っていない | 女性用の浴場の扱いを明記しているか |
これは温泉施設の9割が入り込む落とし穴です
平日に人が来ない理由を「知られていないから」と考えるのは自然なことです。
知られていないなら、知らせる量を増やせばいい。
そう考えて、予約サイトの掲載を増やし、写真の投稿を増やし、割引のプランを作る。
ところが、知らせる量を増やしても、平日の空室と空いた浴場がそのまま残ることがよくあります。
この記事で「9割」と書いたのは統計の数字ではありません。
宿や浴場の相談を受けていると、ほとんどの方が最初に「知らせる量」の話から始める、という実感を言葉にしたものです。
「温泉がある」だけでは、選ぶ理由にならない
環境省の温泉利用状況によると、2025年3月末の時点で、全国の温泉地は2,839か所、温泉を使う宿泊施設は13,425軒ありました。
温泉を使う公衆浴場も、7,721か所あります。
温泉を探している人から見ると、車で1時間の範囲に、温泉に入れる場所がいくつも並んでいる状態です。
その中で「天然温泉」「源泉かけ流し」と書くだけでは、隣の施設と同じ言葉が並ぶだけになります。
選ばれる施設のページには、誰が、いつ、どの湯に、どう入れるのかが書かれています。
泊まる人と日帰りの人は、知りたいことが違う
泊まる人は、夕食のあとや朝に、混まずにゆっくり入れるかを気にしています。
日帰りの人は、今日の何時まで入れるのか、タオルを借りられるのか、休む場所があるのかを気にしています。
2種類の人が同じページを開いて、同じ「美肌の湯」という言葉を読んでも、どちらの問いにも答えていません。
冒頭の相談で、日帰りの夫婦が受付で貸切風呂を頼んだのも、来る前にページで答えを見つけられなかったからだと考えられます。
| いまの状態 | 数字や現場に出ること | 先に手を打つ場所 |
|---|---|---|
| 週末と平日の差が大きい | 平日の客室がほとんど埋まらない | 平日に泊まる人向けの案内を別に作る |
| 日帰りの人が受付で質問を重ねる | 電話や受付での問い合わせが多い | 日帰りの時間と入れる浴場をページに書く |
| 泊まる人から「混んでいた」と言われる | 口コミに浴場の混雑が書かれる | 日帰りの受付を終える時刻を決めて書く |
| 効能の言葉ばかりが並ぶ | 他の施設と同じ説明になる | 掲示している泉質と注意をそのまま載せる |
| 浴場の使い方が日によって変わる | 案内する人によって答えが違う | 浴場ごと・時間ごとの決まりを紙にする |
公的な数字で見る、いまの温泉と旅館
ここで、温泉と旅館のいまを、公的な統計で確かめておきます。
感覚で「客が減った」と話すより、数字で谷の深さを知っておくほうが、打ち手の順番を決めやすくなるからです。
旅館の客室は、1年の6割以上が空いている
観光庁が2026年7月6日に公表した宿泊旅行統計調査(2025年の年間値・確定値)によると、客室稼働率は全体で61.6%でした。
施設の種類別に見ると、旅館は38.2%で、ビジネスホテルの75.3%、シティホテルの74.1%を大きく下回っています。
旅館の数字は前の年より2.1ポイント上がったものの、2019年と比べるとまだ1.4ポイント低い水準です。
1年を通して見ると、旅館の客室は6割以上の夜が空いたまま、ということになります。
冒頭の相談で「土曜と祝日の前の日しか泊まる人がいない」と書かれていたのは、この数字が1軒の宿の中で起きている姿です。
温泉地に泊まる人は、ピークの頃に戻っていない
環境省の温泉利用状況によると、温泉を使う宿泊施設に泊まった人の数は、2024年度で延べ1億2,541万人でした。
前の年度の1億2,070万人から増えてはいるものの、2018年度の1億3,056万人には届いていません。
さかのぼると、1992年度には延べ1億4,324万人が温泉地に泊まっていました。
温泉に泊まる人の数は、30年あまり前の水準を下回ったまま推移しています。
一方で、温泉を使う宿泊施設の数は13,425軒で、前の年度より246軒増えています。
泊まる人が大きく増えない中で施設の数が増えれば、1軒あたりの取り合いは厳しくなります。
日帰りで入れる場所は、宿の半分以上ある
同じ環境省の統計では、温泉を使う公衆浴場が7,721か所あります。
温泉を使う宿泊施設が13,425軒ですから、その半分を超える数の「日帰りで温泉に入れる場所」が全国にあることになります。
宿が日帰り入浴を受け付けている場合も含めると、温泉を探す人が選べる先はさらに増えます。
日帰りの人にとって温泉は、遠くの名湯を目指すものから、週末に近くで入るものへと広がっています。
| 公的な数字 | 値 | 出典 |
|---|---|---|
| 客室稼働率(全体) | 61.6%(2025年) | 観光庁 宿泊旅行統計調査(確定値) |
| 客室稼働率(旅館) | 38.2%(2025年) | 観光庁 宿泊旅行統計調査(確定値) |
| 温泉地の数 | 2,839か所(2025年3月末) | 環境省 温泉利用状況 |
| 温泉を使う宿泊施設 | 13,425軒(2025年3月末) | 環境省 温泉利用状況 |
| 温泉を使う公衆浴場 | 7,721か所(2025年3月末) | 環境省 温泉利用状況 |
| 温泉地の延べ宿泊利用人員 | 1億2,541万人(2024年度) | 環境省 温泉利用状況 |
数字を自分の施設に置き換える
全国の数字は、自分の施設の帳面と並べたときに意味を持ちます。
まず、去年1年分の宿泊の記録を、曜日ごとと月ごとに並べます。
日帰り入浴の受付の記録があれば、同じように曜日と時間帯で並べます。
泊まる人の少ない曜日に日帰りの人が多いなら、その曜日は「日帰りの人に向けた日」として案内を組み立てられます。
反対に、泊まる人の多い土曜の夕方に日帰りの人が重なっているなら、泊まる人の満足を下げている時間帯があるかもしれません。
2つの記録を重ねるだけで、どの時間に、誰のための湯を開けるかの下書きができます。
温泉の集客が、ほかの宿や観光施設と違う理由
ホテルや観光施設と比べると、温泉施設には特有の難しさがあります。
ここを押さえておくと、ページに何を書けばいいかが見えてきます。
1つの浴場を、2種類の人が使う
温泉旅館の多くは、泊まる人のための浴場を、時間を区切って日帰りの人にも開けています。
日帰りの人から見れば、宿の湯に気軽に入れるありがたい仕組みです。
ただ、泊まる人から見ると、自分たちが入る浴場に外から人が来ることになります。
泊まる人が夕食の前にひと風呂浴びたい時間と、日帰りの人が仕事帰りに寄りたい時間は、重なりやすいのです。
この重なりを放っておくと、泊まる人の満足が下がり、口コミに「浴場が混んでいた」と書かれます。
湯について書けることに、決まりがある
温泉施設は、浴場に温泉の成分や入浴の注意を掲示することが温泉法で定められています。
掲示の中身は、環境省が示す基準に沿って、都道府県に届け出たものです。
一方で、ホームページやチラシの「効能」の書き方は、施設ごとにまちまちです。
浴場の壁には決められた言葉で注意が書かれているのに、ページには「万病に効く」といった言葉が並んでいる、という食い違いが起きます。
湯について書ける範囲を知っておくことは、施設を守ることにもつながります。
浴場の様子は、写真で伝わりにくい
客室や料理と違い、浴場は利用者がいる時間に写真を撮れません。
ページに載るのは、誰もいない浴場を広角で撮った写真になりがちです。
湯の色や肌ざわり、湯船から見える景色、脱衣所の広さ、洗い場の数は、写真だけでは伝わりません。
Q&Aサイトには、宿のホームページの写真と実際が違ったという声もたびたび投稿されています。
写真で伝わらない部分を言葉で補えるかどうかで、来た人の満足が変わります。
| 比べる点 | ホテルや観光施設 | 温泉施設 |
|---|---|---|
| 主な設備を使う人 | 泊まる人、または来た人のどちらか | 泊まる人と日帰りの人が同じ浴場を使う |
| 設備について書ける範囲 | 比較的自由に書ける | 成分や注意の掲示に法律の決まりがある |
| 写真で伝わること | 客室や展示はそのまま写せる | 浴場は人がいる時間に撮れず、湯の質感も写りにくい |
| 混雑の不満が出る場所 | 受付や駐車場 | 浴場と脱衣所 |
| ページで答える問い | 何があるか、いくらか | いつ、どの湯に、どう入れるか |
湯の季節と、人の季節がずれる
温泉に入りたくなる季節は、寒い時期に偏ります。
ところが、人が旅に出やすいのは、大型の連休や夏休みです。
夏の連休には部屋が埋まっても、日帰りの人は寒い時期ほど増えない、という施設も少なくありません。
冬の平日には湯が恋しくなる人が多いのに、休みが取れずに泊まりの旅には出られません。
湯の季節と人の季節のずれを知っておくと、冬の平日に日帰りの人を迎え、夏の連休には泊まる人の湯を守る、という切り分けが考えやすくなります。
よくある打ち手と、その先に起きること
平日に人が来ないとき、温泉施設の多くが同じような打ち手を試します。
どれも一度はやってみる価値があるものです。
ただ、浴場の使い方とページの中身を決めないまま続けると、手間ばかりが増えていきます。
予約サイトの割引プランを増やす
平日だけの割引プランを作り、予約サイトの目立つ枠に載せる。
一時的に予約は入りますが、割引をやめると元に戻ることがよくあります。
割引で来た人は、割引そのものを理由に来ているからです。
予約サイトから来る人が増えるほど手数料の負担も増え、1人あたりの手元に残る分は減っていきます。
しかも予約サイトの紹介文の枠は決まっていて、浴場ごとの時間割や、日帰りの人との分け方を書き込む余地はほとんどありません。
日帰り入浴の受付を、いつでも開ける
泊まる人が少ない日は、日帰りの人を少しでも多く迎えようと、受付の時間を長くする。
冒頭の相談の女将も、空いた浴場を少しでも売上につなげたいという気持ちで動いていたのだと思います。
ところが、受付の時間を日によって変えると、日帰りの人は来てみるまで入れるかどうか分かりません。
泊まる人がいる日に同じ感覚で受け付けると、夕方の浴場が混み、泊まる人の満足が下がります。
受付を広げるほど、浴場の掃除や湯の入れ替えの時間も削られていきます。
「美肌の湯」「万病に効く」と大きく書く
ページやのぼり旗に、湯の効き目を大きく書く。
温泉を探している人の目を引くので、つい言葉が強くなりがちです。
ただ、効き目をうたう言葉は、隣の施設も同じように使っています。
さらに、浴場に掲示している泉質や注意とページの言葉が食い違うと、読む人の信頼をかえって損ねます。
効き目を言いすぎた表現は、広告の表示に関する法律に触れるおそれもあります。
写真の投稿で、湯けむりの景色を見せる
写真の投稿サイトで、露天風呂や湯けむりの景色を毎日のように載せる。
若い世代に知ってもらうには、効き目のある方法です。
ただ、写真を見て興味を持った人が次に開くのは、施設の公式のページです。
そこで日帰りの時間や、貸切風呂の予約の方法がすぐに分からなければ、興味は「いつか行きたい場所」の棚にしまわれます。
| よくある打ち手 | その先で起きがちなこと | 先にしておくこと |
|---|---|---|
| 予約サイトの割引プランを増やす | 割引をやめると戻り、手数料も重くなる | 平日に泊まる理由を、値引き以外で1つ書く |
| 日帰りの受付をいつでも開ける | 泊まる人の時間と重なり、満足が下がる | 浴場ごと・時間ごとの受付の決まりを作る |
| 効き目を大きく書く | 掲示と食い違い、信頼を損ねる | 掲示している泉質と注意をそのまま載せる |
| 湯けむりの写真を投稿する | 飛んだ先のページで段取りが分からない | 日帰りの時間と入れる浴場を公式のページに書く |
| 貸切風呂を当日に受ける | 湯をためる間に待たせ、他の浴場の使い方が乱れる | 予約の方法と準備の時間を先に伝える |
泉質と効能の書き方には、決まりがある
温泉施設のページで、最も迷いやすいのが湯の説明です。
ここでは、温泉法と環境省の基準に沿って、何を書けて、どう書くと読む人に伝わるかを整理します。
浴場に掲示するものは、温泉法で決まっている
温泉法の第18条は、温泉を公共の浴用や飲用に使う人に、施設の見やすい場所へ、温泉の成分と禁忌症、入浴や飲用の注意を掲示するよう定めています。
2005年5月には温泉法施行規則が改正され、加水・加温・循環・入浴剤や消毒を行っている場合は、その旨と理由も掲示するよう義務づけられました。
2007年10月に施行された改正温泉法では、温泉の成分の分析を10年ごとに受け直し、掲示の内容を新しくすることも義務になりました。
つまり、浴場の壁に貼ってある掲示は、その施設の湯について、決められた手順で確かめられた情報です。
ページに湯のことを書くとき、いちばん頼りになる材料はすでに施設の中にあります。
禁忌症と注意は、2014年に見直されている
環境省は2014年7月、禁忌症と入浴上の注意の掲示の基準を、医学の新しい知見に沿って改めました。
通知の中で、禁忌症は次のように説明されています。
「禁忌症は、1回の温泉入浴又は飲用でも有害事象を生ずる危険性がある病気・病態である」
あわせて、病名などの表現は、できるだけ平易な言葉を使うことも示されています。
浴場の掲示がそれより前の古い文面のままになっていないか、ページに古い注意をそのまま写していないかは、一度確かめておく価値があります。
適応症は、効き目の約束ではない
同じ通知は、温泉療養の目的について、こう書いています。
「温泉療養は、特定の病気を治癒させるよりも、療養を行う人の持つ症状、苦痛を軽減し、健康の回復、増進を図ることで全体的改善効用を得ることを目的とすること」
さらに、温泉の成分だけで効き目を確定するのは難しいため、適応症の掲示の中身は都道府県の知事の判断に委ねられている、とも書かれています。
ページで「この湯で病気が治る」と言い切ると、施設がよって立つ掲示の考え方そのものとずれてしまいます。
適応症を載せるなら、浴場に掲示しているものと同じ言葉で、同じ範囲にとどめるのが安全です。
「かけ流し」かどうかは、優劣の話ではない
源泉かけ流しを売り物にしている施設は少なくありません。
ただ、環境省が2005年に出した利用者向けの案内には、こう書かれています。
「『循環ろ過方式』か『源泉かけ流し方式』かについては、どちらの方式が優れているということは一概には言えません」
湯の状態は、新しい湯がどれだけ入るか、利用者がどれだけいるか、浴槽の手入れがどうかによって変わる、というのがその理由です。
循環やろ過をしている施設も、その理由と手入れの方法を正直に書けば、読む人は納得して選べます。
| 書きたいこと | 避けたい書き方 | 掲示に沿った書き方 |
|---|---|---|
| 湯の種類 | 「名湯」「秘湯」とだけ書く | 掲示している泉質の名前を、そのまま書く |
| 効き目 | 「万病に効く」「必ず肌がきれいになる」 | 掲示している適応症を同じ言葉で載せる |
| 入ってはいけない人 | 何も書かない | 掲示している禁忌症を、平易な言葉のまま載せる |
| 湯の使い方 | 「源泉かけ流し」を大きく書くだけ | 加水・加温・循環・消毒の有無と理由を書く |
| 分析の時期 | 何も書かない | 掲示している分析の年月を書く |
掲示をページに写すときの順番
掲示をそのまま写真に撮って載せるだけでは、スマートフォンでは読めません。
まず泉質の名前と、湯の色やにおいなど、来た人が肌で感じることを短く書きます。
次に、加水・加温・循環・消毒の有無を、理由と一緒に書きます。
そのあとに、禁忌症と入浴の注意を、掲示と同じ言葉で載せます。
最後に、分析の年月と、掲示の全文を浴場で確かめられることを添えます。
この順番なら、湯の魅力を先に伝えながら、決まりに沿った情報も漏らさずに載せられます。
泊まる人と日帰りの人を、時間と浴場で分ける
ここからが、この記事でいちばん伝えたいところです。
泊まる人と日帰りの人の両方を迎える温泉施設は、浴場ごと・時間ごとに「誰のための湯か」を先に決め、それをページに書いておく必要があります。
決めておけば、受付に誰が立っても同じ案内ができ、冒頭の相談のような家族の言い争いも起きにくくなります。
浴場ごとの時間割を、紙に1枚で書く
まず、すべての浴場を縦に、1日の時間を横に並べた表を1枚作ります。
大浴場の男湯と女湯、露天風呂、貸切風呂のそれぞれについて、泊まる人だけの時間、日帰りの人も入れる時間、掃除と湯の入れ替えの時間を塗り分けます。
泊まる人の多い夕食前と朝は、泊まる人だけの時間にしておくのが一般的です。
日帰りの人を迎えるのは、チェックアウトのあとからチェックインの前まで、という施設が多いと思います。
平日と土曜の前の日で時間割を変えるなら、2枚に分けて書いておきます。
この1枚が、宿の中の決まりであり、ページに載せる案内の元になります。
貸切風呂は、予約の方法と準備の時間まで書く
貸切風呂は、日帰りの人にも泊まる人にも人気のある設備です。
ただ、冒頭の相談のように、湯をためるのに時間がかかる施設では、当日にその場で頼まれても応えられません。
ページには、予約制であること、予約の受付の方法、1回の利用時間、準備に必要な時間を書いておきます。
日帰りの人が使えるかどうか、使えるなら何時から何時までかも、はっきり書きます。
来る前に読めば、日帰りの人は電話で予約を入れてから来るか、大浴場に入ると決めてから来ます。
受付で「今日は使えません」と断る回数が減り、断られた人の残念な気持ちも生まれません。
男女の浴場の扱いを、日によって変えない
男湯と女湯の入れ替えをしている施設は、入れ替えの時刻をページに書いておきます。
泊まる人がいない日でも、女湯を貸切のように男女で使ってもらうことは、避けたほうが安全です。
厚生労働省は2020年12月、公衆浴場と旅館業の衛生等管理要領を改め、おおむね7歳以上の男女を混浴させないことを目安として示しました。
実際の決まりは、都道府県などの条例で定められています。
決まりの細かい扱いは地域によって違うので、迷ったときは施設のある地域の保健所に確かめてください。
女性のお客様が安心して選べるよう、女湯の扱いを変えないことをページにひとこと書いておくのも1つの方法です。
日帰り入浴を受けるときに確かめておくこと
宿が泊まる人以外に浴場を開ける場合、地域によっては、旅館業とは別に公衆浴場の営業の許可が要ることがあります。
すでに長く日帰り入浴を受けている施設も、受付の時間や浴場を広げるときには、保健所に一度確かめておくと安心です。
入湯税の扱いも、泊まる人と日帰りの人で違う市町村があります。
ページに日帰りの案内を書く前に、宿の中の手続きがそろっているかを確かめておきます。
| 浴場や設備 | 泊まる人だけの時間 | 日帰りの人も入れる時間 | ページに書くこと |
|---|---|---|---|
| 大浴場(男湯・女湯) | 夕食前と朝 | チェックアウト後からチェックイン前 | 入れ替えの時刻と、日帰りの受付の最終時刻 |
| 露天風呂 | 夜の時間帯 | 昼の時間帯 | 日帰りで入れるかどうかと、天候で閉める場合 |
| 貸切風呂 | 夕方から夜 | 予約がある場合の昼 | 予約制であること、予約の方法、準備の時間 |
| 休憩所 | 夜 | 日中 | 日帰りの人が休める場所と時間 |
| 掃除と湯の入れ替え | どちらも入れない | どちらも入れない | 入れない時間帯を先に伝える |
日帰りのページと、泊まるページを分けて書く
浴場の時間割が決まったら、それをページに書きます。
1つのページに泊まる人向けと日帰りの人向けの案内を混ぜると、どちらも自分に関係のある情報を探しにくくなります。
日帰りのページに書く順番
日帰りの人が最初に知りたいのは、今日、何時まで入れるかです。
ページの最初に、日帰りの受付時間と最終の受付時刻、休みの日を書きます。
次に、日帰りで入れる浴場と、入れない浴場を書きます。
タオルを借りられるか、シャンプーや石けんが置いてあるか、休憩所があるか、食事ができるかも並べます。
そのあとに湯の説明として、泉質と、加水・加温・循環・消毒の有無、禁忌症と注意を載せます。
最後に、混みやすい曜日と時間帯を正直に書いておくと、空いている時間を選んで来る人が増えます。
泊まるページに書く順番
泊まる人が最初に知りたいのは、どんな時間を過ごせるかです。
夕食前のひと風呂、夜の露天風呂、朝の湯といった1日の流れの中で、浴場がいつ、どう使えるかを書きます。
泊まる人だけが入れる時間帯があるなら、それをはっきり書いておきます。
日帰りの人が入る時間帯があることも、隠さずに書いておくほうが、来てからの不満が減ります。
貸切風呂を泊まる人に優先して割り当てているなら、そのことも書いておきます。
平日に泊まる理由を、値引き以外で書く
平日の空室を埋めたいとき、つい割引の話から始めてしまいます。
それより先に、平日に泊まると何がいいのかを書いておきます。
浴場が空いていて、夜の露天風呂を長く独り占めできる。
貸切風呂の予約が取りやすく、時間を気にせずに入れる。
温泉街が静かで、湯めぐりの共同浴場も混んでいない。
施設の人にとって当たり前の平日の様子が、平日に休める人にとっては、泊まる日を決める理由になります。
| ページ | 最初に書くこと | 続けて書くこと | 最後に添えること |
|---|---|---|---|
| 日帰りのページ | 受付時間と最終の受付時刻、休みの日 | 入れる浴場、借りられるもの、休める場所 | 混みやすい曜日と時間帯 |
| 泊まるページ | 1日の流れの中での浴場の使い方 | 泊まる人だけの時間、貸切風呂の扱い | 日帰りの人が入る時間帯 |
| 湯の説明 | 泉質の名前と、湯の色やにおい | 加水・加温・循環・消毒の有無と理由 | 禁忌症と注意、分析の年月 |
| 平日の案内 | 平日に泊まると何がいいか | 平日だけの過ごし方 | 平日の夜の浴場の写真 |
| 貸切風呂 | 予約制であることと予約の方法 | 1回の利用時間と準備の時間 | 日帰りの人が使えるかどうか |
施設を主役にせず、入る人を主役にする
ここまでの話を、ひとつの考え方にまとめておきます。
ページの最初に施設の歴史や湯の自慢を並べると、読む人は自分がどう過ごせるかを探して、ページを行き来することになります。
入る人が、いつ、どの湯に、どう入れるかを先に書き、施設はその時間の案内役として後ろに控える。
湯の説明も、浴場に掲示している決められた言葉をそのまま使い、言いすぎない。
この考え方を、私たちは「売れるサイトはみな謙虚」と呼んでいます。
温泉街の組合や観光協会ができること
ここからは、温泉街の旅館組合や観光協会で、地域の集客を考えている方に向けた話です。
1軒ずつの施設のページと同じ考え方が、温泉街全体の案内にも使えます。
湯めぐりの案内を、時間割でつなぐ
温泉街には、宿の大浴場、日帰りの施設、共同浴場がいくつも並んでいます。
ところが、それぞれの日帰りの時間がばらばらに書かれていると、湯めぐりをしたい人は1軒ずつページを開いて確かめるしかありません。
組合のページで、各施設の日帰りの受付時間と休みの日を1つの表にまとめると、湯めぐりの道筋がそのまま組めるようになります。
湯めぐりの手形のような仕組みがある温泉街なら、使える施設と時間を同じ表に載せておきます。
泉質の書き方を、温泉街でそろえる
同じ温泉街でも、施設ごとに泉質の書き方が違うと、読む人は別の湯なのか同じ湯なのか分からなくなります。
組合で、掲示している泉質の名前をそのまま使う、効き目を言いすぎない、という書き方の決まりをそろえておくと、温泉街全体の信頼が上がります。
源泉を共同で管理している温泉街なら、どの施設がどの源泉を使っているかを示すと、湯にこだわる人の目に留まります。
平日に開いている場所を、まとめて見せる
平日に泊まる人が少ないのは、1軒の宿だけの問題ではありません。
平日の夜に開いている飲食店や、平日でも入れる共同浴場が少ないと、泊まる人は「夜にすることがない」と感じます。
組合のページで、平日に開いている店と浴場を1つにまとめておくと、平日に泊まる理由が温泉街の単位で生まれます。
| 組合や観光協会の打ち手 | いま起きていること | 次にすること |
|---|---|---|
| 施設の一覧を載せている | 日帰りの時間がばらばらで湯めぐりが組めない | 各施設の日帰りの受付時間を1つの表にする |
| 泉質の説明が施設ごとに違う | 同じ湯なのか違う湯なのか分からない | 掲示の泉質名を使う書き方の決まりをそろえる |
| 平日の夜に開いている店が少ない | 泊まる人が夜にすることがない | 平日に開いている店と浴場をまとめて載せる |
| 共同浴場の案内が古い | 時間や休みの日が今と違う | 季節の切り替えのたびに一斉に確かめる |
| 写真が週末の賑わいばかり | 平日の静けさが伝わらない | 平日の夜の湯けむりの写真を加える |
地図検索と口コミの情報を、公式のページとそろえる
温泉を探す人は、公式のページだけを見ているわけではありません。
地図の検索や予約サイト、観光協会のページなど、施設の情報が載っている場所はいくつもあります。
日帰りの時間の食い違いを消す
まず、施設の情報が載っている場所を一覧にします。
それぞれに書かれた日帰りの受付時間、休みの日、入れる浴場を、公式のページと並べて確かめます。
地図の検索に載っている営業時間が宿のチェックインの時刻のままで、日帰りの受付時間と違っている、ということはよくあります。
1か所でも食い違いがあると、日帰りの人は来てから入れないと知ることになり、その不満は口コミに残ります。
浴場の口コミへの返信は、次に来る人への案内として書く
「浴場が混んでいた」「日帰りの人が多くて落ち着かなかった」という口コミには、言い訳よりも、何を変えたかを書いて返します。
泊まる人だけの時間を設けたことや、日帰りの受付を終える時刻を早めたことを書けば、これから泊まる人がその返信を読んで安心できます。
「湯がぬるかった」という声には、加温の有無と理由、季節による湯の温度の変化を、掲示に沿って説明します。
よくある質問
Q. 小さな宿でも、日帰り入浴を受けたほうがいいですか?
無理に受ける必要はありません。
浴場の数や人手に限りがあるなら、泊まる人の湯を守ることを先に考え、日帰りは平日の昼だけ、と絞るのも1つの方法です。
受けるなら、地域の保健所に必要な許可を確かめたうえで、時間割と受付の決まりを先に作ってください。
Q. 適応症をページに載せてもいいですか?
浴場に掲示している適応症と同じ言葉で、同じ範囲にとどめるなら、載せてかまいません。
掲示にない病名を足したり、「治る」と言い切ったりするのは避けてください。
迷ったときは、掲示を届け出た都道府県の担当の窓口に相談すると確実です。
Q. 循環ろ過をしていることは、書かないほうがいいですか?
浴場には、循環やろ過をしている場合、その旨と理由を掲示することが決められています。
ページでも同じことを、手入れの方法と一緒に書いておくほうが、来た人の不信を招きません。
環境省の案内のとおり、かけ流しか循環かで湯の優劣は決まりません。
Q. 泊まる人がいない日は、浴場を自由に使ってもらってもいいですか?
泊まる人がいない日でも、男女の浴場の扱いを変えることは避けたほうが安全です。
あとから来た日帰りの人と鉢合わせする心配があり、女性のお客様の信頼にかかわります。
空いた日を活かしたいなら、貸切風呂の予約を平日に受けやすくする工夫から始めてください。
Q. 外国から来る人向けに、まず何をすればいいですか?
まず日本語のページに、日帰りの時間、入れる浴場、入浴の決まりを書きます。
環境省は、安全な温泉の入り方をまとめた冊子を日本語のほか、英語、中国語、韓国語でも公開しています。
入れ墨の扱いなど施設ごとの決まりは、受付で揉めないよう、来る前に読めるページに書いておきます。
まとめ
温泉の集客は、知らせる量を増やすだけでは、平日の空いた客室と浴場が埋まりません。
観光庁の統計では、2025年の旅館の客室稼働率は38.2%で、6割以上の夜が空いています。
環境省の統計では、温泉を使う公衆浴場が全国に7,721か所あり、温泉を探す人の選び先はたくさんあります。
選ばれる施設は、泊まる人と日帰りの人を、浴場ごと・時間ごとに分けて迎え、それをページに書いています。
湯の説明は、浴場に掲示している泉質と禁忌症と注意を、同じ言葉で載せれば足ります。
施設を主役にせず、湯に入る人を主役にして、施設は案内役として後ろに控える。
その考え方が「売れるサイトはみな謙虚」です。
今日できる点検
最後に、今日のうちに自分の施設のページで確かめられることを表にまとめました。
全部を一度に直す必要はありません。
いちばん気になった1か所から始めてください。
| 点検する場所 | 確かめること | 直すときの方向 |
|---|---|---|
| 浴場の時間割 | 浴場ごと・時間ごとの使い方が紙に書かれているか | 泊まる人だけの時間と日帰りの時間を1枚にする |
| 日帰りのページ | 受付時間と最終の受付時刻が最初にあるか | 時刻と休みの日をページの最初に置く |
| 貸切風呂 | 予約制であることと準備の時間が書いてあるか | 予約の方法と日帰りで使えるかを書く |
| 湯の説明 | 掲示と同じ泉質の名前を使っているか | 掲示の泉質、禁忌症、注意を同じ言葉で載せる |
| 加水・加温・循環 | 有無と理由が書いてあるか | 掲示と同じ内容を、手入れの方法と一緒に書く |
| 平日の案内 | 平日に泊まる理由が書いてあるか | 空いている浴場や静かな夜の過ごし方を書く |
| 地図検索の情報 | 日帰りの受付時間が公式と同じか | 違っていれば今日のうちにそろえる |
点検してみて、どこから手をつければいいか迷ったときは、浴場の時間割を紙に1枚書くところから始めてください。
その1枚があれば、受付の案内も、日帰りのページも、泊まるページも、同じ決まりの上で書けます。
次の土曜が来る前に、自分の施設のページを、初めて湯に入りに来る人の目で上から読んでみてください。
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