AI検索が日々の調べものに入り込んでくると、経営者の方からよく同じ質問を受けます。「結局、AIはどこの情報を見て答えているのか」。もう一歩踏み込むと、「うちのような小さな会社の情報を、AIがわざわざ選んでくれることなんてあるのか」という不安です。答えの手がかりになる研究が、海外で出ました。
米国の研究チームが2026年9月1日、学術論文を公開前に載せるサイトで発表した調査です。『批判せずに引用する』と題したこの論文は、生成AIが文章を書くときに、どの情報源を、どう引くのかを、人間の書き手と正面からくらべたものでした。読者である中小企業にとって、結論はそのまま自社の見つけられ方に関わってきます。
この研究は何を調べたのか
研究チームは、人間が書いた論文の引用箇所をいったん隠し、その空欄を生成AIに埋めさせました。同じ文脈で人間が実際に引いた文献と、AIが選んだ文献を、一対一でくらべられるようにしたわけです。手が込んでいるのは、引用の「意図」まで分類した点です。ある研究を支持して引くのか、反論のために引くのか、ただ触れるだけなのか。この三つを見分けながら、人間とAIの差を測っています。
規模も小さくありません。論文の要旨によれば、対象は6つの生成AI、上位の学会に採録された1,746本の論文、6万3千を超える引用の文脈、13万2千を超える引用です。さらに、2千万本の共著関係でできたネットワークを使い、引用した側とされた側がどれくらい近い間柄かまで見ています。印象で語った話ではありません。数で押さえた調査だということです。
分かったのは三つの偏り
浮かび上がった差は、大きく3つでした。論文はこう述べています。「人間の引用にくらべて、AIははっきりと批判性の低い引用をする」。反論や対立を示すために文献を持ち出す、という引き方が、AIでは目に見えて少なかったということです。人間は「この先行研究にはこういう限界がある」と批判的に引くのに対し、AIはそこが弱いという結果でした。
2つ目が、中小企業にとって一番重い話です。論文は「AIは有名で古い論文を過剰に引く傾向があり、その傾向は対立を示す引用でいっそう強まる」と報告しています。人間は批判的に何かを引くとき、むしろ新しくてニッチな研究を持ち出すのに、AIは有名どころに戻っていく。すでに広く知られているものが、AIによってさらに引かれる。可視性の高いものが、もっと可視化されるという構図です。
3つ目は、少し方向の違う発見でした。人間は身近な共同研究者の仕事を引きやすいのに対し、AIはもっと縁の遠い書き手の研究まで引く傾向があった、というものです。AIの引用は書き手の内輪を越えて広がる。ただし、批判性は薄く、有名なものへの偏りは強まる。研究チームはこの全体を、良い面と悪い面が背中合わせだと結論づけています。
| 観点 | 人間の書き手 | 生成AI |
|---|---|---|
| 引用の姿勢 | 支持も批判もする | 批判が薄く支持に寄る |
| どの研究を選ぶか | 批判時は新しくニッチな研究も | 有名で古い研究に偏る |
| 誰の研究を選ぶか | 身近な共同研究者が多い | 縁の遠い書き手まで広く |
3つのうち、日本の中小企業がまず頭に入れるべきは真ん中の1つです。人間とAIで、引く相手の選び方がどう分かれるのかを、一枚の図にしておきます。
日本の企業ではどうか 別の大規模調査が裏づけたこと
学術論文だけの話では終わりません。米国のPR会社5WPRが2026年5月、ChatGPT・Claude・Gemini・Perplexity・Google AI Overviewsを横断して6億8千万件を超える引用を統合した調査を公表しました。結果は先の学術論文と驚くほど重なります。上位わずか15のドメインが引用全体の68%を占め、なかでもRedditが単独で約4割を占めていました。有名なものへ集中する力は、学術論文の中だけでなく、実際の生成AIの回答でも同じように働いているということです。
国内に目を向けても、同じ構図が確認できています。COOD株式会社とSES還元率研究所が2025年の1年間を通じて実施した調査では、ChatGPTやPerplexityなどが日本語圏でどの情報源を信頼し続けたかを追跡しました。年間を通じて上位を維持したのは、Wikipedia、note、PR TIMESという、すでに広く知られた情報基盤でした。同時に、他社の情報をまとめただけの二次情報サイトは、人間からのアクセスがどれだけあってもAIからは無視される傾向が確認されています。AIが「誰が最初にその情報を発信したか」を厳格に見ているという指摘です。
無名のサイトが大量に引用される、もう1つの現実
ここまでは「有名なものに偏る」という話でしたが、正反対に見える現象も同時に起きています。調査会社Trellner Researchが2026年9月に公表した調査によれば、Perplexityの検索モデルに380種類のソフトウェア関連の質問を投げたところ、得られた7,534件の引用のうち約6割が、世界のアクセス規模で10万位にも入らない無名サイトでした。その大半を占めていたのが、worldmetrics.org・gitnux.org・wifitalents.comという3つのサイトです。この3サイトは同じ時期に登録され、同じサーバー会社を使い、同じテンプレートで作られた、実質的に単一の運営者による量産サイトでした。合計21万ページ以上を機械的に作り、AIに読み取られることだけを目的とした構成になっていたのです。
一見すると矛盾するようですが、この2つの現象は同じ仕組みの裏表です。AIは「有名かどうか」だけでなく「情報が抜き出しやすい形になっているか」を強く評価します。無名の量産サイトは、見出しが質問文とそのまま一致し、箇条書きで簡潔にまとまっているため、AIにとって「引用しやすい」形になっていました。中小企業にとっての教訓は、有名になることだけを待つのではなく、自社の情報を「AIがそのまま抜き出せる形」に整えることも、同じくらい重要だという点です。
複数回引用される会社と、1回で終わる会社の違い
この「抜き出しやすさ」について、福岡ECサイト株式会社が実務的な分析を公表しています。同社によれば、検索エンジンで上位表示されている企業であっても、AI検索では1回引用されて終わるか、まったく引用されないかのどちらかになるケースが多いといいます。何度も繰り返し引用される企業には、3つの共通点があるとしています。1つ目は、同じ概念について複数の記事で一貫した定義を使っていること。2つ目は、読者の質問に対して最初の段落でそのまま結論を示す構造になっていること。3つ目は、独自の実績や数値を1つの記事にまとめず、複数の記事に分けて配置していることです。1つの完璧な記事にすべてを詰め込むより、同じ主張を複数の記事で一貫して繰り返すほうが、AIには「この会社はこの分野に詳しい」と認識されやすいということです。
中小企業にとって 何が変わって何が変わらないのか
まず、変わらないところをはっきりさせておきます。この研究が測ったのは、あくまで学術論文の中での引用です。GoogleのAI検索や対話型のAIが、一般の調べものでどの会社を挙げるか、そのものを直接調べた調査ではありません。ですから「AI検索でも企業選びに同じ偏りが出る」と、この論文だけを根拠に言い切ることはできません。ここは正直に線を引いておきます。裏の取れない拡大解釈は、後で必ず崩れます。
そのうえで、変わってくる見方があります。生成AIという同じ仕組みが持つクセとして、「すでに広く参照されているものへ寄る」性質が、大きなデータで実際に確認されたことです。無名のまま良い情報を出しても、AIの土俵に上がりにくい。逆に、あちこちで名前が出ている状態を作れているなら、AIはそれをさらに拾いやすい。中小企業のホームページ運営でいえば、一本の完璧な記事を隠し持つより、名前が世の中に散らばっている状態のほうが、この仕組みとは相性が良いということになります。
期待しすぎてはいけない部分もあります。新しく作ったばかりのニッチなページを、AIがすぐ見つけて引いてくれる、という素早さは、この研究の結果からはむしろ期待しにくい。AIは有名なものに戻る力が働くので、参照が積み上がるまでには時間がかかる、と考えておくほうが安全です。
| あなたの状況 | いま起きていること | 次にすること |
|---|---|---|
| ホームページはあるが名前が外に出ていない | AIが参照する手前で見つからない | 外部に名前が残る情報発信を増やす |
| 良い記事を作ったのに反応が薄い | 可視性が低く参照が積み上がらない | 一次情報を引用されやすい形に整える |
| 新しいページの即効性を期待している | AIは有名なものに戻る力が働く | 短期で判断せず参照の蓄積を待つ |
| 誰の情報か分からない書き方をしている | 出どころが弱く選ばれにくい | 誰が言ったかが残る形で書く |
明日からできること
この研究を、自社の手を動かす話に落とすとこうなります。1つ目は、自社の名前や専門分野が、自社サイトの外側でどれだけ出てくるかを一度数えてみることです。ゼロに近いなら、良い記事を増やす前に、名前が外に残る発信を先に増やす。可視性そのものが土台になります。
2つ目は、自社が持っている一次情報を、他が引用したくなる形で置くことです。自社で実際に測った数字、現場で拾ったお客様の言葉、具体的な事例。こうした「その会社しか持っていない事実」は、参照される起点になります。誰かの受け売りをまとめ直しただけの情報は、有名なものに戻る力の前で埋もれます。
3つ目は、出どころが残る形で書くことです。「誰がいつ言ったのか」が分かる情報は、引く側にとって安心して使える材料になります。逆に、出典の曖昧な話は、人間にもAIにも選ばれにくい。この点は、AI対策という以前に、読み手からの信頼の問題でもあります。
この3つは、どれも今日の午後に着手できます。派手さはありませんが、有名なものへ寄るという仕組みの性質を前提にすると、遠回りに見えて一番確実な積み上げです。
まだ分かっていないこと
誠実に、分からない範囲も書いておきます。まず、一般のAI検索や対話型AIが、企業をどう選んで挙げるのかは、この研究の対象外です。学術論文の引用で見えた偏りが、そのまま消費者向けのAIに当てはまるかは、別の検証が要ります。次に、調べられた6つの生成AIが具体的にどれなのかは、公開された要旨からは読み取れません。そして、この調査は英語圏の学術論文が中心で、日本語での挙動そのものは検証されていません。
| この研究で分かったこと | この研究では分からないこと |
|---|---|
| AIは有名で古い情報に偏って引く | 一般のAI検索が企業をどう選ぶか |
| AIは批判的な引用が人間より薄い | 調べられた6つのAIが具体的にどれか |
| 可視性の高い情報がさらに参照される | 日本語の情報での同じ挙動の有無 |
ですから、この一本の研究をもって「AI対策の正解が出た」と言うつもりはありません。言えるのは、AIには有名なものへ寄るクセがある、という手がかりが1つ増えた、ということです。手がかりが増えたぶんだけ、無名から一歩ずつ可視性を積む、という地道な方針の確からしさが増した、と受け止めるのが妥当なところです。
よくある質問
偏りはどのAIでも同じですか
いいえ 引く情報源はサービスごとに変わります。対話型と検索型では拾う先が違い 同じ問いでも出典が入れ替わります。複数のサービスで確かめると偏りの影響を抑えやすくなります。
この話は今すぐ自社サイトを作り替えるべき、という意味ですか
いいえ。作り替えの根拠にするには、この研究は学術論文に限った調査です。作り替えより先に、自社の名前が外にどれだけ出ているかを数えるところから始めるのが順序です。
有名でない会社は、AI検索では不利なままなのでしょうか
スタート地点では不利に働きやすい、というのが率直なところです。ただし可視性は積み上げられます。名前が外に出る回数を増やし、一次情報を引用されやすい形で置けば、時間をかけて土台は作れます。
記事の本数を増やせば解決しますか
本数だけでは解決しにくい話です。有名なものへ戻る力が働くので、量よりも、外部での言及と一次情報の中身が効きます。数える対象を本数から可視性へ移すのが近道です。
まとめ
海外の研究が示したのは、生成AIには「すでに有名な情報へ寄る」クセがあるという、数で裏づけられた事実でした。ただしそれは学術論文の中の引用を調べたもので、一般のAI検索にそのまま当てはまると決まったわけではありません。分かっている範囲で言えるのは、無名のまま良い情報を出すだけでは足りず、名前が外に散らばっている状態を先に作ることが、この仕組みと相性が良いということです。今日できるのは、自社の名前が外にどれだけ出ているかを数えることと、自社にしかない一次情報を引用されやすい形に整えることです。
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