生成AIに自社のことを聞いてみたことはありますか。「間違ったことを言われるのでは」と身構える経営者は少なくありません。私たちはその不安が実際どの程度当てはまるのか、日本の中小企業100社を対象に自分たちで測ってみることにしました。同じテーマの国内書籍を探しても、海外や他社の調査を引用しているものばかりで、日本の中小企業をこの規模で自ら測った公開データは見当たらなかったからです。
100社・13業種・198件の回答を、公式サイトや行政の一次資料と突き合わせた
対象は13の業種・13の地域から選んだ中小企業100社です。業種は工務店、行政書士、運送、鉄工所、電気工事、印刷、ビルメンテナンス、水道工事、税理士、自動車整備、造園、板金塗装、看板など。選び方は機械的に決めました。地域検索で該当業種を検索し、表示された順に上から採用し、支店・全国チェーン・市外の事業者・重複だけを除外しています。公式サイトの有無は選定条件にしていません。恣意的に選んでいないことを、誰が確かめても同じ結果になる手順にするためです。
質問は全社共通で1つです。「株式会社◯◯(◯◯県◯◯市)について、どんな会社か、代表者、所在地、設立年、主なサービスを教えてください」。これをChatGPT(ログアウト状態)とGoogleのAIモード(ログイン状態)の2つに入力し、有効な回答198件を集めました。答え合わせは、各社の公式サイト、国税庁の法人番号公表サイト、行政の登録簿、業界団体の名簿の4つと突き合わせて行っています。
判定の基準は、測り始める前に決めて固定しました。公式サイトや登記情報と食い違うものだけを「誤り」とし、確かめようがないものは判定不能として誤りの件数から外しています。測ってから基準を変えると、都合のよい数字を作れてしまうためです。
結果:198件の回答のうち、事実の誤りは1件だった
合っていたのは社名と住所にとどまりませんでした。代表者の氏名、法人番号、電話番号、資本金、従業員数、建設業の許可番号、運輸局の指定工場番号、都道府県の屋外広告業の登録番号まで、公開されている一次資料と一致していました。ある自動車整備会社については、資本金と従業員数に加えて、その情報の出どころが求人情報であることまで書き添えていました。ある造園会社は、法人としての設立年月日と、庭師としての創業年をきちんと分けて書いていました。設立と創業がずれている会社は珍しくありませんが、AIはその違いを混同していませんでした。
いちばん意外だったのは、公式サイトを持っていない事業者への回答です。ある印刷業者について、AIは行政が公開している入札参加資格者の名簿を出典として、代表者名・番地までの住所・電話番号を答えました。自社サイトが無くても、会社の輪郭はすでに外部の公開情報として存在している、ということです。
AIは、分からないときに黙らなかった
198件のうち12件で、AIは「公開情報からは確認できません」と明記していました。分からないことをそれらしく埋めて答えるのではなく、埋められない項目は空欄のままにしていたということです。
さらに興味深いのは、質問文そのものの誤りを訂正した事業者が8社あったことです。ある会社では、こちらが業種名を書き間違えたところ、AIは正しい業種名に置き換えたうえで回答しました。別の会社では、屋号の一部の漢字を取り違えて質問したところ、AIが正しい表記を提示してから説明を始めました。ある造園業者については「屋号に『有限会社』は付かない」と法人格の有無まで訂正し、別の会社では「法人格の登記情報は確認できないため、個人事業主または屋号とみられる」と、実在しない法人格を前提にした質問そのものに注意を促しました。質問する側が間違えても、AIはその誤りをそのまま引き継がなかったということです。
存在しない社名を与えたら、AIは会社をでっちあげるか
測定の途中、入力時の変換ミスによって、偶然「存在しない社名」でAIに質問することになりました。せっかくの機会なので、結果を別枠で記録しています。6件の回答すべてで、AIは存在しない会社を作り出しませんでした。「実在が確認されていません」「架空の名称である可能性が非常に高い」と明言したり、似た実在の会社を挙げつつ「該当すると考えられます」「その前提で解説します」と、それが推測であることを自分から明示したりしていました。
ここから言えるのは、AIが誤った情報を出す原因は「情報が無いこと」そのものではない、ということです。情報が無ければAIは「無い」と言います。誤りが起きるのは、情報が無いときではなく、複数の情報源が食い違っているときでした。次の1件が、まさにその実例です。
唯一の誤り:代表者名が、公開されている一次資料3つで全部違っていた
誤りは、ある看板会社の代表者名でした。ChatGPTとGoogleのAIモードが、それぞれ違う名前を答えたのです。姓は同じで、名の漢字が1文字違います。どちらかが間違えているはずだと考え、一次資料に当たりました。
その市が公開している屋外広告業の登録一覧に、この会社は載っていました。そこに書かれていた代表者名は、ChatGPTともAIモードとも違う、3つ目の名前でした。続けて調べると、次のようになっていました。会社の公式サイトの会社概要ページに1つ目の名前。業界団体の会員名簿に2つ目の名前。行政が公表している最新の登録業者一覧に3つ目の名前。3つの公開資料が、それぞれ違う名前を載せていたのです。
そしてChatGPTは公式サイトの名前を、GoogleのAIモードは業界団体の名簿の名前を、それぞれ正確に引用していました。どちらのAIも、読んだ情報をそのまま正しく伝えていました。間違えていたのはAIではなく情報源の側だった、というのが実態です。
公式サイトの著作権表示は2005年のまま更新されていませんでした。行政の登録一覧だけが、最新の代表者名を持っていました。おそらく、この間に代表者が交代しています。公式サイトが20年以上前の状態で止まっているために、AIはその時点の会社を今日の答えとして返していたことになります。AIが嘘をついたのではありません。古い記述が、今日の説明として流通し続けていたのです。
同じ行政資料から見つかった、もう2つの実例
この会社の代表者名を裏取りした一次資料からは、他にも2つの発見がありました。1つ目は、同じ行政の登録一覧の中に、住所が2種類記載されている事業者があったことです。「事業者の所在地」と「営業所の所在地」が番地違いで別々に登録されており、AIが住所を尋ねられて明確に答えられなかった理由が、この行政資料の側にあったことになります。
2つ目は、法人としての本店が、営業している市とは別の市にある事業者です。この事業者について、AIは「店舗・作業所」としか説明できていませんでした。地域検索で見つかる会社であっても、法人としての本拠地が別の場所にあるケースは珍しくなく、AIの説明が控えめになった理由は、情報の不足ではなく登記情報の構造そのものにありました。
海外の実測は厳しい。ただし、測っている対象が違うので並べられない
生成AIの正確性については、海外で厳しい数字が出ています。ただし先に書いておくと、それらの数字と今回の1件を並べることはできません。測っている対象が違うためです。
2025年10月、欧州放送連合(EBU)が取りまとめ、BBCが主導した調査があります。18か国・22の公共放送機関が参加し、14の言語で3,000件を超えるAIの回答を、各国の記者が評価しました。対象はChatGPT・Copilot・Gemini・Perplexityの4つです。評価したのは正確性、出典の扱い、意見と事実の区別、文脈の4つです。回答のおよそ半分に少なくとも1つの重大な問題が含まれ、3分の1が出典の扱いに問題を抱え、5分の1に重大な正確性の問題が見つかりました。事実と異なる情報や、古い情報などです。
コロンビア大学のTow Centerが2025年3月に発表した調査も同様の傾向です。8つのAI検索エンジンに、ニュース記事の引用元を答えさせるテストを行ったところ、6割を超える回答が不正確でした。しかも、その多くは自信のある断定的な口調で提示されていたと報告されています。
ここで注意が要ります。この2つが測ったのは、ニュースと時事についてのAIの回答です。日々更新される出来事を、AIが正確に要約し、出典を正しく示せるかを見ています。今回私たちが測ったのは、企業の会社概要です。代表者、所在地、設立年といった、行政が公開している静的な登録情報が相手でした。
同じ「AIの正確性」という言葉でも、中身が違います。だから海外の数字と今回の1件を並べて、どちらが良い悪いと言うことはできません。
言えるのはこうです。日本の中小企業に関する情報は、法人番号・許認可番号・業界団体の名簿など、公的機関や業界団体による裏付けが取りやすい一次資料が層として存在しています。AIはそれを正確に参照できました。ニュースのように、情報源そのものが日々動く領域とは、条件が違ったということです。
「間違えられていないこと」と「選ばれること」は別の問題だった
ここまでの結果だけを見ると、拍子抜けした方もいるかもしれません。私たちも当初は「AIは中小企業について、勝手な思い込みで説明している」という仮説から出発していました。その前提は、測った時点で崩れました。
ただし、100社分の回答を並べていく中で、誤りとは別の問題が見えてきました。100社のうち19社は、AIの説明の書き出しが、同業他社にそのまま入れ替えても成立する一文になっていたのです。会社の輪郭は正確なのに、中身がどの同業他社にも当てはまる、という状態です。
この19社を見ると、公式サイトの会社概要が「総合建設業」「電気設備工事・電気通信工事」のような業務の列挙で始まっているか、理念のページに「地域密着」「幅広く対応」「専門」といった、どの同業他社にも書ける言葉だけが並んでいる傾向がありました。実際、回答の書き出しに含まれた言い回しを数えると、次の表のようになります(102社が母数、1社でも出現すればカウント、読み取ったのは書き出しだけなので実際の割合はこれより高い可能性があります)。
| 言い回し | 社数 | 割合 |
|---|---|---|
| 地域密着型 | 50 | 49% |
| 市を拠点に | 39 | 38% |
| 幅広く | 35 | 34% |
| 専門 | 31 | 30% |
| 総合 | 24 | 24% |
| 拠点とする | 20 | 20% |
| 一貫 | 19 | 19% |
| 拠点を置く | 18 | 18% |
| 対応しています | 17 | 17% |
| ワンストップ | 10 | 10% |
一方、残りの81社では、その会社にしかない固有の一文がそのまま説明に使われていました。施工実績の順位を掲げている会社、屋号に込めた由来を書いている工務店、代表者の前職を書いている事務所、独自ブランドの商品名を掲げている会社。どのケースも、公式サイトに書いてあった固有の一文が、そのままAIの説明に反映されていました。
分かれ目は業種ではなかった
冒頭が汎用だった19社の内訳を業種別に見ると、造園が6社、電気工事が4社、自動車整備・板金が2社、工務店が2社、水道工事・鉄工所・印刷・運送・看板が各1社でした。造園と電気工事に集中している一方で、税理士と行政書士はこの19社の中に1社も含まれていません。
ただし、業種そのもので決まるわけではありませんでした。同じ電気工事業でも、創業からの年数や地域での立ち位置を具体的に書いていた会社は固有の説明になり、業務内容の列挙だけで終わっていた会社は同業他社と入れ替え可能な説明になっていました。士業が軒並み固有になったのは、扱う分野を書くこと自体が仕事の説明にそのままつながるためだと考えられます。個人事務所では、代表者の経歴や兼業がそのまま説明の個性になっていました。
最初の測定では、この数字を過大評価していた
正直に書いておくと、私たちは最初、14社で試した予備調査をもとに「36%が同業他社と入れ替え可能」と見積もっていました。しかし対象を100社に広げて同じ基準で測り直すと、19%まで下がりました。原因は2つあります。1つは、母数が小さかったために、たまたま汎用な会社が多く含まれていたこと。もう1つは、最初に選んだ3つの業種が、たまたま汎用な説明になりやすい業種に偏っていたことです。母数を増やすまで、私たち自身も実態を見誤っていたことになります。
この調査の限界
正直に書いておきます。今回読み取ったのは、AIの回答の書き出し部分だけです。回答全体を評価したわけではないため、「回答全体が同業他社と同じだった」ことまでは確認できていません。また、抽出した長さがChatGPTとGoogleのAIモードで異なるため、2つのAIの数字を単純に比較することはできません。判定は基本的に筆者が読んで行い、機械的な判定も併用しましたが、最終的な判断は目視によるものです。
1社につき1回しか質問していないため、別の日に同じ質問をすれば違う答えが返る可能性があります。34件の回答は取得に失敗したため集計から除外しています。また、この測定は当社が自ら行ったものであり、第三者による検証を受けたものではありません。測定した企業の社名・所在地は、この記事を含めどこにも公開していません。
今回の調査を含む詳しい測定条件と全13業種の内訳は、電子書籍「AIはあなたの会社をどう説明しているか」にまとめています。
まとめ:AIに聞かれて困るのは「間違われること」より「埋没すること」
今回の実測から見えてきたのは、AIが中小企業について間違った情報を作り出すリスクよりも、公式サイトに書いてある内容が薄いために、同業他社と見分けがつかない説明をされてしまうリスクの方が、現実には起きやすいということです。AIは、書かれていないことを書きません。そして、他社にも書けることしか書かれていなければ、他社と同じ説明を返します。
試しに、ご自身の会社名でAIに聞いてみてください。返ってきた説明の社名を、同業他社の名前に入れ替えてみましょう。それでも文章として成立してしまうなら、公式サイトに書かれているのは、誰にでも書けることだけかもしれません。
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