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  3. ブランドストーリーの作り方 創業の苦労話が読まれない理由と書き直し方

ブランドストーリーの作り方 創業の苦労話が読まれない理由と書き直し方

2026 10/25
2026年10月25日
中野輝規
ブランドストーリーの作り方 創業の苦労話が読まれない理由と書き直し方

ホームページにブランドストーリーを載せたいが、何を書けばいいのか分からない。あるいは、書いてはみたものの、社長の苦労話や自慢話のようになってしまい、問い合わせにつながらない。

この記事は、そうした悩みを持つ中小企業の経営者とWeb担当の方に向けて書きました。

結論から言うと、反応がない原因の多くは、物語の主人公が社長や会社になっていることです。主人公をお客様に置き換えれば、同じ素材から読まれる文章が作れます。

目次

先に答え:主人公を「社長」から「お客様」に替えると読まれる

ブランドストーリーとは、会社の成り立ちや考え方を、物語の形でお客様に伝える文章のことです。

ここで押さえたいのは、読むのはお客様だという点です。お客様は、会社の歴史を知りたくて来ているわけではありません。自分の困りごとが、この会社で解決しそうかを確かめに来ています。

創業の苦労話は、社長にとっては大切な記憶です。ただ、初めて訪れた人にとっては、自分に関係のない他人の話に見えます。

読まれる文章は、お客様が抱えている状況から始まります。そこに会社がどう関わってきたかが、後ろに続きます。

この記事で答える4つのこと

次の4点を、順に書きます。

  1. 創業の苦労話や社長の想いを主人公にすると、なぜ読まれないのか
  2. 会社概要・代表挨拶・沿革と、役割をどう分けるか
  3. 自社の文章を、お客様が主人公の形に書き直す手順
  4. 景品表示法の面で、物語の中で気をつける表現

確かめた出典と、書かない範囲

法律に関わる部分は、消費者庁のページを2026年10月25日に開いて確かめた範囲だけを書きます。

確かめられなかったことは、確かめられなかったと書きます。

費用の話と、他社の事例は書きません。実在する会社の名前も出しません。

書き換えの例は、業種ごとによくある型を私が書いた例文です。実在する会社の文章ではありません。

Q&Aサイトで見た「経営者のストーリーは売上に影響するのか」という問い

先日、Q&Aサイトでこのような悩みを拝見しました。原文は載せず、要点だけを書き直して紹介します。

質問者さんは、経営者のストーリーや商品のストーリーが売上に影響すると聞く、と書いていました。創業当時の物語を耳にしたことはあるし、マーケティングでもストーリーを作ることが大切だと聞いた、という内容です。

そのうえで、物語が実際に売上に効くのか、根拠のある意見を教えてほしい、と尋ねていました。

回答は「ある」と「根拠はない」に割れていた

寄せられた回答は、大きく分けて2種類でした。

1つは、映画やテレビで紹介された商品を指名で買いに来るお客様が実際にいる、という販売員の体験談です。もう1つは、物語は大いに関係あるはずだという意見で、回答者自身が「根拠はない」と添えていました。

どちらも、自分の実感や身近な例からの意見です。数字で確かめた答えは、見当たりませんでした。

この質問から見える2つの疑問

私がこの質問から読み取ったのは、次の2つの疑問です。

1つ目は、物語に効果があるのか、という疑問です。

2つ目は、有名な創業者の物語と、自社の物語は同じ働きをするのか、という疑問です。質問者さんが挙げた例は、世に知られた人の話でした。名前を知られていない会社の社長が同じ話をしても、同じように読まれるとは限りません。

この2つ目の疑問が、中小企業のブランドストーリーを考えるうえで、いちばん大事な出発点になります。

知名度のある話と、無名の会社の話は読まれ方が違う

有名な人の創業譚は、読み手がすでにその人を知っています。だから苦労話にも興味を持って付き合ってくれます。

知名度が無い会社の場合、読み手は社長を知りません。苦労話を読む理由が、まだ無いのです。

読み手が付き合ってくれるのは、自分の悩みに近い話が出てきたときです。この順番を逆にすると、どれだけ誠実に書いても反応が薄くなります。

創業の苦労話が読まれない5つの症状

自社のページに、次の症状が出ていないか見てください。ひとつでも当てはまれば、主人公が会社側に寄っています。

症状 読み手の受け取り方 文章に起きていること
冒頭が創業年と創業者の経歴で始まる 自分に関係がないと感じて閉じる 時系列の説明が、物語の入口になっている
「想い」「こだわり」の形容詞が並ぶ 具体的に何をしているのか分からない 感情の言葉だけで、事実が書かれていない
苦労を乗り越えた話で終わる 立派だが、自分の悩みには届かない 解決された問題が、社長自身の問題になっている
「お客様に喜ばれたい」で締まる どこの会社でも言える内容に見える 他社と取り替えても読める文章になっている
実績や受賞歴が物語の途中に差し込まれる 自慢話に見えてくる 物語の流れと関係なく、強みが置かれている

どれも、社長が本当に経験したことを書いているので、嘘はありません。ずれているのは、誰の視点で語っているかです。

なぜ社長は自分の話を書いてしまうのか

ブランドストーリーを書くとき、素材として最初に思いつくのは、自分が一番よく知っている自社の歴史です。

苦労した記憶は鮮明で、書き始めると筆が進みます。ところが、書いた本人は読み手の気持ちになるのが難しい立場にいます。

自社のことを知りすぎているため、読み手が何を知らず、何を知りたいのかが見えにくくなります。ここで起きているのは、書き手の誠実さとは別の、立ち位置の問題です。

初めて訪れた人が最初に探しているもの

初めてホームページを訪れた人は、まず自分の用件がここで済むかを探します。

ブランドストーリーのページに来た人も同じです。会社に興味を持ち始めた段階ではありますが、読む理由は「この会社に頼んで大丈夫か」を判断することにあります。

つまり、ブランドストーリーの読み手が知りたいのは、会社の過去よりも、自分が頼んだときの未来です。過去の話は、その未来を信じる材料として使います。

社長が書いた原稿を、お客様が読むとどうなるか

実際の文章で、読み手の頭の中を追ってみます。次の例文は、製造業の中小企業でよくある型を私が書いたものです。実在する会社の文章ではありません。

社長が最初に書きがちな原稿の例

当社は1985年、先代が小さな工場を借りて創業しました。オイルショックの影響で資金繰りに苦しみ、何度も廃業を考えましたが、従業員とその家族の顔を思い浮かべて踏みとどまりました。

その後も取引先の倒産や設備の故障など、数々の困難がありました。それでも諦めずに技術を磨き続け、現在では多くのお客様から信頼をいただいています。

私たちは、これからもお客様に喜ばれる製品づくりを目指し、日々精進してまいります。

社長が心を込めて書いたことは、よく伝わります。嘘もありません。

この文章を、初めて訪れた購買担当者が読む場面を考えます。

読み手は段落ごとに、こう考える

1段落目で、購買担当者は「歴史のある会社らしい」と受け取ります。ただ、自分が探している部品が作れるかどうかは、まだ分かりません。

2段落目で、「大変だったのだな」とは思います。しかし、それは会社の内側の事情です。発注先として安心できる根拠になるのかは、読み取れません。

3段落目で、「お客様に喜ばれる」「日々精進」という言葉が出ます。どの会社のページにもある言い回しなので、ここで読むのをやめる人が多くなります。

読み手の判断材料は、最後まで出てきません。これが、誠実に書いたのに反応がない文章の正体です。

同じ素材でも、入口を変えると読まれる

苦労した経験は、捨てる必要がありません。使いどころを変えます。

たとえば、冒頭を「試作品を1個だけ頼みたいのに、どこにも断られた」という購買担当者の状況から始めます。そのうえで、「当社も創業期に、小ロットの注文をすべて断られた経験がある。だから1個から受けている」と、苦労話を理由として後ろに置きます。

苦労話は同じです。置く位置が変わっただけで、読み手にとっては「自分の悩みを分かっている会社」に変わります。

自社の文章の主人公を見分ける:主語を数える

自社のブランドストーリーが、誰を主人公にしているかは、主語を数えるとすぐに分かります。難しい分析は要りません。

主語を数える手順

文章を印刷するか画面に出し、各文の主語に印を付けます。「当社は」「私は」「創業者は」は会社側、「お客様は」「設計者の方は」「ご相談の方は」は読み手側です。主語が省かれている文は、前後の流れから判断します。

数え終わったら、会社側と読み手側の割合を出します。

主語の割合 診断 直し方
会社側が9割以上 社長の自己紹介になっている 冒頭の3行をお客様の状況に差し替える
会社側が6割から8割 会社の話が中心だが、読み手も登場する 読み手の登場を冒頭に寄せ、形容詞を行動に直す
会社側と読み手側が半々 物語として成立しやすい 順番を確かめ、創業の話が理由の位置にあるか見る
読み手側が7割以上 お客様中心の文章 会社の関わりが事実で書かれているか確かめる

数えた結果の例

冒頭で示した製造業の型の原稿は、全部で5文あり、主語はすべて「当社」「先代」「私たち」でした。会社側が10割です。

書き直した原稿は、全部で8文のうち、読み手側が3文、会社側が5文でした。会社側の方が多くても、冒頭の2文を読み手が占めているため、読み手は自分の話として読み始められます。

割合よりも、冒頭の主語が大切

主語の割合は、あくまで目安です。会社の対応を書く段では、会社が主語になるのは自然です。

見るべきは、冒頭の主語です。冒頭の数文が読み手の状況であれば、全体の割合が会社側に寄っていても、読まれ方はあまり変わりません。

読み手がブランドストーリーのページで確かめている3つのこと

ブランドストーリーのページに来る人は、会社の物語を楽しむ目的は薄く、判断のために読んでいます。何を確かめているのか、立場ごとに整理します。

読み手の立場 確かめていること 物語に必要な材料
初めて問い合わせを考えている人 自分の悩みを分かってくれる会社か 悩みの状況を、お客様の言葉で書いた冒頭
複数社を比べている人 他社と何が違うのか 違いが生まれた理由と、その具体的な行動
発注の決裁者 任せて失敗しないか 実際にやってきたことの事実と、変わらない約束
求職者や取引先 どんな考え方の会社か 判断の基準になった出来事と、そこから決めたこと

求職者や取引先に向けた物語は、社長の想いを中心にしてもよい場面です。ただ、ホームページのブランドストーリーの主な読み手は、上の3つの立場のお客様です。

立場ごとに文章を分けるか、1本にするか

小さな会社では、読み手ごとに別のページを作る余裕はありません。

その場合は、お客様の状況を冒頭、会社の考え方を中盤、約束を末尾に置いた1本にまとめます。求職者向けの想いは、採用ページに別に書くほうが、双方にとって読みやすくなります。

書く前に決める「この文章の読み手は誰か」

書き始める前に、読み手を1人に絞ります。「中小企業の経営者」と広く取るより、「試作を頼める先を探している、従業員30名の機械メーカーの購買担当者」まで絞ったほうが、書く言葉が具体的になります。

絞りすぎると他の人が読まなくなるのでは、と心配する方もいます。実際には、1人に向けて具体的に書いた文章のほうが、似た立場の人に届きます。

載せる前に決める:このストーリーに何をさせたいのか

ブランドストーリーを書く前に、このページに何をさせたいのかを決めておきます。ここが曖昧なまま書き始めると、社長の想いを全部詰め込んだ文章になりがちです。

目的が決まると、書く内容が決まる

目的ごとに、物語の中で優先する材料は変わります。

載せる目的 優先する材料 読み終えたあとの行動
問い合わせを増やしたい お客様の悩みの状況と、解決のきっかけ 問い合わせフォームへ進む
他社との違いを伝えたい 違いが生まれた理由と、具体的な行動 サービス紹介のページへ進む
初めての人の不安を減らしたい 失敗した経験と、そこから決めた約束 事例や料金の案内へ進む
採用の応募を増やしたい 判断の基準と、働く人の考え方 採用ページへ進む

目的を2つ以上にすると、文章の軸がぶれます。最初の1本は、1つの目的だけに絞って書くのが現実的です。

目的の決め方に迷ったとき

迷ったときは、いまのホームページで一番足りていないものを選びます。

アクセスはあるのに問い合わせがない場合は、「不安を減らしたい」か「違いを伝えたい」が候補です。そもそも会社を知ってもらえていない場合は、物語より先に、何をしている会社かを短く伝える文章が必要になります。

物語は、読んでもらえる状態になって初めて働きます。トップページで事業内容が伝わっていないなら、ブランドストーリーを足す前に、そこを直します。

「感動させる」を目的にしない

感動させることを目的にすると、苦労話を盛りたくなります。盛った文章は、読み手に見抜かれやすく、事実と食い違ったときの信用の傷も大きくなります。

目的は「判断の材料を渡す」に置きます。感動は、事実が丁寧に書かれた結果としてついてくるものです。

ここで言う「ブランドストーリー」の意味

この記事でいうブランドストーリーは、広告のキャッチコピーとは違い、数百字から数千字ほどの、読ませる文章を指します。

ただし、長ければよいわけではありません。短くても、お客様の状況から始まり、会社の関わり方が分かり、読み終えた人が次に何をするか迷わない文章なら、役目を果たします。

上位に出てくる解説の多くは、定義、作り方の5つの手順、有名企業の例を並べる構成でした。この記事はそこを繰り返さず、中小企業のホームページで実際に起きる「社長が主人公になってしまう」問題と、その直し方に絞って書きます。

次の章では、会社概要や代表挨拶など、似たページとの役割の分け方を整理します。

上位の解説をなぞると、社長の自己紹介になる理由

「ブランドストーリー とは」「作り方」「例」で検索すると、似た構成の解説が並びます。

私が2026年10月25日に上位の解説を数本開いて見出しを確かめたところ、定義の説明、重要とされる理由、5つの手順、有名企業の例という流れが共通していました。どれも間違いはなく、考え方の整理には役立ちます。

ただ、この流れのまま中小企業のホームページに当てはめると、思ったとおりに働かないことがあります。理由は、前提にしている会社の姿が違うからです。

解説の前提:すでに名前を知られている会社

有名企業の創業の物語は、読み手がその会社を知っているから成り立ちます。商品を目にする機会が多く、広告にも触れていて、そのうえで「どんな会社なのか」を知りたい人が読みます。

中小企業のホームページを訪れる人は、会社名を知らない状態から始まります。物語を読む前に、そもそも自分に関係がある会社かを判断している段階です。

前提が違うので、同じ順番で書くと、読み手が知りたい順番とずれます。

手順の最初が、会社の内側から始まる

多くの解説の手順は、最初に会社の存在意義や価値観を掘り下げるところから始まります。

内省としては大切な作業です。ところが、その結果をそのまま文章にすると、会社が語りたいことの一覧になります。

掘り下げた内容は、書く前の素材です。文章の順番は、読み手が知りたい順に組み直します。ここを飛ばして素材を並べたものが、読まれない苦労話の正体です。

「例」の読み方:真似するのは構造の部分

有名企業の例を読むと、自社でも同じような物語を書かなければ、と感じる方がいます。

真似できるのは、文章の雰囲気ではありません。誰のどんな困りごとから始まり、どう動いたか、という構造です。構造だけを持ち帰り、素材は自社のお客様から取ります。

上位の解説でよくある型 中小企業のホームページで起きること この記事での扱い
存在意義を掘り下げる 社長の想いの一覧になる 書く前の素材とし、文章は読み手の順に並べ直す
創業の動機を語る 創業年と経歴の説明で始まる お客様の状況の後ろに、理由として置く
有名企業の例を参考にする 規模や知名度の違いで真似できない 構造だけを借りる
感情に訴える 形容詞が増えて事実が減る 事実と行動で伝える
どのページにも展開する 同じ話が複数のページに重複する ページごとに役割を分ける

会社概要・代表挨拶・沿革との役割分担と、置き場所の判断

ホームページには、会社について書くページが何種類かあります。ブランドストーリーを足す前に、それぞれの役割を整理しておきます。

役割が混ざると、どのページにも同じ話が書かれ、読み手はどこを見ても同じ印象を受けます。逆に、役割が分かれていれば、1つの出来事を別の角度から書けます。

4つのページが答えている問い

次の表は、4種類のページが読み手のどんな問いに答えるかを整理したものです。

ページ 読み手の問い 書く内容 文体の向き
会社概要 実在する会社か。どこにあるのか 社名、所在地、設立、事業内容などの事実 短く、客観的に
代表挨拶 どんな人が経営しているのか 代表者の人柄、考え方、読み手への一言 一人称で、率直に
沿革 どのくらい続いている会社か 年表の形の出来事 日付と事実だけ
ブランドストーリー なぜこの会社に頼むのか お客様の状況、会社の関わり、約束 読み手の視点で、物語の形に

会社概要は、事実を並べる場所

会社概要は、実在性を確かめるためのページです。ここに物語を書き込むと、必要な事実を探す人の邪魔になります。

会社概要の書き方は、別の記事で詳しく整理しています。社名・所在地・事業内容といった項目を、どの順番で、どこまで書くかを知りたい方は、あわせて「会社概要の書き方を見直す 信頼が伝わり問い合わせにつながるページへ」を参照してください。

代表挨拶は、人柄を伝える場所

代表挨拶は、人柄と考え方を伝える場所です。社長の想いは、ここに書くのが自然です。

ここでの主人公は、書き手である代表者本人で構わないページです。読み手も、人柄を知りたくて開いています。

ブランドストーリーに社長の想いを詰め込む前に、代表挨拶に回せる内容がないか見直してください。

沿革は、日付と事実だけにする

沿革は、年表です。物語の形にすると、会社概要や代表挨拶と内容が重なります。

「1985年 創業」「2003年 現在地へ移転」のように、日付と出来事を短く書きます。読み手が会社の継続性を確かめるための資料なので、感想や評価は入れません。

ブランドストーリーは、判断の理由を渡す場所

ブランドストーリーは、上の3つのページに書けない内容を受け持ちます。「なぜこの会社に頼むのか」という問いへの答えです。

会社概要が事実、代表挨拶が人柄、沿革が時間の流れを示すのに対して、ブランドストーリーは、お客様が頼んだときに何が起きるかを物語の形で示します。

同じ出来事を、4つのページでどう書き分けるか

たとえば、創業期に大きな失敗をした経験があるとします。この出来事を、ページごとに書き分けた例を示します。

ページ 書き方の例
会社概要 事業内容や設立の事実だけを書き、失敗には触れない
代表挨拶 「創業期に大きな失敗をし、お客様に迷惑をかけた。その経験が今の姿勢のもとになっている」と、自分の言葉で書く
沿革 年表に「20XX年 事業の立て直しに着手」と事実だけ記す
ブランドストーリー お客様の悩みから始め、「だから当社は、最初にお客様の話を聞く手順を決めた」と、失敗を行動の理由として使う

出来事は1つでも、書く角度が違えば、4つのページを読んだ人は別々の情報を得ます。

どのページに置くか:トップ、会社概要、独立ページの判断

ブランドストーリーをどこに置くかは、文章の長さと、読み手がどの段階で読むかで決まります。

置き場所を決める判断表

置き場所 向いている長さ 向いている会社 注意すること
トップページ 3〜4行の要約と、続きへのリンク 事業内容が1つに絞られている会社 長く書くと、他の情報が押し下げられる
会社概要のページ 数百字の短い文章 会社の信頼を確かめる読み手が多い会社 事実の一覧と物語が混ざらないよう、見出しで分ける
独立したページ 1,000字から数千字 比較検討される期間が長い会社 メニューから見つけられる名前を付ける
サービス紹介のページの冒頭 数行 サービスごとにお客様の悩みが違う会社 サービスごとに別の物語を用意する手間がかかる

トップページは、要約と入口だけを置く

トップページは、初めて訪れた人が最初に見る場所です。ここに長い物語を置くと、事業内容や問い合わせの入口が下に押し下げられます。

置くなら、お客様の状況と会社の約束を、3〜4行にまとめます。続きは独立ページへのリンクで読んでもらいます。

会社概要のページは、信頼を確かめる読み手に向く

会社概要を開く人は、取引を検討していて、会社が信頼できるかを確かめている人です。

この人たちには、短い物語が効きます。事実の一覧の前か後に、見出しを分けて数百字ほど置きます。

独立ページは、比べている人のための場所

複数の会社を比べている人は、トップページだけでは決められません。判断の理由をもう少し読みたいと考え、メニューから会社について書かれたページを探します。

独立ページを作るなら、メニューの名前に注意してください。「ブランドストーリー」という言葉は、社内の言葉です。お客様は、「私たちについて」「当社の考え方」「選ばれる理由」といった言葉のほうが、自分の探しているページだと分かります。

迷ったときの判断の順番

次の順に確かめると、置き場所が決まります。

  1. 事業内容は、トップページだけで伝わるか。伝わらないなら、物語より先に直す
  2. 読み手は、比較して選ぶ段階か。そうなら、独立ページに置く
  3. 物語は、数百字に収まるか。収まるなら、会社概要のページに置いてもよい
  4. 数行に要約できるか。できるなら、トップページに入口だけ置く

ブランドと集客の関係を整理したい方は、「ブランディングとマーケティングの違いを徹底解説|統合戦略で成果を最大化」も参考になります。

トップページと会社概要に置く、短い版の書き方

独立ページに長い物語を書いたら、トップページや会社概要のために、短い版も用意します。長い版を削って作ると、要点がぼやけるので、短い版は別に書き起こします。

トップページ用:3〜4行の入口

トップページ用の短い版は、お客様の状況、会社の対応、続きへのリンクの3つで組みます。以下は、製造業の型で私が書いた例文です。

試作を1個だけ頼みたいのに、断られた経験はありませんか。当社は1個から引き受け、見積もりの前に必ず図面を拝見します。

→ 当社が1個から受ける理由を読む

この短さなら、トップページの他の情報を押し下げません。続きへのリンクの文言は、「ブランドストーリーを読む」と書く代わりに、読み手が得られるものを書いた言葉にすると、押される率が上がります。

会社概要用:数百字の版

会社概要のページに置く版は、400字から600字に収めます。

会社の事実の一覧とは、見出しで区切ります。事実の一覧の前に置くと、物語が先に読まれます。事実の一覧の後に置くと、信頼を確かめた人が続きを読みます。事業内容の確認が主な目的のページでは、後ろに置くほうが邪魔になりません。

長い版と短い版の整合を保つ

短い版と長い版で、書いている事実がずれないようにします。

「1個から引き受ける」と短い版に書いたのに、長い版では「条件によっては難しい」と書いていた、といった食い違いは、読み手の不信につながります。事実の一覧を1枚作り、すべての版がそこから書かれている状態を保ってください。

版ごとの違いの整理

版 長さ 置き場所 役割
入口版 3〜4行 トップページ 関心を引き、続きへ誘導する
標準版 400字から600字 会社概要のページ 信頼を確かめた人に、判断の理由を渡す
完全版 1,000字から2,000字 独立ページ 比較している人に、判断の理由を十分に渡す

物語の型を選び、順番に組む

置き場所が決まったら、次に物語の型を選びます。中小企業のホームページで使いやすい型は、大きく3種類あります。

型1:創業譚(会社の始まりを語る)

創業のきっかけや、事業を始めた事情を語る型です。社長が語りたくなる型でもあります。

この型は、きっかけが読み手の悩みとつながっているときに働きます。たとえば、「自分が以前、同じ悩みを抱えていた」という創業の理由なら、読み手は共感を持って読み進められます。つながりがないなら、代表挨拶や沿革に回したほうが読みやすくなります。

型2:顧客譚(お客様の変化を語る)

ある立場のお客様が、どんな状況で、どう会社と出会い、何が変わったかを語る型です。主人公はお客様になります。

中小企業のホームページでは、いちばん使いやすい型です。実際にあった依頼の経過を、個人が特定されない形で整理すれば素材になります。お客様の名前や会社名を出す場合は、必ず事前に許諾を得てください。

型3:仕事の流儀(判断の基準を語る)

会社が仕事の中で決めている判断の基準を、出来事を添えて語る型です。

「見積もりの前に、必ず現場を見る」「できないことは、できないと最初に伝える」といった基準が、どんな出来事から決まったのかを書きます。読み手は、自分が頼んだ場合の対応を想像できます。

3つの型の使い分け

型 主人公 向いている場面 書くときの注意
創業譚 創業者 創業の理由が読み手の悩みとつながっている 時系列の説明に流れないようにする
顧客譚 お客様 事例が少なくても、依頼の経過を整理できる 個人や会社が特定されないよう配慮し、許諾を得る
仕事の流儀 会社の判断 他社との違いを、行動で示したい 抽象的な理念に終わらせず、出来事を添える

3つを混ぜても構いません。ただし、1本の文章の中で主人公が入れ替わると、読み手は誰の話か分からなくなります。冒頭の主人公を決めたら、最後までそれを動かさないでください。

型ごとの書き出しの例

型を選んだら、冒頭の1文を決めます。冒頭の1文が決まれば、続きは自然に書けます。以下は、業種ごとの型に合わせて私が書いた書き出しの例です。

型 書き出しの例 次に続ける内容
創業譚 「見積もりを取っただけで営業の電話が続くのが嫌だった。だから、この仕事を始めた」 その経験から決めた、連絡の取り方の決まり
顧客譚 「親の家の片付けを頼もうにも、どこまで任せられるのか分からない」 初回の相談で、何を確認し、何を決めるか
仕事の流儀 「当社は、見積もりの前に、必ず現場を見ます」 その決まりができた出来事と、守っている手順

書き出しで避けたい4つの型

次のような書き出しは、読み手が最初の1行で離れやすいので避けます。

「当社は創業以来」で始まる書き出し。「私たちの想い」と宣言する書き出し。「お客様に喜んでいただくために」と目的から入る書き出し。「近年、市場環境は」と一般論から入る書き出し。

どれも、読み手の状況が出てくるまでに時間がかかります。冒頭の1行目から、読み手が自分のことだと気づける言葉を置いてください。

1本の文章を、どんな順番で組むか

型を選んだら、文章の順番を決めます。中小企業のホームページで読まれやすい順番を、段ごとに整理します。

5つの段で組む

段 書く内容 目安の長さ 主語
1. 状況 お客様が置かれている状況と、困りごと 150字から300字 お客様
2. 出会い そこに会社がどう関わったか 150字から300字 お客様と会社
3. 理由 会社がそう動く理由。創業の経験はここで使う 200字から400字 会社
4. 変化 関わったあとにお客様に起きたこと 150字から300字 お客様
5. 約束 これからも変えない約束と、次の一歩 100字から200字 会社とお客様

創業の苦労話は、3段目の「理由」で使います。冒頭から外し、理由として後ろに置くだけで、同じ素材が読み手の役に立つ形に変わります。

長さの目安は、置き場所で決まる

独立したページなら、全体で1,000字から2,000字ほどが読みやすい長さです。会社概要のページに置く場合は、400字から600字に絞ります。

長くなる場合は、小見出しで段を区切ります。読み手が途中から読み始めても、どの段か分かるようにするためです。

書いたあとに、冒頭の3行だけ読み返す

文章が書けたら、冒頭の3行だけを読み返します。そこに「当社は」「私は」から始まる文が並んでいたら、主人公が会社側に戻っています。

冒頭の3行にお客様の状況が出ていれば、そこから先は多少まとまりが悪くても、読み手は付いてきてくれます。

社内でよく出る反論と、その答え

ブランドストーリーを書き直そうとすると、社内で反論が出ることがあります。よく聞く声と、その答え方を整理します。

社内の声 背景にある気持ち 答え方
「創業の苦労を知ってほしい」 先代や社員の努力を無駄にしたくない 代表挨拶と沿革に残す。物語では、苦労を理由として使う
「お客様の話を前に出すと、会社が小さく見える」 会社の存在感が弱まる不安 お客様の悩みを理解していることが、会社の信頼になると説明する
「うちには、特別なエピソードがない」 派手な話がないと物語にならないという思い込み 日常の仕事の中の判断が素材になる。依頼の経過を整理する
「感動的な文章にしたい」 他社に埋もれたくない 判断の材料になる事実を書く。感動はその結果ついてくる
「長く書かないと伝わらない」 書き足りない不安 短く書いて、続きは事例のページに任せる

反論に答えるときは、読み手の行動を見せる

社内の議論は、好みの話になりがちです。

そのときは、アクセス解析で、会社について書かれたページの滞在時間や、そのページから問い合わせに進んだ割合を見せます。数字がなければ、お客様との商談で、最初に聞かれた質問を並べます。読み手が何を知りたがっているかを、事実で示せば議論が進みます。

書き直しで起きがちな失敗:盛る、年表に逃げる、借りる

反応がないと気づいた会社が、次にやりがちな直し方があります。どれも善意でやることですが、読まれない状態は変わりません。

先に、よくある失敗と直し方を表にまとめます。

やりがちな直し方 その後に起きること 直し方
苦労話を感動調に盛る 読み手が構え、事実との食い違いを疑われる 事実を淡々と書き、理由の段に回す
創業からの年表にする 沿革と同じになり、判断の材料が増えない 年表は沿革に任せ、物語は1場面に絞る
「想い」「こだわり」を形容詞で書く どの会社でも言える文章になる 行動と基準に置き換える
有名な言葉や格言を借りる 借り物の文章に見え、会社の声が消える 自社で決めている基準を書く
他社との比較で優位を書く 根拠を求められ、表示のリスクも生まれる 自社が決めている基準だけを書く
全ページに同じ文章を貼る 重複して、どのページも印象が薄くなる ページごとに役割を分ける

苦労話を感動調に盛る

反応が薄いと、もっと心を動かす文章にしたくなります。苦労を強調し、危機を劇的に描き、最後に救われた場面を置く、という書き方です。

読み手は、盛られた文章を敏感に感じ取ります。特に、取引の相手になりうる企業の担当者は、日頃から営業資料を読んでいるので、感動を狙った文章を警戒します。

事実を淡々と書いたほうが、結果として信じてもらえます。何が起き、何を決めたかを書き、感想は最小限にします。

創業からの年表にする

時系列で整理すれば、書きやすく、嘘も混ざりません。ただ、できあがるのは沿革と同じ内容です。

年表の形の文章は、読み手の「なぜこの会社か」への答えになりません。時間の流れを追うのをやめて、1つの場面を選び、そこに焦点を当てて書きます。

「想い」「こだわり」を形容詞で書く

「お客様第一の姿勢」「妥協のないこだわり」「誠心誠意の対応」。こうした言葉は、書いた本人にとっては本心です。

ところが、読み手には、どの会社のホームページにもある言葉として流れていきます。何をしているから「お客様第一」なのか、どこを妥協しないから「こだわり」なのかが書かれていないためです。

形容詞は、行動と基準に置き換えます。「お客様第一」と書く代わりに、「見積もりを出す前に、必ず現場を見に行く」と書けば、同じ想いが具体的に伝わります。

有名な言葉や格言を借りる

物語に重みを出そうとして、著名な経営者の言葉や、ことわざを引く場合があります。

借りた言葉は、会社の声を覆います。読み手が知りたいのは、この会社が何を基準に動いているかです。引用は、自社の基準を書いたあとに、補強として1つだけ添える程度にとどめます。

他社との比較で優位を書く

差別化したい気持ちから、「他社にはない技術」「業界で唯一」といった表現を入れる会社があります。

こうした比較は、根拠を求められます。さらに、事実と違った場合は、景品表示法の問題にもなりえます。次の章で、消費者庁のページで確かめた範囲を整理します。

全ページに同じ文章を貼る

せっかく書いた文章だから、と、トップ、会社概要、採用ページ、パンフレットに同じ文章を貼る会社があります。

同じ文章が複数の場所にあると、読み手はどこを見ても同じ印象を受け、新しい情報が得られません。検索結果でも、似た内容のページが並ぶと、どれを表示するか判断しづらくなります。ページごとに切り口を変えて書き分けます。

反応が悪いときに、会社が選びやすい「別の直し方」

文章を直す前に、見た目や仕組みを直す会社もあります。

写真を新しく撮る、デザインを変える、動画を作る、といった対応です。これらは、悪い対応ではありません。ただし、文章の主人公が会社のままなら、見た目だけ整えても、読み手の判断材料は増えません。

先に直すのは、冒頭の3行

見た目の改修には時間も手間もかかります。それに比べて、冒頭の3行を書き直すのは、1時間もあれば済む作業です。

先に冒頭を直し、読まれ方が変わるかを見てから、写真や動画に進みます。順番を逆にすると、かけた手間が結果に結びつきにくくなります。

直したかどうかを、どう確かめるか

直したあとは、そのページを読んだ人が次にどこへ進んだかを見ます。

アクセス解析で、ページの滞在時間、次に開かれたページ、そこから問い合わせに進んだ件数を、直す前と見比べてください。変化は、数週間単位で見ます。1日や2日の変動で判断すると、誤った結論に至ります。

外注や生成AIに頼むときの注意

ブランドストーリーの原稿を、外部の制作会社や生成AIに頼む会社もあります。手間は省けますが、頼み方を間違えると、どの会社でも言える文章が返ってきます。

素材を渡さずに頼むと、一般論が返ってくる

「うちの会社のブランドストーリーを書いてください」とだけ頼むと、誰にでも当てはまる、感動調の文章が出来上がります。

外部の書き手は、会社の中で起きた出来事を知りません。お客様が実際に使った言葉、会社が実際にした対応、創業期の経験といった素材を渡さなければ、一般的な言葉で埋めるしかないからです。

渡すべき素材の一覧

渡す素材 中身の例 書き手が使う場面
お客様の言葉 問い合わせで聞いた第一声を10件以上 冒頭の状況
会社の対応 受注から納品までの手順と、決めている基準 関わりの段
創業期などの経験 対応の理由になる出来事を1〜2件 理由の段
使ってはいけない表現 根拠のない最上級、他社の批判 全体
事実の一覧 創業年、所在地、事業内容 事実の確認

返ってきた原稿は、事実を1文ずつ確かめる

外部から返ってきた原稿は、そのまま公開しません。

書かれている数字、年、対応の内容が、事実と合っているかを、1文ずつ確かめます。特に生成AIは、渡していない事実を、もっともらしく書き足すことがあります。書き足された創業のエピソードや、実績の数が、会社の記録と一致するかを確かめてください。

公開前に確認する責任は、会社にある

文章を誰が書いても、公開した表示の責任は、事業者である会社にあります。

消費者庁の「優良誤認とは」のページには、故意でなく誤って表示した場合も規制の対象になると書かれています。外部の書き手が書いた数字や比較が事実と違っていても、会社が公開すれば、会社の表示になります。公開前の確認は、会社の側で行ってください。

外部に頼む範囲の決め方

全部を任せず、役割を分けると、品質が安定します。

素材集めと事実の確認は会社が行い、文章の整形と表現の調整を外部が担当する分け方が、手戻りの少ない形です。

物語を載せなくてよいケース

ここまで書き直しの方法を説明してきましたが、すべての会社にブランドストーリーのページが必要なわけではありません。

次のような場合は、物語を足すより先に、ほかの場所を直したほうが成果につながります。

状況 先に直すこと 理由
トップページで事業内容が伝わっていない 事業内容の説明と、問い合わせの導線 物語に進む前に離れてしまう
事例や実績が1件も載っていない 事例のページ 判断の材料が、物語より具体例のほうが強い
問い合わせフォームが分かりにくい フォームの項目と、ボタンの位置 興味を持った人が、行動に移れない
料金や進め方の説明が見つからない 進め方の説明ページ 比較する人が、判断の材料を探せない

物語は、読み手がすでに会社に興味を持っている状態で働きます。入口が整っていない段階では、書き直しの効果が出にくくなります。

物語が必要になる目安

物語が必要になるのは、事業内容は伝わっているのに、比較されて選ばれにくい場合です。

問い合わせは来るものの、他社と比べられて失注する。価格以外の理由で選ばれたい。こうした状況の会社では、判断の理由を渡す物語が働きます。

物語の中の「日本一」「No.1」と景品表示法:消費者庁のページで確かめた範囲

ブランドストーリーには、「業界で唯一」「地域でNo.1」といった言葉を入れたくなる場面があります。ここは、景品表示法との関係で注意が必要です。

この章では、消費者庁のページを2026年10月25日に開いて確かめた範囲だけを書きます。

確かめたページ

開いたのは、消費者庁の次の3つです。

  • 「景品表示法」のうち「表示規制の概要」のページ
  • 同じく「優良誤認とは」のページ
  • 2024年9月26日に公表された「No.1表示に関する実態調査報告書」と、その公表資料

「日本一」「業界最高」といった言葉ごとに、可否を直接示している箇所は、今回開いた範囲では見つけられませんでした。そのため、言葉ごとの判断はここでは書きません。

優良誤認表示とは

消費者庁の「表示規制の概要」のページには、優良誤認表示について、商品・サービスの品質、規格その他の内容について、実際のものよりも著しく優良であると一般消費者に示す表示、と書かれています。

もう1つ、事実に相違して、競争業者に係るものよりも著しく優良であると示す表示も、同じ優良誤認表示に含まれます。

物語の中で「他社より優れている」と読める文章を書く場合は、この2つ目に当たるかどうかを確かめる必要があります。

競争業者との比較に関する例

同じページには、この2つ目の例として、次の文章が挙がっています。

「この技術を用いた商品は日本で当社のものだけ」と表示していたが、実際は競争業者も同じ技術を用いた商品を販売していた。

ブランドストーリーの中で「この技術を使えるのは当社だけ」と書きたくなった場合は、本当に他社が同じ技術を使っていないかを、書く前に確かめておく必要があります。

故意でなくても規制の対象になる

消費者庁の「優良誤認とは」のページには、次の説明があります。

「なお、故意に偽って表示する場合だけでなく、誤って表示してしまった場合であっても、優良誤認表示に該当する場合は、景品表示法により規制されることになりますので注意が必要です。」

物語を書いた社長に悪意がなくても、数字や比較が事実と違っていれば、規制の対象になりえます。思い出で書いた数字や順位は、書く前に記録で確かめます。

裏付けとなる根拠の提出を求められることがある

同じページには、不実証広告規制の説明もあります。

商品・サービスの内容に関する表示が優良誤認表示に当たるかを判断する必要があるとき、消費者庁長官は、期間を定めて、表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出を求めることができます。資料が提出されない場合や、提出された資料が合理的な根拠と認められない場合は、不当表示とみなされる(措置命令との関係)と書かれています。

物語に書く性能や効果の言葉は、いつでも根拠の資料を示せる状態にしておく、と考えておくと安全です。

No.1表示に必要な4つの条件

2024年9月26日に消費者庁が公表した「No.1表示に関する実態調査報告書」には、主観的評価によるNo.1表示について、次の説明があります。

「当該調査の結果が合理的な根拠と認められるためには、少なくとも次の①から④までを満たしている必要がある」

その①から④は、次のとおりです。

番号 条件 物語に置き換えると
① 比較する商品等が適切に選定されていること 何と比べて1番なのかを書けるか
② 調査対象者が適切に選定されていること 誰に聞いた結果なのかを書けるか
③ 調査が公平な方法で実施されていること 自社に有利な聞き方をしていないか
④ 表示内容と調査結果が適切に対応していること 書いた言葉が、調査結果と一致しているか

「顧客満足度No.1」のような言葉を物語に入れるなら、この4点を自社の調査で説明できる状態が前提になります。

根拠の中身を把握していた広告主は、ヒアリングした15社中1社だった

同じ報告書には、広告主へのヒアリング結果も載っています。

ヒアリング対象の広告主の多数は、調査会社が「インターネット上で消費者に対してアンケートを実施していること」は把握していました。一方で、アンケート回答者がどんな質問に答えていたか、比較対象の競合がどこだったか、といった具体的な中身まで把握していたのは、ヒアリング対象広告主15社中1社だけでした。

つまり、No.1と書いている会社の多くが、その根拠の中身を自分で説明できない状態にありました。ブランドストーリーに最上級の言葉を入れるときは、根拠の中身を自社で説明できるかを先に確かめてください。

物語の中で数字や最上級を使うときの点検表

書きたい言葉 先に確かめること 確かめられない場合
「唯一」「当社だけ」 他社が同じことをしていないか、書く時点で確認したか 「当社が大切にしていること」と、自社の基準の形に書き換える
「No.1」「ランキング1位」 4つの条件を満たす調査の資料があるか 削る
「お客様満足度◯%」 誰に、どう聞いた結果か説明できるか 実際にいただいた声を、許諾を得て紹介する
「創業◯年」 登記や記録で確認できるか 記録で確認できる年だけを書く
「◯件の実績」 数えた期間と基準が分かるか 期間と基準を併記する

確かめられなかったことと、専門家への相談

この記事では、個別の表現が景品表示法に違反するかどうかは判断できません。

「日本一」「地域最大級」といった言葉の扱いは、消費者庁のページで直接の記載を見つけられなかったため、書いていません。迷う表現は、削るか、弁護士などの専門家に相談してください。

物語の強さは、最上級の言葉より、具体的な行動と事実から生まれます。最上級の言葉を使わなくても、書ける内容は十分にあります。

最上級の言葉を、事実と基準に言い換える

最上級の言葉を使わなくても、会社の強みは伝えられます。言い換えの方向は、「他社との比較」から「自社が決めていること」への切り替えです。

言い換えの例

以下は、業種ごとによくある表現の型を私が整理した例です。実在する会社の文章ではありません。

業種の型 比較で書いた表現 自社の事実と基準で書いた表現
製造業 業界で唯一の高精度加工 図面の公差を、受注の前に電話で確認している
士業 地域で最も相談しやすい事務所 初回の相談では、書類を持たずに来てもらい、話を聞くことから始めている
飲食 地域No.1の人気店 仕込みは毎朝その日の分だけ。足りなくなれば、早めに閉める
小売 品揃えは県内トップクラス 取り扱う商品は、店主が1つずつ使って決めている
工務店 地元で一番信頼されている 工事の途中経過を、毎週写真つきでお客様に送っている

右の列は、どれも自社で確かめられる事実です。読み手にとっても、頼んだときの様子を想像しやすい書き方です。

事実を書くときの3つの確認

事実を書く場合も、次の点は確認しておきます。

書いている内容が、現在も続いているか。過去にやめた対応を、いまも続けているように書くと、事実と違う表示になります。

数字に期間と範囲が付いているか。「実績多数」より、「過去3年間の依頼のうち、再依頼をいただいたのは◯件」のほうが、説明しやすくなります。

お客様の声や写真を使う場合に、許諾を得ているか。許諾の範囲を超えて載せると、お客様との信頼を損ないます。

お客様の声を物語に入れるときの注意

お客様の声を引用する場合は、載せる範囲を、書面かメールで確認してください。

お名前を出す場合と、業種と立場だけを出す場合では、確認する内容が違います。後者でも、小さな町や珍しい業種では、読む人が特定できる場合があります。載せる前に、本人に原稿を見てもらうのが確実です。

迷ったときは、削って読み比べる

最上級の言葉や数字を削った文章と、残した文章を読み比べてみます。

多くの場合、削った文章のほうが、読み手に届く印象は変わりません。削ってもよい言葉は、もともと判断の材料になっていなかった言葉です。

解決策:「売れるサイトはみな謙虚」の考え方で、主人公をお客様に置き換える

ここまでで、読まれない原因は、物語の主人公が社長や会社になっていることだと整理しました。

直し方は、足すことではありません。社長の想いを引き、お客様の状況を前に出します。この作業が、「売れるサイトはみな謙虚」の考え方です。

「売れるサイトはみな謙虚」とは、ウェブサイトから要素を引き算し、訪れた人が迷わず次の一歩に進める形へ組み直す、弊社の考え方です。

ブランドストーリーに当てはめると、会社が語りたいことを前に出す文章から、お客様が知りたいことに答える文章へ組み直す作業になります。

謙虚とは、会社を小さく見せることではない

謙虚という言葉から、会社を控えめに見せることを想像する方がいます。

ここでいう謙虚は、語る順番の問題です。会社の強みを隠すわけではありません。お客様の話を先に聞き、その後に会社の話をする、という順番にします。

同じ内容を書いても、順番が違うだけで、読み手が受け取る印象は大きく変わります。

引き算の基準は3つの問い

文章を見直すときは、1文ごとに次の問いを当てます。

この文は、読み手が知りたいことか。この文は、事実と言えるか。この文を消したら、読み手が困るか。

3つの問いのどれにも「いいえ」なら、その文は消して構いません。

主人公をお客様に置き換える書き直しの流れ言葉を集めるお客様の第一声絞る主人公を決める典型の1人並べる関わりを書く実際の行動選ぶ苦労話を置く理由の段へ

書き直しの流れは、お客様の言葉から始まる

図のとおり、書き直しは、お客様の言葉を集めるところから始めます。自社の歴史を整理するところからは始めません。

集めた言葉と事実を材料に、5つの段を組み、最後に読み返します。次の章から、各段の作業を順に説明します。

書き直しの5つのステップ

具体的な作業の手順を、5つに分けて説明します。1つの文章を直すのに、半日から1日ほどあれば足ります。

ステップ やること 出来上がるもの
1. お客様の言葉を集める 問い合わせや商談で聞いた言葉を書き出す お客様の悩みの一覧
2. 主人公を1人に決める 一覧から、典型的な1人の状況を選ぶ 1人分の状況の整理
3. 会社の関わりを事実で書く その人に対して、実際にした対応を書く 行動の一覧
4. 創業の経験を理由として置く 苦労話から、いまの対応の理由になる部分だけ選ぶ 理由の1〜2場面
5. 声に出して読み返す 冒頭3行と、最後の約束を確かめる 公開できる原稿

ステップ1:お客様の言葉を集める

まず、問い合わせのメールや商談のメモから、お客様が最初に口にした言葉を書き出します。

「納期に間に合うか心配だ」「他社で断られた」「何を頼めばいいか分からない」。こうした言葉は、整った表現でなくて構いません。お客様が実際に使った言葉のまま残すのが重要です。

10件から20件ほど集めると、同じ悩みが繰り返し出てきます。繰り返し出てくる悩みが、物語の入口になります。

ステップ2:主人公を1人に決める

集めた悩みの中から、いちばん典型的な1人を選び、その人の状況を具体的に整理します。

どんな立場で、何に困り、いつまでに解決したかったのか。ここまで具体的にすると、書く文章が自然に絞られます。

複数の立場を1本の文章に混ぜないでください。別の立場のお客様には、別の文章を用意します。

ステップ3:会社の関わりを事実で書く

次に、その主人公に対して、会社が実際にした対応を書き出します。

最初の連絡から、何日で返事をしたか。どんな質問をしたか。何を断り、何を引き受けたか。事実を時系列で並べると、会社の仕事の進め方が見えてきます。

「親身に対応した」と書くと形容詞になります。「最初の連絡から2日以内に、現場へ伺った」と書けば、行動になります。

ステップ4:創業の経験を理由として置く

ここで初めて、創業の苦労話や社長の経験を使います。

選び方の基準は、ステップ3で書いた行動の理由になるかどうかです。「小ロットの注文を断られ続けた経験があるから、1個から引き受けている」のように、行動とつながる経験だけを選びます。

つながらない苦労話は、代表挨拶に回します。捨てるわけではありません。置き場所を変えるだけです。

ステップ5:声に出して読み返す

書き上がったら、声に出して読みます。目で追うだけでは気づかない、文のつながりの悪さや、言い回しの硬さが見つかります。

確かめるのは、冒頭の3行にお客様の状況が出ているか。会社の話が先に出ていないか。最後に、約束と次の一歩が書かれているか、の3点です。

各ステップで起きやすいつまずきと、その対処

5つのステップは、どれも単純な作業に見えますが、実際に進めると止まる場所があります。つまずきやすい点を整理します。

ステップ よくあるつまずき 対処
1. 言葉を集める 記録が残っておらず、思い出せない 直近の問い合わせメールだけを使う。今後の分は、第一声を記録する習慣を付ける
2. 主人公を決める 複数の立場が混ざり、1人に絞れない 最も依頼が多い立場を選び、ほかは別の文章にする
3. 関わりを書く 「丁寧に対応した」としか書けない 最初の連絡から何日で何をしたかを、日付で並べる
4. 理由を置く 創業の話が長くなり、削れない 行動とつながる2文だけを残し、残りは代表挨拶に回す
5. 読み返す 社長の確認で、冒頭に想いが戻される 事実の確認だけを依頼し、置き場所の議論は事前に合意する

記録がないときは、これから残す

ステップ1で記録が残っていない会社は、今日から残す習慣を作ります。

問い合わせを受けたら、お客様が最初に口にした言葉を、そのまま1行メモします。1か月続けると、10件ほどは集まります。最初の1本は手元の素材で書き、素材が増えたら2本目を書く形で進めます。

時間がないときの最小版

半日しか取れない場合は、ステップ1とステップ2を省略して構いません。

直近で一番印象に残っているお客様を1人思い浮かべ、その人が最初に言った言葉を冒頭に置きます。そこに、会社が実際にした対応を2〜3文で続け、最後に約束を1文で添えます。これだけで、200字から300字の、最小の物語が書けます。

業種の型で見る:書き直しの前と後

実際の文章で、前と後の違いを見ていきます。以下の例文は、業種ごとによくある型を私が書いたものです。実在する会社の文章ではありません。

製造業の型

書き直し前は、次のような文章です。

当社は1985年の創業以来、金属加工一筋で歩んできました。創業期には資金繰りに苦しみましたが、技術を磨き続けて現在に至ります。

書き直し後は、次のようになります。

試作を1個だけ頼みたい。そう思って電話をかけても、「ロットがまとまらないと受けられない」と断られる。そんな経験をした設計者の方は少なくありません。

当社も、創業した頃に同じ経験をしました。小さな注文ほど、どこも相手にしてくれなかった。だから、いまは1個から引き受けています。見積もりの前に図面を拝見し、加工できない形があれば、先にお伝えします。

主人公が購買担当者や設計者に変わり、創業の苦労は「1個から引き受ける理由」として後ろに置かれました。

士業の型

書き直し前は、次のような文章です。

私は、困っている人の力になりたいという思いから、この道を選びました。誠心誠意、お客様に寄り添います。

書き直し後は、次のようになります。

手続きの書類を前にして、何から手を付ければいいのか分からない。そんなご相談を、よくいただきます。

初回のご相談では、書類をそろえていただく必要はありません。いま困っていることをお聞きし、やるべきことの順番を、その場でお伝えします。私自身が、初めての手続きで途方に暮れた経験があるからです。

「寄り添います」という形容が、初回相談の進め方という行動に変わりました。

飲食店の型

書き直し前は、次のような文章です。

先代から受け継いだ味を守り、素材にこだわった料理をご提供しています。

書き直し後は、次のようになります。

大切な人との食事で、失敗したくない。店を選ぶとき、そう考える方は多いはずです。

当店では、その日の仕込みを、その日に来てくださる人数に合わせて決めています。足りなくなれば、早めに閉めることもあります。先代の頃から変えていないのは、料理が出るまでの時間を、いつもの味と同じように守ることです。

「素材にこだわる」が、仕込みの量の決め方という行動に置き換わりました。

小売店や工務店の型

小売店や工務店の型でも、書き直しの方向は同じです。

業種の型 書き直し前の主人公 書き直し後の主人公 行動として書く内容
小売店 店主の商品へのこだわり 贈り物の選び方に迷う人 店主が使って決めた商品だけを置いている理由
工務店 先代からの家づくりの歴史 家づくりの費用や工期に不安を持つ人 工事の途中経過を毎週写真で送る仕組み
美容や整体の型 院長の開業までの経緯 通い続けても変化が分からない人 施術の前後の変化を、毎回記録して見せる習慣
事務や制作の代行 創業者の経歴 外部に任せて失敗した経験がある人 作業前に、任せる範囲を書面で確認する手順

前後の違いを一言で言うと

どの型でも、変わったのは「誰の話か」と「何を書いたか」の2点です。

主人公が会社からお客様に変わり、形容詞が行動に変わりました。創業の経験は消えておらず、行動の理由という位置に収まっています。

顧客譚の書き方:お客様の許諾と、特定されない工夫

顧客譚を書くときは、実際にあった依頼の経過を素材にします。ここで気をつけたいのが、お客様の許諾と、個人や会社が特定されない工夫です。

許諾の範囲を、先に決めて書面に残す

お客様の話を使う前に、どの範囲まで載せてよいかを確認します。

確認する項目は、社名や名前を出すか、業種と立場だけにするか、写真を使うか、金額や納期などの数字を出すか、の4点です。口頭だけで済ませると、後から食い違いが起きます。メールで確認し、返信を残しておく方法でも構いません。

許諾が取れないときは、複数の依頼を重ねて型にする

許諾が取れない場合や、依頼が少ない場合は、複数の依頼に共通する状況を重ねて、1人の典型的な主人公を作る方法があります。

このとき、事実とは異なる内容を、実在のお客様の話として書いてはいけません。「よくあるご相談の型」と断り書きを添え、特定のお客様の話ではないことを明示します。

士業の型:顧客譚の例

以下は、士業の型で、特定のお客様を想定せず、よくあるご相談の型として私が書いた例文です。

親が亡くなったあと、何から手を付ければいいのか分からない。通帳や書類は出てきたけれど、順番が分からないまま数週間が過ぎてしまった。そんなご相談を、よくいただきます。

初回のご相談では、まず、いま手元にあるものをお聞きします。そのうえで、期限があるものと、急がなくてよいものを分けて、今月やることを1枚の紙にまとめます。

私は、ここを最初に整理しないと、不安だけが膨らむことを、自分の家族の経験から知りました。だから、手続きの説明より先に、順番を整理することから始めています。

主人公の状況から始まり、会社の対応が行動で示され、経験が理由として添えられています。

美容や整体の型:顧客譚の例

もう1つ、通い続けても変化が分からないと感じている人を主人公にした、美容や整体の型の例文です。

何度か通ったけれど、良くなったのか、変わらないのか、自分では分からない。そう感じて、通うのをやめてしまった方は少なくありません。

当店では、毎回の施術の前に、体の動きを同じ手順で確認し、写真と記録で残します。次にいらしたときに、前回との違いを一緒に見られるようにするためです。

私自身、以前通っていた店で、変化が分からず通うのをやめた経験があります。だから、変化を見える形にすることを、最初の決まりにしました。

事務や制作の代行の型:顧客譚の例

外部に仕事を任せて失敗した経験がある人を主人公にした、事務や制作を代行する会社の型です。

外部に任せたら、思っていた内容と違うものが届いた。その経験から、もう頼みたくないと感じている方に、よく出会います。

当社では、作業に入る前に、任せていただく範囲と、仕上がりの基準を書面で確認します。基準が決まるまでは、作業を始めません。

私たちも、以前は口頭の確認だけで進めて、行き違いを起こしたことがあります。その反省から、確認の手順を先に置くようになりました。

3つの例に共通する形

3つの例は、どれも次の形になっています。

段 3つの例で共通していること
状況 お客様が口にしそうな言葉で始まる
関わり 会社の対応が、時期や手順などの行動で書かれている
理由 会社の経験が、1文か2文で添えられている
約束 次にお客様が取る行動が、小さな一歩になっている

この形を覚えておけば、自社の素材を当てはめるだけで、書き始められます。

書き直した文章を、業種の型ごとに点検する

書き直しが終わったら、業種の型に合わせて、次の点を確かめます。

点検すること 確かめ方 直し方
冒頭に、読み手の状況が出ているか 冒頭の3行に「当社は」「私は」が入っていないか見る お客様の悩みの文に差し替える
形容詞が行動に変わっているか 「こだわり」「誠心誠意」「寄り添う」を検索する 具体的な行動と数に置き換える
苦労話が理由の位置にあるか 創業の話が、冒頭にないか確かめる 3段目の理由に移す
最上級の言葉に根拠があるか 「唯一」「No.1」を検索する 根拠が出せなければ削る
最後の約束が具体的か 最後の段を読み、頼んだ後の様子が分かるか見る 守っている手順を1つ書く
次の一歩が1つに絞られているか 問い合わせの案内が何回出るか数える 1か所に絞る

担当者が自分で書くときの落とし穴

社内の担当者が書くと、社長の確認を通すうちに、元の言葉が戻ってしまうことがあります。

「ここに創業の想いを入れてほしい」と言われたときは、入れる場所を3段目の理由に限る、と決めておきます。ルールを先に共有しておけば、修正のたびに議論せずに済みます。

社長の確認は、事実の確認に絞ってもらう

社長に確認してもらうときは、「この文章をどう思うか」と聞かずに、「事実と違うところはないか」と聞きます。

好みの確認は、書き直しを繰り返す原因になります。事実の確認に絞ると、1回か2回の修正で収まります。

素材の集め方、完成例、公開後の運用

「書くことがない」と感じる会社でも、素材は社内にあります。聞き取りの質問を決めておくと、短時間で集まります。

営業担当や現場の人に聞く質問

社長だけに聞くと、会社の歴史と想いの話に偏ります。お客様と日々接している営業担当や現場の人に、次の質問をします。

質問 引き出したいもの 物語のどこで使うか
初めて連絡をくれた人は、最初に何と言ったか お客様の悩みの言葉 1段目の状況
断られたことが多いのは、どんな頼み事か 他社と違う引き受け方 2段目の関わり
仕事の途中で、必ず確かめていることは何か 会社の基準 3段目の理由
終わったあとに、お客様がよく口にする言葉は何か お客様の変化 4段目の変化
絶対に守っている決まりごとは何か 会社の約束 5段目の約束

聞き取りの進め方

1人あたり30分ほどを目安に、5つの質問を順に聞きます。聞いた内容は、整えずに、言われたままの言葉で記録します。

質問の答えが「いろいろあります」と抽象的なときは、「直近で一番最近の例を1つ教えてください」と返します。具体的な出来事を1つ聞き出せれば、そこから行動を書き出せます。

社長への聞き取りは、最後に回す

社長への聞き取りは、現場の人の話を聞いたあとに行います。

現場の話を先に聞いておけば、社長の創業の話の中から、いまの対応の理由になる部分を選べます。順番を逆にすると、創業の話が長く出てきて、選び取る作業が難しくなります。

1本の完成例を分解して見る

ここまでの手順を、1本の文章にまとめた例を示します。製造業の型で、独立ページに置く場合の文章です。実在する会社の文章ではありません。私が書いた例文です。

完成例(製造業の型・約500字)

試作を1個だけ頼みたい。そう思って何社かに電話をかけたのに、「ロットがまとまらないと受けられない」と断られる。設計者の方から、そんな話をよく聞きます。

当社も、創業した頃に同じ経験をしました。小さな注文ほど、どこも引き受けてくれなかった。その悔しさから、いまは1個から受注しています。

見積もりをお出しする前に、必ず図面を拝見します。加工が難しい形や、公差が厳しい箇所があれば、その場でお伝えします。受けられない場合も、理由を添えてお返事します。

試作を終えた設計者の方からは、「次の量産の相談もしやすくなった」というお声をいただくことが増えました。

当社の約束は、できないことを、最初にお伝えすることです。まずは図面を1枚、お送りください。

完成例を段ごとに分解する

段 完成例のどの部分か 主語 使った素材
1. 状況 試作を1個頼みたいのに断られる 設計者 問い合わせで聞いた言葉
2. 出会い 見積もりの前に図面を拝見する 会社 実際の受注の手順
3. 理由 創業した頃に同じ経験をした 会社 創業期の苦労話
4. 変化 次の量産の相談もしやすくなった 設計者 お客様の声
5. 約束 できないことを最初に伝える。図面を1枚送る 会社と読み手 会社の基準と次の一歩

創業の苦労話は、全体の中で2文だけです。それでも、1個から受注している理由として、読み手に届きます。

完成例で、あえてやっていないこと

この例文では、創業年を書いていません。受賞歴や実績の数も入れていません。

それらは会社概要や事例のページで伝わる情報です。ブランドストーリーに入れると、読み手の注意が、物語の主線から離れてしまいます。

公開したあとの運用:更新と事実の鮮度

ブランドストーリーは、書いて終わりにすると、時間とともに事実とずれていきます。公開後の運用も決めておきます。

年に1回、事実を見直す

物語の中で書いた対応が、いまも続いているかを、年に1回確認します。

担当者が変わった、受付の体制が変わった、といった理由で、書いた約束が守れなくなる場合があります。守れなくなった約束を書いたままにすると、お客様の期待を裏切ります。景品表示法の面でも、事実と違う表示になりえます。

お客様の声を、新しい物語の素材にする

お客様から新しい声をいただいたら、顧客譚の素材として記録しておきます。

半年に1本ずつ、別の立場のお客様の物語を足していくと、読み手が自分に近い話を見つけやすくなります。1本の長い物語を磨き続けるより、短い物語を増やす方が、手間もかかりません。

反応の確かめ方

公開後の反応は、次の3つの数字で見ます。

見る数字 見る場所 読み取れること
ページの滞在時間 Googleアナリティクス 最後まで読まれているか
次に開かれたページ Googleアナリティクス 事例や問い合わせに進んでいるか
問い合わせの件数 問い合わせの記録 物語を読んだ人が行動したか

数字が動かない場合は、冒頭の3行に戻ります。ほとんどの場合、冒頭にお客様の状況が出ていないことが原因です。

他のページとの関係と、書き直しの進め方

ブランドストーリーは、ホームページ全体の中の1つの部品です。ほかの文章との関係を整理しておくと、書くべき内容が絞れます。

キャッチコピーは入口、ブランドストーリーは続き

キャッチコピーは、短い言葉でお客様の関心を引き、続きを読んでもらうための入口です。ブランドストーリーは、その続きで、判断の理由を渡す文章です。

キャッチコピーで「試作を1個から引き受けます」と言い切り、ブランドストーリーで「なぜ1個から引き受けるのか」を語ると、2つがつながります。キャッチコピーの作り方は、「キャッチコピーの作り方 売れるサイトの見出しを5つの手順で作る」で整理しています。

事例のページとの役割分担

事例のページは、実際にあった個別の依頼を、一件ずつ紹介する場所です。ブランドストーリーは、それらの事例に共通する会社の姿勢を、1つの物語にまとめる場所です。

事例が多い会社は、ブランドストーリーを短くして、詳しい話を事例のページに任せるほうが読みやすくなります。逆に、事例が少ない会社は、ブランドストーリーが事例の代わりを務める場面が増えます。

採用ページとの役割分担

採用ページの読み手は、求職者です。ここでは、社長の想いや、働く人の考え方を前に出して構いません。

同じ会社の物語でも、読み手が違えば主人公も違います。お客様向けの文章には顧客を、求職者向けの文章には働く人を置きます。

ページ 読み手 主人公 書く中心
キャッチコピー 初めて訪れた人 お客様 一言の約束
ブランドストーリー 判断中のお客様 お客様 判断の理由と約束
事例 具体例を見たい人 個別のお客様 依頼の経過と結果
代表挨拶 人柄を知りたい人 代表者 人柄と考え方
採用 求職者 働く人 仕事の進め方と価値観

書き直しを1週間で終わらせる進め方

書き直しは、まとまった時間を取れなくても、1週間に分ければ進められます。担当者が1人で進める場合の例を示します。

日 作業 所要時間の目安
1日目 問い合わせのメールや商談のメモから、お客様の言葉を10件以上書き出す 1時間から2時間
2日目 営業担当や現場の人に、5つの質問を聞く 1人30分
3日目 主人公を1人に決め、5つの段の骨組みを作る 1時間から2時間
4日目 創業の経験から、理由になる場面を選び、文章を書く 2時間
5日目 声に出して読み返し、冒頭3行と約束を確かめる 1時間
6日目 数字や最上級の言葉の根拠を確かめ、社長に事実を確認してもらう 1時間
7日目 公開し、反応を見る数字を記録し始める 30分

先に社長と合意しておくこと

作業を始める前に、社長と2つのことを合意しておきます。

1つは、創業の苦労話は削らずに、3段目の理由に使うこと。もう1つは、社長の確認は、事実の確認に絞ること。この2点が決まっていれば、書き直しの手戻りが減ります。

完璧を目指さず、1本を出す

最初から完璧な文章を目指すと、公開が遅れます。

主人公をお客様に置き、冒頭の3行にお客様の状況を書けていれば、最初の1本としては十分です。公開して反応を見てから、残りを磨いていきます。

読み終えた人が迷わない導線を作る

ブランドストーリーを読み終えた人は、次にどこへ進むかを探しています。ここで道が見つからないと、せっかく読まれても、そのままページを閉じられます。

次の一歩を、物語の最後に1つだけ置く

物語の最後には、次の一歩を1つだけ置きます。問い合わせフォーム、電話、事例のページなど、複数の選択肢を並べると、読み手は迷います。

迷いを減らすには、読み手の段階に合わせて選びます。初めて読んだ人には「事例を見る」、比較している人には「図面を送る」「相談の予約をする」のように、小さな一歩を選びます。

置き場所と、行き先の表

読み手の段階 置く導線 理由
会社を知り始めた人 事例や、サービス紹介のページへのリンク 具体例を見て、判断の材料を増やせる
比較している人 相談や見積もりの案内 頼んだ場合の様子を確かめられる
依頼を決めかけている人 問い合わせフォームや電話番号 迷わず次の行動に移れる

スマートフォンで読まれる前提で書く

ブランドストーリーのページは、スマートフォンで読まれることが多いと考えて書きます。

1文を短くし、1つの段落は1〜2文にとどめ、小見出しで区切ります。画面を縦にスクロールしながら読む人に、長い段落は負担になります。表やリストも、横にはみ出さない大きさに収めます。

写真は、物語の補助として使う

写真を入れる場合は、物語の内容に合ったものを選びます。社長の顔写真や社屋の外観は、代表挨拶や会社概要のページに置いたほうが、読み手が探しやすくなります。

ブランドストーリーのページには、仕事の様子や、お客様に渡す資料、現場の作業の手元など、行動を見せる写真が合います。写真の下に、1行の説明を添えると、読み手は何の場面か分かります。

見出しは、読み手の言葉で付ける

物語の中に小見出しを付ける場合は、読み手が自分の悩みに近い場所を探せる言葉にします。

「創業の想い」「私たちのこだわり」のような見出しより、「試作を1個だけ頼みたいとき」「手続きの順番が分からないとき」のように、読み手の状況を書いた見出しのほうが、先を読んでもらえます。

冒頭だけを差し替えて、読まれ方を比べる

書き直しが終わったあと、効果を確かめる簡単な方法があります。冒頭の3行だけを差し替えて、読まれ方を比べる方法です。

比べ方の手順

現在公開している冒頭の3行をAとします。お客様の状況から始まる冒頭の3行を、Bとして用意します。

まず、Aのまま2週間ほど数字を記録します。次に、Bに差し替えて、同じ長さの期間で数字を記録します。見る数字は、ページの滞在時間、次に開かれたページ、問い合わせの件数の3つです。

比べるときの注意

期間を同じ長さにそろえ、広告の出し方や繁忙期など、ほかの条件が大きく変わっていないかも確かめます。

件数が少ない会社では、数字の差がわずかでも、偶然の範囲かもしれません。数字だけで結論を出さず、お客様との商談で、物語に触れた発言があったかどうかも合わせて記録します。

差し替えのあとに残すもの

差し替えの前後の文章は、日付を付けて残しておきます。

どの版で何が起きたかを後から見返せると、次に書き直すときの手がかりになります。社内で引き継ぐ場合にも、経緯を説明する資料になります。

よくある質問

ブランドストーリーについて、中小企業の方から聞かれることの多い質問に答えます。

Q. ブランドストーリーは、そもそもホームページに必要ですか。

必須ではありません。ただ、同業の会社と比べられる場面が多い会社には、有効です。

事業内容や実績だけでは違いが伝わらないとき、「なぜこの会社に頼むのか」への答えを、物語の形で渡せます。事業内容がまだ伝わっていない場合は、物語より先に、何をしている会社かを短く伝える文章を整えてください。

Q. 創業の苦労話は、書いてはいけませんか。

書いて構いません。書く場所と順番が問題です。

冒頭に置くと、初めて訪れた人には自分に関係のない話に見えます。お客様の状況の後ろに、いまの対応の理由として置くと、読み手の役に立つ話に変わります。長い苦労話は、代表挨拶に回す方法もあります。

Q. 実績や数字は、物語に入れるべきですか。

物語の主線に入れる必要はありません。実績や数字は、会社概要や事例のページのほうが、読み手が探しやすい場所です。

物語に数字を入れる場合は、期間と範囲を添え、根拠をいつでも示せる状態にしておきます。「No.1」のような最上級の言葉は、消費者庁の報告書が示す4つの条件を満たす調査がなければ、使わないでください。

Q. 文章が苦手で、うまく書けません。どうすればいいですか。

文章の上手さは、あまり関係しません。必要なのは、お客様が実際に使った言葉と、会社が実際にした行動の記録です。

素材さえ集まれば、5つの段に当てはめるだけで、読まれる骨組みはできます。書くことが難しい場合は、素材を箇条書きでまとめて、第三者に文章へ整えてもらう方法もあります。その場合も、事実の確認は会社の側で行ってください。

Q. 書き直した効果は、どのくらいで分かりますか。

数週間単位で見てください。1日や2日の変動で判断すると、誤った結論に至ります。

見るのは、ページの滞在時間、次に開かれたページ、問い合わせの件数です。変化が出ない場合は、冒頭の3行にお客様の状況が出ているかを、まず確かめます。

まとめ

ブランドストーリーが読まれない原因の多くは、物語の主人公が社長や会社になっていることです。

読み手は、会社の歴史より、自分の悩みが解決しそうかを確かめるために読んでいます。主人公をお客様に置き換え、創業の苦労話は、いまの対応の理由として後ろに置きます。

会社概要は事実、代表挨拶は人柄、沿革は時間の流れ、ブランドストーリーは判断の理由と、役割を分けて書き分けます。置き場所は、トップ、会社概要、独立ページから、文章の長さと読み手の段階で選びます。

物語の中の「No.1」「唯一」などの言葉は、消費者庁の「優良誤認とは」のページで、故意でなく誤って表示した場合も規制の対象になると説明されています。2024年9月に公表された報告書では、No.1表示の根拠として、比較対象、調査対象者、調査方法、表示と結果の対応の4点が示されました。ヒアリングした広告主15社のうち、調査の具体的な中身を把握していたのは1社でした。

「売れるサイトはみな謙虚」の考え方で、会社が語りたいことを引き、お客様が知りたいことに答える順番へ組み直してください。

今日できる点検

点検すること 確かめ方 結果の使い方
冒頭の3行の主語 「当社は」「私は」で始まる文がないか見る お客様の悩みの文に差し替える
形容詞の数 「こだわり」「誠心誠意」「寄り添う」を検索する 行動と数に置き換える
創業の苦労話の位置 冒頭に置かれていないか確かめる 3段目の理由に移す
同じ文章の重複 トップ、会社概要、採用ページを見比べる ページごとに役割を分けて書き直す
最上級の言葉 「唯一」「No.1」「日本一」を検索する 根拠が出せなければ削る
物語の中の数字 期間と範囲が書かれているか見る 期間と範囲を添えるか、削る
現在も続いている対応か 書いた約束を、担当者に確認する 続いていないものは書き換える
次の一歩の数 問い合わせの案内が何回出るか数える 1か所に絞る

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合同会社謙虚 代表社員。20代から、売る言葉だけを仕事にしてきました。電話営業で受話器を握っていた時代から、数千社のWEB集客に関わったいままで。詳しいプロフィールはこちら

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