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カスタマージャーニーマップを作っても売上が動かない、埋めて満足で終わる本当の理由

2026 8/23

Q&Aサイトにこんな相談が寄せられていた。本やセミナーを参考にしてカスタマージャーニーマップを作ってみたものの、付箋を埋めただけで終わってしまった。実際の集客や売上に何をどう活かせばいいのか分からず、そもそも作る意味があったのか疑問に感じている、という内容だった。読みながら、まったく同じ場所でつまずいている経営者や担当者の顔が何人も浮かんだ。マップ作りは真面目に取り組むほど手応えがあるのに、机の上に完成した図が残るだけで、翌週の売上には一円も反映されない。この落差に心当たりがある人は、決して少数派ではない。

まず前提を整理しておきたい。カスタマージャーニーマップという道具そのものに欠陥があるわけではない。顧客が自社を知ってから購入し、その後もつきあいが続くまでの心の動きを一枚に並べる、という発想は理にかなっている。問題が起きるのは、その一枚を「完成させること」がいつのまにかゴールにすり替わってしまう瞬間だ。認知、興味、比較検討、購入、継続という段を横に並べ、それぞれの下に感情と行動とタッチポイントを書き込む。枠がすべて言葉で埋まると、脳は「やり切った」という信号を出す。この達成感が曲者で、本来の目的だったはずの「売上を動かす行動」へ進む足を、そこで止めてしまう。

私はこの状態を、マップ作りに潜む九割の罠と呼んでいる。九割という数字は大げさな比喩ではない。研修やコンサルティングの現場で「ジャーニーマップを作ったことがある」という人に「そのマップを見て、翌週どの施策をどう変えましたか」と尋ねると、具体的な変更を一つでも挙げられる人は本当に一握りしかいない。残りの大多数は、作ったこと自体は覚えていても、その後の行動が何も変わっていない。つまりマップは作られた瞬間に役目を終え、フォルダの奥かホワイトボードの隅で静かに眠りにつく。時間と労力をかけたのに、事業には何の変化も残らない。

なぜこんなことが起きるのか。相談者が悪いわけでも、能力が足りないわけでもない。むしろ真面目にフレームワークへ向き合った人ほど、この罠に正確にはまる。埋める作業には明確な手順があって進捗が目に見えるが、埋めた後の「で、どうするか」には手順書がついてこない。本もセミナーもテンプレートを渡すところまでで完結してしまい、その先の橋渡しを教えてくれない。だから熱心な人ほど、渡された枠を几帳面に埋め、埋め終わった達成感でぷっつりと燃え尽きる。作る意味があったのかという疑問は、むしろ健全な感覚が発した警報だと受け取っていい。手順のある作業に人は安心して没頭できる。だが安心して没頭できる作業ほど、事業の急所からは離れていることが多い。この居心地のよさが、罠の入口を優しく開けて待っている。だからこそ、作業の心地よさと成果の大きさを、いったん切り離して眺める視点を持っておきたい。手が動いている感覚と、数字が動く事実は、まったく別のものだと最初に線を引いておくだけで、燃え尽きる前に立ち止まれる。

この記事では、なぜ埋めて満足で終わってしまうのかという構造をまず解きほぐし、多くの人がやってしまう典型的な間違いを具体的に並べ、そのうえで売上が実際に動き出すまで落とし込むための考え方を示す。結論を先に一言だけ置いておくと、鍵は精緻な地図を描くことにはない。顧客が自社サイトに触れた最初の数秒で「これは自分のための場所だ」と感じられるかどうか、その一点にジャーニー全体の成否が集約されている。地図の枠を全部埋めることより、入口の一言を客の困りごとに合わせて書き直すことのほうが、売上には何十倍も効く。ここからその理由を、順を追って具体的に見ていく。マップを捨てろという話をしたいのではない。眠っていたマップに血を通わせる話だと考えてほしい。

もう一つ、この相談から読み取れる大事な感覚がある。相談者は「作る意味があったのか疑問」と書いた。この違和感は、実は正しい。手を動かして図が完成したのに、事業の景色が何も変わらないとき、真面目な人ほど「自分のやり方が悪かったのでは」と自分を責める。だが責めるべきは本人の努力ではない。埋める作業だけを教えて、その後の使い方を教えなかった学び方の側だ。付箋を埋める行為は、家でいえば間取り図をきれいに描く作業に近い。間取り図が立派でも、そこに人が住んで生活が回り出さなければ、ただの紙だ。地図は住むための道具であって、飾るための作品ではない。ここを取り違えると、どれだけ精密に描いても暮らしは始まらない。相談者が感じた疑問は、紙のまま止まっているマップに対する、まっとうな不満の表れだと受け取ってほしい。

付箋の枚数が増えるほど仕事をした気分になるのは、人間の自然な反応だ。だからこそ、その気分に流されず、埋めた後に一つでも行動を変えられたかどうかを毎回自分に問い直す仕組みが要る。作って終わりのマップと、翌週の一手を変えるマップ。この二つを分ける境目がどこにあるのかを、次の章から掘り下げていく。手を動かす前に、まず眠っている自分のマップを一度机に戻してみてほしい。

数え方については、手法を足す前に数える3つをあわせてご覧ください。

目次

なぜ「作っただけ」で終わるのか、その構造を分解する

作っただけで終わる原因を、気合や根性の不足に求めても何も解決しない。ここで起きているのは、もっと構造的な問題だ。フレームワークを埋める作業と、顧客の現実に触れる作業が、まったく別の行為であるにもかかわらず、前者をやると後者もやった気になれてしまう。この錯覚こそが根っこにある。

カスタマージャーニーマップは、認知から購入、継続までの段が横に並び、その下に「そのとき顧客はどう感じているか」「どんな行動をとるか」「どの接点に触れるか」を書き込む形式が一般的だ。この形式は整理には優れているが、致命的な弱点を抱えている。枠が先に用意されているせいで、人は枠を埋めることを目的にしてしまう。空欄があると落ち着かないから、とにかく何か言葉を入れて埋める。そのとき書き込まれる言葉は、目の前の実在する顧客が発した言葉とは限らない。多くの場合、自分の頭の中にある「顧客はきっとこう感じているはずだ」という想像で空欄が満たされる。想像で埋めた地図は、どれだけ精緻に見えても、現実の顧客とは一本の線でもつながっていない。

具体的に考えてみよう。「比較検討」の段の感情欄に、多くの人は「不安」「迷い」「価格を気にする」といった言葉を書く。それらしく見える。だが実際の見込み客に「あなたが最後まで迷った理由は何でしたか」と聞くと、返ってくるのは「そもそも御社が何屋なのか、トップページを見ても三十秒で分からなかった」だったりする。想像の地図には決して現れない言葉だ。作り手の頭の中にある滑らかな検討プロセスと、現実の顧客が味わっている生々しい引っかかりとの間には、これほどの断絶がある。想像で埋めたマップが売上を動かさないのは、動かすための材料である本物の顧客の言葉が、そもそも一つも載っていないからだ。料理にたとえるなら、レシピの手順書は完璧に清書したのに、肝心の食材を一度も市場へ買いに行っていない状態に近い。手順がどれだけ整っていても、鍋に入れる本物の材料がなければ、皿には何も盛られない。顧客の生の言葉こそが、その食材にあたる。想像は調味料にはなっても、主菜の代わりにはならない。市場へ足を運ぶ手間を惜しんだ分だけ、地図は現実から静かに遠ざかっていく。そしてその距離は、地図が精緻に見えるほど気づかれにくくなる。

さらに厄介なのは、この作業が強い満足感を生むという点だ。空欄が言葉で埋まっていくとき、脳は問題を解決しているような快感を覚える。付箋がカラフルに並んだホワイトボードを写真に撮れば、立派な成果物が手元に残る。会議で「ジャーニーマップを作りました」と報告すれば、周囲もうなずく。作業の達成感と、上司や同僚からの承認が同時に手に入る。だが、この達成感は顧客の現実に一歩も近づいていない達成感だ。手応えの大きさと、事業へのインパクトの大きさが、まったく比例していない。むしろ達成感が大きいぶん、その先へ進む動機を奪ってしまう。

そして、この構造を再生産しているのが、本やセミナーの提供の仕方でもある。多くの教材は、きれいなテンプレートと記入例を配って完結する。テンプレートを配れば「学んだ」という満足を受講者に与えられるし、提供側も体系立てて教えやすい。だが、テンプレートを埋めた後にそれをどう施策へ変換するか、埋めた内容が想像なのか事実なのかをどう検証するか、という一番泥臭くて価値のある部分は、たいてい省かれている。受講者はテンプレートという完成品を持ち帰り、それを埋めた時点で学びが完結したと錯覚する。教える側と学ぶ側の双方にとって都合のいいこの構造が、埋めて満足で終わる人を毎年大量に生み出している。

この錯覚をさらに固めるのが、フレームワークが持つ権威だ。有名な本や著名な講師が紹介した枠組みだから正しいはずだ、という信頼が働くと、埋めた内容の中身を疑う気持ちがしぼむ。枠そのものが正しいなら、それを埋めた自分の地図も正しいだろう、と無意識に推論してしまう。だが枠の正しさと、書き込んだ言葉の正しさは、まったく別の話だ。立派な額縁に落書きを入れても、絵の中身が落書きであることは変わらない。想像で埋めた言葉が並んでいるかぎり、地図の見た目がどれほど本格的でも、そこから出てくる施策は想像の域を出ない。権威ある枠を使ったという安心感が、中身を検証する最後の一手をかえって遠ざけてしまう。

つまり、作っただけで終わるのは本人の意志の弱さのせいではない。仕組みが必然的にそこへ導いているからだ。枠が先にあること、想像で埋められてしまうこと、埋める行為が過剰な満足を与えること、教材がテンプレート配布で完結すること。この四つが噛み合った結果として、机の上に眠るマップが量産される。原因が構造にあるなら、対処も構造を変える方向でしか効かない。次章では、この構造の上で人がさらに上塗りしてしまう具体的な間違いと、その先に待っている典型的な末路を見ていく。手元のマップを眺めながら、どの言葉が想像で、どの言葉が実際に顧客から聞いた事実なのか、色を分けて印をつけてみると、断絶の大きさが一目で分かるはずだ。

多くの人がやってしまう間違いと、その先に待つ末路

想像で埋めるという根っこの問題の上に、多くの人はさらに手間のかかる間違いを重ねてしまう。しかも、その間違いはどれも「より丁寧に、より本格的にやろう」とする善意から生まれる。真面目さが裏目に出る、というのがこの領域の残酷なところだ。

一つめは、ペルソナを盛りすぎることだ。三十八歳、都内在住、年収六百万円、休日はキャンプ、朝はカフェラテ、といった設定を延々と積み上げていく。人物像が細かくなるほど、確かに一人の人間がありありと立ち上がってくる感覚があり、作っていて楽しい。だが購買の意思決定に効く情報と、単なる属性の飾りは別物だ。休日の過ごし方をいくら詳しく決めても、その人がなぜ自社の商品を買うのか、何に困って検索したのかが抜けていれば、施策には一ミリも変換できない。細かさは本物らしさの演出にはなるが、行動を変える手がかりにはならない。飾りが増えるほど、肝心の購買動機はかえって見えにくくなる。

二つめは、タッチポイントを大量に盛ることだ。SNS、検索、広告、口コミ、メルマガ、店頭、比較サイト、と接点を洗い出していくと、マップはみるみる複雑で立派になる。網羅している安心感も得られる。だが接点を数え上げることと、どの接点が実際に売上を生んでいるかを見極めることは、まったく違う仕事だ。二十個の接点を均等に並べた地図からは、どこに資源を集中すべきかという判断が出てこない。むしろ全部が同じ重さに見えてしまい、優先順位をつける力を奪う。立派さと使えなさが、ここでも同居する。

三つめは、見た目の美しさに時間を溶かすことだ。付箋の色を揃え、矢印をきれいに引き、アイコンを配置し、清書して社内で共有できる体裁に整える。この工程は達成感が特に大きい。完成した一枚は誰が見ても「ちゃんと仕事をした証拠」に見えるからだ。だが美しく清書する時間があるなら、その時間で見込み客に一本電話をかけて「なぜうちを選ばなかったのか」を聞いたほうが、売上には圧倒的に近い。地図の装飾は、現実から目をそらすための、もっとも心地よい逃避になりうる。

四つめの間違いも挙げておきたい。他社の成功事例をそのまま自社の地図に写してしまうことだ。書籍やセミナーで紹介される華やかな事例は、業種も客層も商品単価も自社とはまるで違う。にもかかわらず、その事例の検討プロセスや接点の並びを、あたかも普遍の型のように自社へ移植してしまう。すると地図は他人の顧客の心の動きを描いたものになり、自社の客の現実からは遠ざかる。事例は考え方のヒントとして参考にする分にはよいが、感情や行動の中身まで借り物で埋めた地図は、自社の売上には接続しない。借りてきた立派さは、自社の客の生々しさを覆い隠してしまう。

これらの間違いに共通するのは、どれも「作り込む方向」への努力だという点だ。盛る、増やす、整える、写す。方向はすべて内側、机の上へ向かっている。顧客という外側の現実に近づく努力は一つも含まれていない。だから、どれだけ熱心にやっても施策には落ちない。ここに末路が待っている。

末路は、たいてい次のような形をとる。半日から数日かけて立派なマップが完成する。会議で共有され、その日は満足感に包まれる。だが翌週、誰もそのマップを見て具体的な打ち手を変えない。一か月後、マップはフォルダの奥かホワイトボードの隅で埃をかぶる。数か月後、「そういえばあれ作ったよね」という会話とともに存在が思い出される。そして事業の数字は、マップを作る前と一ミリも変わっていない。かけた労力に対して得られたのは、写真に残った達成感だけ、という結末だ。相談者が抱いた「作る意味があったのか」という疑問は、この末路を本能的に予感したからこそ出てきたものだと言える。

この末路が厄介なのは、失敗として認識されにくいところにある。売上が動かなかったとしても、それをマップのせいだと結びつける人は少ない。マップは立派に完成しているし、作った過程には確かな学びの実感もあった。だから「今回は他の要因が悪かった」「もっと広告を出せば動くはずだ」と、原因を別の場所に探しに行ってしまう。そして翌年、また同じようにマップを作り、また同じように眠らせる。同じ失敗が失敗と気づかれないまま、毎年律儀に繰り返される。この静かな空回りこそが、埋めて満足で終わる罠の一番こわい側面だ。時間も労力も確実に減っているのに、減っているという自覚だけが残らない。

見分け方は単純だ。そのマップが「作り込む方向」の努力の産物なら、末路はほぼ確定している。逆に、たとえ地図が粗く不格好でも、そこに実在する顧客から聞いた一言が一つでも刺さっていて、その一言をもとに翌週の何かを変えられるなら、それは眠らないマップになる。丁寧に作ることと、売上を動かすことは、残念ながら別の技術だ。前者は机の上で完結するが、後者は必ず外の顧客に触れないと身につかない。次章では、この分かれ道でどちらへ進めば数字が動くのか、外へ触れる具体的な解決策に踏み込んでいく。ここまで挙げた間違いを一つでも自分がやっていたと感じたなら、それは伸びしろがそこに眠っている合図でもある。

売上が動き出す、たった一点に絞る解決策

ここまでの話をひっくり返すと、解決策の輪郭が見えてくる。地図全体を精緻にすることをあきらめて、顧客が最初に自社サイトへ触れた瞬間の一点だけに、資源を集中する。具体的には、見込み客がトップページを開いて最初の数秒で「これは自分のための場所だ」と感じられるかどうか。ここが折れると、その先の比較検討も購入も継続も、地図に何段並べようと一つも起動しない。逆にここが刺されば、後続の段は驚くほど自然に動き出す。ジャーニーの入口が、全体の栓になっている。

この考え方の土台にあるのが、私が現場で使っている売れるサイトはみな謙虚という原則だ。謙虚とは、自社が語りたいことを引っ込め、訪れた客が抱えている困りごとを、客自身の言葉のまま入口の一番目立つ場所に置く姿勢を指す。多くのサイトは反対のことをしている。トップの一等地に自社名、理念、こだわり、実績を並べ、客は自分の悩みが一言も書かれていない画面を前にして「ここは自分の場所ではない」と判断し、静かに離れる。謙虚なサイトは、その一等地を客に明け渡す。「〇〇で困っていませんか」と作り手が当てはめた問いも使わない。客が検索窓に打ち込んだ生の困りごとを、そのままの温度で一行目に掲げる。それだけで、離脱していた客が「これは自分の話だ」と足を止める。

謙虚という言葉を、へりくだって自社を安売りする姿勢だと誤解しないでほしい。ここでの謙虚は、順番の問題だ。自社が語りたいことを語らないという意味ではない。語る順番を、客の困りごとの後ろに置くという意味だ。入口でまず客の悩みを客の言葉で受け止め、これは自分の場所だと感じてもらう。その安心が生まれて初めて、自社の強みや実績が「自分の悩みを解決してくれる根拠」として意味を持ち始める。順番を逆にすると、同じ強みも「知らない会社の自慢話」にしか聞こえない。中身は一字も変えなくていい。何を先に見せ、何を後に回すか。その並び替えだけで、同じサイトの伝わり方が根こそぎ変わる。謙虚とは、この並び替えを客の側から設計する態度のことだ。

やることは二つに絞られる。一つは、サイトの最初の一言を、自社が言いたいことから、客の困りごとの言葉へ書き換えること。この言葉は想像で作らない。前章で触れたように、実在の見込み客が発した言葉を拾ってそのまま使う。もう一つは、その一言に反応した客に差し出す次の一歩を、一つだけに絞ること。資料請求、無料相談、事例を見る、と選択肢を並べると、客は選べずに固まる。入口で心をつかんだ直後に道を一本だけ示す。この二つを整えるだけで、眠っていた地図の入口に血が通い始める。

眠るマップと動くマップの違いを、観点ごとに並べると次のようになる。

観点 埋めて終わるマップ 動くマップ
地図を描く出発点をどこに置いているか 認知から継続までの段を先に用意し、その枠を上から順に埋めていく作業から着手してしまう まず客がサイトへ触れる最初の数秒に照準を合わせ、そこから逆算して全体を組み立てていく
各欄を埋める材料をどこから調達しているか 作り手の頭の中にある「客はきっとこう感じるはず」という想像や一般論だけで空欄を満たしている 実在の見込み客が実際に口にした生の言葉を拾い、その温度を保ったまま該当する欄へ書き込む
サイトの入口に置く最初の一言をどう決めるか 自社名や理念やこだわりや実績を一等地に並べ、客の悩みが一言も書かれない画面になっている 客が検索窓に打った困りごとの言葉を一行目にそのまま掲げ、これは自分の場所だと感じさせる
反応した客に差し出す次の一歩の設計 資料請求も相談も事例閲覧もと選択肢を横並びにし、客がどれを選べばよいか迷って固まる 入口で心をつかんだ直後に進むべき道をただ一本だけ示し、迷いなく次の行動へ移らせている
作った後の検証と改善のまわし方 完成した達成感で手が止まり、翌週になっても誰も地図を見て具体的な打ち手を変えていない 入口の一言と次の一歩の反応を数字で見て、刺さらなければ客の言葉を入れ替えて試し続ける

この表の右側へ寄せる作業は、地図を作り直すこととは違う。むしろ、すでに眠っているマップを一度机に戻し、入口の一段だけを客の言葉で書き換え、次の一歩を一本に削る。それだけで、同じ枚数の付箋が、翌週の打ち手を指し示す道具に変わる。全部を直す必要はない。栓になっている入口の一点、ここを謙虚に明け渡すことから始めれば、後の段は連鎖して回り出す。

なぜ入口の一点にこれほど効き目があるのか。理由は単純で、後続の段はすべて入口を通り抜けた客だけが到達する場所だからだ。比較検討をどれだけ丁寧に設計しても、その手前で「ここは自分の場所ではない」と離脱されたら、検討の段には誰も入ってこない。入口で一割の客を引き止められれば、その一割が比較検討にも購入にも継続にも流れ込む。分母が増えれば、後続のどの段の改善も同じ割合で効き目が底上げされる。逆に入口が漏れバケツのままなら、下流をいくら磨いても、そこへ届く水が少ないままだ。だからこそ、精緻な地図を描く時間を削ってでも、まず入口の一言を客の困りごとに合わせる。順番として、ここが最初に手をつけるべき一点になる。

結論、地図を捨てず入口に血を通わせる

相談者が抱いた「作る意味があったのか」という疑問に、はっきり答えておきたい。マップを作ったこと自体は無駄ではない。無駄だったのは、枠を埋めた達成感でそこに止まってしまったことだけだ。だから、いま眠っているマップを捨てる必要はまったくない。もう一度机に戻し、入口の一段に手を入れるだけでいい。

やるべきことは、この記事を通して一貫している。地図全体を精緻にしようとする手を止め、顧客が自社サイトへ触れた最初の数秒、「これは自分のための場所だ」と感じてもらえるかどうかの一点へ資源を寄せる。入口の一言を、自社が言いたいことから客の困りごとの言葉へ書き換える。反応した客に示す次の一歩を、一本だけに削る。そしてその反応を数字で見て、刺さらなければ客の言葉を入れ替えて試す。これを回すだけで、写真に残るだけだったマップが、翌週の一手を指し示す道具に変わる。

土台にあるのは、繰り返しになるが売れるサイトはみな謙虚という姿勢だ。一等地を自社の主張で埋めたくなる気持ちを一度こらえ、そこを客の悩みに明け渡す。この小さな譲り方が、ジャーニー全体の栓を抜く。難しい理論も高価な道具もいらない。今日、自社サイトのトップを開いて、一行目に書かれているのが自社の言いたいことなのか、客の困りごとなのかを見比べるところから始めてほしい。もし前者なら、そこにあなたの伸びしろがそっくり残っている。

最後に、明日からの一歩を具体的にしておく。まず、自社の既存客か問い合わせをくれた人を三人思い浮かべ、その人たちが「うちを知る前に何に困っていたか」を、自分の言葉ではなく相手が言った言葉で書き出す。次に、その言葉の中で二人以上に共通していたものを一つ選び、自社サイトのトップの一行目に、飾らずそのまま置いてみる。そして、その一行に反応した客が迷わず進めるよう、次の行動の入り口を一つだけ残し、他は思い切って下へ動かす。ここまでで、多くの場合は半日もかからない。地図を一から作り直すより、この三手のほうが、翌週の数字にはるかに速く届く。完璧を目指して動けなくなるより、粗くても入口の一言を今日入れ替えるほうが、事業には効く。

自社サイトの入口をどう書き換えれば客が足を止めるのか、その一言をどう見つけ、次の一歩をどう絞ればよいのか。具体的な進め方に迷ったら、まずは合同会社謙虚の考え方に触れてみてほしい。

▶ 合同会社謙虚のトップページはこちら(https://kenkyo.ai/)

よくある質問

Q. カスタマージャーニーマップは、もう作らなくていいということですか

作らなくていいという話ではない。顧客の心の流れを一枚で見渡せるという地図の価値は本物だ。問題は、枠を埋めることがゴールになり、その先の行動へ進めなくなる使い方にある。作るなら、実在する顧客の言葉を材料にし、埋め終わった後に翌週の打ち手を一つでも変えることを最初から前提に置いてほしい。すでに作ったマップがあるなら、捨てずに机へ戻し、入口の一段だけを客の言葉で書き換えるところから再開すれば、それが動く地図に生まれ変わる。地図そのものに罪はなく、止まる使い方に罪があるだけだ。

Q. ペルソナは細かく作り込んだほうがいいと教わりましたが、間違いですか

細かさそのものが悪いわけではない。ただ、購買の意思決定に効く情報と、単なる属性の飾りを分けて考える必要がある。休日の過ごし方や好きな飲み物をいくら積み上げても、その人がなぜ自社を選ぶのか、何に困って検索したのかが抜けていれば、施策には変換できない。作り込むべきは、客が抱えている困りごとと、その客が実際に発した言葉のほうだ。人物像の飾りに時間をかけるより、見込み客に一本電話をかけて選ばなかった理由を聞くほうが、売上にはずっと近い場所へ連れて行ってくれる。

Q. 自社サイトの入口の一言は、どうやって見つければいいのですか

想像で作らないことが出発点になる。既存客や問い合わせをくれた見込み客に、うちを知る前は何にいちばん困っていたか、どんな言葉で検索したかを聞き、その生の言葉を書き留める。営業メールの返信や問い合わせフォームの自由記入欄、商談メモにも、客の温度のこもった言葉が眠っている。集まった言葉の中で何度も繰り返されるものを、そのままの温度でトップの一行目に掲げる。整えすぎて自社の宣伝文句に戻さないことが肝心だ。客が使った言葉のまま置くほど、これは自分の話だと足を止めてもらえる確率が上がる。言い回しがきれいでなくても構わない。むしろ、口語のままの少し不格好な一言のほうが、同じ悩みを抱えた客の胸には刺さりやすい。一つに絞りきれないときは、二案をトップに出し分けて反応を見比べればいい。どちらが刺さるかは、こちらの好みではなく客の反応が教えてくれる。その反応をたどっていくこと自体が、想像で埋めていた地図に本物の顧客の声を注ぎ込んでいく作業になる。一度この流れができれば、地図は完成させるものから、客の声で少しずつ書き換え続けるものへと性質が変わる。

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