ホームページに人は来ているのに、問い合わせボタンが押されない。
値下げも広告の追加もしたくない。そんなときに検討したいのが「ナッジ」という考え方です。
ナッジは、相手の選択の自由を残したまま、望ましい行動を選びやすくする小さな工夫を指します。
この記事では、行動経済学で生まれたナッジを、中小企業のホームページにどう置き換えるかを説明します。
ナッジをマーケティングに使うという話は、心理テクニックの寄せ集めとして紹介されがちです。
この記事では、テクニックの数を増やすより、訪問者がどこで止まっているかを先に見る順番を大事にします。
あわせて、やりすぎると法律や信頼の問題になる境界線も、具体的な場面で示します。
ナッジとは 選びやすくするための小さな設計
ナッジは英語で「ひじで軽く突く」という意味の言葉です。
行動経済学者のリチャード・セイラー氏と法学者のキャス・サンスティーン氏が、2008年にこの言葉で新しい考え方を示しました。
定義を2つの出典で確かめる
2人が示した定義を日本語に訳すと、次のようになります。
「選択肢を禁じることも、経済的な誘因を大きく変えることもなく、人々の行動を予測できる形で変える、選択の設計のあらゆる要素」
ポイントは、禁止もしないし、お金で釣りもしないという2つの条件です。
定義の中にある「選択の設計」は、選択肢をどんな順番で、どんな見た目で、どんな初期状態で並べるかを指します。
社員食堂で、野菜の小鉢を列の先頭に置くか最後に置くか。どちらにしても、何かしらの並べ方を選ぶことになります。
つまり設計しないという選択肢は存在しません。どうせ決めるなら、相手が望む行動を取りやすい並べ方にしようというのがナッジの出発点です。
日本では環境省が早くから政策に取り入れています。
環境省の報道発表資料には、日本版ナッジ・ユニットについて「環境省のイニシアチブの下、平成29年4月に発足しました」と書かれています。
同じ資料では、ナッジを「そっと後押しする」と言い換えています。
セイラー氏は2017年にノーベル経済学賞を受けました。行動経済学への貢献が評価された結果です。
規制や値引きとの違い
人の行動を変える手段は、ナッジのほかにもあります。
違いを並べると、ナッジの位置づけがはっきりします。
| 手段 | やっていること | 中小企業のサイトでの例 |
|---|---|---|
| 禁止・強制 | 選択肢そのものを無くす | 電話番号を消してフォームしか残さない |
| 金銭の誘因 | 得や損で動かす | 期間限定の値引き、紹介報酬 |
| 説得 | 情報を足して考えを変えてもらう | 長いサービス説明、導入事例 |
| ナッジ | 選び方の環境を変えて選びやすくする | 入力欄を減らす、おすすめを1つ示す |
| スラッジ | わざと面倒にして行動を止める | 解約の窓口を見つけにくくする |
表の最後にあるスラッジは、ナッジの裏返しです。後半で詳しく扱います。
中小企業のホームページで実際に使いやすいのは、表の4行目のナッジです。
禁止や値引きは、会社の方針や利益に直接響きます。説得の文章は、書くのにも読んでもらうのにも時間がかかります。
ナッジは、いまある文章や画面の並べ方を変えるだけで試せるので、費用と時間の両方を抑えられます。
なぜマーケティングでナッジが注目されるのか
理由はシンプルで、人はいつも情報を比べて合理的に選んでいるわけではないからです。
人は面倒な手順の手前で止まる
問い合わせをためらう人は、たいていサービスに不満があるわけではありません。
入力欄が多い、何を書けばいいか分からない、送ったあとに何が起きるか見えない。こうした小さな面倒の手前で止まっています。
説得の文章をいくら足しても、この面倒は消えません。
ナッジが効くのは、まさにこの「最後の一歩」の部分です。
心理学者のダニエル・カーネマン氏は、人の判断には速い直感と遅い熟慮の2つの働きがあると説明しました。
ホームページを見ている人は、仕事の合間にスマートフォンで流し読みをしていることが珍しくありません。熟慮よりも直感で、進むか閉じるかを決めています。
直感で動いている相手に、長い理屈で説得しようとしても届きません。直感の段階で引っかかりを消すほうが早いのです。
中小企業ほど効きやすい理由
大企業は広告費と知名度で母数を増やせます。
中小企業は訪問者の数を急には増やせないので、来た人が離れずに進める設計のほうが成果に直結します。
月に300人が訪れるサイトで、フォームまで進む人が10人から15人に増えれば、問い合わせの機会は1.5倍になります。
サイトの改修は数行の文言から始められるので、予算が小さい会社でも試せます。
| 会社の状況 | いま起きていること | ナッジで最初に見る場所 |
|---|---|---|
| 訪問はあるが問い合わせが0件 | 最後の一歩で止まっている | 問い合わせフォームの入力欄 |
| 資料請求はあるが商談に進まない | 次に何をすればいいか伝わっていない | 送信完了画面と自動返信メール |
| 料金ページで離脱が多い | 選択肢が多くて決められない | プランの並べ方とおすすめ表示 |
| 電話ばかりでフォームが使われない | フォームの手間が電話より重い | 必須項目の数 |
| 一度来た人が戻ってこない | 思い出すきっかけが無い | メール登録と案内の時期 |
初期設定の力 臓器提供の研究が示した数字
ナッジの効き目を示す研究として、もっとも引用されるものの1つが臓器提供の研究です。
実験の中身
行動科学者のエリック・ジョンソン氏とダニエル・ゴールドスタイン氏は、2003年に米国の科学誌サイエンスで研究を発表しました。
オンラインの実験で、臓器提供に同意するかどうかを、初期設定だけ変えて尋ねています。
米国医師会の倫理誌がこの研究を紹介した記事によると、同意が初期設定の条件では82%、どちらも選ばれていない条件では79%が同意しました。
自分で同意を選ぶ必要がある条件では、同意は42%にとどまりました。
欧州の国別の比較でも、初期設定が「同意」の国と「不同意」の国のあいだには、同意率で60ポイント近い開きがありました。
中身はまったく同じ質問です。違うのは、何もしなかったときにどちらになるかだけでした。
初期設定がこれほど効く理由は、主に2つあると考えられています。
1つ目は、変更する手間を人が避けることです。
先ほどの実験でも、自分で同意を選ぶ条件では同意が42%にとどまりました。チェックを1つ付けるだけの手間でも、人はそのままにしがちです。
2つ目は、初期設定が「作り手のおすすめ」として受け取られることです。迷った人ほど、最初から選ばれているものを正解だと感じます。
この2つ目の理由があるからこそ、初期設定には相手にとっての正解を置く責任が伴います。
サイトの初期設定に置き換える
ホームページにも、訪問者が何もしなかったときの状態がたくさんあります。
その初期状態が、相手にとって自然な選択になっているかを点検します。
| サイトの場所 | よくある初期状態 | 見直しの方向 |
|---|---|---|
| 問い合わせ種別 | 「選択してください」で空欄 | いちばん多い用件をあらかじめ選んでおく |
| 連絡方法 | 電話とメールの両方が必須 | メールのみを初期にし、電話は任意にする |
| 希望日時 | 自由記述で空欄 | 候補を3つ示して選べるようにする |
| メール配信の同意 | 最初からチェックが入っている | 空欄にして本人に選んでもらう |
| 相談の形式 | 来社が前提 | オンラインを初期にして来社も選べるようにする |
4行目だけは方向が逆になっています。
本人が望まない可能性がある登録を、初期設定で通してしまうのは後押しの範囲を越えるからです。
英国の行動洞察チームが示した4つの視点
英国政府の中で生まれた行動洞察チームが公表した2014年の手引きは、ナッジを設計するときの4つの視点を示しています。
その中心にある文を訳すと「ある行動を促したいなら、それを簡単に、魅力的に、社会的に、タイミングよくしなさい」となります。
4つの頭文字をとった呼び名で知られ、日本の自治体の手引きでもよく使われています。
| 視点 | 問いかけ | ホームページでの例 |
|---|---|---|
| 簡単 | 手間を1つでも減らせないか | 必須項目を5つ以内にする |
| 魅力的 | 目に留まり、得が伝わるか | ボタンに「無料で相談する」と書く |
| 社会的 | ほかの人も選んでいると分かるか | 同じ業種のお客様の声を載せる |
| 時機 | 迷っている瞬間に届いているか | 料金の説明の直後に相談の案内を置く |
簡単にする
4つの中で、まず手をつけるべきなのはここです。
行動洞察チームの手引きも、最初に手間を減らすことを挙げています。
手間には、入力の手間のほかに、考える手間と探す手間があります。
問い合わせボタンがどこにあるか探させる、専門用語の意味を考えさせる。これも訪問者にとっては同じ重さの負担です。
フォームの項目を1つ消すだけでも、訪問者の負担は確実に軽くなります。
魅力的にする
同じボタンでも、書かれた言葉で押されやすさは変わります。
「送信」は作業の名前で、「30分の無料相談を予約する」は相手が得るものの名前です。
魅力的にするといっても、派手な色や大きな文字を使うことではありません。
相手にとっての得が、ひと目で読み取れる状態にすることです。見出しに「誰の、どんな悩みを解くか」が書いてあるだけで、読み進める人は増えます。
社会的にする
人は迷ったとき、自分に近い人がどう選んだかを手がかりにします。
BtoBの取引では、同じ業種の会社がすでに使っているかどうかが、稟議を通すときの判断材料にもなります。
ただし、載せる数字や声は事実だけにします。ここは後の章で詳しく書きます。
タイミングを合わせる
同じ案内でも、出す場所と時期で反応は変わります。
トップページの最上部に問い合わせボタンを1つ置くより、疑問が解けた直後の位置に置くほうが、読む流れに沿います。
時機の考え方は、ページの中の位置と、ページの外での連絡の間隔の両方にあてはまります。
どちらも「相手がいま何を考えているか」から逆算して決めます。
図解 問い合わせまでの流れとナッジを置く場所
訪問者が問い合わせに至るまでには、5つの段階があります。
それぞれの段階に、止まる理由と、置くべきナッジが1つずつあります。
図の下段が、各段階で最初に試すナッジです。
全部を一度に直す必要はありません。アクセス解析で離脱がいちばん多い段階を1つ選び、そこから始めます。
たとえば、トップページから2ページ目に進む人が少ないなら、1番目の着地で止まっています。最初の画面に、誰のためのどんなサービスかが書かれているかを確かめます。
料金ページまでは読まれているのにフォームが開かれないなら、3番目の比べる段階で止まっています。おすすめの示し方と、料金の直下の案内を見直します。
フォームは開かれているのに送信が少ないなら、4番目の入力です。この場合は次の章の表がそのまま使えます。
問い合わせフォームに置くナッジ
5つの段階のうち、成果に一番近いのが4番目の入力です。
ここで止まる人は、すでに問い合わせる気持ちを持っています。
| フォームの状態 | 訪問者に起きていること | 次にすること |
|---|---|---|
| 必須項目が10以上 | 途中で面倒になって閉じる | 商談前に要らない項目を消す |
| 会社名と部署名が必須 | 個人事業主が入力に迷う | 任意に変える |
| 自由記述欄が空白だけ | 何を書けばいいか分からない | 記入例を薄い文字で入れる |
| ボタンが「送信」 | 押したあとが想像できない | 得るものの名前に変える |
| エラーが送信後にまとめて出る | どこを直すか探して疲れる | 入力した直後に知らせる |
入力項目を減らす
各項目について「この情報が無いと最初の返信が書けないか」を問います。
答えが「いいえ」なら、その項目は最初の返信のあとで聞けば足ります。
住所、役職、従業員数、予算は、たいていここに当てはまります。
営業の担当者からは「事前に聞いておきたい」という声が出るかもしれません。
その場合は、送信後の返信メールや初回の打ち合わせで聞く項目として、別に一覧を作っておきます。聞く項目は残したまま、聞く時期だけを後ろにずらすと考えると社内で合意しやすくなります。
送信ボタンの言葉を変える
ボタンには、押した人が手に入れるものを書きます。
「資料を受け取る」「相談日を選ぶ」のように、動詞で終えると何が起きるかが伝わります。
ボタンの近くに「営業の電話はしません」のような一言を添えると、押す前の不安が減ります。もちろん、実際にその約束を守れる場合に限ります。
送信後の画面で次の一歩を示す
送信完了画面が「ありがとうございました」の一言だけになっているサイトは珍しくありません。
ここに「2営業日以内に担当者からメールが届きます」と書くだけで、相手は待つ時間を見通せます。
返信までの不安が減ると、同時に他社へ問い合わせを広げる動きも落ち着きます。
完了画面には、よくある質問へのリンクや、初回の打ち合わせで準備しておくとよいものを書いておく方法もあります。
待っている時間を、相手が準備に使える時間に変えられます。
料金やサービス紹介のページに置くナッジ
3番目の段階、比べて決める場面では、選択肢の見せ方がそのまま判断の重さになります。
選択肢を絞る
プランやコースが多いほど、比べる手間が増えます。
コロンビア大学のシーナ・アイエンガー氏らが2000年に発表したジャムの試食実験では、24種類を並べた売り場より6種類の売り場のほうが、試食した人の購入率が高くなりました。
論文で報告された購入率は、6種類で約30%、24種類で約3%です。
この結果は後の研究で、条件によって差が出ないこともあると分かっています。
それでも、比べる手間を減らす方向に振ることが、中小企業のサイトで裏目に出る場面は多くありません。
特にサービス業では、訪問者はプランの違いを読む前に「自分の会社の場合はどれなのか」を知りたがっています。
プランごとに「従業員が10人までの会社向け」「店舗を複数持つ会社向け」のように、当てはまる相手を書くだけでも比べる時間は短くなります。
おすすめを1つ、理由つきで示す
選択肢を3つ並べるなら、そのうち1つに「はじめての方に多いのはこちら」と理由を書いて示します。
理由のないおすすめは、売りたいものを押しているように見えます。
「初回はここから始める方が多いので」「ほかの2つは追加で選べるので」と、選ぶ理由を相手の側から書きます。
おすすめを示すのは、選ぶ自由を奪うためではありません。比べる手間を肩代わりするためです。
だから、おすすめ以外の選択肢も同じ画面で選べるようにしておきます。ここを消すと、ナッジの条件から外れます。
| ページの状態 | 訪問者の迷い | 次にすること |
|---|---|---|
| プランが5つ以上ある | 違いを読み比べるのに疲れる | よく選ばれる3つに絞って見せる |
| どれも同じ大きさで並んでいる | どれが自分向けか分からない | 1つにおすすめの印と理由を付ける |
| 違いが機能名の羅列 | 自分に必要かを判断できない | 「こんな会社向け」を1行ずつ書く |
| 料金の下に何もない | 疑問が残ったまま離れる | 直下に相談の案内を置く |
お客様の声と実績は事実だけで後押しする
4つの視点のうち「社会的」は、使い方を間違えると信頼を一度に失います。
自分に近い人の声を選ぶ
同じ業種、同じ規模、同じ悩みを持っていた人の声ほど、読む人は自分のこととして受け取ります。
声を載せるときは、業種と地域を添えるだけで伝わり方が変わります。
許可をもらった範囲で、悩みが解けるまでの経緯を1〜2文で書くと、ほかの訪問者が自分の状況と重ねやすくなります。
声を置く場所も大切です。お客様の声のページを1つ作って終わりにせず、関係するサービスの説明のすぐ下に1件ずつ置きます。
迷いが生まれる場所の近くに、同じ迷いを越えた人の言葉があると、読む人の背中を自然に押します。
数字を盛らない
「多くの企業が導入」とだけ書くより、「導入した会社は県内で23社」と書くほうが伝わります。
ただし、その数字は自社で数えて確かめられるものだけにします。
消費者庁は2023年10月から、広告であることを隠した表示を景品表示法の不当表示に指定しています。
頼んで書いてもらった声を、自発的な口コミのように見せるのは避けます。
声の数が少ないうちは、無理に数を見せる必要はありません。
1件でも、悩みと結果が具体的に書かれた声のほうが、10件の短い感想より読む人の判断を助けます。
| 載せ方 | 読む人の受け取り方 | 次にすること |
|---|---|---|
| 匿名の短い感想だけ | 作り話かもしれないと疑う | 業種と地域を添える |
| 「満足度◯%」だけ | 何人に聞いたか分からず信じきれない | 回答数と時期を書く |
| 有名企業のロゴだけを並べる | 自社とは規模が違うと感じる | 同じ規模の事例を前に置く |
| 悩みと結果が書かれた声 | 自分も同じになれそうと感じる | そのまま増やしていく |
タイミングを合わせるナッジ
同じ案内でも、相手が迷っている瞬間に届けば行動につながります。
ページの中のタイミング
問い合わせボタンは、ページの最後だけに置くと、そこまで読まない人には届きません。
料金の説明、よくある質問、導入の流れなど、疑問が解けた直後の位置に置き直します。
ボタンを増やすときは、どの位置に置いても同じ文言と同じ行き先にそろえます。
場所ごとに「資料請求」「お問い合わせ」「無料相談」と違う言葉が並ぶと、訪問者はどれを押せばいいか迷います。
迷わせない工夫も、時機のナッジを支える土台になります。
ページの外のタイミング
資料をダウンロードした人に、3日後に「よくある質問のまとめ」を送る。
こうした間隔の置き方も、時機のナッジにあたります。
送る回数を増やしすぎると、それ自体が負担になって配信停止につながります。
ダウンロードの直後、数日後、2週間後というように、相手が資料を読み終えて次の疑問を持つ頃を想像して間隔を決めます。
送る内容も、売り込みより相手の次の疑問に答えるものを中心にします。
ナッジとスラッジ ダークパターンとの境界
ナッジは選びやすくする設計です。同じ技術を逆向きに使えば、相手を迷わせて損をさせる設計にもなります。
スラッジとは何か
行動を止めるための余計な手間を、セイラー氏はスラッジと呼んでいます。
解約の手続きだけ電話でしか受け付けない、退会ボタンをページの奥に隠す、といったものが典型です。
サイトの見た目でだます手口は、ダークパターンとも呼ばれます。
短期的には申込みや継続の数字が上がって見えるため、気づかないうちに入り込みやすいのが厄介な点です。
ただ、相手が後で気づいたときの不信感は、口コミや評判として残ります。一度の申込みと引き換えに、紹介や再購入の機会を失うことになります。
法律で決まっている線
2022年6月1日に改正特定商取引法が施行され、通信販売の申込みの最終確認画面に表示すべき事項が定められました。
分量、支払いの時期と方法、引き渡しの時期、申込みの撤回や解約に関することなどを、注文を確定する直前に確認できるように示す義務があります。
定期購入なのに「お試し」とだけ書くような、誤認させる表示も禁じられています。
サイトでものを売る会社は、この線を最低限の基準として押さえておきます。
問い合わせだけを受けるサイトであっても、考え方は同じです。
申込みの直前に、相手が知っておくべき条件をまとめて見せる。これは法律の義務であると同時に、迷いを減らすナッジとしても働きます。
自社で引く線
法律に触れなくても、相手が後から知って不快になる設計は使いません。
判断の目安は「この仕組みを相手に説明できるか」です。
説明したら怒られそうなものは、ナッジの範囲を越えています。
セイラー氏は自著への署名に「良い目的のためにナッジを」と書き添えることで知られています。
道具そのものに善悪はなく、使う側の目的で意味が変わるということです。
| 場面 | ナッジ(相手のため) | 越えてはいけない例 |
|---|---|---|
| メール配信 | 登録の利点を書いて選んでもらう | 最初からチェックを入れて気づかせない |
| 期限の表示 | 実際の締め切りを正確に書く | 毎日リセットされる残り時間を表示する |
| おすすめの提示 | 理由を書いて1つ示す | 高いものだけを選べるように見せる |
| 解約・退会 | 申込みと同じ手間で止められる | 電話でしか受け付けない |
| 残りの数 | 本当の在庫や枠を書く | 実在しない「残りわずか」を出す |
中小企業がナッジでつまずく場面
ナッジは小さな工夫なので、取り入れ方を間違えても気づきにくいのが難点です。
相談の場でよく見かける場面を、5つの型に分けました。
| こんな会社 | いま起きていること | 次にすること |
|---|---|---|
| 心理テクニックを一度に10個入れた | どれが効いたか分からない | 1つずつ戻して比べる |
| 「残りわずか」を常に表示している | 常連の訪問者に見抜かれている | 本当に枠が少ないときだけ出す |
| 文言は直したがフォームは長いまま | 最後の一歩が重いままで変化が小さい | 先に必須項目を減らす |
| 大手のサイトの真似をした | 自社の訪問者の迷いと合っていない | 自社の離脱の場所から始める |
| 効果を測っていない | 続けるかやめるか決められない | 変更前の4週間の数字を残しておく |
どの型にも共通するのは、訪問者がどこで止まっているかを確かめる前に手を打っていることです。
ナッジは、止まっている場所が分かってはじめて置き場所が決まります。
止まっている場所は、アクセス解析のページごとの離脱率や、フォームを開いた人数と送信した人数の差を見ると見当がつきます。
数字だけで分からないときは、知り合いの経営者に実際にサイトを見てもらい、迷った箇所を声に出してもらう方法も役に立ちます。
効果の確かめ方
ナッジは小さな変更なので、変化も小さく出ます。
だからこそ、変える前の数字を残しておくことが欠かせません。
1回に1か所だけ変える
フォームの項目とボタンの文言を同時に変えると、どちらが効いたのか分かりません。
1か所を変えたら、最低でも2〜4週間は様子を見ます。
訪問者が月に数百人のサイトでは、1週間の数字は偶然の揺れのほうが大きく出ます。
見る数字を決めておく
見る数字は、変えた段階の次の段階への進み具合です。
フォームを直したなら、フォームを開いた人のうち送信した人の割合を見ます。
サイト全体の問い合わせ数だけを見ると、季節や広告の影響と区別がつきません。
変えた日付と内容は、簡単な表に記録しておきます。
半年後に振り返るとき、どの変更がどの数字に効いたのかを思い出せるのは、その記録だけです。
| 変えた場所 | 見る数字 | 判断の目安 |
|---|---|---|
| トップページの冒頭 | 2ページ目へ進んだ人の割合 | 4週間前と比べて上がったか |
| 料金ページのおすすめ表示 | 料金ページから問い合わせへ進んだ人数 | 同じ期間の前年と比べる |
| フォームの項目 | フォームを開いた人のうち送信した割合 | 変更前の割合と比べる |
| 送信ボタンの文言 | ボタンのクリック数 | 同じ訪問数あたりで比べる |
| 完了画面の案内 | 初回の返信への返事の早さ | 返事までの日数を記録する |
よくある質問
ナッジは人を操ることにならないのか
選択肢を消さず、相手が後から知っても納得できる設計であれば、操作にはあたりません。
説明できない仕組みや、相手が損をする方向へ導く仕組みはスラッジです。使いません。
判断に迷ったら、自分が客の立場でその画面を見たときに気持ちよく進めるかを考えます。
行動経済学とナッジはどう違うのか
行動経済学は、人が合理的に動かない場面を調べる学問です。
ナッジは、その知見を使って選び方の環境を整える方法の1つです。
行動経済学をマーケティングに生かす方法はほかにもありますが、相手の自由を残すという条件がはっきりしているのがナッジの特徴です。
小さな会社でも効果は出るのか
訪問者が少ないサイトほど、来た人を取りこぼさない設計の影響が大きく出ます。
ただ数字の揺れも大きいので、1か所ずつ変えて数週間ずつ見ることが必要です。
月の問い合わせが数件のサイトでは、1件の増減で割合が大きく動きます。焦って次々に変えないことも大切です。
どこから手をつければいいか
アクセス解析で、離脱がいちばん多いページを1つ探します。
問い合わせフォームか料金ページのどちらかであることがよくあります。
見つけたら、この記事の最後の点検表から、そのページに当てはまる項目を1つ選んで直します。
ナッジを使っていることを訪問者に伝える必要はあるか
いちいち明かす義務はありません。
ただし、明かしても困らない設計にしておくことが、長く信頼される条件になります。
「入力の手間を減らしました」「よく選ばれるプランに印を付けています」と書けるものは、むしろ伝えたほうが親切です。
まとめ
ナッジは、相手の選ぶ自由を残したまま、望ましい行動を選びやすくする設計です。
臓器提供の研究では、初期設定を変えただけで同意が42%から82%に変わりました。
ホームページでも、初期設定、入力の手間、ボタンの言葉、案内の時期を変えるだけで、問い合わせまでの道のりは軽くなります。
手をつける順番は、簡単にすることが先です。魅力や社会的な後押しは、その次に考えます。
変えるのは1回に1か所だけ。変える前の数字を残し、数週間見てから次に進みます。
そして、相手に説明できない仕組みは使わない。この線を守ることで、ナッジはお客様にも自社にも得になる工夫として働きます。
今日できるナッジの点検
最後に、今日のうちに自社サイトで確かめられることを表にまとめました。
全部に手をつけるより、当てはまったものから1つ選んで直してください。
| 点検する場所 | 確かめること | 当てはまったときにすること |
|---|---|---|
| 問い合わせフォーム | 必須項目が6つ以上あるか | 最初の返信に要らない項目を任意にする |
| 送信ボタン | 「送信」とだけ書かれていないか | 押した人が得るものの名前に変える |
| 送信完了画面 | 次に何が起きるか書かれているか | 返信の目安の日数を書き足す |
| 料金・サービスのページ | 選択肢が4つ以上並んでいないか | 1つに理由つきのおすすめを付ける |
| お客様の声 | 業種や地域が書かれているか | 許可をもらって書き足す |
| メール配信の同意欄 | 最初からチェックが入っていないか | 空欄に戻す |
自社のマーケティング課題を根本から解決しませんか?
ウェブサイトから要素を引き算し、訪れた人が迷わず次の一歩に進む形へ組み直す。初回60分のオンラインで御社のサイトを一緒に読み、どこから直すべきかをお伝えします。手順をまとめた無料の診断と解説動画もご用意しています。
初回は無料・60分・オンライン完結・その場で契約のお願いはいたしません


